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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
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85 約束⑬ クレア!

 闇夜、船に響く大きな音。ドボン、ドボンという音に加えて、軋みバキバキと折れるような音が鳴り響く。そのほとんどがアルフォンスの作り出した氷塊が奏でる音だったが、船の上にいる人たちには関係のないことだった。船が破壊され、沈む。ただその事実だけが襲い掛かる。


 光の魔女を取り囲んでいた黒いモヤは船体を分断するほどの破裂で飛び散ってしまった。船体は割れ、マストも折れて何本か海に落ちかけている。二つに割れた船体のどちらに留まっても結果は同じだ。だったら、エルフと少女たちのところへ。


 ただそれだけの事。一人が歩けば、別の人もそれに続く。誰かが話せば、それは伝わる。小さな一言は、誤解されても理解されることはない。そしてすぐに伝播し、群衆を間違った方向へ導く。


 クレアはたくさんの人たちが集まる中、アルフォンスの力を借りて、自身の魔女の力で船を直そうと必死だった。集中して、目を開けた時に彼女の異変に気づいたのは正面にいた群衆のみ。誰かが口にすると、瞬く間に広がる。


「魔女だ。魔女の眼だ」

「あの子が魔女になった。黒髪の子。魔女みたいな髪をした子だ!」

「魔女が生まれた! 新しい魔女が生まれた!」

「魔女だ、殺されるぞ! 逃げろ」

「どこに逃げるんだ! 殺せ……だったら殺せ!」


 恐怖、不安、怒り、憎しみ、嫌悪、殺意……。

 それはまだ群衆の中の一塊に過ぎない。クレアは気づかずにひたすらに船を直そうと頑張っている。


「んんんん!!」


 細い枝が何本,何十本と増えていく。伸びてお互いを掴み引っ張り合う。けれどどんなに集まろうと船を支えるだけの力には到底及ばなかった。それでもないよりはマシ。波で揺れなければある程度は持っただろう。エレノアが膝枕でアルフォンスを支えながら、頑張るクレアに声援を送った。


「クレア。頑張って! 伸びてる! いいよ! すごいいい感じだよ!」


「でも、これじゃ全然だめみたい……いいいい!」


 もっと、もっと力が欲しい! 全然足りない。このままじゃ皆が死んじゃう。船を元通りにしないと、このままじゃダメ!


 クレアがどんなに頑張っても、細い枝が増えても、割れる船体を気持ち程度に留めるのが限界だった。ただ、これでは彼女が少しでも力を緩めればたちまち船が沈んでしまう。港に着くまでもつはずもない。顔を赤くしながらも一生懸命に船体同士を引っ張っていた。そして、一人の男がクレアの顔を覗き込んだ。近寄るでもなく、警戒しながら彼女の顔を、眼を覗き込むために近寄ってきた。


 エレノアは、なんだろう? 応援しにきたのかな? 手伝うのかな? そういう気持ちで近づく男を見ていた。さすがのクレアもその彼に気づき声をかけようとする。ただ、彼らの安全を約束しようと――しかし、


「うあ。やっぱり、魔女だ! この子魔女だ!! 森の魔女だぞ!!」


 腰を抜かして逃げる男。群衆の中に引っ張られると、別の声が聞こえた。


「あの子よ。あの子がこの船を壊してるのよ! 早く殺して!」

「馬鹿野郎、魔女を殺したらあの子みたいに魔女になっちまうぞ」

「魔女め! どっかいっちまえ!」


 独り言から会話へ、会話から議論へ、議論から罵声へ。そして、何かがクレアに投げつけられるとエレノアが怒りを露わにしてるのがアルフォンスにはわかった。ワナワナと震え握りしめた拳。立ち上がろうとする彼女を止めると、クレアの悲鳴が聞こえた。


「きゃぁ」


 投げつけられた板が彼女の頭にぶつかり彼女に血を流させる。さすがのエレノアも声を大にして叫ぶ。


「ふっざけるなぁ!! クレアは魔女じゃない! それに、魔女が壊した船を直そうと必死頑張ってるんだ!」


「魔女じゃない? どう見たって魔女だろう! あの眼、それにあの腕の文様。よくよくみたら魔女みたいにまがまがしいじゃないか!」

「自分で壊しておいて、直してるんじゃないのか!? ふざけるな」

「その子も仲間だったんだろ!? そうだ、こんなところに魔女が出ること自体がおかしいんだ」


 皆がクレアに罵声を浴びせ、大小さまざまな物を投げ始めていた。それでもクレアは彼らを助けようと必死に船をつなぎとめていた。もしも、この手を止めたら船は崩れ沈んでいくだろうから。


