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ユニークスキル『創造』の力が予想以上に使えなかった件  作者: ぐりとぐらとぐふとぐへ
第二章 ポティト農業祭
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ポティト農業祭①

花火が上がり農業祭のブースは大盛り上がりとなる。


世界中から商人が買い付けに来たり、近くの庶民がお得値の品物を買いに向かったり、新作の農機具や包丁なども並び、蚤の市的なブースも多くある。


「絶景かな絶景かな。」

トロイは目を細めて尻尾を立てる。

「来年はワシらも農機具を売るかの?デービッド。」

ソルは活気に溢れた市を見て血が騒いでいるようだ。

「ばぁか。今年のワイン製造機の例を忘れたか?餅は餅屋。俺らはあいつらには敵いやしねぇよ。」

ひょい、と鎌を手に取りソルに渡す。

「こんなんひとつ見てもトライアルアンドエラーの塊だぜ?

形は真似出来ても敵わねぇよ。時間が無すぎる。」

ソルはうむ、と頷くと

「それにワシらの鍛える業物は農業従事者には高過ぎるからのう。」

と言った。


これまでも何度か農機具の修理をしたが、それはあくまでも修理のみに留まった。

家族の思い出の品だからという理由や、初めて買った鍬だから、というのが修理の理由で、ちびてしまった鍬に鉄を足して修復させた事も、折れた鎌を再度蘇らせた事もない。

理由は簡単。直すより買う方が安いからだ。


基本的によろず屋に鍛治を頼むと高くつく。

ソル、デービッドの拘りである最高級の材料を最高の技術で最高の状態にする、という事は伊達ではない。

例え期間が掛かってもその分の割増は貰わずに定価で行い、アフターサービスもよろず屋の商品ならば販売証明書さえ持って来れば研磨を無料で行う。

ドワーフ達の間でも評判の腕前のソル、彗星の如く鍛治界に現れた期待の新星・デービッド。

彼らの名前と腕を知っていたらよろず屋の品は破格なのだが…庶民からすると相場よりも若干高い値段の為、日常的に使うには少し躊躇う値段なのだ。


「だけどよ、鍬に代わって蒸気機関のような熱機関を使って畑を耕す事は出来るだろうな。」

「というと?」

「ああ、蒸気車のスチームくんMk-2をもっと低速寄りにギアを作って鍬を回転させる囲いをつけるやり方とか…

まぁこれは完璧にまだ妄想の部類だな。スチームくんを完成させないとそっちに辿り着けやしねぇよ。」

デービッドの言葉にソルの目が輝く。

「ではスチームくんを早く完成させねばな。」

「まぁ…出来れば蒸気よりももっと手軽に熱量稼げるものがあればいいんだけどな。そうすりゃ小型化出来るようになるだろ。」

何にせよここまで俺の一生で辿り着けるものかな、とデービッドは言った。


「発想は幾らでもあるし、実際にどういう形になるかも想像はしている。でも技術力ってのがそこまで至らねぇ。」


俺は本当に無能だ、とデービッドは舌打ちし…


「お、トロイ!東方の国の鯵の天日干しだってよ!」

「買いやす買いやす!旦那、箱ごと買い占めてくだせぇ!」

「買い過ぎじゃろ!」


「ソル、ドワーフの謹製の蒸留酒でやすよ!」

「トロイ、樽ごと買って来るんじゃ!」

「いや買い過ぎだそりゃ!」


「デービッド、お前の好きな南方のナッツの詰め合わせじゃぞ!」

「よっしゃソル、箱ごと買え!」

「買い過ぎでやす!」


と、農業祭を心ゆくまで楽しんでいた。


ーー


オーウェンとミッシェルは雛壇に飾られた人形のように貼り付けた笑顔を浮かべ人々と触れ合っていた。


「(あー、こんな時はあの馬鹿が羨ましい。)」


こんな蚤の市で好きなものを買い、美味い酒に酔い、美味い食べ物を心ゆくまで楽しむ。

