5:非礼と暴言
ナギサがセリアから情報をもらった翌日、深夜1時・・・日本第一魔法高等学校、物品搬入口では1台の大型の白いトラックが止まっていた。トラック側面には大手物流業者の社名が書かれている。
トラックの助手席ドアが開き中から黒い服を着た男が降りてくる。男はトラックの後ろに周り貨物扉を開く。中には助手席から出てきた男と同じように黒い服を着た男が5人出てくる。その中のリーダーの男が他男達に指示を出す
「作業は10分で終わらせろ!」
「ハイ!」
男達は搬入口に置かれてあった両手で持つほどのダンボール箱を手慣れた様子で次々とトラックに積んでいく。
5分ほど経つと搬入口に新たに1人のスーツを着用し、綺麗な髭を生やした紳士風の男が姿を表す。その姿に気がついた男達は作業を止める。リーダーの男も気がついたようでスーツ男に近づき、声を掛ける。
「お疲れ様です、今回は多いですね?」
「まぁ・・・一応、今回で最後ですからね。最近、軍警察が嗅ぎ回っていると聞いてますから・・・」
リーダーの男は驚いたように声を上げる。
「まさか!?」
「まぁ嗅ぎ回っている程度であいつらは何も掴んではいないとは思いますが・・・それでも、足がつく前に引き上げませんと面倒な事になりますからね・・・私も引き上げます」
「それは良かったです。それであいつはどうするんです?」
「あいつ?あぁ・・・あの方には仕事が残っていますから・・・最後の仕事」
スーツ男とリーダーの男はニヤリと口角を上げる。
「どんな仕事があるのか教えてくれませんかね?ササキ事務長さん?」
仲間ではない声が響き、男達は一斉に声がする方を向く。そして、ササキ事務長と呼ばれたスーツ男が声がした方に向かって声を上げる。
「誰だっ!?」
暗がりからゆっくりと歩いて来たのは大柄の男だった。
「イノシカ・・・・・」
イノシカは至って平然とした表情で事務長のササキに質問をする。
「事務長さん?いったいこんな時間にこんな所で何をしているんですかね?」
「・・・・・」
ササキは驚いた表情からすぐに表情を戻し、ゆっくりと右手で髭をさわり、そしてその右手を挙げると、勢い良く振り下ろす。すると作業を終えた男達がイノシカに火系統魔法を一斉に放つ。
「何っ!?」
イノシカは放たれた魔弾を軽々と避ける。魔弾は地面にぶつかり小さな穴を無数に作る。
「さすがは中尉ですね?この程度ではやられませんか・・・」
ササキはリーダーの男に目配せをして作業をしていた男達と共にトラックへと乗り込む。イノシカはササキを止めようと前に出ようとするがリーダーの男が前に立ち塞がる。
「・・・行かせん・・・お前の相手は俺だ」
「お前は誰だ?」
イノシカはリーダーの男に対して問いかける。
「・・・お前の質問に正直答えるバカがどこに居る」
「だろうな!」
イノシカは刀型のアビスを鞘から出しトラックに向けて斬撃を飛ばす。
「何っ!?」
リーダーの男は斬撃の斜線上に回り込み、魔力障壁を貼り斬撃を防ぐ。トラックはエンジンをふかし、スピードを上げながら搬入口から出ていく。
「ダメだったか・・・まぁしょうがない、お前を拘束すればいいだけの話だ」
「無駄だ・・・」
リーダーの男は右手に装着している黒い腕輪型のアビスに魔力を流し、右手を開きながらイノシカに向ける。
「”黒獅子”」
手から放たれた黒い魔法は獅子の形となり、その獅子はジグザグに動きながらイノシカに襲い掛かる。
「・・・A級か・・・」
そういうとイノシカは黒獅子に向かって走り出す。イノシカと黒獅子が真正面からぶつかり爆発が起こる、そして、轟音が響きわたり、煙が辺りに広がる。
リーダーの男はその様子を見て、学校を後にしようと踵を返し振り返る。
「んがっ・・・!!」
リーダーの男は突如腹部に強烈な痛み感じ、丸くなって前に倒れ込み、意識を失う。
「・・・戦闘中に気を抜くか?普通」
イノシカはそう呟くと動けなくなったリーダーの男からアビスを外し、拘束する。次に携帯端末を取り出すと電話をかけ始める。
「・・・イノシカです。大尉、セリアの情報通りでした」
『さすがセリアさんですね。それで誰が来ました?』
「ササキ事務長でした」
『やはり、そうですか・・・でっササキ事務長は?』