 どうして? どうして私は皆に恨まれてるの? 魔女じゃない。私は魔女じゃない。ワタシは……。


 泣きそうなクレアは声を飲み込みながら痛みに耐え、悲しみで震える手を無理矢理に床へ押さえつけることでどうにか作業を続けていた。淡く光っていたクレアの瞳は次第にくすんで、輝きを失っていく。そして、腕の文様が少しずつ大きくなっていった。まるで何かの仕掛けが動くかのようにカチャカチャと組み合わさっていくかのように。


「おい、見ろ! 眼が、眼が光を失った!」

「いやああ! 闇の魔女だわ」

「魔女に変わったんだ! 本当の魔女になった!」

「殺されるぞ! 早くアイツを殺せ!!」


 ちがう、チガウ、チガう、チがう、ちがウ!

 ワタシは魔女じゃない!

 私は……ワタシは……


 クレアは彼らの感情をその身に受けている。エレノアは相変わらずアルフォンスに腕を握られたまま、大声でそんな人たちに罵声で応えている。


「お前らなんか死んじゃえばいい! ふざけるな! クレアがどんな思いで、クレアがお前たちにしたこと、クレアのことをお前たちだってよく知ってるだろうがぁあ!!」


 だめ、エレノア。怒らないで! 私も……。


「おい! 死ねって言ったぞ! 俺たちを殺す気だ!」

「やっぱり、あいつら仲間だったんだ」

「お前らのせいだ!」


 彼らの矛先がエレノアにも向いて行く。物を投げつけ「やめろ」「死ね」と叫ぶ人達。そもそもやめたらお前たちが死ぬんだ!と内心思いながら、クレアと同じように耐えている。アルフォンスが命を懸けて船を直すために魔法をかけたのに。


 どうして、どウして、どうシテ!!


「痛い!」


 エレノアの声が響く。彼女にも硬いものが投げられ頭にぶつかると血が流れた。そして、クレアの中で何かが生まれた。


 フザケルナ

 いい加減にシロ!


 群衆が投げつける様々な物。それらが一瞬にして床から生えてきた枝に掴まれ抑えられる。「ヒイィ!」と叫ぶ者たち。クレアは全く動かずに下を向いたまま作業を続けていた。ただ、彼女には黒い影が渦を作るように集まり始めている。


 目を瞑って痛みに耐えていたエレノアが恐る恐る片目を開けると、床から伸びた沢山の細い枝が物を掴んで留まっていた。静まり返った人たち。静かにうごめくクレアの黒髪と空気。


 床に伸ばしたクレアの両腕は、文様のあった場所から手の先までが黒くなっていた。風もないのに黒髪がゆらゆらと揺れている。皆がクレアが顔を上げるのを畏れた。


 アルフォンスの作り出した氷塊が全て崩れ落ちた。一気に船が分離し始めると強くなった彼女の太い幹がガシ! ガシっと船と乱暴に掴む。彼女の手にも力がみなぎっている。

ちぎれては掴みなおして崩れる速度と勢いを軽減している。分離した船体のこちらと向こう、両方に人がのっている。


 クレアは黙ったまま作業を続けている。しかし、彼女に黒い影が渦巻くように集まるのを見ている人たちは動けないでいた。動いたら殺される。喋ったら殺される。下を向いている少女に見られている。起き上がる直前。振り向く直前。誰しもが感じ取っていた。そう、圧力を受けていた。畏怖と警戒、沈黙の雰囲気の中で震えながら静かに見守る人達。今も黒い影がクレアに集まり渦を作っている。仰向けに休んでいたアルフォンスが胸を抑えながらエレノアに肩を借りて立ち上がる。


「エレノア、肩を貸してくれるかな。ちょっとクレアのところへ」


「うん」


 ゆっくりとクレアに近づく二人。歩を進める度に、クレアの出した枝が二人を避けて歩く方向に道を作っていた。まるで草原のように生えた枝には葉などなく、魔女の森の枝そのものだった。背後から近づいたアルフォンスがクレアの横で膝をつく。彼がしゃがめるように枝を折りたたんで座布団のようになっていた。「ふぅ」と小さく息を出してからクレアに言った。


