108 朝の騒乱
予定よりも1日早く投稿します。城に向かう朝の出来事です。この緊迫した場面で何故こうなった・・・・・・ このお話だけでは申し訳ないの明日もう1話投稿いたします。
朝から女子たちがバタバタと着替えをしている。午後一番に城からの迎えが来るので思い思いのドレスに着替えている最中だ。
「タレちゃんはメイド服も似合っていて可愛いけど、こうしてドレスアップすると大人っぽくて羨ましいです」
岬は淡いレモン色のドレスに着替えている。少し胸周りが空いていて、只でさえ大きなその胸がより強調されるデザインだ。春名はその姿と自分の胸を比べてため息をつきながら羨ましがるのだった。
「春名ちゃんも最近ご主人様にいっぱい可愛がられて、とっても魅力が増していますよ」
「そ、そうですか・・・・・・ 実は最近ちょっとだけ胸が大きくなったような気がしています」
春名の勘違いに過ぎない。ちょっと食べ過ぎただけだ。胸周りよりも腹回りの問題を気にしたほうがいい。
そこへ昨夜一晩タクミと過ごした空が彼女たちの部屋に入ってくる。まだ少し寝足りない様子で目がトロンとしている。
「おはよう、みんな朝からすごい気合」
テンションの低い自分と比べて他の女子のハイテンション振りに圧倒されている空。
「空ちゃんは昨日はお楽しみだったみたい。もしかしてついに・・・・・・」
彼女の表情を見た紀絵が疑いの表情を向ける。紀絵にとって空はどちらが先にタクミに大事なものをあげるかを競うライバルだ。
「ええー! 空ちゃんはまだダメです!」(春名)
「タクミのやつ、ついに犯罪者に成り下がったか!」(美智香)
「ご主人様との一夜は夢のような時間です。空ちゃんもついに・・・・・・」(岬)
「まあ、いいんじゃないの(みんなに自分の事を秘密にしているから反応しづらい)」(圭子)
と女子たちが勝手に想像を膨らませて思い思いの反応をする。
「残念だが今回も空振りに終わった。タクミのガードが固すぎる」
空は誠に遺憾そうに結果を報告する。彼女のテンションが低いのはそのせいであった。
意気揚々とタクミとともに別室に消えた空だが、結局タクミに『空にはまだ早い!』とお断りされて、一人でタクミの体の様々な部分を弄って一夜を終えていた。以前よりは多少空の行為に応えてくれる事はあっても絶対に最後の一線を超えようとしないタクミに空は心から落胆している。
「私の魅力が足りないのかもしれない・・・・・・・」
自分の貧相な体付きを振り返ってガックリと肩を落とす空。タクミからすると子猫にじゃれ付かれているような感覚と言われた事が大きなショックだった。
「そんな事無いです。空ちゃんには特定の需要が必ずあります!」
春名は空を励ましながらも、タクミが至ってノーマルな感性を所持している事に胸を撫で下ろしている。
「ぜんぜん慰めになっていない!」
空は涙目で春名に抗議をするが、彼女に当たっても仕方が無いと分かっている。全ては年相応でない自分の成長具合が原因だ。『はー』と一つため息をついて圭子の近くに寄って行き彼女の肩をポンと叩く。
「圭ちゃんだけが私の友達」
彼女の胸を見つめてボソリとつぶやく空。それに対して圭子はムキになって反論する。
「私の方が空よりも全然あるでしょう! それにこの前タクミと・・・・・・」
ここまで言い掛けて彼女は言葉を飲み込む。『ヤバイ、まだみんなに秘密にしていた』と急に思い出したのだ。
「ほほう、圭子さん! 『この前タクミと・・・・・・』その続きが聞きたいんだけど」
何とか誤魔化そうとする圭子だったが、美智香の鋭い追及をかわし切れないと諦めた。彼女の論理的な尋問に最後まで秘密を守り切る自信が全く湧かない。
「実は・・・・・・」
恥ずかしそうに全てを話す圭子、人生で始めて顔から火が出る思いというのを体験した。話し終わってからも茹でダコのような顔をしているし、額には大粒の汗が浮かんでいる。
「この裏切り者!」
毎度自分から迫っていながら、タクミのガードを崩せない空から見ると重大な背信行為だ。聖女とはもっと清らかな者の筈だがここに居るのは心身とも生臭い腐った聖女だ。そんな空を見かねた岬が二人の間を取り持つ。
「まあまあ空ちゃん、ご主人様もいずれは空ちゃんの気持ちにお応えになってくれますから、焦らないでその時を待っていてください」
