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今日も憑かれる彼女は隣の幼馴染みに縋りつく(連載版)  作者: 小春日和
憑かれる彼女はプラトニックラブを見届けたい
10/10

たくさんのブックマークや評価、感想をありがとうございます(*^^*)

誤字修正もいつもありがとうございますm(_ _)m

図書室から出た瞬間、いっくんが急に私の腕を掴んで引き寄せた。


「わわわっ!」


転ける!と思ったのもつかの間、気づけば痛いほどの力でいっくんに抱き締められていた。


「ほんっとにお前ってやつは…!次あんな無茶したら絶対許さないからな!」


その苦しいほどの抱擁に、いっくんにどれほど心配をかけてしまったのかを察した私は、謝る代わりにそっといっくんの背中に腕を回した。


「今回は間に合ったから良かったものの、もし間に合ってなかったらどうするつもりだったんだ!」


「………え?」


「…あぁん?まさか考えなしに喧嘩売ってたとか言わねぇよな?」


「…」


「…蓮花?」


冷や汗をたらたら流しながら沈黙して俯く私の名前を、地の底から響くような低い声でいっくんが呼ぶ。


「…だ、だってだってだって!いっくんが間に合わないなんて考えたことないんだもん!いっくんはいつも私を守ってくれるヒーローだから!いっくんが間に合わないはずない!!」


ふん!と言い切る私に、いっくんは驚いたように瞠目すると、呆れたように息をついた。


「…それ、どんな理屈だよ。言ってることめちゃくちゃだろ。神業か」


「そうだよ。だって、いつも言ってるでしょ?神様仏様斎さま!って」


いっくんの胸元から顔をあげて自信満々に言う私に、いっくんは毒気が抜かれたような顔をした。


「…本当お前って、バカだよなぁ…。これに懲りて、少しは大人しくしとけよ」


ふっと吹き出して言ういっくんは、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。

………何だろう。

見慣れてるはずなのに、何だか顔に熱が段々集まってくるのが分かる。

赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、私は私の唯一のヒーローの胸元に、また顔を擦り寄せた。


「いっくん、助けてくれてありがとう。…大好き」


「…バーカ、知ってるよ」


そういっくんが呟いた直後、図書室の中からガタン!という大きな音がしたかと思った瞬間、勢いよく扉が開いた。

出てきたのはもちろん小山くんで。

図書室の中をちらりと見たけど、もうさつきさんの姿は見えなくて。

どうなったのかと、再び小山くんに視線を戻した時には、もう小山くんは走り出していた。


「小山くん?!」


呼び掛ける私に、小山くんは足を止めることなく顔だけ少し振り返って答えた。


「さつきさんの病院に行ってくる!

籠池さん!榊先輩!いろいろありがとう!!」


半分しか顔は見えなかったけれど、そう言った小山くんの顔は希望に満ち溢れていた。


もう会えなくなると思っていた二人。

一緒に過ごすことはできなくなると覚悟を決めていた二人。

だけど、そうじゃなかった。

二人は、これからも一緒に生きていくことができる。


二人の進む未来に幸多からんことを願って、私は希望に満ち溢れた未来へ進む小山くんの背中を眩しい気持ちで見つめ続けた。


ーーーーー


桜が満開に咲き誇る中、私は大学構内のベンチに座り、風に舞う桜の花びらを何気なく見つめる。

新しい友達と出会っていく中で、やっぱり思い浮かべるのは小山くんとさつきさんのこと。

あの卒業式の日以来、小山くんには会っていない。

小山くんとさつきさんは、あの後無事再会できたのか、どうしているのか、何も分からないまま、私はいっくんのいる大学へ無事入学した。


ふと頭上に影が差すと同時に、ポンと頭の上に馴染みきった手が優しく置かれる。

見上げると、やっぱりそこにいたのはいっくんで。

いっくんが来てくれたことが嬉しくて、へらっと笑う私にいっくんは優しい笑顔を浮かべる。


「悪いな、待っててもらって。もう終わったから、帰ろうか」


「うん!私も一緒に帰りたかったから、待つの全然平気だったよ」


いっくんが差し出した手を掴み、よっこいしょと立ち上がる。

今日は全学年午前までの講義だったため、もうほとんどの学生は帰った後だった。

誰もいないひっそりとした構内をいいことに、繋いだ手はそのまま帰路へと就く。


そろそろ門に差し掛かる頃、もう講義はないはずの構内に向かってくる男女の姿があった。

男性は車椅子に乗った女性に、私たちの方を指差しながら何かを囁いたようだった。

男性の指を辿って私たちの方へ視線を向けた女性が、控えめにこちらへ手を振るのが見える。

私は、逸る気持ちそのままに、いっくんの手をぐいぐい引っ張って、彼らとの距離を詰めていく。


手を伸ばせば触れあえる程の距離まで近づいて、私は溢れそうになる涙を堪えながら女性の顔を見つめた。

彼女はいつもの穏やかな笑みを浮かべて、私の方へと手を伸ばす。


「蓮花ちゃん、ただいま」


「…っ、さつきさん!」


泣きながら抱き合う私たちを、小山くんといっくんが優しく見守っていた。


ーーーーー


蓮花「そういえば、小山くんといっくんて面識あったっけ?」

小山「うん、拳で語り合ったことがあってね」

斎「…」

蓮花「え?…ちょっといっくん。何で目をそらすの?」

小山「あ、でも拳で語り合う前に僕が白旗上げたから、榊先輩の不戦勝なんだけどね。僕が籠池さんに本を取ってあげたのをたまたま見てた榊先輩が、僕が籠池さんに好意を寄せてると勘違いしちゃったみたいで、ぶっちゃけ言えば牽制されたんだよね」

蓮花「え?いっくん、そんなことしてたの?」

斎「…小山、その件は…」

小山「あ、先輩謝らないでくださいね!それを見てたさつきさんが僕を憐れんで出てきてくれたんですから、先輩は僕らのキューピッドなんです」

蓮花・斎「「キューピッド…」」


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