ポティト農業祭一日目終了
サブヒドイン活躍のターンです。
「…すいません、変な所を見せてしまって。」
エリーは自己嫌悪に浸っている。
「いいんじゃねぇの?」
ミッシェル御指定のライ麦パンのサンドイッチ。ミッシェルはハニーローストとマチュアチェダーチーズのサンドイッチが好物だ。
きゅうりサンドイッチも好物だが特別な時にしか口にしないと言っていた。それが彼女の拘りなのだ。
他はポティトのジャムを使ったサンドイッチを買っておく。
これに甘めの紅茶があれば彼女の『ごきげんな昼食』となる。
オーウェンには食べ応えのある大きめのサイズのサンドイッチ。
肉類がごっちゃと詰まった大きめのサンドイッチは食べ応えもありオーウェンの昼食には最適だろう。
「エリーも何か食べるか?」
「いえ、私は…」
遠慮するエリーに
「どうせミッシェルの奢りだし、気にすんな。行っとけ行っとけ。」
と、デービッドは笑った。
「じゃあ私、海老とアボカドとレタスと玉子のサンドイッチ!」
目をキラキラさせるエリーを見ながら眩しそうに目を細めるデービッド。
側から見るとそれは仲の良い兄妹のようにも見えたのであった。
「デービッドさんは、お兄ちゃんやミッシェルさんの事をよく分かってるんですね。」
「あ?そんなんよくわかってねぇよ。」
デービッドの答えにエリーは小首を傾げる。
「あいつらはただのダチだ。それも特別頭の悪いダチだ。」
デービッドの飾らない言葉にエリーはクスクス笑う。
お兄ちゃんは勇者になったけど、ちゃんと友達がいるんだな、と安心した表情だ。
「ねぇ、デービッドさん。」
「ん?」
「お兄ちゃんとずっと友達でいてあげて下さいね。」
エリーの言葉にデービッドは
「オーウェンが俺を友達だと思う限りはな。」
と、ぶっきらぼうに答えたのであった。
帰り道、デービッドは前方に嫌な顔を発見した。
かつては憧れ、天使だと思った女。
今では色街の場末に身を落とした女。
あれはメイだ。
子供を抱き同じ年頃の女と話しているが、あれは…デービッドが戦力外通告をしたドルイド家のメイドである。
私服という事は今日は休みなのだろう。
二人ともデービッドに気付き、それこそゴキブリかなにかを見たかのような目でデービッドを見ている。
「げっ…!」
嫌な奴らと会った、とデービッドはエリーを見る。
目敏くエリーを見つけた二人はニヤリと表情を歪め…デービッドに近付く。
「はぁい、デービッド。お元気そうで何よりだわ。」
「よう、メイ。昨日の今日で俺の前にツラ出せたその勇気に乾杯だ。」
殊更揶揄するように笑うデービッド。内心は「紅茶が冷めちまうし、そうなるとミッシェルの馬鹿がうるせぇ。早くどこか行ってくれ!」と願うばかりだ。
冷笑を浮かべて心底見下すような表情を作り、俺にとってお前らなんて路傍の石以下の価値しかございませんよ?と態度にも示す。
しかし。その態度は。
女は自分に過度に関心を示す奴も気持ち悪くて嫌いだが、もっと我慢ならない程嫌いな奴がいる。
それは自分に関心を示さない奴だ。
矛盾した話のように聞こえるであろうが、女とはこうしたワガママなもの。
デービッドの態度はメイとメイドの心の油田に火を付けた。
「はぁああ?うちのメイド長に手を出した男が随分な物言いじゃない!」
「は?アンタ同世代に相手されないからって、あの年増に手を出したわけ?ウケる!」
キャハハ、と嘲笑する二人。
「(こいつらよりアンのほうが億倍はいい女だし、あんま話した時ねーけどロビーの幼馴染のエマのほうがいい女だぜ。)」
より一層嫌いになった、と思うデービッドだが、こいつらに対してまだ下がる余地があるような評価をしていたんだな、と自分に驚きを覚えた。
「同世代に相手されないからって、今度は若い子にしたの?こいつ危ないからよしなよ。」
メイドはエリーを揶揄するように見る。
「やめてください。」
エリーは怒りを込めた目でメイドを見る。
「そうそう、ロリコンのマザコンだなんて。」
