§71 秘密への入口
翌日、朝三の鐘の後。
集合場所は実験棟二階、摂理実験室。
つまりはまあいつもの部屋だ。
休み中でも学校は原則的に開いているし出入り自由。
摂理実験室は一応鍵をかけてあるが、アン先輩を始め皆合鍵を持っている。
アン先輩は戸棚の一つから、大きめのシャベルを人数分出した。
「これを持って行くのだ」
「でもこんなの持ち歩いて目立ちませんか」
まだ場所は聞いていない。
でもこんなの持って集団で歩いていたどう見ても怪しいだろう。
「心配はいらないのだ。なにせ近場なのだ」
確かに近くとは聞いていたが具体的な場所はまだ聞いていない。
「何処なんですか、場所は」
「まあついてくればわかるのだ」
でっかいシャベルを各自持ってアン先輩の後をついていく。
実験室を出て階段を降りたその場でアン先輩は立ち止まった。
「現場の入口、到着なのだ」
えっ。
「入口って、単なる階段の前ですよね」
「その通りなのだ。でもここ一階の階段は半分スペースが空いているのだ。これは二階より上は下りの階段スペース。一階からは下る場所が無いので空いているのだ。
ここで欺瞞解除の魔法をかけるのだ」
アン先輩が魔法杖を振るう。
何も無い場所に下り階段が現れた。
「おーっ」
思わず声が漏れてしまう。
「実験棟は滅多に生徒が来ないのだ。担当以外の先生も来ないのだ。その上で普段は欺瞞魔法でこの下り階段を隠しているのだ」
「でもなんで学校にこんな場所があるんだ?」
アルがもっともな疑問を口にする。
「なぜこの地にカウフォードという街を造ったか、噂を聞いたことが無いか?」
アン先輩がにやにやしながらそう質問。
「カイドーの教育機関や研究施設が手狭になったからカイドーにほど近い場所に学問と研究の為の新都市を造った。そう聞いているけれどな」
レマノの知識ではそうなっている。
「もっとカイドーに近くて空いている場所は他に色々あるのだ。わざわざ川を渡った先、六十離も離れた場所に造る必然性など何処にも無いのだ」
確かにそう言われるとそれももっともだ。
「噂では聞いた事がありますわ。ここに何か『遺跡』規模の遺物があって、その隠蔽と管理のために新たに都市を造ったというお話を」
ヘラがそんな事を言う。
「でもそれは何の証拠も無い噂だろう」
アルはそう言う。
まあそれが普通の態度だろう。
でもアン先輩はにやりと笑った。
「噂だとは言われているのだ。なぜなら証拠が無いからなのだ。それらしい記録は全く残っていないのだ。
でも、私はその噂が事実だと思っているのだ。なぜならこの街には遺跡か遺跡の痕跡と思われる場所がいくつかあるのだ。
そしてこれから行く場所はそのひとつ、その入口がここなのだ」
「でもなんでそんな場所への入口が学校にあるの?」
ラインマインのもっともな質問。
「逆なのだ。そんな場所を隠すため、学校や研究施設を造ったのだ。少なくとも私はそう思っているのだ。
それに実験棟は私達を除けば滅多に生徒が来ることはないのだ。先生達ですら摂理のパヴァリア先生やキクヌス先生くらいしか来ないのだ。そういう意味ではなかなかいい隠し場所なのだ」
多少陰謀論っぽい考えだがなかなか面白い。
しかも現実に隠された入口が目の前にあるのだ。
「でもこれ、入っていいのか」
アルがしごく当然の疑問を口にする。
「立ち入り禁止なら壁や扉を造る等、物理的に入れないようにしておくと思うのだ。あえて欺瞞魔法だけにしておくのはきっと生徒への挑戦なのだ」
本当かよ!
でも俺もそういう遺跡への謎の入口に興味が無いわけじゃない。
「危険は無いよな」
「何度も入っているけれど問題無かったのだ。でも念の為メルに危険察知の魔法をかけて貰っておくのだ。
私がかけた場合、私にとって危険な場合しか反応しないのだ」
なるほど。
強靱種かつ強力な魔法使いの先輩だと多少の危険は危険にならない。
つまり先輩基準の危険察知では俺達には役に立たないという事か。
「さて、質問も一通り出た様なので出発なのだ」
アン先輩はそう言って階段を降り始めた。
俺達は一度顔を見合わせ、そしてついていく。
アン先輩の次にアル。
そしてメル、ヘラ、ラインマイン、俺と続いて階段を降りる。




