§27 次は北の大地から
『一年生のラインマインさん、一年生のラインマインさん。お父様が面会です。』
頭の中にそんな台詞が飛び込んでくる。
これは放送と呼ばれる初歩的な魔法だ。
初歩的と言っても魔法使いにはという事で、俺には勿論使えない。
「何だろう、ちょっと行ってくるね」
すっとラインマインの姿が消える。
相変わらず動きが速すぎる。
「ラインマインの御宅って、ステルダのアム市ですよね。どうされたのでしょうか」
ヘラが当然の疑問をぶつける。
言われてみればそうだ。
アム市はここから百八十離離れている。
駅場所でも途中で三泊は必要な距離だ。
「確かに普通の人ならアム市は遠い。途中の街で三泊は必要だろうな。でもラインマインのお父さんなら別だ」
アルがそんな事を言う。
どういう事だ?
「ラインマインのお父さん、筋力も体力もラインマイン以上」
メルにそう言われてやっと気づいた。
つまりラインマインのお父さんも強靱種という訳か。
「あの人なら三刻もあれば余裕でここに来るだろう」
馬車よりも早馬よりも速いという訳か。
「そんなに長時間体力が持つんですか」
「前に首都キョーナンまで一日で行って帰ってきたからな。それくらい余裕だろう」
おいおいなんだそりゃ。
キョーナンはこの国の首都で、ここカウフォードから三百六十離ほど南にある。
北にあるカイドーとは逆の方向だ。
つまり片道五百四十離の距離を一日で往復しただと。
そんなの高速道路完備の日本で車でやれと言われても大変だろう。
「でもラインマインも実家からここまで走ってきたしね。駅馬車なんて遅くて時間がかかるだけだって」
「僕達が出た二日後に荷物を担いで走って出て、なおかつ僕達より速くこの学園に着いたからな」
強靱種、ますます恐るべしという感じだ。
そんな事を思ったら思ったらふっとラインマイン本人が姿を現した。
戻って来たらしい。
「ちょっとこの件は皆来た方がいいわ。そんな訳で面会室までお願い」
「何なんだ」
「先周にホクトに書いて貰った料理、試作品が出来たんだって。それでお父さんが試作品一式を持ってきているの」
「面白そうなのだ」
真っ先にアン先輩が立ち上がった。
「確かに興味がある。でもいいのか」
そう言いつつアルも立ち上がりかけている。
「勿論。さっき正銀貨十枚は皆で使おうって言ったじゃ無い。ならこの件も皆で試さなきゃ」
「そうですね」
ヘラも立ち上がっている。
そんな訳で全員で面会室へ。
「私とラインマインは先行するのだ」
アン先輩とラインマインが姿を消した。
冗談じゃ無く人の大きさで車並みの速度で動かれると目がついていけなくなる。
よくあれで事故なく学校でやっていられるな。
反射神経もきっと強力なのだろう。
「ラインマインのお父様ってどんな方かしら?」
ヘラがアルやメルに聞いている。
「商売人というより職人という感じだ。親しみやすい人だが仕事に関するこだわりはなかなか凄い」
うーん、どんな人なのだろう。
職人というと何か怖そうなイメージもあるのだけれど。




