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豊臣秀次太閤記  作者: とこ


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第0話 誰もいない会社

初めまして主人公は豊臣秀次です。

さあ生きのびることができるのか

午前二時十三分、会議室の照明は半分落ちていた。


 窓の向こうには、眠る気のない東京が広がっている。赤い航空障害灯が一定の間隔で明滅し、高架道路を流れる車列が、黒い川のように街を横切っていた。


 俺の前には三台のノートパソコンが並んでいた。


 一台では、大口顧客へ提出する契約書を直している。もう一台には、新機能の設計画面。残る一台には、翌月末までの資金繰り表が表示されていた。


 右手で契約書の損害賠償条項を書き換えながら、左の画面に届いた開発部からの質問へ答える。返事を送った直後、銀行の担当者から来たメールを開き、添付された融資条件の数字を確認する。


 金利の計算が、一か所だけ間違っていた。


 俺は赤字で訂正し、わずか七分で返信した。


『ご提示の条件では、御行の内部基準とも整合しないと思われます。再確認をお願いします』


 送信して三分もしないうちに、銀行から謝罪が来た。


 こういう瞬間が好きだった。


 誰かが見落としたものを見つける。止まりかけた仕事を、正しい場所へ戻す。絡まった問題を一本ずつほどき、最後に数字がぴたりと合う。


 俺には、それができた。


 創業したばかりのころは、金も人もなかった。


 営業資料は俺が作った。自分で電話をかけ、受付に断られ、それでも担当者の名前を調べて手紙を送り、最初の顧客を取った。顧客の要望を聞いたその夜に仕様書を書き、翌朝には開発者と画面を作った。請求書を発行し、入金を確認し、税理士へ渡す帳簿も自分で整えた。


 採用面接も、広報も、投資家への説明も、契約交渉も、苦情対応もやった。


 それで会社は伸びた。


 三人だった社員は十人になり、十人は五十人になった。借り物の会議室で始めた会社が、都心の高層ビルへ移った。業界紙に顔が載り、講演へ呼ばれ、若手起業家の特集では「常識を覆した創業者」と紹介された。


