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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
86/144

86 儀式① 魔女を捕まえろ

光の魔女を救い、船を直したクレア。

人ごみに紛れ、部屋へと戻るもそのまま気絶するように眠ってしまった。

目覚めると、そこには……

「クレア君、起きたようだね」


 目が覚めると、椅子に座ったエレノアがまだ顔を出したばかりの朝日を横に受けながら話しかけてきた。


「はぁ……。いつっ。おはよう、エレノア」


「やぁ、おはよう」


 少しだけ足を広げて座っている。左右の膝にそれぞれ肘をのせ、前のめりになって組んだ手で顔を支えて、顔の右半分で朝陽を目一杯に受け止めている彼女はいたって真面目な顔だ。顔には血の乾いた後。神妙な面持ちでさらに問いかけてくるエレノア。


「どうしよう。死とは何か? 今、私のしこ……思こ……頭の中では『死とは何か』という疑問が答えを探せずに、まるで夏の岩の上で踊るサカサドリのようだ」


 サカサドリとは寝るときに仰向けに寝る鳥。でも、頭の模様が上下一緒なのでどっち向いてるかわからない可愛い小鳥だ。夏の熱くなった岩に下りてきたサカサドリは「あつい、あつい」と言わんばかりに片足ずつピョコピョコジャンプしながら地面に下りる。だったら、岩に乗るなよ!と、突っ込みたくなる滑稽な風物詩。彼女は何を言いたいのだろう。顔についた血が気になる。


「あの、エレノア? 顔に血が……」


「血? ああ、これか。大丈夫。クレア君も同じ状態だから。それよりも、死とは何か? 果たしてあれは死に別れなのか? いや、生き別れか? 私は今、眠ることが出来ないのだよ、クレア君」


 寝起きなのに。太陽が起きたばかりの朝早い時間なのに。頭は冴えている。それは当然。昨日は戦いの後、人ごみの中を歩いて部屋に戻ってそのまま倒れた。記憶がないほどに。


「そりゃ、そうよ。私たち大分寝てるわよ? むしろスッキリ起きてるじゃない。って、あ、ほんと! ベッドが血だらけ」


「落ち着きたまえ、クレア君。ああ、答えが欲しい。あれは死に別れなのか、生き別れなのか」


 今朝はやたらとテンションが高い。ぐっすり寝れたんだろう。それにこの口調。元々、本を読んでは物語に出てくる登場人物に影響されやすいエレノア。船に乗ってからは新しく「劇」というものに夢中だ。時折、舞台用の被り物を拝借してくる。そういえば、昨日のモジャモジャどこにいったっけ……。


「それって、アルのことを聞いてるの? エレノア」


 エレノアが上体を上げた。右腕を窓枠にのせ、海の外を見ながら微かに髪を躍らせている。やたら演出がかった位置取り。朝から椅子の配置に気を配ったんだろう。私を起こさないように……。そして、思わせぶりな表情。文字通り遠くを見つめる彼女はゆっくりとクレアに振り向き、


「そうだよ。アルの魂は新しい肉体へと戻るそうじゃないか。さぁ、教えてくれ、クレア君! あれは『生き別れ』かっ!? それとっも、『死に別れ』っか!?」


 そう言われると確かにそうだ。たまに出すエレノアのなぞなぞみたいな疑問。今日は絶好調だ。

クレアはシーツについた血を気にしながらベッドの上で足を組んで考えた。


「うーん……。――、生き別れじゃない? だって、アルは死んだけど、今も魂はそのままどこかで生きてるんだから、生き別れよ。それより、昨日そのまま寝ちゃったから、これ! ベッドも顔もすごいことになってる。そうだ、お風呂いきましょ? こんな時間ならだれもいないし、ね?」


「死んだのに、生き別れ。生き別れなのに、死んだ。これは魂に問いかける永遠のなぞなぞさ」


「そうね。魂の再会を望んでるわ。それにいる場所がわかってるんだから、べつにいいじゃない」


 引っ張られるエレノアが、ハッとした顔でクレアを抱き寄せた。


「痛い、エレノア。あはは、今朝は元気ね。この後、変な時間に寝ないでよね」


「クレア君! 魂の再会! そうだよ、なんかグっときたよ」


 魔女の力を発揮して、船を直して一晩。クレアとエレノアは静かな船の中を誰にも会わずにこっそりとお風呂へ向かった。エレノアの演技も終わり、二人は服を脱ぎお風呂へと飛び込んだ。クレアが服を脱いでいるとき、エレノアは彼女の体をなめまわすようにチェックする。