メイも乗り、デービッドを揶揄する言葉を吐き悪態をつく。
「やめてくださいってば!私とデービッドさんはそんな関係じゃないし、そんな話をされても不愉快なだけです!」
「おー怖い怖い。」
キャハハと笑う二人。エリーは顔を真っ赤にさせ…
「行きましょう、デービッドさん!」
と言い、ワイナリーのブースへと足を進めて行った。
「あーあ。俺知らね。」
すっかり冷めた紅茶とコーヒー。
淹れなおしてもらうか、どうせ金はミッシェル持ちだし、とデービッドはその場を離れようとする。
「はぁ?あんな子が怒って何が出来るってのよ。」
見下す二人にデービッドは溜息と同時に言った。
「あいつ、勇者オーウェンの妹。たまたまオーウェンに会いに来ていて、オーウェンの昼飯買いについてきていたんだよ。」
その言葉に二人の顔が青くなった。
「…は?マジ?マジのガチで?」
「ああ。」
「うちらヤバくね?勇者怒らせる事になったら…」
「そりゃ勇者オーウェンを本気で怒らせたら翌日には生ゴミにされるだろ。」
勇者オーウェンはこんな事位で怒りはしないが、身内を傷つけられたとなると個人オーウェンを怒らせる可能性はある。
個人オーウェンを怒らせたところで説教食らう位で済むだろうが、どうにも勇者も聖女も公人と私人の区別無く見られるきらいがある。
「(オーウェンもミッシェルも大変だな。こいつが有名税ってやつか。)」
脱兎のように逃げた二人の背を見送り、デービッドは紅茶とコーヒーを淹れ直しに向かうのであった。
ーー
「どこで油売ってたのよ、ったく。紅茶冷め…あれ?あったかい。」
「絶対そう言うと思ったから、淹れなおしてもらった。」
デービッドはミッシェルにサンドイッチを渡す。ミッシェルはサンドイッチを見て歓声を上げた。
「きゃー、ハムサンド!さすがデービッド、分かってるぅ!」
ミッシェルは笑顔でハムサンドにかぶりつく。
「…エリーは?」
「オーウェンと話してる。あんた絡みでムカつく事言われたんだって?
オーウェンと同じで正義感の強い子だから、アタマ来たみたいよ。」
「アンの事に関しては一部以外否定せんが、それ以外にもロリコンのマザコン扱いされたからなぁ。」
その言葉にミッシェルが吹き出す。
「いつの間にかあいつらの中で女の敵扱いだ。本当に思うんだが、俺があいつらに何をしたってんだよ…」
頭を抱えるデービッドにミッシェルは紅茶を飲みながら言った。
「何もしないからじゃない?
女って自分の相手しない奴は須らく嫌いな奴になるよ?
オーウェンみたいにカリスマ性ある男なら黙っていてもモテるだろうけど、アンタは良くも悪くも身近な存在と思わせるからね。
モテたきゃ動きな。」
ミッシェルに言わせるとデービッドは自分たちと同じ異端者だ。
だが本人の性格的な側面から周りからはそうは思われていない。
少し考えれば分かる事だが、勇者と聖女の冒険に一般人が混じっても死ぬだけだ。
それに生き延び、かつ勇者と聖女から信頼を得るなど一般人では絶対にあり得ない。
その意味でデービッドは一般人から見ると十分過ぎる程に怪物なのだ。
「(そこらへんの気安さがアンタの良いところでもあるけど。
あとその辺の女がアンタを嫌う理由ってのも、裏を返せばそんだけアンタを意識してるって事だけどね。本気で嫌いなら関わらないと思うし。)」
自己評価も他者からの評価も低い友達を見ながらミッシェルは少し笑った。
暫くしてオーウェンとエリーが戻る。
「あーあすっかり冷めちまった。絡まれたデービッドのせいだな。」
オーウェンは笑いながらそう言った。
「ばぁっかじゃねぇの?不可抗力だ、不可抗力。」
「日頃の行いが悪いんだよお前は。」
「そこは吝かでねぇな。直す気もねぇけど。」
ケラケラ笑うデービッドとオーウェン。エリーはミッシェルを見る。
「…お兄ちゃんっていつもこんな感じなんですか?」
「そうですね。私から見るといつもこんな感じですよ。」
