魔法使いに憧れて
「友を殺され、気が動転したか。早く楽にしてあげよう」
再び足に魔力強化を施すと、迫りくるオリヴァー。
「ヘル・バースト」
オリヴァー自身が迫りくる前に、短縮詠唱で放たれた魔法が飛んでくる。
魔法を対処した上で、オリヴァーとも相手をしないといけない。先ほどの自分なら、この攻撃で死んでいただろう。
「今は自分でも驚くほどに冷静だよ。なんでだろう?」
俺は独り言をつぶやき、空を見渡す。よく見れば、空はこんなにも澄んでいるじゃないか。
「死を悟ったか! フロイ!」
魔法と共に迫るオリヴァー。絶望の状況と見えたが……
「大魔法 ヘル・ドライブ」
太陽に照らされ、輝くフロイ。そんな彼から、放たれる滅びの魔法。
オリヴァーにとっては、想定外の大魔法だった。
そして、両者の魔法が衝突し、魔力が弾けた。
巻き起こる砂埃。その中から、現れた黒き閃光を纏いしオリヴァー。対するは、太陽に照らされし少年 フロイ。
「ドレイン」
先に魔法を繰り出したのは、オリヴァーだった。魔力を纏った右手がフロイの腕に触れ、彼のエネルギーを放出させた。
勝ったな。僕の勝ちだ。さらばだフロイ君。
オリヴァーが勝ちを確信したその時だった。目の前に立つ少年は、先程と違い怯む事無くこちらに迫ってくる。
そして、
「アブソーブ」
フロイは、オリヴァーの首を掴むと、彼の全てを食らわんとする限りに強く握りしめた。
「首が、苦し……何だこの感覚。不快だ、苦しい」
全身から生気が吸い取られるような感覚を味わい、悶絶するオリヴァー。
ようやく、彼の首から手が離されるとすぐに倒れ込んだ。
「終わりだ。オリヴァー」
意識を失い倒れたことを確認したフロイは、その場から離れ、友の元へと向かった。
「アスト。勝ったよ」
目の前に、座りこんでいる血だらけの友を見た。目は開き、太陽のある方角を見つめているように感じられた。
出血を止めようと、アストの胸元に右手を近づけた。
「治癒魔……」
彼の顔は、笑っていた。いいや、微笑んでいたというべきだろう。
俺は、そっと右手を戻し、手を合わせた。
「鎮魂歌 オリジン・ザナドゥ」
「かなり時間が掛かったな。早く二人の元へ……」
クロムが、ノエルとリーアムの拘束を済ませ、フロイ達の元へ向かおうとしていた矢先だった。
正面から、制服で覆い隠した人を運びながら歩いてくるフロイの姿が。
「フロイ。君が、抱えているのは一体?」
「俺の相棒です」
クロムは全てを理解し、フロイの元へ歩み寄った。
そして、アストとフロイの二人を抱きしめた。
フロイ・ヘルベルク、アスト・セルシオの二名が共同開発した魔法陣を狙った強盗事件は、アスト・セルシオの犠牲をもって、解決へと至った。
主犯であるオリヴァーは、王都の地下牢へ幽閉されることに、ノエルとリーアムは郊外の収容所送りとなった。
事件の二日後には、学院でアスト・セルシオの葬式が執り行われた。
そして、校長からは勇気を称えられクロム・アスト・フロイに特別優秀賞が授与された。
あの日から、二週間。学院は、通常通り授業を再開した。しかし、俺の心に付いた傷は癒えないままだった。
目を覚まし布団から出た俺は、机の上に置かれた封筒を目にした。
机の前に置かれた椅子に座り、封筒を開ける。
中には、二分間分の声を保存し、一度だけ聞くことの出来る手紙が入っていた。
俺は、躊躇うことなく手紙に刻まれた声を聞くことにした。
「聞こえているか? フロイ」
手紙からは、二週間ぶりに聞いたアストの声がした。
「なんだろう? なんていうか、別れの時が来た後にこの手紙を聞いてほしくて今、喋ってんだ」
別れの時…… アストは、死ぬことを想定していたのか?
「まあ多分、この手紙は俺かフロイがやらかして学院を退学になった時か、無事卒業できた後に聞いているんだろうけどさ」
「そんで、俺がフロイに伝えたいことは一つだけだ。それは、笑っていてくれって事だ」
「俺とは、別の道を進むことになって離れ離れになった時、フロイは少しぐらい落ち込むだろ? そん時は、笑うんだ」
笑えないよ…… 笑いたくも、ないよ。
「もし、笑いたくないなら……それでも、無理やり笑ってくれ。確かに、今は苦しいかもしれない。しばらくは、苦しいかもしれない。けど、必ず立ち直れる日は来る……とは、限んないんな」
「笑って損するもんじゃないさ。きっと、未来の自分が笑って良かったって思える日が来る。信じて、進むんだ」
「うつむいてちゃ、何も変わらないぜ。相棒」
手紙は役目を終え、しぼんでしまった。
俺は、涙を流した。やっぱり、友が居なくなって悲しかった。
「フロイ起きてる? 十数えて扉を開けてくれなかったら、こっちから開けるよー」
十、九、八、七……二、一
「ドーン!」
扉を開けたフィアは、目の前で椅子に座っていたフロイを見た。
「起きてんじゃん。何してたの?」
俺は、涙を拭うと立ち上がり制服の上着を着た。
「何でもないさ。行こうフィア」
俺は部屋を後にした。
「そういえば、学年末試験は誰と勝負する? 相手が居ないなら、私とする?」
俺は、苦笑いをして答えた。
「フィアと勝負しても、俺の圧勝だよ」
その言葉を聞き、フィアはポンとジャンプをすると笑って答えた。
「そっか。まあ、フロイには敵わないなー」
「でも、目指している点数はあるよ」
フィアが、きょとんとした顔でこちらを見た。
「三百八十三点」
「俺が超えなくちゃいけない相棒の点数だ」
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