「やだ、エレノア。くすぐったい」


「いやいや、だってさ、また戻ってるか違うところにあるかもしれないじゃん? あの文様。ほんとに消えちゃったね」


「ね。あったら不安だったけど、せっかく街の魔女に聞こうと思ってたのに無くなったから聞けなくて残念だわ。なんか、複雑ね」


「クレアの綺麗な肌に戻ってよかったよ」


「私、あの文様ちょっと気にいってたんだけどな」


「さぁ、お風呂! お風呂!」


「あ、待って」


 二人は湯船につかりゆっくりと体を癒した。案の定、エレノアはお風呂で二度寝を始めた。朝のテンション、あれは何だったのか? クレアは彼女と縁の間にタオルを挟み、隣でのんびりと静かな時間を過ごした。彼女の頭の傷を見つめ、自分の傷をそっと指で触り、昨日の出来事を思い返しながら――。


 

 ――、一方で二人のいなくなった部屋では。


「あ、こら、開けるなよ!? 中に居たらどうするんだ? 逃げられちまうぞ」


「おい、居ないぞ!? どこ行った!?」


 二人の男が彼女達の部屋へと忍び込んでいた。何を盗むでもなく、ただ二人を探している。顔を見合わせると、困った! という顔で急いで部屋から出て通路を走っていった。


「どうしよう。早く捕まえなきゃ」


 そう言いながら走って別の部屋にたどり着いた男二人。扉を開けると、そこには台に乗ったいかつい髭面の男性が腕を組み仁王立ちしている。口にはパイプを咥え、部屋に入ってきた二人を睨む。


「おい、手ぶらじゃねぇか」


「すいません! 親分。すでにもぬけの殻で」


「あんだと!? バレたのか?」


「いや。荷物はそのままだったし、ベッドは血だらけでしたけど……」


「血だらけぇ!? ハハハ、馬鹿野郎! 手負いなのに、捕まえられねぇわけがねぇ。それと、これ、見られねぇように目隠しするんだ。いいか、バレるんじゃねぇぞ」


 男二人は台に乗った親分に敬礼をすると、すぐにまた部屋を飛び出し走って行ってしまった――。



 お風呂のクレアとエレノア。


「ふああぁ。あ、眠っちった」


「おはよ、エレノア」


 クレアは微笑みながら湯につかったまましばし眠ったエレノアに声をかけた。ちゃぽちゃぽとお湯の音がするなか、エレノアの耳がぴくぴくと動く。


「ん? なんか、ちょっと、騒がしい気がする」


「そりゃそうよ。だって、昨日は船が二つに割れて、それが元に戻ったのよ。私たちってば、逃げるように部屋に戻ってそのまま寝ちゃったんだもの」


「そうだっけか? あんまし覚えてないや。無我夢中でさ」


「私も……。なんか、全力出し切ったって感じ。でも、すごいスッキリしてるの。ぜーんぶ、出し切ったって感じよ」


「そりゃそうだよね。すごかったんだから。クレアの腕にさ、クルクル回る文様が浮いてたんだ。そんで、白く光ってドーンって!」


「あはは。なんか色々省いてるけど、わかりやすいね」


「そんでそんで、ぶわわわーって! 木がニョキニョキって生えてきたんだよ。知ってる? 途中で羊が枝につかまったまま上空に登っていったんだ。あんときは夢中に見てたけど、今、おも、おも、思いだしたら、あは、あははは」


 二人は昨日の事をいっぱい話した。笑いながら、今までに感じていた不安を取り除きながらクレアは最後に言った。


「私、魔女だってバレちゃったね。魔女になりたくない。魔女じゃないって言ってたけど……。私の眼が光ってるって言ってた。そうなの?」


「あいつら……、クレアのこと知ってるのにどうしてあんなこと言ったんだろう。それに、物を投げてきたやつら。普段はあんなことしないと思ってたのに。クレアの眼が光ってたかどうかはあたし達からは見えなかった。見えたのはクレアの背中と……。そうそう、マジで怒ってた時さ、髪がフワフワ浮いてた。風かなぁ?」


「怒ってた?」


「覚えてない? もう、皆静まり返ってさ、怖がってたよ。下向いてたクレアが顔にさ、皆が思ってたね。『顔を上げたら怒られる!』って。あたし、お母さんを怒らせた時を思い出すね。背中越しに怒りを感じるってやつ」


