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ユニークスキル『創造』の力が予想以上に使えなかった件  作者: ぐりとぐらとぐふとぐへ
第一章 不死者の王
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汚れたのか元々ヨゴレなのか

…この位セーフですかね?

ポティトの街は破壊神討伐の頃よりは勢いを無くして見えた。

先代伯爵の手腕により急成長した街だが現伯爵はそれに胡座をかいているだけなのかも知れない。


「…住民もここに居を構えて生活の拠点としているだけなのかも知れないな。」

オーウェンはそう呟く。

「それはそれで正しい事です。生活の拠点を置き他に仕事を探すという事も生きる道ですし…

先代伯爵はこれを見越してそうした可能性も否めませんわ。」

ミッシェルはオーウェンの言葉に応えた。

「だとしたら相当の切れ者だ。」

オベロンは頷くと説明をした。


「生活の拠点を置く…ベッドタウンとなるならば、住民は住むだけでも税を納めなくてはならない。

このポティト領の主要産業は農業。農業をやる人間には減税しなくてはなり手がいなくなるし、農業に不作は付き物だ。

その時の領地の経営に支障をきたさない為に街を発展させ交通の要所としたのであろう。

王都に目をつけられない程度にな。」

だが。と付け加えるオベロン。

「これには街自体の魅力も必要となる。

歓楽街はそのうちの一つだ。他にも目玉となる商店などを置けば良いが王都以上に発展しては潰されてしまう。

故に農業を中心に領地を治めたのだろう。」


オベロンの言葉に皆が頷く。

「…しかし。だからこそ、この体たらくは少々気になる。

治め方はかなり先進的だが、現在のこの街は寂れた田舎町にしか見えない。」

「それだけ現在の伯爵が無能という事でやしょうよ。」

トロイは目を細める。

「力無きは淘汰されていく。それが世の習いでさぁ。」

トロイの格好は…猫そのものだ。

デービッドの胸に抱かれる姿はまさに三毛猫にしか見えない。


システムの構築も大切だがシステムの更新は更に大切だ。

先代伯爵の構築したシステムは20年前ならば時代を10年以上先取りしたシステムであったが、現在では先進的な考えのひとつでしかない。

当代の伯爵が如何に無能とてあまり問題が起きていないということは、伯爵の周りにいる先代伯爵の家臣達が優れているのだろう。


「(仕える理由は亡き主人への義理…。あまりにも淡いがこれ程強固な絆も無い。)」


デービッドは思いに耽る。が。

「(でも担ぐ神輿は軽くて見栄えがする方がいいからなぁ。もしもじゃがいもの家臣になったら思う存分甘い汁が吸えるぜ。)」

…と、こすっからい考えも思っていた。


ーー


ポティトの城…

ドルイド家の中ではドルイド当代伯爵が勇者、聖女歓迎のパーティの準備をしていた。

平民出身の勇者や聖女でも、今や当代きっての英雄。

勇者が叛旗を翻すならば皇帝となる事も夢ではないとされ、王国は勇者に一代貴族の地位を与え、侯爵と同じ権力を与えたが、勇者はそんな地位欲や名誉欲とは無縁に人々の為に生きている。

