84 約束⑫ ワタシの森
――タス……ケテ……
貴方は誰?
――お願イ。ワタシを外に出シテ……
分かった。待ってて。すぐに行くから!
――アリ……ガトウ
クレアとエレノアは避難場所からほど近い自分たちの部屋に武器を取りに行っていた。船の中にはもうほとんど人がいない。わずかに船員が作業をしているだけだ。部屋に戻ると弓と矢、父から貰った小剣を手に取る。エレノアも急いでフライパンを手にした。ちょうど手入れの為に部屋に持ち帰っていたフライパン。
「エレノア。私、魔女を助けるから。手伝って!」
「え!? 助けるの!? どうやって?」
「わからない。けど、聞こえるの。あれは彼女の声」
「わかった。とにかく急ごう」
二人は近くの階段から外に出ると、あれだけ不安になり叫んでいた人たちが歓声を上げていることに驚いた。わずかな間に何があったのだろう? 弓を咥えると急いでマストを駆けあがり遠い戦いの場を確認する。
そこでは、魔女を取り囲む氷の通路が出来ていた。一つひとつが弧を描きその上を雷光が走り回っている。魔女を中心に外周だけに出来た氷の道をその光が照らすたびに魔女が削られていくのが分かった。美しくも儚い。他の人たちと違い、魔女の姿をみてクレアは悲しくなっていた。
魔女の体からは色々な物が落ちている。海へと流れ込むそれはなぜか水に触れるとキラキラ輝いていた。そしてあることに気が付いた。闇夜紛れて分かりづらいが魔女の血肉を含んだ海水が戦う男たちの死角から床や壁を這うように魔女へと集まっていた。何かする気だ。
「アル! みんな! 気を付けて!」
叫んだが遠すぎて声が届かない。
そして、悲劇は起こった。大きな水の塊にアリが捕まりあっという間に殺されてしまった。クレアは持ってきた弓をカシャリと一瞬で広げる。ウッドエルフ達に貰った特殊な矢を手に取ると構えた。
――ワタシは体の中。外にダシテ
よく見ると背中からでも光の魔女の体がわずかに見ることが出来た。アリが魔女をかなり削り取ったため、もしくは魔女がわざと削らせたためか。
わかった! 見えたわ! 貴方はそこね。でも、どうしたら……
――、ダシテ
不慣れな会話。頭に直接響く声。耳を傾けているのか、意識を傾けているのか、定かでない状態のクレアに再び現実の世界が広がると掴まったルカに気づいた。
張り詰めた弦。クレアは静かに矢を放った。魔女の体を傷つけないように黒いモヤにだけを狙って。すぐに魔女の悲鳴と痛がる動きが見て取れた。
「エレノア! 効いてる! 皆の矢が効いてる!! 行くよ!」
「よっしゃ! え、あ、ちょっと」
クレアが何もない空中に飛び降りるとエレノアはうろたえていた。ロープも無し、風も無し、木もないし、下に水もない。「あれ? 見間違いかな?」と自分を慰めつつ、彼女の様子を追いかけるとなぜか空中を走っていく。
「うひょ。氷の道だ! あたしも!」
飛び降りたエレノアの足元からは氷が消えて行く。「あ」「「うお」「ちょ」バランスを崩し、結局船へと着地したエレノア。突然に空から独りの少女が落ちてきたことに周囲の人が驚いていた。エレノアは自分を囲うように出来たその空間で、顎と鼻を上げシッシと手で道を作ると勢いよく走っていった。
「今のエレノアじゃないか?」
大人区画の人たちが彼女の背中を見ながら口にすると、別の誰かが空を駆ける少女を指さした。
「クレアだ!」
「ホントだ、クレアだ!」
次の氷床へ飛び移るのではない。氷床の上を走るのではない。空中をただ無心に走り、舞い、着地し、次へと向かう。アルフォンスの魔法を信じ切ってる彼女だからこそ成せる行動だった。ただ、走り、思い通りに動くだけ。
驚かされるアルフォンス。魔女の水が溶けたことで中に閉じ込められていた自身の氷がまた自由に使えるからこそ可能になっただけで、クレアはそれをわかっているのだろうか? 驚きと呆れのなかで彼女が近づいてくるほどになぜか期待が膨らんでいく。
取り乱して殺されかけたルカが冷静になると、援護しているアルフォンスに聞いた。
「なんだアイツは」
