↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/41

第四十一話 5人の友達

しかし、悠太が再び辺りを見渡した時には、すでに男の姿は消えていた。

「……なんやねん、あいつ」

悠太は呆れたように呟いた。

そして、静馬へと視線を向ける。

「……てか、なんであんたがおるんや?」

静馬は答えなかった。

お付きの四人も、静馬を見つめていた。

以前、孤児院で助けられた時から、どこか腑に落ちないものを感じていた。

なぜ、この男はあの場所に現れたのか。

そして今回も、なぜここにいるのか。

悠太が再び口を開いた。

「……というか、さっきのあいつら何もんや?」

「連れや言うてたけど……」

静馬はしばらく沈黙した後、静かに口を開いた。

「……この件は俺が調べる。内密にしておけ」

そう言い残すと、静馬は姿を消した。

取り残された五人は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

やがて、悠太が歩き出す。

四人もその後に続いた。

「なぁ……内密って、なんかあるんかなぁ」

悠太は歩きながら首を傾げる。

「こっちは攫われてんのになぁ……」

少し考え込んだあと、ふと思い出したように口を開いた。

「あー、でも……あいつら、連れや言うてたしなぁ」

その時、悠太の脳裏に、少女を抱きしめていた女の姿が浮かんだ。

少女をぎゅっと抱きしめるその姿は、まるで大切なものを二度と離すまいとしているようだっ

た。

どこか懐かしい、その光景。

(……シスターみたいやな)

