14:街への道中
旅立ちの日が来た。俺たちは村の北門に集まっている。
村に来ていた行商人には何か月も前から話を通しており、その馬車に乗せてもらうことになっているのだ。
馬車の護衛は、元々行商人のおじさんが雇っていた冒険者。
オレたち四人は、完全に荷物扱いである。
「じゃあそろそろいきますよ、皆さん」
「「「「はい!」」」」
行商人のウェスさんに声をかけられたので、大きな荷物を手に馬車へと向かった。
「アレク!がんばれよ!」
「手紙よこしなさい!」
「クローディアああああ!!!クローディアああああ!!!」
「うふふ。元気でねぇ~」
「がははは!ビーツ!死ぬんじゃねえぞ!」
「はっはっは!立派にやりな!」
「デューク!みんなを頼んだぞ!」
「時々は無事を知らせてね?」
それぞれの家族が言葉をかける。
クロの親父さんが号泣している。こんな人だったのか?
チッタおばばや、モンスターじいさんも顔もある。どっちも寂しそうな晴れやかな顔だ。
「「「「いってきまーす!」」」」
オレたちは馬車に乗り込み、静かに馬車は動き出した。
村のみんなが見えなくなるまで、手を振り、大声を出し続けた。
ありったけの感謝を込めて。
…
……
………
「いやぁいい村だったなー」
「過去形にしないでよ、いつか戻ってくるわよ!」
「そうだな。ん?ビーツ、泣くんじゃないよ」
「な、泣いてないですよ!」
「いやいや、気持ちは分かるって。別に恥ずかしくねーだろ」
護衛の冒険者は馬車を囲むようにして、徒歩で進む。
当然、馬車はそれに合わせて進むので、ゆっくりとしたスピードだ。
次の街までは二日。明後日の昼前には着くらしい。
「次の街には冒険者ギルドがあるんだろ?そこで登録だよな?」
「あぁ。『サタデーナイト』は、王国四大都市の一つだしな。まぁ街なのに都市ってのも変な話だが」
「……ちょっと待て」
「ん?どうした?」
「次の街って『サタデーナイト』って言うの!?」
「「「えっ?知らないの?」」」
マジか!パーリーピーポーの次はサタデーナイトかよ!この世界に土曜日なんて概念ねえよ!
どんだけファンキー推しだ!
「いや、アレク。十年も地理を勉強しないとか、こっちがビックリよ」
「せめて隣街くらい……ですよね」
「アレク、一応聞くが、国の名前は分かるよな?」
「……サレムキングダム王国だろ?」
これだっておかしいだろう?キングダムと王国がかぶってんじゃん!
当時、突っ込んだんだぞ?『サレム王国じゃないのか?』って!
「じゃあ王都は?」
「……王都サレムキングダムじゃないの?」
「「「はぁ……」」」
「い、いや、ため息はよしてくれよ」
「このままだと後で確実に騒ぐから、今のうちに言うけどな……『王都シェケナベイベー』だ」
「ブーッ!」
吹いたし、笑った。そして、この国の行く末が心配になった。
馬車の後方に位置した冒険者の先輩が、何がおきた?って顔してる。
会話内容まで聞かれていないようで安心した。
「はぁ……はぁ……腹痛い……」
「まぁそうなるな。王都でそんな反応したら困るから、今のうちに言ったんだ」
「お、お前ら、よく無反応できるな」
「アレクのそれは、俺が七年前に通った道だ」
「私は五年前」
「僕は六年前ですね」
「マジかよ、怖いわ、この世界。とんだトラップだ……」
逆に他の街とか、国の名前が気になってきた。
「そのうちディスコとか出てきそうだな……」
「あぁ『港町ファンタスディスコ』ってのがあるぞ?」
「僕、行きたいんですよね。ファンタスディスコ。海の魔物を見たいんです!」
「……あ、そう」
なんか、もうどうでも良くなった。負けたよ。
その後も馬車は進む。
