魔法の世界
「五月二十七日より、フロイ・ヘルベルク。あなたが、ラインブルク魔法学院で学ぶことを許可しましょう」
約二カ月遅れで始まった学院生活。学院は、田舎から出てきた俺にとって計り知れない規模の建物だった。校舎・運動場・生徒の使用する寮・大森林もあり、興奮が止まらない。
一カ月前のやりたい事が見つからず、平凡で取り柄の無かった自分が見たらとても驚くだろう。
これから、俺のホーム教室へと向かう。聞き覚えの無い言葉であるホーム教室が何か分からなかった俺は、先生に聞いてみる事にした。
「ホーム教室とは、君が一年間使う教室の事です。この教室では、一年間同じ仲間と様々な事をしますよ」
そう答えてくれたのは、俺の担任の先生になるオリヴァー先生だった。先生は、眼鏡をかけているが眼鏡越しからでもわかるほどの優しい目をしている。
「準備は良いですか? これから教室に入って自己紹介してくださいね」
教室のドアを開け、中へと入っていく先生に続いて俺も教室に入った。
一歩、教室に入った瞬間凄い視線を感じた。
皆が、俺を見ている。
「俺の名前は、フロイ・ヘルベルクです。魔法を深く学びたくてラインブルク魔法学院に来ました。一年間よろしくお願いします」
俺の簡単な自己紹介は、皆の耳に届くと次の瞬間拍手が巻き起こった。
「フロイ君。君は、一番後ろの右端に座りなさい。アスト君の隣か…… 彼に、色んな事を教えてもらいなさい」
俺は、皆の机を横切り席に着いた。
「よろしくな。フロイ。俺の名前は、アストだ」
隣の席の子が、俺に話しかけてきた。灰色と赤色の混ざった髪の毛で綺麗なセンター分けの前髪に、俺よりも筋肉質の体だ。
「アスト君。こちらこそよろしく」
「アストでいいよ。君は、魔法を深く学びたいんだろ? ならさ、俺と一緒に研究しようぜ!」
一緒に…… そんな風な言葉を掛けられたのは、初めてだ。
もちろん、断わる理由なんてない。
「ああ、アスト。俺に魔法を教えてくれ」
入学から二ヶ月が経ち、俺とアストは魔法についてひたすらに学んだ。
寮生活だった俺達は、寝る事も惜しんで夜中まで魔法に関する本を読み漁った。
時には、授業中の居眠りで先生に怒られることもあった。しかし、それも楽しかった。
そして、一週間後に迫った前期期末試験。俺達は、試験の総合点数で勝負する事にした。
「フロイは、俺と同じで呑み込みが早い。その代わり、体が追い付いていないんだ。だから、実践で魔法を使おうと思っても上手く使えないこともあると思う」
アストは、客観的に物事を判断するのが得意だった。それは、一番近くで二カ月間見ていた俺だから分かる。
「確かに、それは薄々思っていたよ。何か解決策は無いか? 相棒」
顎に手を当ててしばらく考え込んだかと思えば、すぐに答えを出したのか二カリと笑った。
「やっぱり、肉体強化だな。これが、近道だ」
魔法から離れて、肉体について見直す? それが、近道?
俺には、さっぱり理解できなかった。けれど、相棒にも考えがあるんだろう。
「魔法と肉体は関係あるか? 魔法を使うときに、魔力消費を抑えたりできるように試行錯誤した方が、良いんじゃないのか?」
「いいや、肉体強化が優先だな。体が強くなれば、魔力量・体力が上がるし、魔法の習得の難易度も下がるさ」
確かに、そう言われると一理はある。魔法を極めようとしたら、肉体を鍛える必要があるとは…… 面白い!