「クレア? ほら、しっかり前を見てごらん――


 ――、見逃しちゃうぞ」


 まるで上から、下から、木の中から皆を見ている。そんな風に俯瞰しているかのような状態のクレア。隣にきたアルフォンスの声が、懐かしい女性の言葉と重なるように意識の中に響いてくる。彼女は閉ざしていた感覚を開き、前を向く。それは視覚的な意味だけではない。


 顔を上げていく中で、お父さんの言葉も思い出していた。


 『いいかいクレア。どんなに泣きたい時でも決して目を逸らさず、前を向いているんだよ。真実は変わらない。でも、あきらめちゃだめだ。目を逸らさずに見ることで気づけることもある。それはみんな違う事。クレアは何を見つけるのかな』


 彼女の開かれた目は、少しずつ目の前の人たちから、少し離れた人たち、その他の色々な人たちへと向けられる。目だけではない、耳も彼らの言葉へとしっかりと傾ける。すると一人の女性の声が聞こえた。


「クレア、がんばって!!」


 とても懐かしく聞こえた。そしてよく聞くとそれだけではない。


「クレアー! がんばれー!!」

「クレアなら出来るぞ! 光の魔女なら俺たちを助けてくれるんだろ!」

「クレア! 負けるなぁ!!」

「そうだ、そうだ! クレアのこと、みんなよく知ってるだろ! あの子なら俺たちを助けてくれる!」


 クレアに罵声を浴びせていた人たちとは別の群衆。もちろん、その中にはバルタやジーゴやジュプンにラニとエガシ、商人の人たちや調理場の人たち、船員のみんなや船に乗ってからずっと一緒にいる人たち、アニムは全員が手を振って声援を送っている。

船に乗っている数少ないドワーフも、伸びる枝の横で一緒にくくりつけたロープで船を引っ張ろうとしている。

警備のラヒトとレヌトは違う意味でクレアに罵声を浴びせている。


「おい! クレアー! ぼさっとしてないでもっと頑張れ!」

「おい! クレア! たったた、あっぶねぇ、はやく! もっとふんじばってくれぇ!!」


 もう片方の船にいる人たちに至っては、クレアを信じて声をそろえて応援してくれていた。彼女にはそれが聞こえていなかったのだ。


「「「がんばれクレアーー!」」」


 アルフォンスがクレアに言った。


「ここからが君の本当の力だよ。さぁ、その想いを」


「うん。ごめんなさい。私、もっと頑張る」


 クレアに渦巻き集まっていた黒い影がいつの間にか消えていた。彼女が再度、胸を膨らませ大きくい息を吸い込み、床に手を付けた。すでに手を付けているのに、その先に行く感覚だった。奥深くへ――


 クレアの広がった文様で黒く染まった手が段々と元の文様に戻っていく。さっきまで回転していた方向と逆回転になり、ドン! ドン! と空中に現れ数個ほどに分かれた。

アルフォンスはそれを不思議そうに観察していた。見たことのない文様、見たことのない力。少しだけそれを理解できたが正しいのか? 確証はないけど、これは――。


 次第に離れていく船をクレアは新しい枝で掴みなおした。お互いを掴みあっていたのではなく、断面から断面へ、枝や幹が貫通していく。


「あわわ」

「おわわ」


 双子のアニムの警備員。レヌトとラヒトが驚く。他の人たちも今までと違う流れに少し離れる。二つに割れた船体が一度固定された。波で揺れて危うくはあるが、固定はされた。断面からは羊が鳴き声を上げている。


「んんんあああああ!」


 クレアが歯を食いしばり力を入れている。両腕をグルリと一周、空中でクルクルとまわる文様が次第に高速回転を始める。ビキビキと音を立てながら船を引き寄せるクレア。ブチブチと消える枝や幹ではまだ若干負けている。


