プロローグ ―48歳、人生はまだ終わらない―
四十八年
長かったようで
振り返ればあっという間だった
高校を卒業して働き始め
結婚し
子どもが生まれ
家を建て
毎日汗を流して家族を養ってきた
決して派手な人生じゃない
それでも
後悔はなかった
今では孫も生まれ
休日には家族の笑い声が絶えない
そんなある日
母から一本の電話が入った
「蔵を片付けたいんだけど
手伝ってくれないかい」
実家へ行くのも久しぶりだった
「分かった
今度の休みに行くよ」
◇◇◇
休日の朝
久しぶりに訪れた実家は
子どもの頃と何も変わっていなかった
庭の木も
縁側も
古びた蔵も
昔のまま
「懐かしいな……」
母と一緒に蔵の片付けを始める
何十年も開けられていない箱
古い家具
祖父が集めていた道具
汗を流しながら運び出していると
一番奥の暗がりに
見覚えのない古びた扉が立っていた
「こんなの……あったか?」
子どもの頃
何度も蔵へ入った記憶はある
だが
こんな扉は見たことがない
木とも石ともつかない
不思議な素材でできた古びた扉
鍵穴もない
取っ手もない
それなのに
なぜか目を離せなかった
「ちょっと触ってみるか」
コウがそっと手を伸ばした瞬間
ギィ……
ひとりでに扉が開いた
その向こうに広がっていたのは
薄暗い蔵の中ではなかった
どこまでも続く草原
青く澄んだ空
心地よい風
見たこともない世界
「……なんだこれ」
夢か
幻覚か
そう思いながら
コウはゆっくりと一歩
扉の向こうへ足を踏み入れた
この一歩が
四十八年間続いた人生を
大きく変えることになるとは
まだ
誰も知らなかった




