§25 嵐の前の静けさ?
翌周は割と平穏に過ぎた。
周一の放課後に俺は図入りの長い長い説明文を書いた。
中身は、
○ 干しぶどうを使った酵母の起こし方
○ その酵母を使ったパンの作り方
○ パンの食べ方
○ 蒸しプリンの作り方
といった感じだ。
ただ残念ながら俺もあまり細かい配合具合とかは憶えていない。
せいぜい何かの実践教育でパンを作って焼く行程を一回やった程度。
あとはネット等をチラリと見て何となく憶えている感じの知識だ。
もう少し何でもかんでもやってみた方が良かったかなと今になってみれば思う。
でも俺自身は手先が不器用だ。
それにまさかこんな他の世界へ来るだなんて思ってもいなかったしさ。
まあそんな感じで長い長い拙い説明と美しくない図を記載した手順書を作成。
ラインマインが書いた手紙を同封して北の大地へと旅立っていった。
あとは日常、機械を見て診断する作業の続きだ。
アルを中心にラインマインとヘラが強制参加させられる授業の復習会も始まった。
言っておくがラインマインもここに合格したと言う事は相当な学力がある訳だ。
でもアルから見ればかなり危なっかしいらしい。
そんな訳で時間がある時はびしびしと授業の予習復習をさせられている。
案外アルは面倒見がいいようだ。
「あれは昔から。気にしない」
メルはそう言っているけれど。
「そうだ、この機械、ちょっとホクトに見て欲しい」
メルがそう言って手のひらサイズの何か機械らしきものをこっちに寄越す。
「これはでも、俺の知っている世界の機械じゃ無いぞ」
「わかっている。これは魔法文明系の機械」
あっさりメルはそう言う。
「でも壊れている。魔法文明の視点ではこれは直せない。でも違う視点から見れば直せるかもしれない。ほんの少ししか壊れていない事も直せる事もわかる。でも私には直せない」
なるほど、だから俺に見てくれという訳か。
構造そのものは全くわからない原理で出来ている。
でもそれほど複雑な造型でも無い。
いくつかの棒と紋様が描かれた黒い石、それに銀線がついているだけ。
ただよく見ると銀線の一本が切れている感じだ。
こういう時はアン先輩。
「先輩、ここの線をくっつけることが出来ますか。この線とこの線」
「任せろ!」
あっさり何の補填材料も必要とせずにくっつける。
「直った。これでその機械は使用可能」
「私も感じるぞ。これは増幅器なのだ」
「そう。魔法文明で使われる個人用増幅器。これだけで力の集中が楽になる」
「残念ね、魔法系の道具はうちでは扱えないわ。制作者や効果を確認出来る者がいないから」
ヘラがそう言って、
「ヘラはこっちの問題に集中!」
アルにそう注意される。
「これは私の領域。実家に送って検討する。先生を呼ぶほどのものではない」
そんな訳でまた先輩が箱を作って、メルが手紙を書いて小包状にしてと。
俺の範疇の機械はある程度は判別がついたが、残念ながら直せないものばかり。
流石に電子工作とか、半導体の作り方までの知識は小学生だった俺の範囲外だ。
そん感じでこの周はごくごく平穏だけれど楽しくてなかなか悪くない感じ。
時にはアルの教え方で理解できないラインマインやヘラに勉強を教えたり。
何回行っても微妙に慣れない風呂で色々思ったり感じたり。
休日もアルに誘われて図書館で本を読んだり、アン先輩秘蔵の怪しい漫画をみせてもらって『この文明にもBLはあるんだな』と思ったり。
でもそんな平穏は次の周、破られることになる。




