ワイトスレイヤー完成
ポティトから王都へ戻り、早速工房へと向かう。オベロンは流石にこれ以上公務をすっぽかすと殺されると言って妖精王国に戻る。
「すぐ来るから、討伐は俺が来てからな。」
と皆に宣告して去るオベロン。
「おう、首尾よくエクスカリバーを手に入れたようじゃな。」
工房ではソルが既に打ち替えの準備を整えていた。
「早速始めるか。トロイ、オーウェンとミッシェルにお茶を出してやってくれ。」
デービッドは着ていたメイド服を脱ぎ、作務衣だけの軽装になる。
「あー、落ち着く。」
デービッドの客間は変わった作りをしている。
木で作られた内装は檜の香りがし、客間の外の庭園は玉砂利と苔むした石が置いてあり、生えている松の木と竹の垣根がなんとも言えない情緒を生む。
そして時折鳴るのは竹の棒が石を打つ音。水音が心地よく響き、ミッシェルは背を伸ばした。
「お待ちどう様です。」
トロイは甚平を着て緑茶を運び、二人の前に置いた。
「これは東方の様式か。変わった空間だがなんとも落ち着く。」
オーウェンは緑茶を啜る。ミッシェルは上品に両手に椀を持ちお茶を飲み…お茶菓子のお饅頭に手を伸ばす。
「融通無碍。それが旦那でありやすからねぇ。」
以前旅した場所の話をしたら、やたらと『粋』という言葉が気に入られやして、と言い、トロイは冷ましたお茶を飲む。
こうした所はやはり猫だな、と思うオーウェンとミッシェル。
かぽーん。と、ししおどしの音が響く。
「ワイトスレイヤーの打ち替えってすぐに出来るものなの?」
「ええ、アダマンタイトは元を辿れば灰でさぁ。なので刃を落として切れない刀を作るのにそう時間はかかりやせんわ。
下手に扱うと全て灰に戻っちまうんで、そこの見極めが難しいんですがね。」
まぁソルがいるし、問題はないとトロイは言う。
くい、とお茶を飲むミッシェルに、トロイが茶釜からお茶を注ぐ。
「オーウェン殿よりはミッシェル嬢を丁重にもてなせ、と旦那より命を受けやしてねぇ。ミッシェル嬢、おかわりはまだ山とございやすからどうぞ好きにおかわりされてくださいやし。」
「へー、渋チンのあいつが。珍しい事もあるわね。」
そういう事なら遠慮なく。とミッシェルはお饅頭を食べる。
工房ではソルが火にくべられたエクスカリバーの番をし、デービッドは回復の術式を紙に書いていく。
こうした術式くらいは組むのはドワーフや凄腕の職人にとっては朝飯前である。
術式に魔力を込めるのは無理としても術式を組み土台を作る事は造作もない。
本来は手作業で剣に組み込んでいくのだが、デービッドはここでは魔力を使い手短かに済むようにしている。
いつかこのような作業の出来る機械を作ろうと思うも、それでは数打ちの刀と大差無くなる為それも迷うデービッドだ。
大量に作れるようになる=ドワーフ達の手工芸品が死ぬ。
手作業は手作業の良さがあり、大量生産品はコンスタントに作れるが全てインスタントだ。
効率化のみを求めても待つのはただの資源の無駄…。そう考えデービッドはいくつものプランをノートに書き留めておくだけにしている。
「お、そろそろじゃの。」
ソルはエクスカリバーを炉から引き上げ、刃にアダマンタイト製の砥石を走らせる。
デービッドは回復の術式を書いた紙を空へ浮かべ術式を刀身へと走らせる。
白い刀身は、まさにあの時に見たワイトスレイヤーのそれだ。
今ここに始まりの王・サターンが腰にしたと伝えられるワイトスレイヤーの本体は完成した。
「…完成だ。」
アダマンタイトの刀身は美しく白く、手に持つだけで回復の術式が疲れを癒してくれる。神聖で穢れのない輝きにデービッドとソルは感無量といった感じにワイトスレイヤーを見つめる。
「始まりの王・サターンの武器を再生しちまったんだな、俺らは…。」
「うむ…!」
感動で溢れる涙を抑え切れずにデービッドは手で目を拭う。ソルも同じである。
過去何人もの技術者が挑み、成し遂げられなかった事…。創造のスキルというヒントはあったものの、彼らは伝説を蘇らせたのだ。
がしっ、と手を組みあいお互い抱き合う。
感動を分かち合い、苦労を共にした仲間へ…彼らは惜しみない賞賛を送り、そしてもう一つの問題を解決すべく次の段取りを始めた。
「ソル、魔力回復のポーションを山程用意しておいてくれ。」
「おうよ。」
世間一般には劇薬とすら呼ばれるような強い効き目のマジックポーションを山と用意する。
ワイトスレイヤーはサターンの魔力を注がれ完成したという伝承がある。
そのサターンの魔力に匹敵する存在などこの世にいない、と言いたいが…回復のみならばサターンに匹敵する存在という人間が存在する。
…そう。聖女だ。
「ミッシェル嬢、用意が整ったようでございやす。」