 投資家の一人は、笑いながらこう言った。


「結局、この会社の最大の資産は社長なんですよ」


 俺も笑った。


 そのころは、それが最大級の褒め言葉だと思っていた。


 会議室の扉が開いた。


「まだいらしたんですか」


 COOが顔を出した。帰宅したと思っていたが、上着を腕に掛けたまま戻ってきたらしい。疲れてはいたが、俺を見る目には、まだ何かを訴えようとする力が残っていた。


「ちょうどよかった。来期計画、俺の方で直しておいた」


 俺は中央の画面を彼へ向けた。


 COOは座らなかった。


「直した、というのは」


「地方拠点の開設は延期。新規事業部もいったん解散する。既存顧客の単価を上げた方が利益が残る」


「その案は、今日の経営会議で見送ったはずです」


「見送った理由が弱い。お前の売上予測、解約率の置き方が甘かったぞ」


「そこは最悪値を置いたのではなく、営業部が実際に積み上げた――」


「だから甘いんだよ」


 言葉を切り、俺は修正した表を開いた。


「上位十社の契約更新時期を見ろ。三社が同じ月に重なってる。そのうち一社は担当役員が交代した。継続率を去年と同じに置けるわけがない」


 COOは表を見た。


 反論はなかった。


 俺が正しかったからだ。


「それに、新規事業の責任者は判断が遅すぎる。先月の提携話も、返事に四日かけた。俺なら当日中に条件をまとめられた」


「あれは、法務と開発へ影響を確認していたからです」


「確認した結果、競合に取られた。意味がない」


「失敗させないよう全部取り上げていたら、誰も判断できるようにはなりません」


「顧客は、うちの社員が成長するまで待ってくれない」


 COOの口が閉じた。


 また勝った、と俺は思った。


 議論にではない。会社を危険な判断から守ったのだ。


「明日の朝、俺から各部長へ説明する。お前は延期後の人員配置を作ってくれ」


「……承知しました」


 妙に整った声だった。


 COOは画面を閉じようともせず、そのまま会議室を出ていった。


 入れ替わるように、チャットの通知が鳴った。CFOからだった。


『資金調達について、明朝ご相談したいことがあります』


 俺は時刻を見た。午前二時二十九分。


『起きているなら今できる。資料を送って』


 数分後、来期の資金計画が届いた。


 見るなり、俺は眉をひそめた。


 安全を見すぎていた。現預金を厚く持ち、採用を抑え、広告費も減らす案だ。そんな計画を投資家へ出せば、成長を諦めたと思われる。


 俺は表のコピーを作り、借入、増資、売上の条件をすべて組み替えた。過去三年の入金日を顧客別に洗い直し、支払日との谷を短期融資で埋める。不要な余裕資金を削れば、人をあと二十人採れる。


 一時間ほどで、元の計画とはまるで違う表が完成した。


『こちらを使おう。金融機関への説明資料も作っておいた』


 送信してから、返事が来るまで少し間があった。


『ありがとうございます。明日、改めてご説明します』


 礼を言われた。


 問題は解決した。


 それなのに、胸の奥に小さな引っ掛かりが残った。


 COOもCFOも、以前はもっと食い下がった。俺の計画に穴があれば、深夜でも電話してきた。互いに声を荒らげ、朝まで議論し、それでも翌日には一緒に顧客のところへ行った。


 今は、二人とも最後に同じことを言う。


 承知しました。


 ありがとうございます。


 反対されなくなったのは、俺の判断が正しいと認めたからだ。


 そう考え、仕事へ戻った。


 翌週の経営会議は、四十分で終わった。


 以前は二時間でも足りなかった。営業は開発の遅さを責め、開発は営業が約束を増やしすぎると反論し、CFOは両方に金がないと言った。俺は議論を整理し、最後に決めた。


 今は誰も争わない。


 俺が質問すると、担当役員は用意された数字を読み上げる。不足を指摘すれば「確認します」と答える。意見を求めれば、互いの顔を見てから、俺の発言を少し言い換えた案を出す。