悠太は小さく笑みを浮かべた。

「向こうからしたら、俺らが攫ってるように見えたんかもしれんなぁ……」

「んー……」

再び考え込む悠太。

すると、お付きの一人が心配そうに声をかけた。

「そんなことより、誠人様。お怪我は?」

「え? 全然平気やで! ありがとう〜」

悠太は笑顔で答えた。

そして、四人を見渡す。

「で、どう思うよ、みんな」

「……どうでしょうか」

「正直、わかりませんね」

「そっかぁ……」

悠太は再び考え込んだ。

「あの人、知り合いっぽかったしなぁ……」

静馬と謎の男。

二人の間には、何かあるように見えた。

だが、いくら考えても答えは出ない。

「あぁぁぁ! もう! 考えてもわからん!」

悠太は両手で頭をわしゃわしゃとかいた。

「腹減ったし、とりあえず帰ろ!」

そう言って、再び歩き出す。

しかし、数歩進んだところで、ふと足を止めた。

「あ、みんな」

悠太はくるりと振り向いた。

四人が足を止め、悠太を見る。

悠太はわざと真剣な表情を作り、声を低くした。

まるで、先ほどの静馬のように。

「……この件は俺が調べる」

一拍置いて、

「……内密に」

四人は一瞬、ぽかんとした。

「……誠人様?」

悠太はすぐに表情を崩し、にっと笑った。

「どうや? 似てたやろ?」

「……黒瀬様の真似、ですか?」

「そうそう!」

悠太は満足げに笑った。

一同は、再び歩き出した。

安倍家 ― 悠太の部屋

屋敷へ戻った悠太は、自室に入ると、ベッドに腰を下ろした。

しばらく天井を見つめていたが、ふと口を開いた。

「なぁ、欠片」

「……どう思う?」

悠太は今日の出来事を思い返していた。

謎の男と女、そして少女。

「俺な、あの人ら……悪い人には見えへんかってんな」

少女を大切そうに抱きしめていた女の姿が、再び脳裏に浮かぶ。

「……お前はどう思う?」

少しの沈黙のあと、欠片の声が悠太の中に響いた。

「私もそう思いますが……警戒はしてくださいよ」

「わかってるよー」

悠太は少し間延びした声で答えた。

「……本当にわかってますか?」

欠片は少し呆れたように問いかけた。

「でもな……あの目つき悪いやつ!」

悠太は眉をひそめた。

「あいつは嫌いや!」

先ほどの男の顔を思い出し、ますます不機嫌になる。

「……あー! 思い出したらムカついてきた!」

「落ち着いてください」

欠片がなだめるように言った。

「……もう寝る!」

悠太はそう言うと、ベッドにごろんと横になった。

その頃 ― 謎の男女

少し前――。

「……なぜ、あのような行動に出た」

男は、目の前に立つもう一人の男を見据えていた。

「交戦はなるべく避けろと言ったはずだ」

その言葉に、目つきの悪い男は不機嫌そうに顔を歪めた。

「……勘違いするなよ」

男は冷たく言い放つ。

「俺らは仲間でも何でもない。利害が一致しただけだ」

それだけ告げると、男は背を向け、その場を立ち去った。

残された男は、その背中を黙って見送った。

やがて、誰もいない場所まで来た目つきの悪い男は、足を止めた。

そして、独り呟いた。

「……皆殺しだ」

その声には、冷たい殺意が込められていた。

静かな部屋。

少女はベッドの上で、穏やかな寝息を立てていた。

女はその傍らに腰を下ろし、少女の髪を優しく撫でていた。

その寝顔を見つめながら、女は小さく口を開いた。

「……あなたの娘は、私たちが守るから」

それは、もうこの世にはいないシスターへ向けた言葉だった。

女の頬を、一筋の涙が伝った。

しばらくして、女は窓辺に立つ男へと視線を向けた。

「……あなたは大丈夫?」

「ん?」

男が振り返る。

「……あなたの知り合いじゃないの?」

女が尋ねているのは、先ほど男と交戦した静馬のことだった。

男は少しの間、沈黙した。

「……ああ」

そして、静かに答えた。

