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ユニークスキル『創造』の力が予想以上に使えなかった件  作者: ぐりとぐらとぐふとぐへ
第二章 ポティト農業祭
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ワイナリーと炭酸ガス

今回は小学生レベルの理科の話が出て来ます。

依頼の内容。それは。


不足している去年のワインの補充


目玉となる商品や方法論の確立


である。


「完全にこっちに振りやがって、じゃがいも野郎が…!」

見ているだけでも頭が痛くなる。

まずその1。

これは無理だ。

無から有を作り出す『創造』のスキルを当てにしているならば、それは見当違いと言っていい。

『創造』のスキルは状態固定が難しく、『再生』のスキルで固定しなくてはすぐに消えてしまう。

再生のスキルを使わずに状態固定する事も出来はするが、一日一本程度が限度。それ以上やると魔力切れを起こしてしまう。


「…ぶどうジュースにアルコールでもぶち込んじまえ。」


ケッ、と唾を吐く。

目玉となる商品や方法論については…


「素人に何ほざくんだ、このじゃがいも野郎は!」


素人ならではの視線があるかも知れないが、所詮素人は素人。

準備期間の4ヶ月の間に何か出来るとはとても思えない。

「こりゃ安請け合いしちまったぜ…畜生。」

苛々と机を叩くデービッド。


「だけどやらねぇとな…。」

既存の方法に対する革命。

なかなか男心を擽るフレーズである。

女には理解し難いものである、男の浪漫。

デービッドもソルもトロイも、その浪漫を求めて仕事をしている側面がある。

今回トロイも付いて来たかっただろうが、メンバーのバランスを考えて付いてこなかった。

トロイの埋め合わせもしないとな、と考えるが、今はその時でない。


ワインの製造方法はデービッドも知っている。

ブドウを暫く落ち着かせてその後に汁を絞って発酵させて濾過していくだけだ。


この簡単な工程だが、途中のコツややる事は山のようにある。

ベテランになると最早神の領域といっていいだろう。


「…試行錯誤する時間はねぇな。となりゃ方法論と起こり得る事象の話し合いか。」


果たして素人考えをどこまで聞いてもらえるのやら、とデービッドは溜息を吐いた。

「あー、もういい。兎に角考えるしかねぇ!」

寝なくて死んだ奴はいるが、考え過ぎて死んだ奴はいない。

デービッドはそう考え、延々とノートにアイデアを書いていき、ソルがその都度ダメ出しを行なっていく。

発想はあっても理論体系的に無理がないかをソルが見ていくのだ。

詰めて詰めて考え、話を深め…


気付いたらもう朝になっていたのであった…。


ーー


翌日。ドルイド伯爵家の使いがデービッドを迎えに来る。

「お疲れ様です。」

トロイが用意した葛籠を持ち、クマだらけの顔でデービッドは使いに挨拶をする。

「だ、大丈夫ですか?」

執事とメイドはぎょっとした表情でデービッドを見るが…

「寝不足というだけです。」

と言い、馬車の荷室に道具を詰め込む。


「結局何時までやっていたんでやす?」

「分からん。気付いたら朝じゃったわ…」

ソルも大欠伸をする。

「じゃあ行ってくるぜ、トロイ。」

「へい。」

道中の無事を願い、トロイは火打ち石を合わせる。

「何かあったら通信用の魔導具で連絡してくれ。」

「へい。留守中に大過無いように致しやさぁ。」

トロイはくしくしと顔を洗う。

「では行ってくるぞい。」

「ソル、お気をつけて。」

ソルにも火打ち石を合わせる。


馬車が進んでいき…よろず屋に残されたのはトロイだけとなった。


「…あれ程騒々しいと思っていても、居なくなると居なくなるで寂しいものでやすねぇ。」


ふう、と溜息を吐き、トロイはキセルをふかす。

「さて…工房の掃除と家の事をしやすか。これから暑くなりやすし、簾も出さなくてはいけやせんしねぇ。」

仕事と家の事が双肩にかかるわけだし、これから少し大変だな。とトロイは少し笑った。


馬車の中ではデービッドとソルが激論を交わす。


「だからそこは実際見てみないと何とも言えない所だろ。」

「それがいかんのじゃ!予定は組んでおかんとな!」

「それたまひよ論ってんだ!」


傍から見ると喧嘩だが、デービッドとソルにとってはいつもの事だ。

ポティトに着いてからの予定。

ワイナリーの見学とブドウ畑の巡視、そのどちらから始めるかという事で意見の言い合いとなったのだ。


「あ、あの、デービッド様…初日は伯爵様に御目通りして頂きませんと…」


執事が二人の間に入るが…


「時間の無駄(じゃ)。」


の一言で切って落とされた。


キリキリと痛む胃…。彼の上司であるバスティは「誤解されやすい方ではありますが、良い方ですよ。」と言ってはいたが。メイド長に至っては彼女には珍しく熱っぽい視線をしていた。


