§162 アルの危惧
今日の夕食は分厚いビーフステーキとハンバーグのセットだった。
そして昨日の夕食を踏まえてかおひつが三つに増えている。
ただアン先輩がいないので今一つ盛り上がりに欠けるという感じだ。
結局お櫃は一つがまるまるそのままで残ってしまった。
アン先輩の夕食はお重のような容器に詰めて貰い、余ったご飯は宿の人におにぎりにして貰って夕食は終了だ。
そして夕食の後は当然お風呂になる。
お風呂の端でぼーっとのんびりしていると。
『ホクト、少し相談がある』
アルが態々個別放送を使って話してきた。
『何だ?』
『今日、アン先輩に何があったか何か知っている事は無いか』
『午前中は一緒にここの遺跡を調べに行った。午後は別行動だったから知らない』
『そうか』
アルはそこで一端台詞を切る。
だから逆に俺はアルに尋ねてみる。
『アルは俺とアン先輩が遺跡を調べに行った事に気づいていたのか?』
『ああ』
アルはあっさりと肯定した。
『実は僕は遺跡について父からある程度聞いてはいる。エバシの遺跡は入口を土で塞いでいる筈だけれど、ホクトやアン先輩なら障害にもならないだろう』
『アルは遺跡内に入った事があるのか』
『何度か』
アルが頷いた気配がした。
『転送装置も使った事がある。ただ父から注意されている事があるんだ。そこにアン先輩やリーグレ先輩が関わったんじゃ無いかと心配している』
『それは何だ?』
何か重大な事のような気がする。
『クバーツに行くならそれなりの覚悟をしてから行け。そう言われたんだ。生半可な知識や興味で触れると偽りの楽園に惑わされるぞと』
偽りの楽園に惑わされる、か。
どういう意味か気になる。
『クバーツとは何だ。遺跡内で西岸にあるように書かれていたけれど』
『遺跡の転送装置からしか行けないモトス島西岸にある街だ。ちょうどここエバシから大山脈を越えた場所にあるらしい』
『つまりクバーツとは西の地か』
そう言うと思い切り思い当たることがある。
俺は午後に起きた出来事をアルに話す事にした。
『実はなアル、俺は今日の午後、正にその西の地に誘われたんじゃないかと思う』
『何だって!』
『図書館で俺の目の前にメモが落ちてきた。そのメモ通りに本を探すとある絵本に辿り着いた。その絵本には遺跡入口のIDとパスワード、そして西の地に来いとしか思えない内容が入っていた』
ちょっと間が開いた。
『ならアン先輩も……』
『可能性はある。それにリーグレ先輩はアン先輩と遺跡について色々調べていたからな。アン先輩が誘った可能性も充分ある。もしかしたらリーグレ先輩にもその誘いが来たのかもしれない』
『その絵本は図書館か』
『買ってきた。』
『見せてくれ』
そんな訳で俺達は風呂を上がる事にする。
「あれ、もう上がっちゃうの」
「ちょっとのぼせ気味だしさ」
ラインマインの方を見ないように返事をしてロッジの中へ。