「……あいつは巻き込みたくはない」

女は男の横顔を見つめた。

「……そう」

それ以上、女は何も聞かなかった。

部屋には再び静寂が訪れ、少女の穏やかな寝息だけが響いていた。

蘆屋家

静まり返った一室。

ソファに深く腰掛けた男が、目の前に立つ男の報告を聞いていた。

「……禁術を?」

「はい。安倍家は禁術『廻生』を使用したとのことです」

男はわずかに眉を動かした。

「……器ごと壊せと言ったはずだが」

「……邪魔が入った、との報告です」

「……そうか」

男は背もたれに身を預けた。

「だが、使ったところで、あの莫大な力を使いこなせまい」

少し間を置き、続ける。

「替え玉も潰したのだ。すぐにどうにかなるものでもないだろう」

「しかし……再び替え玉が用意されるのも、時間の問題かと」

「そんな容易につくれまい」

男は淡々と言い放った。

「……しかし、一つ気になる点がございます」

「話せ」

「それが……安倍家に潜ませている者からの報告では……」

報告を続ける男は、一瞬言葉を選んだ。

「廻生によって宿った者が、脅威と呼べるほどではないものの、着実に力をつけているとのこと

です」

ソファに腰掛けた男は、表情一つ変えなかった。

「……それがどうした」

「適合者なのだから、力は使えるだろう」

男は静かに続けた。

「だが……それを発揮できるかは、また別の話だ」

部屋に、再び静寂が訪れた。

「……引き続きやらせろ」

「承知いたしました」

男は静かに頭を下げた。

豪介と蒼

* * *

安倍家、本邸。

廊下を歩いていた蒼に、背後から大きな声がかかった。

「おう、蒼!」

「ん? 豪介さん、どうしたの?」

振り返ると、そこには大柄な男が立っていた。

堂島豪介。

安倍家の上級術師の一人。

鍛え上げられた身体に、がっしりとした肩幅。

その体格だけでも十分な威圧感があるが、本人は至って気さくな性格だった。

細かいことは気にせず、思ったことを遠慮なく口にする。

豪快な笑い声が特徴で、周囲からも親しみやすい人物として知られていた。

「いやぁ、ちょっと聞きてぇことがあってな!」

「なに?」

豪介は腕を組み、何気ない調子で尋ねた。

「お前、あの器に修行つけてたんだって?」

「あー、うん。そうだよ」

「……なんでまた、わざわざ器なんかに修行つけてんだ?」

蒼は不思議そうに首を傾げた。

「んー? 頼まれたから?」

「ははっ! そりゃそうだろうけどよ!」

豪介は豪快に笑った。

「お前、そういう面倒くせぇこと嫌いだろ?」

「んー……そうだねぇ」

蒼は少し考えたあと、笑った。

「でも、楽しかったよ」

「……楽しかった?」

「うん。久しぶりにね」

豪介は一瞬、蒼の顔を見つめた。

「……へぇ」

そして、何気ない調子で尋ねる。

「で? あの器、どれくらい使えるようになったんだ?」

「んー……まだまだかなぁ」

「そうか」

「でもね、結構面白いんだよ、あの子」

「……面白い?」

「うん!」

蒼は楽しそうに笑った。

「そうか! そりゃよかった!」

豪介は豪快に笑った。

「そうだね〜。それだけ?」

蒼はいつもの笑みを浮かべたまま尋ねた。

「おう! 引き止めて悪かったな!」

「じゃあね〜」

二人はそれぞれ別の方向へ歩き出した。

しばらく歩いたところで、蒼がぽつりと呟いた。

「……めんどくさい」

その表情からは、何を考えているのか読み取れなかった。

* * *

何もない一日

安倍家、本邸。

「今日は任務がない〜!」

悠太は自室で大きく伸びをした。

「んー……何しよっかなぁ」

しばらく考えていたが、ふと思いついたように顔を上げた。

「あ! みんなのとこ行こ!」

そう決めると、悠太は部屋を飛び出した。

別に急ぐ理由なんてない。

それなのに、気づけば廊下を走っていた。

そして――。

四人の部屋。

――バンッ!!