「ほかに異論は?」


 誰も手を挙げなかった。


「じゃあ、これで行こう」


 全員が頷いた。


 会社がようやく一つになった。


 そう思っていた。


 同じ日の夕方、人事責任者が退職者の一覧を持ってきた。


「今月、これだけ辞めるのか?」


 想定の倍近い名前が並んでいた。創業からいる者も二人いる。


「競合の採用が強くて……」


「報酬か。ストックオプションを増やせば止められるか?」


「報酬だけではないと思います」


「じゃあ何だ」


 人事責任者は一瞬だけ俺を見た。


「現場で、決められることがない、と」


「誰がそんなことを言ってる」


「退職面談で、複数の社員が」


「決められないんじゃない。判断に必要な材料を揃えず、勝手に決めようとするから止めてるんだ」


「はい」


「権限規程もある。決裁金額だって明文化してる」


「はい」


「なら問題ないだろ」


「……はい」


 それで話は終わった。


 人事責任者が退室したあと、俺は退職者の名前を一人ずつ検索した。


 確かに、判断を任せられる人間ではなかった。


 大きな商談で値引きしすぎた営業。障害報告が遅れたエンジニア。採用計画の数字を間違えたマネージャー。


 俺が介入しなければ、もっと大きな損失が出ていた。


 いなくなって困る人材ではない。


 そう結論づけて、一覧を閉じた。


 家に帰ったのは、日付が変わったあとだった。


 玄関には明かりがついていたが、リビングは暗い。食卓にラップを掛けた皿と、小さな紙が置いてあった。


『先に食べました。温めてください』


 以前なら、そこにもう一行あった。


『今週末くらいは一緒に食べられますか』


 最近は書かれない。


 冷蔵庫を開けると、扉に学校行事の案内が磁石で留めてあった。日付には丸がつき、横に「土曜日」と書かれている。


 そういえば、何かに誘われていた。


 スマートフォンを確認すると、三日前に届いたメッセージが見つかった。


『今度の発表会、来られそう?』


 俺は『調整する』と返していた。


 土曜日には投資家との会食が入っている。先方の代表が海外から来るため、動かせない。


『ごめん。仕事が入った。次は必ず行く』


 送ると、既読はすぐについた。


『分かった』


 それだけだった。


 仕事を理解してくれる家族で助かる。


 俺は食事を温め、パソコンを開いた。


 売上の伸びが止まったのは、その四半期だった。


 最初は季節要因だと思った。次に営業組織の問題を疑った。顧客層、単価、解約率、商談期間、広告効率。分解できる数字はすべて分解した。


 原因らしいものはいくつも見つかった。


 営業部長の案件管理が甘い。開発責任者は品質にこだわりすぎて公開が遅い。マーケティング部は効果の薄い施策を続けている。CFOは安全側へ寄せすぎる。COOは部門間の調整に時間を使いすぎる。


