+2話「反逆の九乃助」
………………
あの事件から、1日経った。
未だに、レビンは、九乃助に話しかけて来ない。
毎日のように、顔を合わせていたのに、まったく顔も合わない。
たった一日で、ばったりだ。
それほど、彼女はショックだったのが解る。
同時に、罪悪感で九乃助を苦しめる。
………………
「大体、オレだって、あんなこたぁ言いたくねぇやい!!知らなかったんだよ!!しかも、レビンだって、言わなかったろうがよ!!!!ああああーーー!!!!俺が悪いのかよ!!タイミングが悪いんだろう!!!!クリスマスってレベルじゃねぇぞ!!クリスマスが何だ!!そんなの宇宙規模に考えれば、大したことないだろうが!!って、叫ぶ夢を見た…」
と、武田の目の前で九乃助が言う。
武田はそれに対して、昼食を取りながら聞くが無言。
ちなみに、ここは武田の仕事先の高校の職員室だ。
昼休み中に、昨日までの事情を話したのだった。
さすがの武田も迷惑がっている。
「ってことは、あれか…。お前、レビンたんと揉めてんのか?」
「そうだ」
そうキッパリ、九乃助が答える。
すると…。
「そりゃ、不幸だったな…」
武田は、そう言う。
同時、この男の思考回路が始動。
(今まで、九乃助とレビンが言い感じだった→今、揉めてる→レビンは、九乃助のことが嫌いになった→傷ついた彼女を、オレが慰める→オレのターン!)
まるで、航空機のエンジンのように武田の頭が回転した。
「お前、今よからぬこと考えたろ」
「!」
だが、即効で九乃助に見抜かれた。
長年の付き合いだから、すぐ解るのだ。
「じゃあ、帰るね」
そう言って、九乃助は職員室から去ろうとしている。
「なにしに来たんだ…、貴様」
去ってゆく、九乃助の背中を武田は見つめた。
ちなみに、昼休みの時間はとっくに終わり、武田はろくに飯も食えないで授業に出た。
………………
九乃助は高校から出て、商店街を歩いている。
街は、クリスマスシーズン一色だ。
様々な店が、クリスマスの装飾をしている。
それが、九乃助の怒りを促進させる。
「なにが、クリスマスじゃ…」
虚しげに呟いた九乃助は、ため息をつく。
そして、虚しげに空を見げた。
雪が降らない、この街を象徴するような雲行きだ。
九乃助は思った。
あの器用じゃないレビンが、自分のために、内緒にしてマフラーを作った。
それは、とてつもない苦労であったろう。
しかし、それを自分は知らなかったといえ侮辱した。
あくまで、自分の主観だけで語ったことで、彼女を傷つけた。
「…」
そう思うと、急に九乃助は、彼女に一言謝りたくなった。
許してくれなくとも、謝罪だけはしたい。
和解の方へと、彼の思考回路が動き始めた。
その時…。
「クリスマスに、女と喧嘩する奴はバカだよねー」
九乃助の背後から、そういう低い声が聞こえた。
「!」
その声の方に、首を向けると…。
長身の男と、小柄な少年の二人組が居た。
たぶん、さっきの言葉は長身の男の方が言ったのであろう。
「なんで、そういうですか、マサイさん…」
小柄の少年が、そう言う。
「クリスマスって言えば、恋人たちの聖夜だろうが。そんなイベントに、喧嘩する奴の神経って信じらんねぇー。そうじゃなくとも、気づかないで女泣かすやって、バカってレベルじゃないなー。たぶん、そういう奴って、『ガ○ダムは、ゼータまでしか認めない』とか言ってんだよなー。更には、嫌いな食べ物がピーマンで、水虫持ちで、『エクソシスト』の首回転シーンでトラウマ持ってて、昨日、シャンプーとリンス間違えて、2回シャンプーしちゃったりするんだよねー。しかも、1999年に地球滅びると思って、家の庭に地下シェルターを本当に掘ったりちゃってんだよなー」
長身の男の言葉すべてが、恐ろしいほどに、九乃助に当てはまった。
そして、九乃助は唖然としている。
「そういう男になるんなよ、カジン」
「あんたの発言に、当てはまる人なんて居ませんよ…。居たら、よっぽどですよ」
小柄の少年が、そう切り捨てて言う。
九乃助は、全身が灰色に染まった。
なんというか、真っ白になっていた。
………………
九乃助が灰になって、しばらくして…。
キエラは、レビンの部屋に居た。
さすがに、昨日のことを重く見たキエラは動かざることを得ない。
「大体、九乃助だって悪気があったんじゃないしー。それに、九乃助をあんな風にしたあいつの親父さんが悪いんだしさー。許してあげなよ」
大人の意見で言うキエラ。
少し時間が経って、気持ちが戻ってきたレビンは彼女の言うことを真に受ける。
「そうだよね…、元はといえば、私が内緒にしてたんだし、九乃助さんが悪いって訳じゃないよね…」
やっと、レビンは九乃助を許す気持ちを持った。
それには、キエラは安堵の表情を浮かべる。
………………
レビンは謝罪しようと思って、九乃助の部屋に入った。
付き添いで、キエラも。
部屋に入ると、九乃助は部屋で体育すわりをしていた。
あの長身の男の言葉に傷ついて。
その傷ついている様を、純太は無言で見つめている。
「あれ、どうしたの?」
と、九乃助の様子について、純太に聞いた。
「今帰ってきたら、こうなってた…」
そう純太は言う。
どうやら、かなり落ち込んでしまっている。
「あの…、九乃助さん」
謝罪に来たレビンが、九乃助の方に近づく。
すると、その足音で九乃助は振り返る。
「…」
振り返った九乃助の顔には、滝のような涙が溢れていた。
そして、ものすごくゲッソリしている。
これには、3人驚く。
「あんた、どうしたの…」
キエラが驚いて言う。
レビンも驚いて、言葉が出ない。
滝のようにあふれ出る涙を流しながら、九乃助はレビンを睨む。
そして、口を開いた。
「お前なんか、嫌いだぁあああああーーー!!!」
そう大声で叫んだ。
同時に、体育座りを止めて飛び出すように駆けた。
その速さは、短距離走の選手のような瞬発力だ。
まるで、嵐のように部屋から去る。
これには、3人は固まった。
もう、どうしていいか、解らなくなった。
しかし、一番ショックだったのは、お前なんか嫌いだーと叫ばれたレビンだと言うことは言うまでもない。
………………
続く…