スチームくんMk-Ⅱ
デービッドのターンです
不死者の住む洞窟まで早馬で二日は掛かる。
その程度の距離ならばどうという事はない、とオーウェンは思うが…デービッドはいそいそと工房から何かを引っ張り出している。
「…おい、それはなんだ?」
あまりの風体の怪しさに思わず突っ込むオーウェンにデービッドは笑顔を向けた。
「こいつは蒸気車、その名もスチームくんM k-Ⅱだ!」
スチームくんマークツー。
前に蒸気車を爆発させたという件を思い出し皆が頭の後ろに汗をかいた。
そして異様な大きさ…。
「次はスチームくんZね。」
「おいそこ、なんで失敗前提なんだ?」
一体これは何なのかと問う皆にデービッドは胸を張る。
「よくぞ聞いた!これは蒸気を利用した動力で動くものだ!」
熱エネルギーを利用しそれを歯車に伝えて動力とする蒸気車。
しかし…こないだの失敗の影響か、皆の反応は芳しくない。
「…なんだよ、お前ら。見ろよ起動実験は済ませてハンドルとブレーキまでつけてるんだぞ。
更に荷室は乗り心地の改善の為に車輪毎に跳ねない程度のバネをつけている。ここまでアップデートを重ねているんだ。
これなら早馬二日を一日で行く事が可能だ!」
デービッドは蒸気車の性能に太鼓判を押すも…やはり皆は乗りたがらない。
業を煮やしたデービッドは無理矢理荷室に荷物を詰め込み、蒸気車の熱源となる薪を焚べる。
「おい…本当に大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ。…多分。」
…ある意味破壊神討伐よりも緊張する、とオーウェン、ミッシェル、オベロンは客室に乗り込んだ。
トロイ、ソル、デービッドは蒸気車の運転。
「出発するぞ!」
煙突から煙が上がる。
がっしゅ、がっしゅ、と足元から響く起動音。ゆっくりと蒸気車は進み…
…やがて走り出した。
「随分スピードが出るんだな。早馬よりも速い。」
途中の道の悪さもなんのその、と蒸気車は進む。
「たまに揺れるけど、馬車よりも楽ね。」
あいつの発明もたまには役に立つ…と二人が評価を改め、運転するデービッドもソルもトロイも得意満面といった表情だ。
「技術は確立したな。」
「あとは燃料の問題でやすな。」
「そうじゃな、燃料を木で賄うのはちと妖精王国に影響が出る。」
ニコニコしながら次の課題を話し合うデービッド達。
ぼー。
時折温度が上がり過ぎないように排気をしながら薪を焚べる。
森の魔物や妖精が目を丸くしながら蒸気車を見送り…その光景を見てオベロンは鼻を高くした。
客室では三人が休む。
デービッド達は交代で休みを取り、不死者の洞窟まであと一時間という距離にまで迫る。
「快調快調!幸先の良いスタートだぜ!」
デービッドは愛用の槍を取り出し、不死者との対決に備えた。
途中野うさぎを轢きそうになり、デービッドはブレーキを踏む。しかし。
ブレーキに手応えがない。
「あれ?」
何度ブレーキを押しても手応えがない。
まさか。
デービッドは改良箇所を思い浮かべてトラブルシューティングを始めた。
ブレーキには摩擦を利用し止めるよう、馬蹄型のものを利用している。
それは鉄線を引っ張る圧力を利用する為、熱を持つと当然膨張し馬蹄の型を押す…となれば鉄同士がくっついた可能性がある。
…ブレーキの故障。
ここまで長い時間運転をしていなかったからこそ起きたトラブルだ。
仮眠を終えたソルとトロイがデービッドの青い顔に気付く。
「トラブルですかい?旦那。」
「…ああ。」
「仕方のない奴じゃの。治すとするかのう!」
「いや、それ無理。」
だってもう止まらないもん…。デービッドは泣きそうになりながら言った。
なだらかな下り坂が一層加速を早める。
「終わった…」
デービッドは蒼白な顔でそう呟いた。
ーー
「…煙を吐く異様な物体が洞窟に迫っている?何を馬鹿な。」
斥候から報告を受けたリッチは首をかしげる。
そんなものあったか?と思うが、今は夜だし不死者達に洞窟の警備をさせよう、と配下の王国の元将軍であったデュラハンに指令を下す。