どう考えてもこいつらおかしい。

控えめに言って社会不適合者にも程がある。

こいつらにとって伯爵の依頼などゴミの価値しかないというのがヒシヒシと感じるのだ。


興味があるのはポティトの農業祭の成功だけで、それ以外には全く興味がない。伯爵?そんなもんブタにでも喰わせておけ。


彼らの態度がそれを如実に示していたのであった。


このうら若き執事の価値観に全くそぐわない。メイドにもだ。

「(こ、こいつらの世話役なんて嫌…)」

半泣きになる執事とメイドだが…


「てめぇらじゃ役割不十分だからバスティとアンを呼んでこい!」


と遠からず癇癪を起こされ、晴れて彼らの世話役を解雇されるとはまだ知らないのであった…。


ーー


ポティトのワイナリー。

そこには沢山の人が働いていた。

ブドウを踏む婦人方とブドウのコンテナを運び込む屈強な男衆。

汗をかいて働く姿にデービッドとソルの顔が綻ぶ。

「男ってなこうでなくちゃな!」

「おうよ!デービッド、ワシらも手伝うとするかのう!」

「あっ…」

執事の声を無視し、デービッド達は男衆に近付いた。


「あんだぁ?どうしたよアンちゃん。」

スキンヘッドの大男が汗を拭いデービッドを見る。

「俺はタンカートのよろず屋のデービッドだ。ドルイド家から依頼があってお前らを手伝いに来た。」

大男は

「あぁ。バスティさんが言っていた手伝い人か。」

と言うと、従業員に「おい、このガキをブドウ畑に連れて行け!」と指示する。

無礼にも程のある態度だが、デービッドとソルは全く気にせず…


「いいねぇ、汗水流して気分転換しようぜ!」

「そうじゃな、座学は腐るわ!」


と、やる気満々でブドウ畑に向かうのであった。


ブドウ畑では収穫の真っ最中。

デービッドとソルはニコニコしながら人一倍の仕事をこなす。

デービッドはこう見えても破壊神討伐の冒険を生き抜いた男。ソルもまたノーム。大地の力を持つ妖精だ。

この程度の肉体労働など屁でもないし、二人にとっては程よい汗に過ぎない。


「あのアンちゃんと妖精、よく働くなぁ。」


男達は汗を拭いコンテナを馬車に積んでいく。

「なぁなぁ、これ出す基準なんなんだよ?」

「向こうの畑は何故採らんのじゃ?」

荷台でデービッドとソルは目をキラキラ輝かせながらワイナリーの従業員達を質問攻めにしていく。

そして。


「おーいハゲ、これどこ置けばいいんだ?」


しっかりとガキ扱いの返礼をしたのであった…。


「ハゲ…!」


そして男の名刺交換。大喧嘩。


ケスラー仕込みの体術から優勢に立ったデービッドだが…

「テメェ!」

後ろからほかの男から不意打ちを受け地面に倒れる。

そこからリンチが始まり…倒れたデービッドをよってたかって踏み付ける男達。ついでにソル。


「思い知るが良い!薄給でこき使いよって!この!この!」

「ぐあ!ソルてめぇ!」


ドン引きした男達がデービッドから離れ…場はデービッドとソルの大喧嘩となった。


「ワシに喧嘩で勝とうなど数百年早いわ!」

ソルは倒れたデービッドの頭を踏みつける。

「くぅ…!無念…!」

地面を叩くデービッド…。周囲はドン引きだ。


