12:デュークとビーツの場合
…side:D
「ただいま、父さん、母さん」
「おかえり、デューク。随分と遅かったわね。みんなと遊ぶの楽しかった?」
「おかえり。今日はご苦労だったな」
「うん、楽しかったよ。父さん、お手伝い出来なくてごめんね」
「今日くらいはいいさ。『神託の儀』はちょっとしたお祭りみたいなもんだからな」
俺は毎日、神官である父さんの仕事を手伝っている。
これは治療や光魔法の修行でもあるし、教会としての知識を学ぶためだ。
まぁ三歳からやってるから『神童』とか言われてしまったわけだが……。
夕食を食べながら、今日のことを家族で話す。
『神託の儀』の内容。四人で話し合った事。そして、将来は冒険者になりたいという事。
「最終的には教会に所属するかもしれない。でも、まずは見聞を広げたいんだ」
「私としては危険な目に合わせたくないんだけど……」
母さんが少し沈んだ表情を見せる。
「私だって同じだ。出来れば神官として育って欲しい。でも、村の神官で修まる器ではないとも思っている。今日の神託でもあったがな」
「『救う者、守る者。それは多く、境を越える。道は幾百、幾千ともなり、心と体を要するだろう。』……か」
「俺の道はまだ分からないよ。でも旅で国境を越えて、その過程で『救う』んじゃないかと」
「そうだな。私もそう思う」
両親は前世の俺よりも年下だ。だから俺も子供らしく出来なかったんだと思う。
それでも今は、育ててくれた感謝の想いしかない。
それだけの愛情を注いでくれたと、そう感じていた。
「嬉しい日なのに、寂しくなるわねぇ……。すぐに旅立つわけじゃないんでしょ、デューク?」
「うん、たぶん五年後だと思う」
「そうか。じゃあそれまでは光魔法と治療の勉強かな?」
「あ、それだけじゃなくて、盾も勉強しないと……」
「「盾?」」
「うん、回復術士としてだけじゃなく、盾戦士にもなってくれってさ」
「「はあっ!?」」
俺と同じリアクションだな。やっぱ親子だ。
散々話した後で、俺は部屋に戻った。寝る前にチッタさんから借りた本を読む。
俺は前世では読書ばかりしていた。ゲームも趣味ではあったが、小説やライトノベル、漫画も好きだった。完全なインドア派だ。
中でもファンタジー物が好きだったせいで、実際に転生した時は驚いたものだ。
そして、転生した今となっても趣味は読書。
この世界の知識をなるべく知りたいってのもある。知識は力だし。
でも本当にしたい事は、この世界の英雄譚・伝説を集めることだ。
なんせ、ファンタジーであるこの世界では、その伝説がノンフィクションなのだから。
たとえドラゴンや神を、剣や魔法で倒したとかいう眉唾物でも、おそらく事実なのだ。
それらを集め、出来れば実際に体感し、さらに言えば俺自身が英雄譚の著者となりたい。
実際に英雄となるのはビーツやアレクにお任せしよう。
クローディアは英雄っぽくないけどな。俺ももちろんモブの一人だ。
さて、明日からはこれまで以上に忙しくなりそうだ。
明日はさっそくクローディアの父親であるマテウスさんに盾の事を聞いてみよう。
そんな事を考えながら、眠りについた。
…side:B
「ほっほっほ!やはりワシの目に狂いはなかった!のぉ、ビーツよ!」
『神託の儀』から一夜明けて、僕はいつものように博士の家を訪ねたんだけど、博士はかなり上機嫌だった。
「あれはまさにビーツの将来を指しておる!そう思うじゃろ?」
「い、いや、分からないですけど、でも、あの後みんなで話して、五年後に冒険者として世界を巡ろうって話に――」
「なんと!行幸!行幸じゃ、それは!しかしそうとなると、あと五年で準備せねばならぬな!よし、そうと決まれば……」
相変わらずせっかちと言うか、突っ走るというか……。
かなり高齢のはずなんだけど、どこからこのパワーが出るのか分からない。
きっかけは、この世界に転生し、ここがファンタジー世界だと分かってからだった。
ここにはモンスターが居る。それが現実だと分かると、恐怖を感じるよりも嬉しくなった。
ゴブリンは、ドラゴンはいるのか?スライムは滴型?粘液型?強いの?弱いの?