「ササキはトラック共に逃亡しました・・・ですが、何か知ってそうな男を拘束しました。現在、意識を失っていますが意識が戻り次第、尋問します」
『そうですか・・・では、ササキ事務長はセリアさんに任せましょう。それで尋問なんですが僕がしますので連れてきてもらえますか?」
「了解しました。あっ今、意識が戻りましたのでこれからすぐに連れて行きます」
イノシカは話しをしているとリーダーの男が意識を取り戻したことに気が付く。リーダーの男は自分の状況を確認し、自分が拘束されていることに気が付くと歯を食いしばる。すると、顔を中心に魔力の光が集まる。
イノシカはその姿を見て、瞬時に男から距離をとると魔力障壁を張る。次の瞬間、リーダーの男は爆発を起こす。
「・・・自爆・・・あっ」
イノシカは電話をしていたことを思い出し携帯端末を耳にあてる。
「大尉、すいません・・・男はたった今、死亡しました」
『イノさんがやりすぎたんですか?』
「違いますよ!自爆です。おそらく歯型の自爆アビスを仕込んでいたと思われます。確認不足でした」
『しょうがないですよ。あいてが一枚上手だったということにしときましょう』
「すいません・・・ただ、やつが腕につけていたアビスから何か情報が得られると思います」
イノシカは電話をしながら、リーダーの男が持っていたアビスに彫られているマークを見ながら報告をし電話を切る。
そして、イノシカは煙草に火をつけ、一服をしながら周りを見渡す。イノシカ自身は怪我もなく、服も破れてはいないが、搬入口の地面はいたるところに穴があき、黒く焦げたような跡が残っているのが見える。
「ふ~」
煙草の煙を吐き出し、一服を終えたイノシカは吸殻を灰皿に入れ、携帯端末を取り出す。
「大尉・・・イノシカです。ひとつ言い忘れたことが・・・地面が戦闘痕で大変なことになってます。明日は大騒ぎになりそうです」
電話口の向こうからズッコケる音が聞こえる。
翌日
「なんか、大変な事があったみたいね?」
シズクがテツとナギサに声を掛ける。
「あぁなんか、夜間にアビスを搬入中していたら暴発したんだってな」
「そんな事もあるのね」
「まぁ滅多に起きないことだろうけどな」
「それと、学校のササキ事務長さん辞めちゃったんだってね?なんか、昨日の事件と関係あるのかな?」
「それそはそうだろう。搬入の責任者は事務長だろ?」
「そうだとしても昨日の今日よ?ナギサはどう思う?」
「・・・うーん・・・あんまり今回の件を大きくしたくない軍部が早めに収集を図ったんじゃないかな?」
「なるほどね・・・それより、今度ヤナギの家でホームパーティがあるんだって・・・行く?」
「行くも何も、俺とナギサは呼ばれてないし・・・誘われてもあのヤナギだろ?」
「なんか、ヤナギのお父さんのヤナギ中将閣下が息子のクラスメイトに挨拶を兼ねてクラスメイト全員を招待するみたいよ」
「ヤナギ中将も参加されるのか!?」
テツが大きな声をあげ立ち上がる。すると、誰かがテツの肩をたたきながら声掛けてくる。
「そうだよ!僕の父上が君たちを招待すると言っているんだ、貴族でもない一般人の君もね、ナギサ君」
「ヤナギっ!!」
テツはヤナギの顔を睨みつける。
「おいおい、そんな顔をしないでくれよ赤岩君」
「誰がお前の家なんか行くか!なぁナギサ!?」
「いいのかな?僕の招待なら断っても問題にもならないだろうけども父上の招待だからね?他のみんなは喜んで参加すると言ってくれているよ」
「行くしかないのか・・・シズクとナギサはどうするんだよ?」
「わたしも断る勇気なんてないわよ!」
「俺も行っても良いよ」
「・・・『行っても良いよ』!?・・・『行かせてください』の間違いじゃないのか!?・・・ナギサ君、君はいったい何を考えているんだ?・・・・・まぁ父上の意向だから、世間知らずの君も呼んでやってあげているんだ!そのことを忘れずにいたまえ。それとこれは招待状だ」
ヤナギは招待状をそれぞれに渡すとナギサを睨みつけ、を後にする。
「ヤナギ!!本当に嫌な奴よね!!ナギサも何か言い返したらいいじゃない」
「俺はいいよ・・・面倒だし、おいしいものがただで食べられるんだから文句なんてないよ」
ナギサは笑みを浮かべながら答える。
「まぁそう思えるのがナギサの良いとこだよな」
テツとがそう言うとシズクも頷く。