大袈裟な報告を受けて大袈裟な警備をしてどうなる事かとデュラハンは布陣をするも…
…決してそれが大袈裟なものでないも気付くのに1分も掛からなかった。
異様な鉄の塊が煙を上げて布陣なんて気にせずに突っ込んでくるのだ。
「…はい?」
思わず出た声。
がっしゅがっしゅと煙を吐きながら近づく鉄の城。それを見た時。デュラハンはあるひとつの感情を思い出した。それは。
不死者となり忘れていた感情。
…恐怖。
スケルトン達が縦列となり身を顧みず突撃していくが…素敵な音を立てて砕け散り…
ゾンビ達でも知性の残る者は恐怖から逃げ惑い…
誇り高い吸血鬼達すら悲鳴を上げて空へと逃げ出した。
「な…なんなんだ、これは…」
デュラハンは呻き声を上げる。圧倒的な兵器というものは存在し得ず、不死者達が世事に疎くなっている間に時代は流れた。
流れたのだが…
「と、止まれ!止まるんじゃあ!」
「おい、客室行ってオベロン達を逃がせ!」
「逃げるにしても不死者達の布陣のど真ん中でやすぜ!」
…そう。ブレーキの壊れたダンプカーがフルスピードで人の群れに突進したらどうなるか。
大惨事になる事は想像に難くない。
だがそれがもっと体積が大きくなおかつ重いものであれば。
被害は一層増す。
ある者は空中に、ある者は轢き潰され…無残な骸を晒していく。
「きゃあああああ!」
「うおおおおおおお!」
「はっはっは!これは愉快愉快!」
客室に響く破壊音…。
姿見の水晶で状況を見ていたリッチも唖然としていた。
いや、どう見てもこれあり得ないだろ。
そう言葉が出かかる。
だがこれは現実だ。繰り返す。これは現実だ。
ぐわっしゃ、と派手な音がし、機関部が洞窟の中にめり込む。
「いかん!ボイラーが爆発するぞ!離れろ!」
デービッドの声にミッシェル、オーウェン、オベロン、ソル、トロイが必要品を持って外に飛び出る。
デービッドも食糧など必需品を持ち外へと出た。
次の瞬間。
どんっ!
という音と共に洞窟の入り口が崩れ去った。
そして…中から嫌な臭いがしだす。
「なんだこの熱湯は!」
リッチが叫ぶが…熱湯は入り口近くにいた不死者達を飲み込んだ。
熱湯はたちまちのうちに洞窟に流れ込み、下の階へと向かう。
不死者とはいえ肉体を持つ者だがこれにはたまらない。
グールなどは熱湯で肉体が爛れ、骨が剥き出しとなる。
そして副産物として細菌の活性化…。ゾンビ達が肉体の自己消化に苦しみだした。一方では…入り口にあるボイラーをどけようとしたゾンビ達が悲鳴を上げた。
「ぎゃあああああああ!」
ボイラーの熱でドロドロに皮膚の溶けたゾンビ達の悲鳴が上がる。
更に炉の火が入り口を焼き、リッチの組んだ術式を破壊していく。
洞窟の中の温度は次第に上がり、抵抗力の弱いゾンビ達から自己消化に苦しみ出す…。
なんとか蒸気車をどかせたその時。
入り口付近にいた不死者達は全員大爆発と共に消し飛んだ。
バックドラフト現象。
可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態の時に窓やドアを開くなどの行動をすると、熱された一酸化炭素に急速に酸素が取り込まれて結びつき、二酸化炭素への化学反応が急激に進み爆発を引き起こす。
まさに阿鼻叫喚の地獄…。
リッチは目の前の光景が信じられず、呆然と大地にその膝をついた。
「なんてことだ…!なんてことだ…!」
臣民達が。不死王国の尖兵となり不死者の国家の礎となるはずの兵士達が。
一瞬…!ほんの五分に満たない時間で全滅に近い被害を出したのだ。
「リッチ様!この混乱に乗じ勇者達が現れました!
デュラハン殿と交戦していますが、撃破は時間の問題と思われます!」
リッチの側近…グールのモルグは頭を抱える。
リッチはその空洞となった目に緑色の燐光を光らせ…これは全て勇者の仕業であると悟った。
「…貴様らの宣戦布告、確かに受け取ったぞ!勇者共!」
見事な奇襲、そして見事な戦略よ、と褒め…それを許した自分自身に腹を立てぎり、と歯軋りをしたのであった。