聖女もまた数百年ぶりに現れた神の使いとして尊敬を一身に集めている。


…そこに馬の骨がついていき、何の間違いか手柄を立てて帰ってきたが…


その冒険譚は当代ドルイド伯爵の冒険心を非常に擽ぐるものであり、機会があれば一度話を聞きたい、そしてあわよくば聖女をものにしたいと思っていた。


「メイド!そこの飾り付けが違うぞ!」


伯爵自らの陣頭指揮。そんな暇があれば未決済の書類を片付ける為にもキリキリ働け。と思うメイド達だが口にはしない。

「勇者と語らい聖女をこの手に抱く…

これこそ伯爵に相応しい行動だ。」

うっとりと目を閉じるドルイド伯爵。

先代伯爵は誰かを歓待する際、お客様の地位や好物をメイドや家人に伝え「全てお前らの好きにしろ。後の責任は俺が取る。」と言うやり方だった。

当時新米のメイドだった現ドルイド伯爵家メイド長・アンは家人とメイドに責任と自覚を芽生えさせるドルイド先代伯爵を深く尊敬したものだ。


年の頃は30半ばくらいか。顔については並みだが女盛りに熟れた肉体が非常に特徴的だ。

古参のメイドというだけにドルイド先代伯爵妃や当代伯爵の事もよく知っており、また仕事にそつがなく口も固く信用出来るメイド長として伯爵家執事達からも信頼されている。

「これも全て先代伯爵様の教えですから。」

それが彼女の口癖であり、ドルイド当代伯爵をどう思っているかを何より雄弁に語っていた。


「今日のお客様は勇者様と聖女様…。あの赤毛の坊やは来ないのね。」


じゃがいも野郎と罵られた当代伯爵の顔は見物だったし、事あるごとに伯爵を痛めつけるデービッドの姿は見ていてとても痛快だった。

一時行儀見習いとしてメイドに来ていた女がデービッドの幼馴染であり、デービッドの話を面白おかしく盛って話した時など表情には現さなかったが、内心爆笑していたものだ。

別にデービッドに異性を感じているわけではないし、行儀見習いにデービッドが懸想していたと聞いても心に波風は一切立たなかった。

彼女がデービッドを見る理由。それは。


子供の頃に一度サーカスに連れて行ってもらい、その時に感じたワクワク感を思い出すからだ。


次は何が出るのか、火吹き男なのかそれとも空中ブランコなのか。


結構な頻度で新聞を賑わす彼の記事を読む度にアンは爆笑し、多忙な日々の癒しとなっている。


デービッド本人が聞いたら、芸人枠かよ!と憤慨しそうな話ではあるが、周囲から見ても彼はドラマ班でなくバラエティ班…の中でも汚れ芸人枠である。


「坊や、お姉さんは坊やを応援してるからね。」


アンは独りごちるとグラスを置くのであった。


ーー


ドルイド伯爵家執事長・バスティ。

先代からドルイド伯爵家に仕える現在のドルイド伯爵家の大黒柱だ。

「勇者様と聖女様ですか。我がドルイド家に何の御用なのでしょうね?」

初老を迎えた紳士は執務室で首をひねる。

「あの放蕩息子と繋がりを持っておきたい事など、あの方々には一切ないと思いますが…」

勇者も聖女も貴族、王族から一線を置いて接触している。それがいきなりお忍びで来て伯爵に会いたいなどとはおかしな話だ。

勇者、聖女ときたらあのお騒がせ男もセットのはずだが今回はいない。

あのお騒がせ男がいればこの無味乾燥の日々も少しは賑やかになるものだが。


「…まぁあの方も色々忙しいんでしょうね。蒸気車の大失敗で相当の財産を失ったらしいですし。」


デービッドは先代伯爵とどこか似ている。

デービッドは工学畑に向かったが、先代伯爵は農学と経営に全てを捧げた。

大赤字を出して首吊りかけた事も、ストレスフルの生活を女房子供に理解されずに外に癒しを求めて歓楽街を作った事も、当時は凄まじく大変だったが今考えると楽しい思い出だ。