オーウェンは勇者になった時。ミッシェルは教会に入った時。

その権利を捨てたのだ。


今更後悔もしないが無い物ねだり。

三人で笑いながら買い食いし酒を浴びる程飲みイベントで笑う…

そんな事は許されないし、周りが許してくれない。


勇者たる者、聖女たる者、とずっと言われ続け、呪いのようにそれは二人を蝕んでいる。

が、自分達を見て人々は希望を抱く。

ならばその手伝い程度するべきだ、と思う二人。


「(結局客寄せと代わりはしないわ。)」


笑顔を崩さずオーウェンとミッシェルは思ったのであった。


ーー


「ん?勇者オーウェンの里?」

歩いているとオーウェンの故郷のブースがあった。

オーウェン自体はこのブースについて言及していなかったので、それは単に言わなかったかそれとも知らなかったのか。

特筆して見るものもないが、友達の故郷というならば何か見て買っておくかな、とデービッドはブースを見た。


そこにあったのは…オーウェンのグッズ。

所狭しと並べられたオーウェンの剣のレプリカ。

「(こんなゴミ誰が買うんだよ…)」

デービッドは聖剣のレプリカを見て思わず苦笑した。

値段は金貨8枚に始まり上は金貨50枚。

「金貨8枚のものは金貨2〜3枚が妥当の品質よの。」

ソルの目から見て武具として使い物になるのは金貨50枚のレプリカ位だ。

それでも金貨30枚の鋼の剣くらいの品質であるが…オーウェンの聖剣を精巧にコピーしてあり、その加工料というところだろう。

「(オーウェンは聖剣を余程の事がない限り使わないけどな。)」

オーウェンが聖剣を使う時は相手がオーウェンよりも格上かオーウェンよりも背丈などのサイズが違い過ぎてどうにもならない時くらいか。

名前で商売出来るのはいいよなー、とブースに入るデービッド。彼を出迎えたのは…二歳くらいの子供だった。

子供は聖剣のレプリカ…子供サイズの他愛のないものでデービッドを叩く。


「こら、オーウェン!やめなさい!」


ブースの主だろうか、年の頃がデービッドと変わらない位の夫婦が子供を抱く。

オーウェンとミッシェルに肖り同じ名前を付けるのが一時期流行り、ミッシェルに救われた村は次の年に生まれた女の子の名が全てミッシェルだったという珍事もあったりするなど、彼らの名前は絶大な人気を誇る。

オーウェンの両親でもいたら挨拶をしておきたかったが、どうやらいないようだとデービッドは隣の飲食ブースに入った。


「いらっしゃい。」

家庭料理を出す店のようで中にいる客も一杯ひっかけて舌鼓を打つ。

オーウェンの故郷も農村で、オーウェンは母の作る豚のカツレツを甘辛く味付けし、ご飯の上にかけたカツ丼が大好きだったと言っていたな、と思い出し…

「カツ丼いっちょ。」

オーウェンを倣い注文をしてみた。


ギョッとした顔をした店員がデービッドを調理スペースに引き込む。

「赤毛の兄ちゃん、それ誰から聞いた?」

どこかオーウェンの面影のある女の子がデービッドに問い…

「あ?オーウェン本人だよ。あいつ母親の作ったカツ丼って奴が好きでよく食べていたって言っていたからよ。」

嘘をついても仕方ない、とデービッドは普通に応えた。

「お兄ちゃんがそんな事言うわけないんだけど?そんな事気軽に聞けて答えるくらい近しい人って、聖女ミッシェルとおまけのデービッドくらいよ。」

…やっぱりオーウェンの尻、砕いてたら良かった。と思うが遅きに失した。

「そのおまけ、ってオーウェンが言っていたのか?」

おまけ扱いでも構いはしないし実際その通りだが、オーウェンからそう思われていたというならちょっとショックだな、と思うデービッド。

「…いや、お兄ちゃんからの手紙の中で『デービッドという男も一緒に旅に出ていて、斥候や雑用を一手に引き受けてくれている。頼もしいとは言い難い所もあるが、パーティーのムードメーカーだ。』ってあって。」