「よし! まずは、運動場二十周だな。その後は……」
「焦んなって。肉体は長期的に鍛えていくものだから、気楽にいこうぜ」
そして、迎えた前期期末試験。試験は、大きく分けて二つの項目がある。
一つは、筆記。魔法学・一般学を中心とした問題を解くものだ。
そして、もう一つは実技試験。年度によって内容は変わるが、今年は三人一組でチームを組み実際に魔法を使った疑似戦闘をするようだ。
まずは、筆記試験から。これは、問題ないだろう。医者になるためにしてきた勉強と二カ月間読み込んだ本の知識がある。
ホーム教室の自席に着く。多少緊張はしている。
けれど、相棒には負けたくない。
隣に座っているアストを横目で見ると、意外にも緊張しているようだった。肩に力が入っている。
俺は、緊張を解いてあげたくて小声で伝えた。
「相棒、がんばろうな」
すると、アストは軽く伸びをして小さな声で
「ありがとよ」
感謝を述べた。
鐘が鳴り、試験の終了を告げた。答案と問題用紙が回収され、俺は解放感でいっぱいになった。
隣に座る相棒は、手ごたえがあっただろうか?
「試験はどうだった?」
「受けるまでは緊張してたが、いざ問題を見たら楽勝だったぜ。フロイは?」
「俺も、楽勝だった。多分、百点さ」
俺とアストは、お互いの自信のありようを見て笑ってしまった。
そして、グータッチをした。
放課後、アストと友人を連れて明日の実技試験に向けて対策会議を開いた。
「いつも、ここで勉強してるんだね。図書館で勉強とはやりますね」
友人とは、フィア・アンネルのこと。見た目はというと、茶髪のショートカットヘアにかなり肉付きの良い体型で、どこかだらしなさを感じる。そして、彼女は俺達が魔法を勉強する上で必要不可欠の存在だ。
「フィアが教えてくれたんじゃないか。ここは、居心地が良いよ」
フィアは、学院の一年で俺達と同じホーム教室だ。彼女は、空間認識能力が人よりも優れていて、ここまで大きな学院でも二周で教室の位置を全て暗記した。
そんなフィアの実力を買った俺達は、彼女に人通りが少ない場所を探してもらったりした。そのおかげで、静かな場所で勉強できている。
「フロイ、フィア。対策会議を始めようか」
そして、迎えた実技試験。
運動場に集まった同じホーム教室の人達(通称 ホームメイト)
チームによって、待ち時間の過ごし方は変わっていた。緊張をして黙り込んでいる所もあれば、教科書を読んで戦いに備えるチーム・仲間同士で緊張を解くために鼓舞し合っているチームと様々だ。
俺達のチームは、フィアが一メートル定規を熱心に見ており、アストが定規を持ってあげているという様子だった。まあ、変わっているだろう。
「これより、実技試験を始める」
試験監督を務めるのは、授業では魔法学の実践を教えているユージン先生だ。
俺達は、くじ引きを引いて順番発表を待った。
この試験は、くじで選ばれたチーム同士が戦い、勝った方が次の戦いに駒を進めるという形だ。負けた方は、負けたチーム同士で戦い順位を決める。
当然、俺達のチームは優勝しか眼中にない。
「チーム番号 四番と七番。初戦を始めるぞ」
七番。俺達のチームだ。
「準備は良い? 行こう二人とも!」
アストとフィアは、靴紐を結び直すと前を向いた。
「「勝つぞ」」
運動場に引かれた白線の中に入る。
「使っていい魔法は、把握しているな? それでは、始めるぞ」
先生は、白線の外に出ると方陣を展開した。
「大魔法 カイテム」
瞬きをした次の瞬間、白線から薄い膜が立ち上がり辺りを覆い尽くした。
そして、気が付くと周りは夕暮れの草原になっていた。
「これが、空間認識変化魔法か!」
アストは、興奮を隠せず周囲を見回していた。
俺も、初めて見た空間系の大魔法に心が躍っていた。
その時、脳内に直接声が聞こえてきた。
「ルールを確認する。使っていい魔法は、指定の三種まで。この空間から出てしまったものは、脱落となる。基準は、草原の景色が消え、視界が完全に運動場になった場合脱落とする。不正行為をした者も脱落となる」
事前に説明があったルールを再度確認した俺は、魔法を詠唱する準備を始めた。
魔法を使うには、基本的に詠唱をする必要がある。詠唱をして、利き手の指の指輪に魔力を集めることで初めて魔法が発動する。
「試験始め!」