いいなぁ、とバスティは思う。


自分があと40歳若いならば、デービッドの元に駆けつけて一緒に馬鹿な夢を見ただろう。


「…お前は向こうで馬鹿な事やってんだろうな。もう少ししたらそっち行くからその時は俺も混ぜろよ、畜生。」


バスティは執事にあるまじき発言をし、執務室から外を向いた。


確かに当代伯爵は先代伯爵と比較すると甚だしく劣るが、先代伯爵もバスティが出会った頃は似たようなものだった。

バスティは今でこそ執事であるが先代伯爵と出会った当時は田舎の荒くれの首魁であり、田舎に巡視に来ていた先代伯爵とウマが合いドルイド家に来た。

先代伯爵は他にも家人を雇いメイドを雇い、家が大きくなるにつれて責任感が出た。

責任感は仕事への意欲を生み、意欲は挑戦精神を育てた。


当代伯爵に決定的に足りないものは責任感と意欲だ。

自分達先代伯爵の家人がいなくなったらドルイド伯爵家は一気に衰退するだろうが、後の事を考えていてもキリがない。


「さて…勇者様と聖女様の御用件は何か。そろそろお迎えに上がりますかね。」


バスティはゆっくり立ち上がると好々爺然とした笑顔を浮かべるのであった。


ーー


「本当にどこか寂れているな。」

街行く人に活気が無く、皆何かどこか諦めたような表情だ。

「停滞感でしょうね。」

騒動の後のどこか寂しい時間。それをミッシェルは感じていた。

安定しているという事は同時に刺激の無い生活という事となる。が、安定と停滞は全くの別物だ。

農業が主要産業であるポティト領だが伯爵の城の城下町はその限りでない。

外貨を稼ぎ戻ってくる人間がいなくてはお金も回らないし、日々生きる事に汲々となる。

「(こりゃ早く手を打たないと伯爵家本当に潰れるんじゃないか?)」

「(潰れてくれるならそれに越した事はねぇよ。他の貴族が治めたらもっと立派な領になるだろ。)」

オベロンとデービッドが耳打ちし合うが、その時に「注意しろ」とトロイが一声鳴く。

前方から来る馬車がオーウェンとミッシェルの前で止まったのだ。

オベロンはデービッドの服の中に潜り込み姿を隠す。

馬車から降りて来たのは…30半ばの肉感的な女性だ。


「勇者様、聖女様ですね。私ドルイド家でメイド長を務めておりますアンと申します……?!」


アンはオーウェンとミッシェルに恭しく頭を下げ、顔を上げた瞬間にギョッとした顔となった。

馬車を操るバスティも同じ顔だ。


猫を抱くメイド服の人間。


化粧して誤魔化してあるが、間違いなくあのお騒がせ男だ。


「私達のメイドが何か?」

にこりと笑うミッシェル。

「いえいえ…大変な失礼を致しました。」

アンは笑顔を見せミッシェル達を馬車へと誘導した。

デービッドはミッシェル、オーウェンよりも下座でアンと共に座る。

「(…メイド役になりきってやがる。)」

普段ならオーウェンは兎も角ミッシェルよりも下座なんて絶対に嫌だ。と言い出すのだが。


「(…身体熱いなこのメイド長。心臓もバクバクしてるし、風邪引いてるのかな。顔も赤い。)」


アンは「揺れるから」という事でデービッドに接触をしている。触れる肩から伝わる体温と鼓動にデービッドは内心不安になった。

あとで薬を飲んでおこう、とデービッドは思うも…

想像して頂きたい。大ファンと言っていいお笑い芸人がライブで目の前にいるのだ。

例えばあなたが楽器をやるとして。憧れのアーティストとセッションがやれるとするならば。

これにテンションが上がらない者はいないだろう。


「(…ねぇ、あれバレてるよね。)」

「(間違いなくな。)」


目線で頷き合うオーウェンとミッシェル。

30半ばの女性が少女のような顔でニコニコとデービッドに寄り添っているのだ。

「(…香玉舐めてるな。)」

伝わる体温とアンの香りが艶めかしい。一度オーウェンとそうした店に突撃した事を思い出し…デービッドは首を振った。

「…あなた、大丈夫?顔が赤いわよ?」

アンはデービッドの顔を覗く。

顔立ちは地味だが大人の女性の匂い立つような色香がデービッドの頬を強制的に赤く染める。

「…!……!」

デービッドはミッシェルに助けを求めるような視線を送る。

「すいません、メイド様はモンスターに襲われてしまい、失語症を患っておりまして…。」

ナイスだ!と内心ガッツポーズをしたデービッドだが


「何のきっかけで治るか分かりませんし、気にかけてあげてくださいまし。」


と、極上の笑顔のミッシェルにトドメを刺された。


「それはいけませんわね…。」

アンの目が妖しく輝く…。

「性的なもので襲われたのでしょうか?それとも周囲の人間達が襲われて殺されたのを見たのでしょうか?」

「恐らくはその両方と存じます。アン様、どうかメイド様の傷を癒して差し上げてくださいまし。」

黒い黒いミッシェルの笑顔。

側から見ると聖女としか言えないその笑顔だが、デービッドとオーウェンから見ると性悪女のそれだ。

「(いつか必ずこの手で殺す…!)」

デービッドはミッシェルを睨みつけるが…

「あら怖い顔。メイドがそんな顔をしてはいけませんよ?」

アンはデービッドの顔を掴む。

「聖女様の言われる通り…ここにあなたを害する者はいません。」

そして豊満なバストにデービッドの顔を埋めさせた。


馬車を運転するバスティの肩が揺れる…。

どうやら笑いを堪えているらしい。


扇情的にデービッドの耳朶や頭皮を這うアンの指。

「(こいつぜってーわざとだ!)」

電流がゾワゾワと背筋を駆け上がる。

ジタバタとしばらくもがいたデービッドだったがやがて動かなくなり…

馬車がドルイド家に着いた時には何もかも悟ったかのような表情で顔を上げた。


控え室に通されデービッドは無言でトイレへと向かう。


「ふざけ過ぎたかな?」

デービッドの変化にミッシェルが首を傾げるも…

「気にしてやるな。男には色々あるんだ。」

オーウェンは膝に抱くトロイの頭を撫でる。

「生殺しの目に遭いやしたからねぇ。出すもの出したらスッキリして戻って来やさぁ。」

くしくしと顔を洗うトロイ。


そして。半刻過ぎた頃にデービッドは戻って来た。

…さめざめと泣きながら。


「汚れてしまった…!俺は汚れてしまったーっ!」


そう言い叫ぶデービッド。デービッドのメイド服の中にいたオベロンは笑いながら

「男の甲斐性だ。気にするな、デービッド。」

と慰めにすらならない一言を言い、飾られた花の花粉を身に振りかけた。

「オベロン様、何をしているんですか?」

ミッシェルが首を傾げる。

「なぁに、ただの匂い消しだ。」

くっくっ、と含み笑いをしながらデービッドを見たのであった。


ーー


「〜♪」

「メイド長が上機嫌に仕事をしているっていうのも珍しいですわね。」

上機嫌のアンを見ながらメイド達が話す。

「戻ってきて半刻程休憩されていましたが、その時にいい事があったのですかね?」

うーむ、と首を傾げるメイド達。


そして。更なる不幸の予感を撒き散らしながら。


ドルイド伯爵との会食が始まる…。


次回はデービッドが更に酷い目に遭います。

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