トロイがミッシェルを呼ぶ。
「ごめん、少し待ってて…このきんつばってお菓子が美味しくて…」
「お気に召されたのならいつでもお作りいたしやすから。」
この時、ミッシェルはまだ自分の身に起こる不幸について気付かなかったのであった…。
ーー
「ふーん。これがワイトスレイヤー…」
ミッシェルはワイトスレイヤーを手に取る。
「ああ。ミッシェル、すまないがそれに全力で魔力を込めてくれ。」
「壊れても知らないわよ?」
魔力をワイトスレイヤーに込めるミッシェルだが…
「…あれ?」
ミッシェルの半分の魔力を注ぎ込んだがワイトスレイヤーはびくともしない。
「頭来るわね、もう。」
魔力切れ寸前まで魔力を注ぐが…ワイトスレイヤーに何の変化もない。
「……!」
頭にきた、とミッシェルは近くにあるマジックポーションをガブ飲みし、ワイトスレイヤーに魔力を込め続けた。
5回ほど魔力切れ寸前になっただろうか。ワイトスレイヤーの刀身は少し光を帯びるようになった。
「…これどこまで込めたらいいのよ?」
遂には根を上げミッシェルがデービッドを見る。
「刀身全体が光輝くまで。」
さらっと言われた一言にミッシェルの表情が歪む。
「どんだけ魔力必要なのよ、もう!」
マジックポーションの副作用での吐き気を堪えつつミッシェルは再度魔力を込めた。
ー二時間後ー
そこには大量のマジックポーションのカラと、食べたもの全てを胃袋から出し尽くしたミッシェルがいた。
「あ…あう…う…」
凌辱系の話のヒロインか、とばかりに虚ろに手を震わせるミッシェル。だが顔は聖女がしてはいけないような苦悶に満ち満ちた表情だ。
お腹に物が無い状態での嘔吐のキツさは想像を超えるものがある。しかもマジックポーションでも劇薬と呼べる程強いものであれば苦痛は一層増す。
ミッシェルはマジックポーションの魔力のみを吸収し、吸収を終えたマジックポーションの中の液体を延々と吐き出したのだ。
「…完璧だな…」
「美しい…」
オーウェンがワイトスレイヤーを手に取る。
「王に報告をしてこなくてはな。」
オーウェンはワイトスレイヤーをその腰に置く。
「頼んだぜ。ちと気疲れする事が多くて疲れちまった。」
デービッドは椅子に腰を下ろす。
オーウェンは何を言っているんだ?という顔でデービッドを見た。
「おいおい、妖精王様が来たらすぐに出立するんだ。へたばってもらっていちゃ困るぞ?」
オーウェンの顔は…今までのデービッドの友人のオーウェンの顔でなく『破壊神を破壊した勇者』オーウェンの顔だった。
困っている民の為に。勇者はその剣となり盾となる。
勇者の力は心優しい無辜の民の為に。世界を魔の手から救う為に。
オーウェンは勇者の中の勇者…。そう呼ばれていたことを今更ながら思い出し、デービッドとミッシェルは絶望の表情を浮かべたのであった…。
ーー
マジックポーションと再生のスキルを使い、自分達を回復させる。
「…エグいくらいに魔力込めなきゃいけないのね、ワイトスレイヤーって。」
「サターンは毎日ジワジワ込めていっていたみたいじゃし、そりゃ急激に魔力を注げば多大な魔力が必要となるじゃろ。」
ソルはミッシェルの出した嘔吐物を掃除する。工房は整理、整頓、清掃されていないと気が済まないのだ。
「…散らかしてごめんなさい。」
ミッシェルがソルに頭を下げるが、ソルは全く気にした風でない。
「こうなるという事は分かっておったし、お前さんの気にする事ではないわ。」
ガッハッハ、と豪快に笑い飛ばすソル。
「ミッシェル嬢、お粥が出来やしたぜ。」
トロイはミッシェルにお粥を差し出す。
「お粥?何なのこの白いの?」
トロイはお粥の上に小鉢のあんを垂らして食べるように言う。
「旅をしていた時に料亭で見た料理でさぁ。」
ふーん、とミッシェルは頷き匙をお粥に伸ばす。
「あんは本来は海産物をベースにした味付けをするのでやすが、ミッシェル嬢はあまり食べつけない味付けでやすから、コンソメスープを煮詰めてみやした。」
トロイは目を細める。
ミッシェルの反応は…高評価だった。
「お粥自体に味がないから、このあんを絡めて食べるのか。」
はふはふ、と匙を伸ばすミッシェル。トロイは
「食べ慣れるとお粥にも味があると分かりやすぜ。」
と喉を鳴らしながら言う。ミッシェルが喜んでくれて嬉しかったようだ。
「付け合わせのピクルスも泣かせるわね。」
「本来は漬物といってラディッシュなどを漬けたものと合わせるのでやす。」
「不味いわけがねぇよ、コンソメスープを煮詰めて作ったあんと付け合わせにピクルスなんだからよ。」
デービッドとソルは焼き魚だ。
デービッドには二尾あるが、そのうちの一尾を丁寧にほぐして皿に置いていく。