勢いよく扉が開かれた。

「おはよーー!!」

「うわっ!?」

「なっ……!?」

「ま、誠人様!?」

四人は突然の訪問に驚き、一斉に悠太を見た。

そんな反応など気にも留めず、悠太は満面の笑みで口を開いた。

「みんな! 今日任務ないし、たまには遊びに行かん?」

四人は思わず顔を見合わせた。

「……遊びとは?」

一人が不思議そうに尋ねた。

「たまにはどう? ってこと!」

悠太は笑顔で答えた。

「……遊びとは?」

再び同じ質問が返ってきた。

「んー……」

悠太は腕を組み、考え込んだ。

「たまの休みやし!」

そう言ったところで、ふと何かに気づく。

「あ……休みたかった……?」

四人の顔を見渡す。

「……すまん」

悠太は申し訳なさそうに眉を下げた。

「い、いえ! そういうことでは……!」

「ほんま?」

悠太はぱっと顔を上げた。

「じゃあ何する? どこ行く!?」

四人は再び顔を見合わせた。

「なんか美味しいもんとか食べに行く?」

悠太は満面の笑みで笑いかけた。

「なんかうまいもんとか教えてや!」

「…………」

しかし、四人から返事はなかった。

ただ、困惑したように互いの顔を見合わせている。

それも無理はなかった。

これまで彼らにとって、主とは仕えるべき存在だった。

命令を受け、任務をこなし、身の回りの世話をする。

それが当たり前だった。

主の方から遊びに誘われることなど、一度もなかったのだ。

ましてや、自分たちの知っている店や美味しいものを教えてほしいと言われるなど、考えたこと

もなかった。

そんな四人の戸惑いには気づかず、悠太は楽しそうに行き先を考えていた。

「とりあえず行こー!」

悠太は待ちきれない様子で、四人に笑いかけた。

「……誠人様」

「ん?」

「寝癖も直してないですよ」

「……あっ!」

悠太は慌てて自分の髪に手をやった。

「すぐ準備してくる!」

そう言うなり、勢いよく部屋を飛び出していった。

四人は呆気にとられたまま、開け放たれた扉を見つめていた。

しばらくして、一人がぽつりと呟いた。

「……誠人様って、任務ではあんなに頼りになるお方なのに……」

「……そうですね」

「普段は、なんというか……」

「……目が離せませんね」

その言葉に、四人は顔を見合わせた。

そして、思わず小さく笑みをこぼした。

* * *

初めての休日

それからしばらくして――。

準備を終えた悠太と四人は、屋敷を出た。

向かった先は、街の繁華街。

「うわぁ! なんやここ!」

悠太は目を輝かせながら、辺りを見渡した。

そして――。

* * *

ゲームセンター。

「なんやこれ!?」

ガラスケースの中に並んだぬいぐるみを見つめる悠太。

「クレーンゲームというものです」

「へぇ〜! おもろそう!」

さっそく挑戦する悠太だったが――。

「あっ! あっ! あぁぁぁ!!」

ぬいぐるみは無情にも落下した。

「なんでやねん!!」

その隣で、四人のうち一人が挑戦する。

すると――。

ぬいぐるみが、ころんと取り出し口へ落ちた。

「ええええ!? なんで取れんの!?」

悠太は驚いて目を丸くした。

* * *

今度は対戦ゲーム。

「よっしゃ! 今度こそ勝つで!」

しかし――。

画面に大きく表示される敗北の文字。

「うそやろぉぉ!!」

悔しそうに頭を抱える悠太。

その姿に、四人も思わず笑い声を上げた。

「ちょ、もう一回! もう一回や!」

* * *

そして、食事。

運ばれてきた料理を前に、悠太は目を輝かせていた。

「うわぁ……めっちゃうまそう……!」

一口、頬張る。

「…………」

悠太の動きが止まった。

「……誠人様?」

次の瞬間。

「……うますぎるぅぅ……!」

ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

「ま、誠人様!?」

「なんやこれぇ……! めっちゃうまいやん……!」

泣きながらも、幸せそうに料理を頬張る悠太。

孤児院で育った悠太にとって、街にはまだまだ知らないものが溢れていた。

そして、病弱だった誠人もまた、こうした自由な外出とは縁遠い生活を送っていた。

何もかもが新鮮だった。

「あかん……ほんまにうまい……!」

その姿に四人は顔を見合わせた。

そして、誰からともなく笑い始めた。

「……ふふっ」

「ははっ……!」

いつの間にか、五人の笑い声が重なっていた。

* * *

夕暮れの帰り道

気づけば、空は夕焼けに染まっていた。

五人は並んで歩いていた。

「いやぁ〜! めっちゃ楽しかったなぁ!」

悠太は満足そうに伸びをした。

そして、四人の方を振り向く。

「なぁ、みんな!」

四人が顔を上げる。

「また行こな!」

そう言って、悠太は満面の笑みを浮かべた。

「は、はい! ぜひ……!」

凪が少し照れくさそうに答えた。

「……まぁ、たまになら」

迅は少しそっぽを向きながら答える。

「次は行き先を決めてから出発しましょう」

律が落ち着いた声で言った。

「えー! それも楽しそうやな!」

悠太は笑った。

そして、最後の一人。

朔はしばらく黙っていたが、小さく口を開いた。

「……悪くはなかったです」

「ほんま!? よかったぁ!」

悠太は嬉しそうに笑った。

その笑顔につられるように、四人の表情も自然と緩んでいく。

任務でも、修行でもない。

ただ遊んで、笑って、美味しいものを食べただけの一日。

けれど、五人にとっては、これまでになかった特別な時間だった。

夕日に染まる道。

悠太の笑顔は、沈みゆく夕日にも負けないほど明るかった。

五人は再び、歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。