「あっナギサ、今日も一緒にアビスの訓練する?」
テツ、シズク、ナギサの三人は放課後、毎日アビスの訓練場を使いアビスの訓練をしている。
「今日はイノシカに呼び出されてて無理なんだよ」
「そうか、じゃぁ今日はシズクと二人でやるか」
「あまり二人きりは気が進まないけどしょうがないわね」
「じゃぁ」
ナギサは二人に軽い挨拶をして、その場を後にする。
「なぁシズク?」
「何よ?」
「最近、ナギサ、イノシカにめっちゃ呼び出されてね?」
「確かに思えばそうよね」
「ナギサとイノシカってできてんのかな?」
「はっ!?気持ち悪いこと言わないでよ!」
「冗談だよ!」
「冗談が笑えないわよ!変に想像したじゃない!」
「すまんすまん。まっナギサは人が良いからイノシカも用事も頼みやすいんだろうな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人が変なことを想像している頃、ナギサはイノシカと資料室で話をする。
「大尉、セリアから連絡はありましたか?」
「ありましたよ」
「それでササキは?」
「見失ったみたいです」
「えっ!?セリアが見失ったんですか!?」
「みたいですね。どうやら、急に姿を消したみたいで追えなかったようですよ」
「転移系の魔法ですかね?」
「だと思います。まぁ焦る必要もないで大丈夫ですよ。そのうち、また出てくると思いますし。今は我が家のゴミ掃除が大切ですから」
「そうですね・・・それで実行は?」
「今日の19時でお願いします。セリアからデータを受け取り次第、僕も行きますので・・・間に合わなかったらイノさん、先に行って引き止めといてください。今日中に終わらしたいので」
「了解しました」
同日、19時、イノシカは学校内にある扉をノックする。
「誰だ!?」
中から壮年の声が聞こえる。
「1年Eクラス担任のイノシカです」
「あぁ・・・入れ」
イノシカは扉を開け、壮年の男に対して敬礼をする。壮年の男は帰る用意をしていたのか、持っていたカバンを置くとイノシカに対して不機嫌そうに敬礼を返す。
「なにか用事か?わたしは今から帰る所だったのだが、君との予定があったのかな?」
「すいません、ミギタ校長。前もって連絡を差し上げればよかったのですが・・・」
「もういい、それでなんの用事だ?」
「校長に少しお伺いしたいことがありまして・・・」
「・・・言ってみろ」
「昨日のアビス暴発の件のことはご存知ですか?」
「当たり前だ!ササキ事務長にはきちんと責任をとってもらった」
「本当に暴発だとお考えですか?」
「何が言いたい?」
「いえ、いつもあんな時間にアビスを搬入していたんです?」
「わたしはそこまで知らないよ!搬入物と搬入時間は事務長のササキが決めていたのでな。それが聞きたかったことか?」
「そうですか・・・では、昨夜、本当は搬入口で何が起こったかを知っておられますか?」
「・・・知らん!質問が一つではないではないか!もういいだろ!尋問をされているようで気分が悪い!」
「そうですか・・・では、本当は何が起こったかを説明しましょう」
「お、お前は知っているのかっ!?」
「わかりますよ!わたしはあの場に居たのですから」
「なっ!?・・・では、説明してもらおうかイノシカ日本中尉!」
イノシカは昨日の出来事をすべてミギタに話をする。
「・・・それで運び出していたのはおそらくアビスですね」
「何っ!?」
「アビスは汎用型でも高価な代物です。ここは学校ですから汎用型アビスが多量に搬入されてきます。それをおそらくササキ事務長が横流ししていたのでしょうね」
「・・・ササキめ・・」
「校長もその横流しに関わっているのではないですか?」
「なっ!?」
ミギタは立ち上がり怒りを露わにしてイノシカを睨みつける。
「貴様、わたしの軍での階級は分っているのか?」
「はい、もちろんわかっておりますともミギタ大佐」
「大佐であるわたしを愚弄する気か?中尉」
「いえ、そんなことは・・・」
「わたしが横流しに関わっているという証拠はあるのか?」
「いえ、今の所持ってはおりません・・・」
「証拠もないのに上官である、わたしに対しての非礼・・・降格だけではすまされんぞ!わかっているのかっ!?」
ミギタがイノシカに対して大声をあげた瞬間、校長室の扉が大きな音をたてて開く。