「あっしも食事をさせてもらいまさぁ。」
デービッドのほぐした焼き魚が充分冷めた事を確認し、トロイは自分の分の食事に手を伸ばす。
デービッド達の食事はご飯、お漬物、焼き魚、味噌汁、豆腐というオーソドックスな東方の食事だ。
トロイは竹の棒を使い器用に食材を摘まみ、食事をゆっくり口に運ぶ。
デービッドとソルはフォークである。
「うめぇぞ、トロイ。」
「へい。」
トロイはまた嬉しそうに喉を鳴らすのであった。
「デービッドが他の人に魚をほぐしてやるなんて珍しい事もあるのね。」
「あー?トロイの奴に任せると時間掛かるんだよ。トロイは熱々のもの全般食えないから冷めるまで一人で待ってるんだ。そんなんつまらねぇだろ。」
メシは皆で食うから美味いんだ、と言いデービッドはそっぽを向く。
「あ、そうだ。ミッシェル、機会があったらトロイの焼き魚の食い方見てみろ。
もの凄く器用に箸を使って綺麗に食べるんだぜ。」
「え?あの棒切れで?」
「ああ。綺麗に骨だけにしていく。あれは最早芸術だと言っていいな。」
「へぇ〜」
ミッシェルは目を輝かせる。
「そんな大袈裟なものではありやせんよ。門前の小僧、習わぬ経を読む。といった程度でやす。」
本当に風変わりなケットシーだ、とミッシェルは笑った。
「アンタ、最悪トロイをお嫁さんにしたら?家事万能、事務仕事もこなす、アンタみたいなアホでも付いてきてくれる一途さ、妖精って以外なら何の問題もないじゃない。」
「バカ(じゃねぇの?)(ですかい?)問題しか(ねぇよ)(ありやせんよ)」
二人の声がバッチリハモる。
「それは失礼しました。…ねぇトロイ、悪いんだけどお代わりある?」
ミッシェルはトロイにお粥のお代わりをねだったのであった。
ーー
「トロイって性別どっちなのかな。」
ミッシェルはトロイがお代わりを持って来るまでの間にデービッドに聞く。
「さぁな。妖精でも性別がハッキリ別れてんのはエルフや大妖精クラスからだろうが。トロイは下級妖精のケットシーだしな。」
デービッドは冷めた目をしながら答えた。
「でも性別はあるみたいよ?昨日私とお風呂入ってた時に聞いたけど、答えるのは不粋だって言われて断られたわ。」
「野暮な事を聞くからだ。本当に不粋な奴だなお前は。
妖精になる前の性別なら本人から聞いた事があるが、今現在もそうとは限らないものなんだぜ?特に動物から妖精になるタイプの妖精は子孫を残す必要が無いから特に性別ってのは必要が無いんだよ馬ぁ鹿。」
にべもない答えにミッシェルは頬を膨らます。
「つまんないの。」
トロイが持ってきたお粥を再度食し、ミッシェルはオーウェンとオベロンの到着を待つ。
ソルは愛用のハンマーと斥候の用具を点検している。トロイは胴丸と水色に『誠』と白抜きされた羽織を用意し鉢巻を置く。
デービッドは皆の分の旅支度を終わらせると、少し休むと言い横になった。
不死者達の活動時間は夜。
だが洞窟内ではそうではない。
いつでも襲われる可能性があるので休める時に休んでおく事が大切なのだ。
オーウェンの到着は夕方となり、オベロンの到着も同じ頃であった。
オーウェンは朝までの柔和さを感じさせる表情などではなく、引き締まった表情をしている。
そしてフルアーマーを装備し、支度を終えると皆に言った。
「行くぞ。」
オーウェンの一言にミッシェルとデービッドが立ち上がる。
オベロン、ソル、トロイも同様だ。
『ブレイブハート』
勇者の持つスキルの一つだが、それはパーティ皆の士気向上の効果がある。
オベロンは先頭に立つと皆を向いた。
「勝利を我らの手に。」
オベロンは腰の宝剣を抜くと天に掲げた。
「我ら一丸となりて不死者の王に鉄槌を下す。」
宝剣は光を帯び、柔らかな光が周囲を照らす。
「生きとし生ける者の為に。」
妖精王としての立場もあるのだろう。
妖精王国にとっても不死者達の出す瘴気というものは非常に困るものなのだ。
でなければ。たまたま遊びにきた程度で妖精王自らここまで首を突っ込む事などあり得ない話である。
「今ここに妖精王が加護を下さん。」
光はやがて消え、オベロンは皆に宣告した。
「妖精王として下知を下す。
必ず不死者の王を討伐せよ。
そしてお前らの友人としての願いだ。
誰一人として死ぬな。生きて帰れ。」
オベロンの言葉に皆が頭を下げた。
それ程今のオベロンには犯しがたい威厳があり、蝶程度のサイズからは信じられない程の魔力を放っていた。
出陣していく皆。
最後尾のトロイはよろず屋の看板をひっくり返す。
『都合により暫く休業致し〼』
そして。不死者の王の討伐が始まったのであった。
なるだけサクサク進むようにしていきたいです。




