表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひろ子さんはあいつを論破したい!  作者: 瑠火


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/3

第三話:ひろ子さんは『それ、あなたの感想ですよね?』って言いたいようです。

 朝。しかし、今日は狩りはお休み。土曜日なので、登校する小学生がいない。こんな時は潔くダラダラするに限る。

 ひろ子さん。キングサイズのベッドの上でリラックス。うつ伏せ、枕に顎を乗せ、尺取虫が移動するときみたいにお尻を天に突き上げた姿勢で、壁に取り付けてある、どでかいモニターに昔流行ったらしい動画を再生している。

 今は眠いのかちょっと半眼。よだれを垂らし、全体的にフニャリとしている。


「ふふふ……。……。社会評論家だって……。普段何してんのかしら……。社会の評論とかしてんのかしらね」

 

 明らかにキレがない。ハンターにも休息は必要なのだ。


 動画の内容。これは5年前ほどに流行ったやり取り。取り敢えずひろ子さんは適当に、『論破』と、動画サイトにぶち込んだ。そうすると一番上にでてきた、とある二人の実業家VS専門家二人の議論。


 内容は、『テレワークの可否について』だ。なんでこんな事を討論しているのかは知らない。おそらく当時、割とホットな話題だったからだろう。


 番組は盛り上がりを見せるも、ひろ子さんにとっては退屈。いつ論破するのかしら、なんて。

 しかし、この後のやり取りが、ひろ子さんの脳にドーパミンを注ぎ込む青天の霹靂となる。


 先手は社会評論家。この後、実業家と続く。


『いや、今の時代、オフィスに縛られる働き方なんて古いんですよ。明らかに、カフェとかでノマドワークしてる人間の方が、明らかに生産性もクリエイティビティも上がってると思いますよ』


 


『それ明らかにじゃなくてあなたの感想ですよね?』 



 

『まあ、もちろんそうですけど……(苦笑)』



「……は!」


 ——それ明らかにじゃなくてあなたの感想ですよね……!?——


 ひろ子さん。ガバっと上半身が立ち上がり、目がキラキラと輝く。

 

「私これ使いたい!」

 

 ひろ子さんが下を向き、考え込む。現実世界を舞台とするリアルレスバトラーにとって、この発言は確かにチート魔法のよう。

 

(いやこれ無敵すぎじゃない? これマジで何者も寄せ付けず全てを貫く最強の矛であり盾になりえない?)

 

「…………は!?」

 ——これなら創を論破できるのでは……?!——


 そのままベッドから完全に抜け出し、モニターの前まで駆け寄りガっとフレームを掴むひろ子さん。


「この人すごい! 絶対最強の論破中毒よこの人! 勝手に師匠と呼ばせてもらうわ! 名前は…………」


 ——西村ヒロタカさん……ね……。——


「しかと大脳皮質に刻み込んだわ……! よし! 早速、創の店に予約よ! えーと……」

 創はサイトを自作しているらしい。ちゃんとDBに連動した予約カレンダーが備えてある。ここに予約状況が表示される。

「…………! 空いてる! 土曜日なのに一枠だけ! 奇跡ね! しかも今から!」

 都合がいい。では早速向かおう。

 


■道路。そよ風堂までの道。

 

 歩きスマホをしている男の人。

 イヤホンまで付けているではないか。

 年齢は二〇くらいだろうか。

 何を見ているのか知らないが、駄目だ。外にいるときは周りを確認しなければ。


 俺達のひろ子さんが牙を向く。


「ちょっと。そこのあんた。」

「は、はい? なんですか?」


「何見てんの? それ。そんなに面白い?」


 厄介なことにひろ子さんは面はいい。彼女に話しかけられた男は大体、新手の逆ナンだと都合が良い方に勘違いし、油断しがち。

 

「え、えーっとね。これは果実メロンちゃんっていうVtuberの女の子でね。優しい言葉を投げかけてくれる配信者なんだ。」 


 まさかの同業者。


「ほーん。なにその頭デカそうな名前の配信者。それ、完熟トマ実の方が面白いでしょ?」

「う、うーん。ぼ、僕はメロンちゃんのほうが好きだけど。トマ実って怖いじゃん。絶対ヤバい人でしょ、あの人」


(キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!)