 俺は一つずつ直した。


 重要商談にはすべて出た。新機能の仕様を自分で書いた。広告文を直し、価格表を作り替え、採用面接の最終候補だけでなく一次面接にも同席した。


 俺が入れば、その場の仕事は良くなった。


 商談は進み、仕様は明確になり、広告の反応率も上がった。


 だが、俺が別の問題へ移ると、そこで止まった。


 確認待ち。


 社長承認待ち。


 社長判断後に着手。


 あらゆる予定表に、俺の名前が並んだ。


「どうして自分で決めない」


 部長会議で問い詰めると、誰も答えなかった。


「何のために役職を与えてるんだ。毎回、俺に聞かなきゃ動けないのか」


 沈黙のあと、一人の部長が小さく言った。


「決めても、あとで変わりますので」


「間違っていれば変えるに決まってるだろ」


「はい」


「正しいと思うなら、説明すればいい」


「はい」


 また、それだった。


 はい。


 承知しました。


 確認します。


 誰も反対しない代わりに、誰も決めない。


 その日の夜、COOから辞表を渡された。


「今辞められたら困る」


 俺は珍しく、即答した。


「引き継ぎは終えます」


「そういう話じゃない。来期計画を作り直してる最中だろ」


「社長一人で作れます」


 嫌味には聞こえなかった。


 本当に、そう思っている口調だった。


「この前の計画を変えたことを言ってるなら、あれは数字が間違ってたからだ」


「分かっています」


「新規事業だって、完全にやめたわけじゃない。状況が整えば再開する」


「はい」


「だったら、なぜ辞める」


 COOは少し考えた。


「自分がいなくても同じだからです」


「同じなわけないだろ」


「では、私にしか決められないことが、今の会社に一つでもありますか」


 すぐに答えようとした。


 答えは出なかった。


 最終人事は俺が決める。予算も俺。営業方針も、商品方針も、提携先も、出店も撤退も俺が決めた。


 COOには、俺が決めたことを各部へ伝え、遅れがあれば報告する役目がある。


 それは重要な仕事だ。


 だが、彼にしか決められないことではなかった。


「これから作ればいい」


 ようやく出た言葉に、COOは初めて少し笑った。


「それを三年前に話したかったです」


 退職日は変わらなかった。


 翌月にはCFOも辞めた。


 彼は最後まで礼儀正しかった。資金繰り表も金融機関との交渉記録も、誰が見ても分かるよう整理されていた。


「次はどこへ行くんだ」


 俺が聞くと、CFOは会社名を答えた。うちより小さく、資金にも余裕のない会社だった。


「そこに行って何をする」


「財務責任者を」


「ここでもそうだっただろ」


 CFOは首を横に振った。


「ここでは、社長の計算を清書する係でした」


 腹が立った。


 彼が作った表の間違いを、何度直してやったと思っている。金融機関が納得しない説明を、何度俺が組み替えたか。資金が尽きずに済んだのは、俺が最後に見ていたからだ。


 その言葉を、すべて飲み込んだ。


「そうか。分かった」


 CFOは深く頭を下げた。


「お世話になりました」


 扉が閉じたあと、俺は彼の作った引継書を開いた。


 完璧だった。


 直すところが一つもないことが、妙に腹立たしかった。


 家族が出ていったのは、その少しあとだった。


 喧嘩はなかった。


 帰宅すると、玄関の靴が減っていた。洗面所から歯ブラシが消え、棚にあった写真立てがなくなっている。食卓の上に鍵と封筒が置かれていた。


 手紙は短かった。


『しばらく離れて暮らします。あなたは私たちがいなくても困らないと思います。私たちも、それに慣れてしまいました』


 最後まで読むのに、時間がかかった。


 困らないはずがない。


 住む場所も、学校も、保険も、将来の金も、俺が守ってきた。忙しいのは家族のためでもあった。会社が成功すれば、誰にも不自由させないで済む。


 電話をかけた。


 呼び出し音が続き、留守番電話へ切り替わった。


「俺だ」


 そこから先が出なかった。


 戻ってきてほしい。


 悪かった。


 何が悪かったのか。


 次からは変える。


 何を、どう変えるのか。


 仕事の交渉なら、相手の要求を聞き、条件を並べ、落としどころを作れる。だが家族へ提示できる条件は、何も思いつかなかった。


「……落ち着いたら、連絡をくれ」


 そう残して電話を切った。


 連絡は来なかった。


 売上は、さらに落ちた。


 主力商品の大型契約が二件続けて更新されず、銀行は融資枠の縮小を伝えてきた。投資家は追加出資の条件として、外部から新しい経営責任者を入れるよう求めた。


「必要ない」


 俺は即座に拒んだ。


「今ここで知らない人間を入れて、何が分かる。顧客も商品も組織も、俺が一番知ってる」


「だから問題なんです」


 投資家は静かに言った。


「あなたしか知らない。あなたしか決められない。百人近い会社なのに、創業初日と同じです」


「俺が立て直す」


「いつまでに?」


「三か月」


「その間、あなたが倒れたら?」


「倒れない」


 根拠はなかった。


 それでも、ほかに答えはなかった。


 俺が作った会社だ。


 誰より顧客を知っている。誰より商品を理解している。金の流れも、人の能力も、全部分かっている。


 俺が取り返せないはずがない。


 睡眠時間を四時間から三時間へ減らした。


 営業会議、商品会議、採用会議、銀行交渉。昼間は人と話し、夜は一人で修正した。現場から上がる資料は粗く見え、任せれば遅れる。ますます仕事を引き取った。


 胸が締め付けられることが増えた。


 階段を上がると息が切れた。視界の端が暗くなり、耳鳴りがした。


 病院へ行く予定を、三度延期した。