「タレちゃんだけが私の味方、でもその胸は最大の敵!」
こうして騒がしい女子たちのトークは着替えが終わっても延々と続いていく。何だかんだ言って今朝のガールズトークで最も大きなダメージを受けたのは圭子だった。それも自爆によって飛んできたブーメランにクリティカルヒットを喰らったのだからたまった物ではない。
「ヘックッション!」
一人で別室に残されたタクミは背筋にこの冬一番の寒気を感じるとともに大きなクシャミをした。
「おかしいな、風邪でも引いたかな」
独り言を言いながら城に行くためにスーツに着替えるが、先程の寒気はどうも嫌な予感しかしない。重い足取りで女子たちの部屋に向かってドアをノックすると岬がにっこりとして出て来た。彼女は家族が増えたのが何よりも嬉しい様子だが、そんな事は露知らずのタクミはその笑顔につい癒されてしまう。
だが1歩部屋に入ると、美智香の突き刺すような視線と空の特大プラカードを掲げて理不尽な仕打ちに強く抗議する視線が彼を突き刺す。
「えーと・・・・・・朝からどうかしたのか?」
いつもと違ってその口調が非常に歯切れの悪いものになっている。さらに彼を追い込んだのは、いつもなら何かしらの突込みを入れてくる圭子が真っ赤な表情で俯いている事だった。
「タクミ君、ついに圭子ちゃんをお嫁さんにしたんですね! おめでとうございます!」
脳天気な春名の言葉によって、この何とも言えない微妙な空気の原因が理解出来たタクミ。美智香と空は相変わらずジトーっとした目で彼を見ているだけだ。
「ご主人様、もう少し空ちゃんにも真剣に向き合ってください」
岬は普段だったら絶対にタクミの味方をするが、こと恋愛に関してはハーレムを拡大するという方針を断固堅持して譲らない。彼女の暴走はパーティーの女子全員をハーレムの一員にするまで絶対に収まらないだろう。
「その通り! タクミはもっと真剣に私と向き合うべき!」
空はジト目のまま岬と同調してタクミに断固要求貫徹を開始する。
「いや、いくらなんでも空の体は小さ過ぎて色々と問題があるだろう」
タクミは空の事が嫌いという訳ではない。変な所はあるが寧ろ可愛いと思っている。だが、あまりにも年齢と不釣合いな成長度合いを考慮して、もう少し大きくなるのを待っているのだった。
「ご主人様、何でも最初は初めてなんです。空ちゃんだって望んでいるのですから、いきなりは無理でも少しずつ練習するなりして、希望を叶えてあげてくださいませ」
「ブートキャンプレベルのハードな訓練を希望する!」
岬に同調してとんでもない要求を突き付ける空。
「いや、練習だの訓練だのって・・・・・・」
二人が結託してタクミに掲げた要求に対して春名と圭子は中立を守り、美智香は虫ケラを見るような表情をしている。残った紀絵は自分も空のようにアピールするするべきかどうかで真剣に悩んでいる。
「分かったから、この件に関しては空と二人で話し合おう。この件はもういいだろう」
何とか幕引きを図りたいタクミだが、岬と空は簡単には認めない。
「タレちゃん、今度私の番の時は一緒に来て欲しい。経験豊富なタレちゃんが居ると私も心強い!」
「分かりました、空ちゃんにお供いたします」
確か春名との初めての時も岬が唆すようにしてビビッている春名にその時を迎えさせていた。一体何だろう? メイドとしてのお世話したい本能なのだろうか。岬の普段の常識を弁えた態度とは別人のようだ。
タクミがまだ納得していない表情を見せているにも拘らず、空がタクミの前に進み出る。
「約束のチューをして欲しい」
パーティーメンバー全員が見ている中で大胆な行動に出た空、なぜかその後ろに岬まで立っている。
「私は空ちゃんはこの件に関して一身同体ですから、私にも約束してくださいませ」
とんでもない事を言い出して二人でタクミの目で目を閉じる。この場でもどうやら拒否権は認められらにらしい。
恥ずかしさを何とか抑えつつ二人に口付けを終えてタクミが顔を上げると、そこには春名、圭子、紀絵の3人が列を作って順番待ちをしていた。
「せっかくですから私たちにもお出掛け前のチューをしてください!」
もはや諦めるしかない。美智香の凍え付く様な視線を感じながら女子たちのリクエストの応えねばならないタクミだった。
次回こそは城での国王との遣り取りの話が始まります、