大男は「とんでもねぇクソガキどもが来やがった!」と、ボコボコに腫れた頬を摩りながら引き上げていったのであった…。


ーー


ポティトのワイナリーの外れ。そこがデービッドとソルに与えられた実験室兼宿泊場所だ。

「ワイナリーの外れとは気が利いてやがる。」

おー痛い、とデービッドは傷薬を顔に塗る。

「そうじゃなぁ。実験にももってこいじゃ。」

ソルはワインの樽を持つと実験のスペースに運ぶ。

「ソル、そのワインは?」

「ああ、何やら失敗作らしくてな。廃棄するそうじゃから貰ってきたんじゃ。」

「ふーん。」

デービッドはワインの樽を開ける。

それは…


「…腐ってやがるな。臭いがやべぇ。」

「じゃな。これは炭酸ガスじゃ。発酵し過ぎたんじゃろう…。」

「…無毒化出来るだろ、ソル。少し味を見てみるか。」

「おう、ええぞ。」


ソルは魔法を使い腐敗菌を浄化する。


「…なんか下の方しゅわしゅわしてやがる…。」

「な、なかなか飲むのに勇気が要るのう。」


覚悟を決めてデービッドとソルはワインを飲む。


「…おい、これ悪くねぇな。しゅわしゅわ感がすげぇいい感じに後口を軽くする。」

「じゃな。これ…うまいわ。」


ソルもデービッドも目を丸くする。

「じゃが問題は魔法を使い無毒化する一点に尽きるのう。」

「だな。…だがよ、これ売り物になるぜ。」

液体の中に炭酸ガスを封じる方法と技術。

これが出来れば画期的だ。


「ソル、トロイが持たせてくれた洗剤と砂糖あるか?」

「うむ。洗剤は近いものがあるかも知れんの。あれも泡立つものじゃし…」

「トロイはこれを煮豆にも入れていたから、口にしても害はないはずだ。」

「ああ、あれは重曹といって鉱石の削りカスじゃからのう。」

ソルは頷き、摂取しても問題はないと太鼓判を押す。デービッドは

「前に見た事あるんだよ、トロイが煮豆を失敗して鍋が泡だらけになった所を。」

と言い、ソルを向いた。


トロイの使う砂糖。それは果糖である。

砂糖の単価は非常に高く、止むを得ず安価に手に入る柑橘を使い糖分を結晶化させている。

まずは砂糖と重曹を混ぜるも何も起こらない。


「水を加えてみたらどうだ…」


ごくり、と二人の喉が鳴る。


水を入れかき混ぜたその時。

しゅわわわわ。と水から炭酸ガスの泡が出現した。


「うおおおおおおおおお!」


原始的な炭酸ガスの作り方は、重曹(アルカリ)とクエン酸(酸)を水に溶かす事だ。すると中和反応から泡が立つ。


喜び炭酸水を飲むデービッドとソルだが…


「…味は最低じゃの。」

「言うな。」


塩っぽさが気になって飲める味ではない。だが。


「炭酸水を作れて、なおかつ飲めるという事が判明したな。」

デービッドの言葉にソルの目が輝く。

「よし、今週中には理論を完成させるぞ、デービッド!」

「おうよ!」


…そして。

翌日もクマだらけの顔で二人はワイナリーに向かうのであった…。


分量間違えると飲めたものでない炭酸水。

一度えらい目に遭いました(笑)

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