小休止
「リシュさん、シスター・テンペスト。小休止しますから、二人とも外へどうぞ」
馬車の外からシスター・マハエラの声。
ガタッと音をたて、馬車が大地に着地します。
シスター・テンペストがゆっくりと祈りの姿勢を解くと馬車の外へと向かいます。
私も慌ててその後を追います。
馬車を出るとそこは木の枝でドーム状になった空間でした。
ドームの中央には朽ちかけた祭壇が見えます。
「ここは……?」
私は見回しながら不思議な気分になります。そこは《外》のはずなのに、どこか神聖な雰囲気が漂っていました。
「ここはいくつかある隠れ場のうちの一つさ。魔女から完全に安全という訳じゃないから気をつけるんだよ。大きな音や火は厳禁だからね。それとリシュ、魔女の撃退、見事だった」
マザー・ホートが乗っていたモンスターの世話をしながら教えてくれます。見ると騎士ネリムもせっせと乗っていたモンスターの鱗を磨いています。
磨く度に、くすんでいた部分が輝きを取り戻していきます。
こんな高価なモンスターの騎獣の世話を間近で見るのは初めてです。
興味深く見ていると、シスター・マハエラが、布を手に近づいてきます。
「リシュさん、それとシスター・テンペストも──」
「失礼。ボクは祭壇で祈りを捧げる」
シスター・テンペストはシスター・マハエラの話にかぶせるように答えるとすたすたと歩いて行ってしまいます。
「仕方ありません。リシュさん?」
笑顔で差し出された布を、私は受け取りながら答えます。
「はい。お世話ですね。やり方を教えてください」
「おっ! さすがリシュさん。やる気が感じられて嬉しいです」
「ちょっと憧れていたんです。騎獣を持てるぐらい稼げる冒険者にいつかなりたいなって」
私は小さな声で答えます。
「あらあら」
シスター・マハエラも小さな声で笑うと早速、手入れのやり方を教えてくれます。
「磨くときは必ず同じ向きで拭かないといけません。この首もとの鱗から始めます。そうそう。良いですね。上手ですよ、リシュさん」
私は見よう見まねで鱗に布を当て、磨いていきます。やや力を込めて磨いてあげるのがコツのようですね。シスター・マハエラの体の動きを見ていると特に拭き始めに力をいれて、だんだん力を抜きながら手を動かしています。
「この子、名前は何て言うのですか」
一つ一つの鱗を力を込めて丁寧に磨いていきながらたずねます。
「その子はポリロリって種類のパンドリンよ。こっちは同じくポリロリのプラータン」
「パンドリンね。かわいい名前ね」
私が磨き続けていくと気持ち良さそうに身動ぎするパンドリン。そのくすみ気味だった鱗も、磨けば磨くほどだんだんと輝いて来ます。
「鱗、きれい……」
「ポリロリ達は鱗を磨かれることで力を得るのよ。それにしてもリシュさん、磨くのが本当に上手ね。初めてとは思えない。パンドリンがとても気持ち良さそうだわ」
私は誉められて少し照れ臭くなります。盾役の仕事がら、対象の体の動きを見極めるのは普段からやっていることですし、鍛えた分、力も人並み以上にはあります。
憧れの騎獣に触れられるこの鱗磨きは、こんな場合ですが、とても楽しい時間でした。