…前言撤回。オーウェンごめんなさい。


「…俺はそのおまけだ。」


デービッドの言葉に女の子は目を剥き…調理場へと走っていく。

次に来たのはオーウェンによく似た壮年の男と良くも悪くも田舎のおばさんといった感のある女だった。


ーー


「娘のエリーがごめんなさいね。」

オーウェンの好物だというカツ丼を置き、オーウェンの母は微笑む。

「いえいえ。実際おまけでしたし。」

暖かいうちに、とカツ丼を食べる。

卵でとじられたカツレツとご飯の相性が良く、この味をオーウェンは好んでいるんだろうな。とデービッドは思った。

「オーウェンの里ってだから、オーウェンの両親がいたら挨拶しておきたかったんですよ。

これでも一応はオーウェンの友達ですから。」

デービッドはそう言い微笑む。

「おめぇの事、オーウェンは手紙の中でよく褒めてたよ。目端が効いて本当に助かる、ってな。」

オーウェンの父はニカッと笑う。その笑顔はオーウェンの素の笑顔にそっくりだ。

「オーウェンも農業祭に来てますし、後で顔出すように伝えておきましょうか?」

「いんや、いい。」

オーウェンの父は首を振る。

「あいつにとっちゃこの村自体が嫌な思い出の象徴だろうしな。ほれ、横のブースのガキ。あれがオーウェンの元婚約者とその夫のガキさ。」

「…それは見たくないでしょうね。」

裏切り者が自分の名前で商売をしているのだ。しかもご丁寧にその裏切りの象徴に自分の名前を付けて。

優しいオーウェンとはいえ良い気分はしないだろう。


「俺らにとっちゃ勇者様なんかじゃなくてひとりの息子に過ぎねぇんだがな。

デービッド、あいつと仲良くしてやってくれよ?」

「ええ、勿論です。」

わしゃわしゃ、と頭を撫でられ…この種の子供扱いを嫌うデービッドだが、子を思う親の気持ちを考えて不問にする。


カツ丼の代金を払おうとしたが、オーウェンの父は奢りだと言って譲らず…根負けしたデービッドが言葉に甘えお礼を言い飲食ブースから出た。


トロイとソルは思い思いの場所に行っているようだ。別にずっと三人一緒にいるというわけでもないし、帰り着く場所場所同じなので特には気にしない。

伸びをし、ここからどこを見回るかと思うデービッドにエリーが声をかける。


「さっきはごめんなさい。」

エリーは頭を下げる。こうしたスクエアな所もオーウェンによく似てるな、とデービッドは苦笑した。

「気にしちゃいねぇよ。」

オーウェン本人からおまけ扱いされたのなら傷付くが、他人からオーウェンやミッシェルのおまけ扱いされるのには慣れている。

「…ねぇデービッドさん。よかったらお兄ちゃんの話を色々してくれません?