「イノさん、すいません。遅くなりました」
「誰だお前は!?」
ミギタは急に入ってきた青年に対して怒りのこもった声で問いかける。
「1年Eクラスの逢沢渚です、ミギタ校長」
「Eクラスはどうなっているんだ!?上官の私室に入る前はノック!上官に対して敬礼!階級は軍では絶対だ!担任も担任なら生徒も生徒だな・・・イノシカ!先ほどの件は軍人事局に言っておくのでのちほど辞令が下るだろう。ナギサと言ったな?お前は上官に対しての非礼により1ヶ月の停学だ。異論は認めん!わたしは帰る!」
ミギタは二人を睨み、カバンを素早くとると部屋から出ていこうとする。
「待てよ!ミギタ!」
「何!?なんて言った!?」
ミギタは自分の名前を呼び捨てで呼ばれ振り返る。
「だから、待てと言っているんだよ!ミギタ!」
「・・・・・ナギサ君、残念だよ・・・上官に対しての非礼、暴言によりお前は退学だ!明日から学校には来なくても良い。イノシカ!こいつの責任は担任のお前にもある事を忘れるな!この件も含め報告しておくからな」
「上官に対しての非礼、暴言ね・・・俺も残念ですよ・・・ミギタ大佐」
「何が残念なんだ」
「この学校で一番に生徒が学ぶ事ってなんだと思います?」
「退学になったお前が何を言うのかと思ったら・・・まぁ良い、答えてやろう。軍の階級だ!そして階級は絶対だ!ということだ」
「なるほど、では階級を見るのにどこを見ればいいんです?」
「襟と胸だ・・・・・・・ま・・まさ・・か・・・」
ミギタはそう言うと顔が段々と青くなり震えだす。そして、ナギサに対して最敬礼をする。
「さすが、七位の日本大佐ですね知っていましたか。では、ここからはあなたに対しての査問会をします。なお、ここでの証言は全てイノシカによって記録され、正式な書類となります。良いですかミギタ大佐?」
「はい・・・」
「査問会を始める前に謝罪をいただきたいのですが大佐・・・上官に対しての非礼、暴言を」
「・・・誠に・・・申し訳・・・ありませんでした」
「では、アビスの横流しの件についての査問会を開催します。あなたは事務長であったササキが横流しをしていたということ知っていましたか」
「いいえ」
「では、校長なのに何も知らなかったということですか?」
「はい」
「わかりました、次の質問です。あなたはササキから金銭を貰い横流しを黙認していたという情報があるのですが・・・」
「根も葉もない噂です。わたしはササキから金なんてもらっていない!・・・いません・・・」
「そうですか・・・安心しました。軍での地位を失い、閑職の校長職で給料も安いのに・・・さすがは学園長です。では最後にこの音声データを聴いてみて下さい」
『校長、今回の分です』
『わかった、それで本当に大丈夫なんだろうな?』
音声データが再生され、ササキと自分の声が流れてきたミギタは目を見開き、動揺を隠せない様子を見せる。
『大丈夫です。データの偽装も完璧に行っていますのでまず、軍警察には知られることはありません』
『それなら良かった。・・・それでササキ、次は金額を倍にしてくれ』
『ミギタ校長、それは欲張り過ぎではないですか?』
『すまんが、頼む・・・負けが込んでてな・・・』
『仕方がありませんね。裏カジノを紹介したのは私ですから』
『助かる』
『では、次にアビスを売った額の半分をミギタ校長にお渡ししましょう』
『頼む』
『いいんですよ・・・校長もアビスの横流しという危ない橋を一緒に渡ってもらっているんですから』
『そうだな・・・』
音声データが終わり、ミギタは両膝を付きうなだれる。
「この音声データはササキの学校に置いてある端末から入手できました。これについて何か異論がありますか?ちなみに声紋はあなたとぴったりと一致しています」
「・・・・・・・・・異論はありません・・・・わたしの声です・・・・全てお話します・・・」
「では、イノさん。大佐を拘束して軍刑務所へ移送してください」
ミギタはイノシカに拘束され校長室から連れられて行く。
「いやー、終わった終わった。お腹が空いた。食堂空いてるかな?」
ナギサも背伸びをしながら、校長室を後にする。
次の日、学校の掲示板には”ミギタ校長、体調不良に伴い、学校校長職、バスラ帝国軍日本大佐を辞職”文字が大きく書かれた。