 間接的にひろ子さんはディスられているのだが、彼女にとってはどうでもいい。

 今はとにかく、血が見たい。

 新しい武器を試したくて仕方がない。


「はあ……。あんた」

「……?」

 

スゥ~「それって……。」

 


 ——あなたの感想ですよね……?——

 

 

 時間が止まる。世界に静寂が訪れる。

 そして、時間が動き出した時、青年はかろうじて息をし、返事をする。


「まあ、もちろんそうですけど……(苦笑)」

 

 (勝った!)

 

 どっからどう見ても昔流行ったネットスラングを今更周回遅れで現実世界に持ち込んだレスバ中毒の痛々しい若者にしか見えない。


「よっしゃ! これで有意性は分かったわ! これであんたに用は無いわね!」

「え! ナンパじゃないの!?」


「はーーー!?www 何その都合の良い勘違いそれってあなたの感想ですよね?www なんで私みたいな美少女があんたみたいなもっさい男をナンパすんのよ異世界転生後の世界か!?www 大体なんであんたムダに高いイヤホン使って歩きスマホしてんの!?www なんで外の世界に出てるのに自分の世界に引きこもってんの!?www 意味わかんないんだけど!www それなら外に出てくんじゃないわよ!www それに歩きスマホにノイキャンイヤホンってあんた自殺志願者若しくは異世界転生希望者!?www 周りに迷惑だから外でやんなやカスたれが!」


 トラックに轢かれたかのような衝撃を青年を襲う。

 周りに迷惑なのは、どっちなんだろうか。


「は、はい……」


 しかし、欲が満たされればそれでいいってことでひろ子さんは構わず突き進む。


「よーし。行くわよ。そよ風堂に」

 


■そよ風堂

 


「創! 来たわよ!」

「おう! よく来たな! ひろ子。腰の調子はどうだ?」

「そんなもんブリブリに快調よ! さあ! とっとと私の腰を見なさい!」


 あのシビレエイ事件から数日、ひろ子さんの腰は凄まじく快調。狂った民間療法だったが、一定の効果はあったようだ。

 つまり、実はここに来る用事はないはずだったってことだ。   

 

「よーし、前屈して……。いいね。背屈もイケてるな」


 創は油断しまくってる。今しかない。

 罠を撒け。そして最強の矛で貫け。


 

 奴の心臓を。

 


「ねえ、創。あんた、きのこの森たけのこの砂漠ってあるでしょ。あれどっちが好きなの?」

「あー? 俺はそうだな……」

(フフフ! どっちも罠よ! 晒しなさい! 無様に! あなたの感想を!)


「俺は……。」


「たけのこの砂漠は、生地にショートニングを含むクッキーを採用している。これにより、唾液と混ざった際の生地の溶解度が、コーティングされたチョコレートの融解速度と完全に一致する。このテクスチャーの一体化は、食品工学的に非常に秀逸だ」


「……ん?」


「クッキー生地に含まれる油分と糖分の同時摂取は、脳内の報酬系を最も強く刺激する黄金比率で構成されている。よって、摂取時の快楽指数のデータはこちらが上。だから俺は好んでこっちを食べる」


「……」


(こいつ情報で飯食ってるタイプの人間だ!)


