第3話: 赤ちゃんプレイは出来るうちに
前世で榊 拓真だった俺はどうやら今世は“マーリン”という名らしい。出生から1ヶ月経ってようやく言葉を理解する事ができはじめていた。
暖かい羊毛、微かな母の香り、薪の燃える音。
ここは辺境の貴族領。どうやら俺は貴族の長男として生を受けてしまったようだ。俺は研究がしたいのに煩わしい事が多々ありそうでこれから先が苛まれる。
この1ヶ月で得た情報は少ない、父はこの地方を治める小貴族、エヴァンス・アークレイン。
母は代々魔術師の家系に連なる女性で、名をシャーレイという。
いかにも典型的な“田舎の貴族”といった家庭だが、使用人もいて、暮らしは悪くない。
そして、魔法という不可思議な力があるということだ。
それを詳しく調べようにも問題がある。
――俺の身体だ。
俺は生後1ヶ月にして、魔力の流れにより自分の骨格構造を完全に把握していた。
再構築された「感覚」
布にくるまれて寝ているだけのこの身体の中で、俺は内部構造を観察する為、魔力操作を覚えた。
魔力操作というと凄そうだが、前世の身体とは違う感覚を身体全体に行き渡らせ構造を把握するというだけの名ばかりのものだ。
「(……やはり、違う。腓骨と脛骨の形状が非対称だ)」
骨に意識を集中すると、魔力の流れが感じ取れる。
この世界では、骨は“魔力を伝導する器官”として機能している。つまり、骨を伝う魔力の伝導率が良ければ良いほどより効率的に魔力を扱うことが出来るという事だ。
だが魔力を体内で循環する事はできるが体外に出すという事がどうにも上手く出来ない。
魔力を放出するゲートのようなもの(俺の感覚からすると魂)がその役割を担っていることは感覚で理解する事が出来たが、理解が出来るのと実際に出来るかは別物である。
そして魂には色々な形がある。使用人達や家族の魂の形を確認してみた所大きく分けて五つあることが分かった。だが俺の魂の形は異世界産だからか独特で他と類の見ない形をしている。コレのせいで魔法が出ないのかは色々と実験をしてみない事には分からない。
それにしても赤ん坊の身体は実に不便だ。
16~18時間は眠ってしまうし起きてもご飯かおもらしで泣く事がルーティンとなってしまっている。
早くこの世界の字を覚え、この世界について詳しくなりたい。あーあ、また「黒い涙の姫」の童話聞きたいなぁ、ママにおねだりしちゃおうかな?………最近精神年齢が身体の年齢に引っ張られている気がする。
だが、誰かに甘えられるなんて子供の時くらいだ。
ここは子供という立場を利用して沢山乳を吸い甘えようと思う。俺は赤ちゃんプレイにも興奮できるタイプのマッドサイエンティストだ。
そんな事を考えていたらまた眠くなってしまった。
今は微睡みに身体を委ねるとしよう。
「ばぶ…むにゃ…」
暖かい羊毛に包まれ、母の愛情を感じながら眠る赤ん坊にまるで別次元の存在かと思われるような美しき高尚な存在が忍び寄っている事に誰も気づくよしなかった。