そう考えるとテンションが上がる。
喋ることが出来た頃から、両親に質問していた。主にモンスターについて。
今にして思えば、なんと気味の悪い子供だろう。
しかし、この世界の両親は良くも悪くも豪快だった。
「がははは!なんだビーツ!魔物に興味があるのか!面白いな!」
「ははは!あんた、今後ビーツ連れて森に行ってやったらどうだい?」
「おう!仕事の邪魔になんなきゃいいぞ!ついでに木の切り方も教えてやる!」
完全に幼児だったけど、それから僕はお父さんに連れられて森に入ることが多くなった。
狩人の人たちが見回っているから、基本的にモンスターは出ないんだけど、それでも時々遭遇するフォレスト・ウルフやゴブリンは、お父さんが斧で仕留めていた。
普通に強いんだと思う。うちのお父さん。僕を守りながら瞬殺だったし。
そんなある日、僕は一匹のモンスターに出会った。
黒と緑の小さな蛇。おそらく産まれたてなのだろう。
「おっ?シャドウ・スネークの……幼体か?初めて見たな」
お父さんがそうつぶやく。
その蛇は僕が落としたお昼ごはんの肉(うちは肉料理が非常に多い)に食らいつき、食べ終わると僕の足にすり寄ってきた。
怖くはない。お父さんも相手しないのを見ると、危険ではないのだろう。
今にして思えば噛まれる危険もあったと思うが、お父さんなら「がはは!これも経験だ!」とか言いそうだ。
で、すっかり懐いた蛇は、僕の影にシュルンと入っていった。
「お、お父さん!かげにはいったよ!?」
「みたいだな!がははは!こんなの初めてみたぜ!」
「ど、どうすればいいの?」
「わからん!モンスターじいさんのとこ行って、聞いてみろ!がははは!」
「モ、モンスターじいさんって……?」
それから僕はモンスターじいさんこと、シュタインズさんの家に行った。
そこで従魔とは何か、召喚とは何かを知ることとなる。
「ワシはモンスターじいさんと呼ばれておる。ここに召喚石があるじゃろ?」
とか言ってたので、僕は博士と呼ぶことにした。見た目は全然違うけどポ〇モン博士って感じだし。
博士曰く、僕は召喚士としての才能があるかもしれないと。
だから弟子として、博士が持っているモンスターの知識や召喚の技術を託すと言ってくれた。
「召喚士と言えば鞭じゃろう。剣のやつも、杖のやつもいるが邪道じゃな」
との事で、鞭も習い始める。
それからしばらくして、二体目、三体目の従魔を連れてきた時には、大そう喜んでいた。
自覚はなかったが、すごいことをしているらしい。
僕の毎日はモンスターの事ばかりだった。
お父さんと森に入り、博士の家で勉強し、鞭の稽古、実戦、時に従魔を増やす。
勉強の時は、本を読みに来ていたデュークくんと話したりも出来た。この子は前世で大人だった僕よりもしっかりしている。すごい子だ。
まぁ、のちに前世では僕よりも年上だったって分かるんだけど。
「ワシは世界中のモンスターを知っとるわけではない。だからビーツよ、お前に書きかけの『モンスター図鑑』を託そう。ワシに変わり、世界を巡り、図鑑を完成させてくれ」
思わず吹き出しそうになったが、これは渡りに船だと思った。
元々、ゲームなどでは『モンスターリスト』を埋めることを『クリア』としていた。
ラスボスを撃破しても、それはクリアとは言わない。でも、徹底的にやり込むと積みゲーが増える。
だから僕の基準はモンスターありきだった。
この世界には、そのモンスターがいる。見知らぬモンスターだらけだ。
だからこそ会いたい。
できれば従魔にしたい。
そして出来るなら、この手で『モンスター図鑑』を……そんな夢を見ている。
あと五年で旅に出る。
それまでになんとかこの森を――