「あはは。それでよくそのまま窓から飛び出して逃げて、追いかけられてたよね」


「へへん。察知能力ってやつよ」


「ノラを怒らせるからじゃない。悪いのはエレノア……。悪いのは……」


「どうしたの?」


「ううん。何でもない。エレノアはあの人たち嫌い?」


「嫌いも何も!」


 エレノアは、さも傷を見ろ! と言わんばかりの視線とほっぺたを作り出してクレアを見る。クレアは頷きながら「ふぅ」と手を伸ばし頭を後ろに天井を見上げながら彼女に、


「多分、あの人たちは不安になっただけだと思う。わからなくて、怖くて、不安で、耐えられなくて、怒って、嫉妬して、嫌悪して、軽蔑して……。そういう感情がいっぱい流れ込んできた」


「何でクレアにそんなこと思うかね」


「うふふ。でも、よかった」


「何が?」


「皆、無事だった」


「まぁ、魔女を運んできた五人は死んじゃったけどね。あいつら人間だし、これは本当の死に別れだね。もう、会いたくないけど」


「あの人たち、少し変わってた。何か独特の、嫌な感じじゃないんだけど、何か違うの。おかしい。何かおかしかった」


「え? 変な奴ばっかだったしな。おかしいのは当然として、アリってやつは怖かったよ」


「そうなの? 私はすれ違っただけ」


「それとレカンタ。名前を口にするのもむかつく。あいつのせいでアルが……」


「そうね。でも、生き別れでしょ? また、会えるじゃない。それに約束もした。なんで十七歳なのかな?あと三年くらいある」


「まぁ、それまでにいい女になってやろうよ。『やぁ、エレノア。なんてこったい、冷静なおれでもおったまげるほどの美人になったじゃないか。まるで大人の女だ。イヴァーナの再来だ』って言わせたいね」


「あははは。変な声。そんな声じゃないし、そんなこと言わないでしょ? その頃には私たちも立派な大人ね。本当に……心も体も大人の仲間入り」


「イヒヒ。あたしはもう大人だけどね」


 クレアはエレノアに振り返る。


「それは後でどうにかするとして、ウッドエルフは記憶のないまま生まれ戻るじゃない? その代わりに物語があるって。アルはエルフよ? どうなるのかな? 記憶はそのまま? それに、そうだとしたら彼は何年くらい生きてるのかな?」


「んー……。二百年くらい? 人間が七、八十ですごいほうだから、数回生きてるとして、二百年ちょっとくらい?」


「もっとじゃないかなぁ。きっと三、四百年よ」


「うへ、すっごいな。そんなに長い間何をするだろ。あたし、よぼよぼになったら何しよう」


「あはは。エルフはよぼよぼにならないじゃない」


「ぐうぅ。根本的に違うのか。くそう」


 二人はその後も他愛もない話を続けた。今までの人生の中で一番長い風呂だ。そして、のぼせた。


「あっつぃー」

「はぁはぁ、話過ぎたね……朝から」


 二人は木の床に寝そべり、大の字で涼んでいる。外から聞こえるのは波の音。ギギギギとわずかに軋む船の音。乗り慣れた今ではその音が聞こえる度に、海が優しく船をあやしてるように感じる。再度、エレノアが耳をピクピク動かすと、


「やっぱり、なんだか騒がしいな。ん? あたし達を探してる?」


「え? そうなの?」


 休んでいた二人はこっそりと浴場の扉に近づく。エレノアはいつものように、クレアもそれに続いて二人とも裸のまま扉に耳をつけて外の様子を伺った。


「おい、いたか!? どこに消えたんだ? あの二人を捕まえないと。魔女のクレアは飛んでったんじゃないか!?」」

「おいおい、まさか。魔女が飛ぶのは子供用の話の中だけだぞ。それにここは海の上。逃げるとこなんて限られてる」


「ちょっと、女を呼ぼう。まさかとは思うが……風呂場にいるんじゃないか? ここはまだ調べてないぞ」

「そうだな。誰か連れてこよう」


 外から聞こえた男二人の声。ダダダダと遠く離れていくのが分かった。クレアとエレノアは眉をひそめながら会話する。


「やっぱり、魔女だから……私、探されてる。捕まえてなにをされるんだろう?」


「閉じ込められるのかな? は!? もしかしたら、海賊達のように海に放り込まれるのかもしれないよ」


「え!? ああ、あれね。黒髭と白髭の海賊の物語。たしか、目隠しされたまま長い板を歩かされて、海の落ちるのよね」


「そそ。そんで、鮫の餌になるんだ。しかも、鮫がいなかった時の方が最悪。その時は上から樽に入った油を注がれて、船長がこう言うんだ。


『おう。この船には船長が二人。だから、処刑方法も二通り。だけど、俺のほうが慈悲深い。どうしてかわかるか? これだよ。あの世でパイプを吸えるんだ。ありがたく思いな。ハハハハハ!』


