§145 明日から温泉旅行です
実験室内は明日出発の温泉旅行の雰囲気に染まっている。
図書館で借りたガイドブックはもう何度も読んだ。
宿の場所や旅行中の立ち寄り場所、予定時間等を入れた旅行のしおりも作った。
つまりはまあ浮かれているという訳だ。
勿論学園祭後に温泉旅行関連ばかりやっていた訳では無い。
実際は色々な作業をやっている。
例えば学園祭の展示物の影響で製作を頼まれていた一品物の道具製作とか。
○ 船用魔力推進器(小壱サイズの舟用に改良したもの)
○ 魔力冷却装置付大型バックパック
○ 魔法使い用大型製氷機
○ 浮遊機改良版
これらはそれぞれ身内や関係者に頼まれたものだ。
船の推進器はヘラの親からで、バックパックはラインマインの父用。
残り二つはパヴァリア先生経由で学内から。
これらもこの前の周空までで全部作成して引き渡した。
勿論お代はしっかり頂いている。
「冬休みと春休みの旅行分まで払ってもおつりが来るね、これで」
「それはわかりませんわ。アン先輩は卒業するとしても、アルやホクトがまた図書館で大散財をするかもしれませんから」
「いくら僕でも金貨十枚単位の買い物は精神的に無理だ」
「世の中慣れがありますからね。気を付けないと」
そんな恐ろしい事に慣れて貰っては困る。
俺も気を付けよう。
この国に来てから色々収入があったせいか、金銭感覚が崩壊している自覚はある。
「もし使っていいなら私が卒業記念に思い切り使ってやるのだ」
「洒落にならないから止めて下さい」
アン先輩なら本当に使えそうで怖い。
「慣れといえば、ホクトもアルも大分製作系の魔法に慣れてきたのだ。これなら私が卒業した後も何か作るのに困ることは無いのだ」
確かにこれだけ短期間に色々物を作ると大分魔法にも慣れてくる。
今の俺なら魔力増幅機も何とか一人で作る事が可能だ。
「まあアン先輩には及びませんけれどね」
「年期が違うのだ」
確かに。
「でもまさか、僕がこんなに色々魔法で作れるようになるとは思わなかったな」
アルがしみじみ言う。
何せアルはシルダに行くまで魔法を使えなかったしな。
魔力こそ魔法使いとしてはぎりぎりレベル。
でも使える魔法の種類そのものは勉強熱心な事もありかなり多い。
「流石に移動魔法は無理だけれどな」
「ホクトやアン先輩は例外中の例外」
「そうですわ。移動魔法を使える魔法使いなんて、普通は魔法使い一万人に一人くらいしかいないんですから」
メルとヘラがそんな事を言う。
確かにレマノの知識でもそんな感じになっていた。
俺は魔眼を手に入れたし、アン先輩やリーグレ先輩のような強力な魔法使いが身近にいるせいか、そんなに珍しい魔法という意識はあまりないけれど。
レマノの知識に使い方がある以上、レマノもきっと使えるのだろうし。
「さて、明日の授業終了後、この部屋に荷物を持ってきてすぐ出発だよね」
「その予定ですわ。船の時間を気にしなくていいから楽ですよね」
「でも船旅も味があってよかったのだ。また海鮮料理を食べたいのだ」
「味があるというか飛ばしまくりますよね、先輩は」
「まあ船はまた作るとして、取り敢えずは明日からの旅行旅行だよ」
「傑作『湯煙の中で』の聖地を回るのだ。ウホッないい男がいるかもしれないのだ」
アン先輩の発言は無視しよう。
「取り敢えず明日は宿に行って、温泉入って料理食べて泊まりですよね」
「ええ。明日の特別料理は特選牛の牛鍋の予定ですわ」
「楽しみ」