「がんばって、クレア!」


 すぐ近くの群衆からも声援が聞こえた。以前にマストで出会った少年だ。「おいこら」とその日に会った船員のおじさんも一緒にいた。


「ほら! だから言ったじゃん! クレアは船を直せるんだ! クレア! がんばれー!」

「おう! がんばれー!」


 そして、声援が広がっていく。両方の船からクレアに向けて、全容がつかめない人は直そうとしている人に対して、もしくはこの枝の魔法に向けて大声援を送っている。


「がーんばれ! がーんばれ! がーんばれ!!」


 ちぎれては掴み、生えてはもう片方に行く枝。クレアの回転する文様が次第に光を放ち始めると、白くなり彼女の踏ん張る声と同時に船全体へと広がった。


「んんががががあああああーーーっ!!!!!」


 アルフォンスは死ぬ前に彼女に出会えてよかったと思った。こんなことは初めてだ。長いこと生きてきて、こんな所業は見たことがない。不思議なことだらけ。彼女の力は魔女から貰ったものなのだろうか? 目の前に広がる光景はそういうものなのだろうか?


「うわあああ」っという驚きの声が響く中、クレアの最後の踏ん張りは思いのほか威力がすごかった。船は繋がり、マストが生えている。彼女の把握したとおりに船は元通りになった。一気に伸びてくる太い枝や幹に驚き慌てる人たち。不思議と枝は人にぶつかることなくうねりながら伸びていく。落ちそうになった人や羊を掴まえながら、折れたマストの代わりに同じ形の大木を生んでいた。そして、全ての気に葉や花が咲く。突如として生まれる樹木、一気に成長し、船となり、森となった。その光景に皆が歓喜し、安堵し、喜んだ。


「やったーー! すごいやクレア!」

「やったぞ! 船がくっついた!」

「俺たち、死なないんだ!」


 巨大船『海の羊』は今、たくさん木の生えた森の船へと変貌していた。最後にはポン!っと花が咲き乱れていたが「ふぅ」っと腰と手を着いたクレアには花の色と輝きがアルフォンスのそれと同じことに気づき、あまり素直には喜べなかった。踊り喜ぶ人たちをよそに、エレノアがクレアに抱き着いてきた。


「すごい! すごいよクレア! あはははは!」


「よかった。これで安心ね。疲れちゃった」


「クレア? それ……」


「あ!? あれ!? 消えちゃった」


「あ、ほんとだ……。なんだったんだ?」


 気づくとクレアの腕からは文様が消えていた。元の真っ白で綺麗な肌だ。アルフォンスはそのことに「やっぱりな」と一人で納得し頷きながら、静かに寝そべっていた。横ではクレアとエレノアが称え合っている。エレノアがふと寝そべるアルフォンスに、


「ちょっとアル! そのまま消えないでよ。なんか、さりげなく消えそうな雰囲気」


「あはは。バレたかな? 疲れてしまってね。でも、最後にいいものが見れた」


「ありがとう、アル。貴方のおかげね。私、今までに感じたことのない所にいた。でも、アルのおかげで戻ってこれた。それに、あの一言。色々な人に言われてた大事なこと。意外と忘れてしまうものね」


「助けになってよかったよ。正直、君の力には驚いているけどね。話したいことは山ほどあるけど、どうやら時間がなさそうだ」


 エレノアがアルフォンスのペンダントを掴み彼に聞いた。


「あのさぁ、妹ってさ……。エルフってことだよね?」


「ああ。そうか、そういうことになるね。黙っていてわるかったね」


「いいのよ。私は分かってたから」


「あ? クレアってば自分だけ。ずるいよね。私ずーーっと人間の綺麗な女の人を想像してたのに。でもさ、それなら話は早い。ねねね。その人の名前は? 美人なんでしょ? エルフだし、見つけたらすぐわかるよね?」


「ちょっとエレノア? もう、アルもギリギリなのよ。そんなのが最後の会話になっちゃうなんて――」


「セレーネ。彼女の名前はセレーネ。世界で一番美しい女性だ。どこかクレアにも似ているね」


 アルフォンスは死にゆくからだでゆっくりと話した。すでに足の先から消えてくるのが分かった。それは二人にも見えているのだろう。悲しまないように気を使ってくれているのが分かった。「セレーネかぁ」とエレノアが言う中、クレアが瞳の奥で何かを思い出したように、