ってね。で、投げ込まれたパイプでドカン」


「バカよね。船もろともボロボロになって皆溺れて、無人島編へ行くってやつ」


「そういえば、あれまだ読んでないな。あのあと、どうなるんだろ」


「そうね。気になるわ。って、それどころじゃないじゃない!」


「おおっと、そうだ。あ、クレア、先に服着て、どこ行くのさ」


「早く隠れなきゃ。でも、その前に傷の手当てしたいわ。このまま海に放り込まれる前にね」


「医務室に忍び込もう。すぐ近くだ。あそこの人ならかくまってくれるよ」


「行くわよ」


 二人が服を着て、こっそりと医務室へ向かうといつもいるはずの先生が居なかった。ふくよかな女性でおっとりしてる。優しいお母さんって感じの人だった。エレノアは何度か来たことがあるので、傷を治すのに必要な物がどこにあるのか知っていた。二人は頭に負った小さな傷を治すとすぐに医務室を出て、また通路をコソコソと歩いて部屋に戻っていった。いつもなら人が移動する時間なのに、今日はやけに少なかった。クレアが部屋の直前でボソッと言った。


「人、少ないね。どうしたんだろう? 魔女の私が怖くて、みんな外にいるのかな?」


「まさか……。まさかね……」


 外からは人の気配がするのに、船の中にはほとんどいない。二人を探し回っている人たちだけだ。部屋に戻ると、荷物を整理し二人は身構えた。


「海に放り込まれたら、一生懸命泳ぐから。このバッグ。意外と浮くのよ」

「あたしだって、泳ぎながら、釣りして、料理してやる。いや、待てよ? 刺身でいいのか?」


 トントン


 扉を叩く音。キィと静かに開くと、そこには見慣れた顔。隣室のバルタだ。バタバタと何かあわただしい二人に気づき、部屋へと訪れる。


「おはよう。二人とも。よく眠れた? どこかへ行ってたの?」


「おはよう。うん。ちょっとね」

「おはよ。ちょっと、早く閉めて」


「ん? そうだ、エレノア? ちょっと、こっちきてくれる?」


「ん? どうしたのさ?」


「いいから、あ、クレアはそのままでいいよ。そのまま、そこで待っててすぐ戻るから」


「え、うん」


 扉を開いたまま部屋に入ってこないバルタが手招きでエレノアを呼ぶと、そのままパタリと閉めどこかへ行った。数分もしないうちにまた扉が開く。


 キィィ


「バルタ? エレノアはどうしたの?」


「え、あ。うん。あっちで待ってるよ。クレアもこっちきて」


「うん」


 クレアはバルタに呼ばれ、一緒に部屋を出て通路を歩く。角を曲がると前を歩いていたバルタが両手を握ってきて振り向き言う。


「クレア? 暴れちゃだめよ」


「え――」


 突然、視界の奪われたクレアは両手を強く握られたまま、誰かに縛られていくのが分かった。頭には目隠しで何かを被せられた。見えないだけじゃない、くさい布袋だ。とても、臭い!


「いや、何をするの!?」


「しー、しー。すぐ終わるから。大丈夫。エレノアはもう先に言ってるから。船長の判断よ――」


 クレアは静かな通路を目隠しされたまま、バルタと謎の男二人に連れられて階段をたくさん上り、高い、風通しのいい場所へと案内された。


 ザワザワ


 ザー


 ギシシシシ


 聞こえるのは風の音と海の音、それに船の音。肩がぶつかると同じように目隠しをされているのか、エレノアが尻尾でお尻の方を確認してくるのが分かった。すぐに手を握ってくると、クレアもその手を握り返した。そしてエレノアが言う。


「あたしは、息をいっぱい吸ってから飛び込むよ」

「わかった。私もそうするね」


 背中からは、風に乗ってパイプの煙の臭いが漂っている。

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