お兄ちゃんあれから帰って来てなくて、殆ど話していないんですよ。」

「それは構わねぇけどよ…本人と会うのが一番なんじゃねぇのか?」

会いに行ったら多分喜ぶぜ。と言うデービッドだが、エリーは寂しそうに首を振るばかりだ。

「…私、お兄ちゃんに随分酷い事言いましたし。」

「あー…」

デービッドに姉妹はいないが、思春期の少女が身内にきつい対応をするのは通過儀礼だと知識としてある。

それも自分が嫌われないと知っていての甘えになるのだが、オーウェンは以来故郷に戻っていないので、エリーはオーウェンに嫌われてしまったのだろうと考えたようだ。


オーウェンが身内の話題をする事はあまり無いが、別に悪印象を抱いている感じもなくポティトの色街に突撃した時も特にエリーについては言及しなかった。

彼にとって妹が自分に暴言を吐こうがどうでも良い事…甘えかかられているだけで何とも思わなかったのだろう。

それよりは生々しい傷を見たくないから故郷に寄り付かないようになっただけだ。


デービッドはエリーのオーウェン譲りの黒髪をくしゃ、と撫で…

「あいつはエリーの事を嫌ってなんかいねぇよ。」

と、笑顔で言った。

エリーは…「そうだと嬉しいな…」とはにかみながら笑う。

「(可愛い妹じゃねぇの。)」

デービッドはエリーの手を引き…

「さ、オーウェンの所に行こうぜ!」

と歩き出した。


ーー


「おーいオーウェン。妹さん連れて来たぜ。」

ワイナリーの休憩スペースで寛いでいたオーウェンにデービッドが声を掛ける。

「妹?エリーか?」

オーウェンはデービッドを一瞥すると立ち上がる。

エリーは…

「別に会いたかったわけじゃないから!」

と、そっぽを向いた。

やれやれと肩を竦めるオーウェン。

「こいついっつもこうなんだよ。」

余程嫌われているみたいだ、と笑顔で言うオーウェン。その言葉に傷ついたように下を向くエリー…

ちと釘刺しとくか、とミッシェルと頷きあうデービッド。

「デービッドさん、人数分のライ麦パンのサンドイッチを買ってきて頂けますか?」

他人がいるだけに聖女の顔を崩さずにミッシェルが言う。


「おう。飲み物はどうするよ。」

「お任せします。」

「あー。オーウェンは?」

「コーヒーを頼む。砂糖はいらん。」

「…おめぇよく飲めるな、あんな苦いの。」


オーウェンは素の、ミッシェルは他人の前のやり取りをし、デービッドはエリーについて来てくれるようにお願いする。

エリーは快諾し、休憩スペースから出て行き…


「オーウェン、妹さんは別にあんたを嫌ってはいないわよ。」

ミッシェルは大上段から斬り込んだ。

「そうか?破壊神討伐前から結構言葉がきつくなったり、あからさまに避けられたりとあったし、嫌われているんじゃないのか?」

オーウェンは、くい、と水を飲む。


「思春期の女の子ってああしたものよ?身内だからこそ甘えかかる。あの時って妹さんいくつくらいだった?」

「今14だろうし、11か12位か。」

やっぱり。とミッシェルは頷く。

「一番微妙な時じゃない。アンタその時どういう対応してたの?」

「まぁ…嫌われたのかな、と思っただけで特に気にしなかったな。」

オーウェンは特に気にする事なく自然体でエリーに接していたのだろう。

だからこそエリーも遠慮なくオーウェンに甘えている。

認識違いがあったとはいえ、特に問題のある接し方だとは思えない。


「…どっちかというと問題はエリーちゃんかぁ。デービッドの馬鹿に任せないで私が行けば良かったかも。」


ミッシェルはため息を吐き、デービッド達の帰りを待った。


「…なぁミッシェル、もしもエリーがデービッドを気に入って結婚なんて事になったら、デービッドが俺の義弟になるのか?」

オーウェンは落ち着かずにソワソワと動く。全く知らない人間なら兎も角、大体の性格を知る人間が身内になるなどお断りだぞ、と言うオーウェンに…

「あいつが所帯持って落ち着く姿なんて考えられないし、エリーちゃんがあいつを気に入るとも到底思えないけど?

女の子って良くも悪くも集団心理の強い生き物だし、あいつみたいに評判悪い奴の奥さんになんて誰もなりたがらないと思うわ。」

と一笑し


「それと。その懸念を間違ってもエリーちゃんに言わない事ね。本当に嫌われるわよ。」


と改めて釘を刺したのであった。


「(ま、相手を本当に好きになったら誰が止めようが関係なく行っちゃうんだけど、そこは言わぬが花かな。)」


仮にデービッドとエリーがそうなったとしたら。その時のオーウェンの顔は見ものだろうな、と思いミッシェルは笑った。

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