見晴らしのいい街道添いに進んでいる為、魔物に襲われることもない。
それでも鳥系のモンスターが空から来たり、ちょっとした林から出てくることもあるらしい為、冒険者の人たちは警戒を怠っていなかった。
この『白銀の盾』という五人パーティー、ランクは銀級らしいが、同じ銀級だった『森林の聖風』の面々よりしっかりしているように感じる。
パーティーリーダーの回復術士は銀級冒険者。銀級三人と銅級二人で、銀級が過半数を超えるので銀級パーティー。そういうものらしい。
野営の際に、いろいろ教えてもらえた。いや、『森林の聖風』が来た時は戦闘技術とかばかりだったからね。
ちなみに六年前に銀級だった『森林の聖風』は、四年前に金級、去年はミスリル級に上がっていた。ミスリル級とかちょっとした英雄クラスらしいんだけど、
あの人たちで大丈夫なのだろうか……ふざけてた印象が強いから不安になる。
「君たちは後輩になるんだろ?ならば助言するのが先輩の役目さ」
なんとも出来た人たちである。
サルーノさん(森林の聖風の狩人)とかも見習って欲しい。
あの人、すごいんだけど、基本おちゃらけてるしな。
…
……
………
夜、そろそろ寝るぞという時間になって『白銀の盾』の人たちに話しかけた。
「最初の番だけでいいので、オレたちに夜警させてもらえませんか?」
「えっ?お前たちだけでか!?」
「はい。冒険者になる前に勉強がてら。もちろん、敵襲があればすぐに呼びます」
「うーん。本当はダメなんだが……」
「「「「お願いします!」」」」
「……じゃあ、少しの間、任せよう」
「本気ですか!?リーダー!」
剣士の人がリーダーに驚く。
そりゃそうだろう。これで襲われでもしたら、『白銀の盾』が護衛失敗になってしまう。
「ここいらで夜に襲われたことはないし、これまでの道のりでも魔物はいなかった。ならば経験を積むのに良い機会とも言える。ただし、緊急事態には絶対に私たちをすぐ呼ぶ事。これは約束だ。いいな?」
「「「「はい!ありがとうございます!」」」」
こうして、オレたちだけの夜警が始まった。
寝床から少し林寄りのところにたき火をし、そこに座る。
「ごめんね、みんな」
「気にするな。あまり時間かけられないから、さっさと行ってこい」
「うん。じゃあ行ってくるね」
そう言って、ビーツは林の中に向かっていった。
「……一応聞くけど、大丈夫なのよね?ビーツ」
「大丈夫だよ。心配いらない」
「あれから増えてるのか?オレたち知ってるの『三大妖』くらいだけど」
『三大妖』って言うのはビーツの従魔で、シャドウ・パイソンの『オロチ』、ルビー・フォックスの『タマモ』、オーガ・リーダーの『シュテン』の三体だ。
ちなみに日本三大悪妖怪は所説あるが、酒呑童子・玉藻前・崇徳上皇で、八岐大蛇は入っていない。これ豆知識な。
最初の三匹が蛇・狐・鬼だったから、そう名付けたらしい。ビーツもなかなか中二心を持っている。
「ああ。と言っても俺も途中までしか知らないけどな。まぁ紹介されるのを楽しみにしておこうぜ?」
「そうだな。さすがにここで出すわけにいかないだろうし」
何匹も召喚するのなんて目立つからな。
オレたちは個人での修行の成果を「冒険者になってのお楽しみ」と言って、ある程度は明かさずにいる。
オレも再現魔法とかあるし。クロもデュークも、何かしらあるっぽい。
命を懸けてるのに慢心かもしれない。秘密なんていけないのかもしれない。
でも、オレたちは楽しもうとしている。この世界を。これからの冒険を。
「とりあえず夜警はしっかりやろうぜ?」
「そうだね!これも訓練だし!」
「もうお喋りはやめだな」
こうして村から出て、初めての夜を迎えたのだった。