「セレーネ……」


 そして、ふと彼女の言葉を思い出した。夢でしか会えない彼女。夢でしか思い出せない彼女。それを今ふと思い出した。すぐに忘れてしまうだろう。しかし、彼女の声が笑顔と共に頭にこだまする。


 ――、しー。せっかくなんだから、彼が言うまで待つのよ


 ボーッとしたクレアを見つめながらアルフォンスはペンダントを握りしめていた。もう腰まで来ている。死んでも魂が戻るだけ。特別に用意されたそれは、体とこのペンダントを再生してくれる。あまり期待はしていないが特別な子クレア。彼女なら巡りあわせで彼女に出会うかもしれない。そして、それは起きた。


「セレーネ……ウル・エルクレア」


 妹の名前からすぐに彼女の声が変わった。アルフォンスがクレアの小剣に囁いたときと同じような言葉。心地よく響くその小さな囁きに反応してアルフォンスのペンダントが光り、カパッ開いた。彼は目を見開き彼女を見た。クレアは妹ではない。でも、鍵の言葉を知っている。その意味は……。笑いが止まらなかった。


「ハハハ、アハハハ」


「すっげぇ、クレア! 開いたよ! ペンダントが開いた!」


「おばあさんから聞かされてたおまじない」


 アルフォンスは消えゆく手から急いでペンダントを彼女に渡した。この時点でペンダントが再生されることは無くなった。そして、言える言葉はもう限られている。彼女に伝えること、何を!? 


「クレア! いいかい、十七歳に成ったら何もない森へ来るんだ! 私の名前とそのペンダントを持ってくれば、また会える。約束だ! 何もない森――」


「わかった。約束するわ。アル! おまじ――」


「アルゥ」


 アルフォンスは消えた体と魂の間で彼女の問いに答えていた。しかし、それが彼女に届くことはなかった。


 おまじないの意味は?


 クレア……。それはおまじないじゃないよ。

 セレーネ()ウル(の子)エルクレア(美しきクレア)

 待っているよ……。

 エルフの郷で……。


 彼の体は消え去り、クレアにはキラキラと輝く無数の光になっていた。色が沢山あって綺麗で優しくて暖かい。そして、消えて行く。手元に残されたアルのペンダント。最後の最後で忙しそうに消えて行ったアルフォンス。二人はあっけらかんとしていた。


「あははは」

「あははは」


「なんか、アル。すんごい慌ててたね。あんなの初めて見た」


「ほんとね。これ持って何もない森へ来いって言ってたね」


「何もない森って。まるで昔ばなしみたいだね」


「ほんとね。どこにあるのかな?」


「それも含めて、ミシエールの魔女に聞こう。それよりさ、クレア! 文様が消えたね! 魔女じゃなくなったんだよきっと」


「魔女ってそういうものなのかな? ちょっと見てて」


 クレアが立ち上がり、壁に手を当てると顔を膨らませ気合を入れた。


「えい――。あれ? 何もできない」


「ほらね! やったぁ!」


「もう。魔女になっても喜んで、そうじゃなくなっても喜んで。どっちがいいのかな? 私、せっかく使い慣れたのに」


「あははは。これで仲間、仲間。魔法が使えない同志、がんばろうぜ!」


「あら、エレノアには尻尾と鼻があるじゃない。それに私は魔法を使った経験があるのよ。それはご存知かしら?」


「はん! それならあたしだって大人の経験ってやつがあるもんね!それに、この青い布! アルの布を使えばあたしも人間に……ムフフフ」


「どうせまた忍び込むのに使うんでしょ? あ、そうだ。お父さんの剣……じゃなくて槍ね」


 クレアはお父さんから貰った槍を探した。魔女と戦った場所の壁に刺さっているはずだ。しかし、そこにあったのは柄の短くなった元の小剣だった。そしてそれを引き抜くとエレノアに見せた。


「縮んで元の小剣に戻っちゃったね」


「ホントだ。しかも真っ黒だ」


「戻ろう」


「うん。なんだかんだで疲れちった」


 緊張状態から解放された二人は、喜ぶ人たちにもまれながらもやっとの思いで部屋に戻るとベッドに倒れ込む。朝から倉庫区画に忍び込み、拷問され、魔女と戦い、船を直し、アルと別れた。一日で色々起きた。クレアはペンダントを握りしめたまま、ベッドで深く眠りについた。


 おまじないの意味は何だったのかな――

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