 会社のチャットから、雑談が消えた。


 以前は夜になると、誰かが菓子を持って会議室へ来た。障害対応が終われば、缶ビールを開けることもあった。今は定時を過ぎると、人が波のように引いていく。


 俺が残っていても、誰も「手伝いましょうか」とは言わない。


 指示を出せば残るだろう。


 だが、何を任せても最後には自分で直すことになる。


 だから一人でやった。


 深夜、退職した元COOへメールを書いた。


『少し話せないか。新しい体制を考えている』


 送信する前に、文章を読み返した。


 新しい体制など考えていなかった。


 戻ってきたら、前と同じように俺の決定を実行させるつもりだった。ただ今だけ、人手が足りない。


 それを見透かされる気がして、下書きを消した。


 元CFOの連絡先も開いた。


 彼の会社が新しい資金調達に成功した記事が表示された。写真の中で、彼は社長の隣に立っていた。記事には、資金計画と交渉を主導した責任者として名前が出ている。


 うちにいたときより、ずっと自信のある顔だった。


 画面を閉じた。


 家族の連絡先を開く。


 最後のやり取りは、半年前の『落ち着いたら連絡をくれ』で止まっていた。


 電話の印へ指を置いた。


 仕事が片づいたら謝ろう。


 会社を立て直し、もう大丈夫だと証明してから迎えに行こう。


 今のままでは、何を言っても説得力がない。


 指を離した。


 午前二時十三分。


 あの日と同じ会議室で、俺は一人、三台の画面を見ていた。


 契約書。新機能。資金繰り。


 すべて俺が分かる。


 すべて俺が決められる。


 なのに、どの画面にも、会社を前へ動かす人間の顔がなかった。


 表の数字が二重に見えた。


 目をこすり、立ち上がろうとした瞬間、胸の奥で何かが強く縮んだ。


 息が入らない。


 机へ手をついたが、指に力が入らなかった。ノートパソコンが一台、床へ落ちた。乾いた音がした。


 助けを呼ぼうとした。


 声が出ない。


 会議室の扉までは、ほんの数歩だった。


 だが、さっき自分で鍵を掛けた。清掃員に集中を邪魔されたくなかったからだ。


 床へ膝をついた。


 スマートフォンが机の上で震えた。


 家族かと思った。


 手を伸ばす。指先が端に触れ、端末が床へ落ちた。明るい画面に一行の通知が出ている。


『月次レポートの自動集計が完了しました』


 笑おうとした。


 何でも自動化した。


 自分がいなくても、数字だけは届く。


 肝心の会社は、俺がいなければ何も決められないようにしてしまった。


 誰も信用しなかった。


 間違える前に仕事を奪い、失敗させず、成功する機会も与えなかった。守っているつもりで、必要とされる場所を全部自分で埋めた。


 会社にも、家族にも。


 一度でいい。


 誰かに預ければよかった。


 失敗されるのが怖くても、裏切られるかもしれなくても、それでも任せて、待てばよかった。


 暗くなる視界の中で、電話をかけられなかった相手の顔を思い出そうとした。


 うまく浮かばなかった。


 仕事の数字ばかりが、最後まで頭に残った。


 音が消えた。


 光が消えた。


 最後に残ったのは、誰もいない会議室の、冷たい床の感触だった。


     ◇


 畳の匂いがした。


 頬に触れているものが硬い。冷たい床ではない。薄い布を重ねた敷物らしい。


 遠くで蝉が鳴いていた。


 身体が軽い。


 胸の痛みも、息苦しさもない。


 代わりに、聞いたことのない男の声が、すぐ近くで震えていた。


「若殿」


 わかとの。


 誰のことだ。


「若殿、どうか御目覚めを」


 目を開けた。


 木組みの天井。紙を張った明かり障子。鼻をつく香の匂い。枕元には、月代を剃り、髭をたくわえた武士が膝をついている。


 その腰には、本物としか思えない刀が二本差されていた。


 起き上がろうとすると、腕が驚くほど細かった。


 手の甲に染みも皺もない。


「ここは……」


 自分の声が若い。


 武士は安堵するどころか、さらに青い顔になった。


「将右衛門めにございます。常陸介も控えておりまする。御加減はいかがにござりまするか」


 前野。


 木村。


 どこかで聞いた名だった。


 障子の向こうから、常陸介と呼ばれた男が転がるように入ってきた。手に一通の書状を握っている。


「次兵衛様、申し上げます!」


 声が裏返っていた。


「京より急報! 明智日向守、謀反! 本能寺にて右府様が――織田信長公が、御生害との由!」


 頭の中で、散らばっていた名前が一本につながった。


 前野長康。通称、将右衛門。俺は「爺」と呼んでいた。


 木村重茲。官途名、常陸介。俺は「常陸」と呼んでいた。


 宮部次兵衛尉吉継。


 のちの、豊臣秀次。


 そして、本能寺の変。


 天正十年、六月。


 俺は、十四歳の手を見つめた。


 閉ざされた会議室で終わったはずの人生が、天下の主を失った日の只中で、もう一度始まろうとしていた。


お読みいただきありがとうございます!


初めて書く小説なので、たぶん文章も構成も試行錯誤しながらの連載になります。

「そこ違うぞ」「この人物もっと見たい」などあれば、やさしく教えていただけると大変助かります。作者がすぐ調べに行きます。


戦国時代は大好きなので、史実はできるだけ調べつつ、

「豊臣秀次が生きていたら豊臣家はどうなったのか」

というIFを楽しんで書いていくつもりです。


完璧な歴史再現というより、史実と史実の隙間で「これならあり得たかも」と遊ぶ作品として読んでもらえたら嬉しいです。


毎日18時更新予定です。


なお作者も秀次と一緒に成長予定です。

次話もよろしくお願いします!

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