「あんたって、自分の味覚とか信じない派?」

「ああ、そうだな。自分の感覚より、データを信じているぞ! 俺は」

(やばい。マジのサイコパスだわこいつ)


 とある人気漫画の名言で『ヤツらはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ!」』っていうのが有るが、ある意味創はこれの進化版。論文を読んで味を感じる共感覚の使い手だ。


(……。コレ全然あなたの感想じゃないわね……。くっそデータに基づいてるし)


「な、なら犬と猫なら絶対に猫の方が可愛いに決まってるわよね!?  あんたはどっち派よ!」


 「『可愛い』という抽象的な概念ではなく、内分泌学的な相互作用のデータで答えよう。犬と人間が見つめ合った際、双方の脳内で分泌されるオキシトシンの増加率は約300%に達するという研究結果がある。対して猫は、ゴロゴロという喉の音が20〜50ヘルツの低周波を発し、これが人間の骨密度を高め、組織の修復を促す副交感神経へのアプローチとして医学的に有用だ」

「よって、精神的安定を求めるなら犬、物理的な自己治癒力を高めるなら猫という『用途』で切り分けるのが最も合理的だ」


(いやもう普通に答えてくんない?)


「じゃあこれは!?  目玉焼き!  絶対に醤油一択よね!?  まさかソースとか言わないわよね!?」


「分子ガストロノミーの観点から言おう。卵黄の主要成分である脂質に対し、醤油に含まれる豊富なアミノ酸は旨味の相乗効果を生み出す。しかし、目玉焼きの加熱によって生じるメイラード反応の香ばしさを引き立てる点においては、ソースに含まれる数十種類のスパイスと揮発性の酸味が、嗅覚受容体をより強く刺激する」


(何の話ししてんのよこいつ。何? 分子ガストロノミーって?)

 分子美食学のことである。普通に生きていたら知ることはない。

 

「つまり、卵液の凝固温度が何度であるか、そして白身のクリスピーさをどこまで追求したかという調理工程の物理変化によって、最適解となる調味料は自動的に決定される。そこに個人の介入する余地はない」


(なんでこいつ目玉焼きごときにこんな執着してんのよマジで)


 この後も様々な罠を投じるも、創は全て避けていく。

 次第に焦りだすひろ子さん。

 

(なんで……?! なんでこんなにも使い時が見当たらないの……?!)

 

「……は?! もしや……!?」

 

 ——これ、あなたの感想じゃない時は、使えない……!?——


 そう。つまり、客観的なデータを用いられたらどうしようもない。

 まともな議論の場にいる論客なら、そもそも主観的なデータを用いることなんで無いのだ。

 

(いやでも犬と猫どっちが可愛いかくらい普通に答えなさいよ)


 まあそれはそう。


(ええー、また私、負けるの!? 嫌なんだけど! こうなったら……)


「創!」

「な、なんだ?」

「あんたの感想を言いなさいよ!」

「え?! どういう事?!」

「さっきから客観的なデータばっかり言って! 私はあんたの意見を知りたいの!」

「いやー、そんな事言われても……」


 ひろ子さんが創の正面に立つ。すると自然と上目遣いに成り、彼の顔を半泣きで覗き込む一人の少女となる。

 

「なら私は!? 今日のワタシってどう!?」

「何だよそれ! どんな質問だよ!」

「良いから答えなさいよとっとと!」

「えーじゃあ……」



 


「今日も可愛いと思うぞ! いつも通り!」



 

「え?」


 朝にも時間が止まっていたが、あの時とは違う。

 なんかとっても、ピンクい雰囲気が時計の針を巻き戻しているかのような錯覚に陥る。


(そ、それって……)


 ——あなたの感想ですよね……?——


(……駄目! 言えない! これ『あなたの感想ですよね?』封じでしょ!?)


 確かに。ひろ子さんは「あなたの感想ですよね?」を通じて論破がしたいだけなのだ。


(でもこれ論破しちゃうと私が可愛くないってことでしょ!?)


 自身の否定につながる。こんなパラドックスがあったような。

 

(あーもう! 何なのよこいつー!)


 ひろ子さんがポカポカ創の胸を殴る。

 

「痛い痛い……! 何すんだよー」

「うっさい! 死ね!」

 

 暴力は禁止。なのでひろ子さんの負け。

 また論破できなかったようだ。

実質付き合ってる二人が「AI作家クソくらえ!」って叫びつつ書籍化目指しながらイチャイチャするラブコメ

https://ncode.syosetu.com/n0632mn/


こっちもよろしくです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