普段は自分も絡んでもっと盛り上がるのだが、対外的な立場を考えてそうしないだけ…とミッシェルは思った。
「……。」
村にいた時のオーウェンは、幼い頃から物静かでどこか寂しそうな顔をしていた。
もっと関わり合いになりたいな、とエリーは積極的にオーウェンの所へ向かうが、年の離れた兄妹だけにお互いに距離感を掴むのが難しく、思春期を迎えたエリーはオーウェンを避けるようになった。
勇者に選ばれ、それまで自分に普通に接していた村人達があからさまに態度を変え(両親は『勇者』が世界を救う使命を持つ者と知らず、単に世界を旅してくる冒険家と思っていたようだが)…
旅立つ時のオーウェンの暗い瞳と寂しそうな背中を見て、エリーはそれまで自分がしてきた対応もオーウェンを傷付けたのではないか、と思った事を覚えている。
デービッドが絡まれて侮蔑的な言葉を言われた、と言った時、オーウェンは
「いつもの事だ。あいつは誤解を受けやすいからなぁ。」
と優しく笑い…自分もその侮蔑を受けたと言った時は
「…ちょっとそいつらに話つけねぇとな。」
と怒りを露わにしていた。
ミッシェルが「勇者が出てしまうと予期せぬ大事になるから、デービッドに任せておけ。脅しかけて戻って来るだろうし」とオーウェンを宥め…
イライラしているオーウェンを見てマリーは自分は兄に愛されているのだな、と改めて思い…。
「お兄ちゃん、今までごめんなさい…」
とオーウェンに頭を下げたのだ。
それまで話し合いをろくにしなかった事もあり、兄妹の語らいをすべきだとミッシェルは提案し…話し合いを経て見えてきた兄の人物像。
『勇者オーウェンは兄の仮の姿。本来の兄はジョーク好きで他愛のない話を好む普通の人。』
だ。
「私達も最初は大変でしたから。オーウェンもデービッドも私も問題ありましたし、道中何度喧嘩したか分かりません。」
クスクス笑うミッシェル。
「オーウェンには最初は手を焼きましたからね。紆余曲折はありましたが、彼は仲間が傷つく事を極度に嫌う誰よりも優しく強い勇者であると私達が知るまでに長くは掛かりませんでした。
今では公用が無い時には何故かデービッドのお店に遊びに行っていますね。まぁ私もですが。」
こっそりとエリーの意識をデービッドに誘導しようとするミッシェルだが…
「へぇ。」
の一言だけで返され、エリーの目は再度オーウェンに向けられたのであった。
「(まぁ仕方ないか?兄妹といってもお互いそんな深く関わらずにいたんだし、それこそ多感な年頃だから兄が見てきたものを知りたがるのか。)」
お兄ちゃん大好きのブラコン妹にならない事を願い、ミッシェルは十字を切った。
ーー
日が暮れ、今日のお祭りも終わりとなる。明日はグランプリの発表だが…
「行きたくねぇなー…俺間違いなく選外だろうし。」
とぼやくデービッドにオーウェンとミッシェルは
「そうでもなかった。」
「確かにグランプリには及ばなかったけど意外な賞を取ったわよ、アンタ。」
と言い、帰路に着くのであった。
「オーウェン、せっかくだし親父さんたちに会ったらどうだ?」
「んー…親不孝者が顔出してもなぁ。ウチの親父、俺がヤクザ者になったとしか思ってねぇよ。」
「言い得て妙だな、その例え。確かに勇者は魔物にとっちゃヤクザ者だわ。」
これ以上オーウェンの家庭の事情に口を挟むのもな、と思いデービッドはミッシェルに話を振る。
「ミッシェルの家族は?」
「んー?パパはお仕事で忙しいし、何年も会ってないわ。」
ミッシェルの父の仕事は魔術の研究者だそうだ。魔導具開発に心血を注いでいるらしい。
「親から見たらヤクザ者の集まりか、俺らは。」
「ある意味勇者や聖女って究極の虚業でもあるからね。」
名声あってこその勇者と聖女。
デービッドはミッシェルの言葉に苦く笑い…明日が終わるとオーウェンとミッシェルとも暫くお別れか。と祭りの後を考えて少し寂しくもなったのであった。
ミッシェルは腹黒ですがまともな側面もあるのだな、と書いていて思いました。