「クレアだよ。希望かな。さっき、君の命を救ったのも彼女。これから魔女を倒すのも彼女。まったく、驚かされることばかりだ」
最後は半ば独り言に近かった。ルカは近づいてくる少女とは別にもう一人のアニムに気が付いた。レカンタの部屋で尋問した猫のアニムだ。
「あー! あの時の!」
「お前も戦うのか?」
「そうだよ! クレアを手伝わなきゃ。魔女を助けるって言ってたから、助けるんだ」
「魔女を助ける? 何を言ってるんだ? あれを見てみろ。あんな化け物みたいなのどうしろっていうんだ?」
エレノアはルカの顔を覗き込むと「ハッ!」と一蹴した。そして、
「目を開くのはおっちゃんじゃないか! その細い目、開いてるのか閉じてるのかわからないよ! ちゃんと見えてる? クレアがやるって言ったらやるんだよ! だから、クレアを待ってる」
「ははは。お前もわかってないじゃないか。まぁいい」
クレアに夢中になっている魔女の攻撃を防ぎながら、道を作っているアルフォンス。結果的に一番遠回りで辿り着いたクレア。魔女は警戒しながらこちらを覗いている。
集まった四人。クレア、エレノア、アルフォンス、ルカ。
「私、彼女を助けたい!」
「ほらね」
ルカとアルフォンスが視線を合わせる。ルカは大楯を構えながら「お前がどうにかしろ」と言わんばかりにアルフォンスに託した。
「クレア? 彼女を助けるってどういうことかな」
「わからない! でも、外に出してあげる。そう言ってるから」
「そう言ってる?」
「彼女の声が聞こえるの」
それを聞いたルカが顔を向けずにクレアに不安そうな声で言った。
「お前、魔女の声が聞こえるのか? アイツが死んだらお前が真っ先に魔女になりそうだな」
「大丈夫よ。それでも私は私。クレアだから」
クレアは自身でもどうしてそんなことを言ったのかわからない。でも、なぜかはっきりとそう答えていた。自信たっぷり、満面の笑みにアルフォンスは彼女の中で何かが変わったのだろうと感じた。
ルカは、クレアが魔女にならないとは否定しないことに「子供だな」と呆れていた。本当にこんなのが戦力になるのだろうか? 確かに弓の腕はいいし、矢が効いてはいたがそれだけだ。かたやフライパンを握ったアニム。共に少女。絶望的じゃないか……と結論に至るも、なぜかそこまで不安ではなかった。
エレノアが「ねぇねぇ、光ってた人どこ?」と聞くとルカが「あそこに落ちてる皮があいつだ。死んじまった」と指さした。冷たく扱うことで、自分自身に言い聞かせていた。戦場では弔う暇などない。取り乱した自分に腹を立てながら、平静を保つように努力した。
「うぇえ」
アリが死ぬところを見ていなかったエレノアはその惨状をみて気持ち悪がっていた。そんな会話をしている横で、アルフォンスがクレアの小剣を手に取る。
「クレア。ちょっと借りるね。これ、お父さんから貰った剣だって言ってたね。これはもう死んでいるけど、少しだけでいいなら蘇らせれるよ。ただし、本当の意味でこの武器は死ぬことになるけど、どうする?」
「前に同じこと言われた。死んでるってどういう事? ううん。今はそんな暇ないわね。彼女を助ける力になるなら構わない。何か出来るの?」
「ああ。これはね、オークの扱う武器だよ。人間がどうして持っているのかわからないけど。それとこれは剣じゃない」
「え?」
アルフォンスが小剣を鞘から抜くと、何かわからない言葉で囁いた。響くようなこだまするような、吐息のような不思議な言語。剣だと思っていたそれは次第に光を放ち、赤くなる。そして、両手で支えた柄の部分をアルフォンスが引き延ばした。シューッと伸びていく様は独特でそれはあっという間に一本の槍と変わった。
「すごい。赤い槍になった」
「息を吹き込んだ。ただし、長くはない。死んで崩れるか、静かになるか。時が来ればわかるよ。はい、お父さんから槍術を教わってるんだよね? だからこその武器だよ」
「そうだったんだ……。お父さん、一言もいってない」
赤く光る槍を持ち並んだクレア。その様子を見ていたエレノアがどきどきしながらフライパンを無言でアルフォンスに渡した。
「あたしのフライパンの秘められた力をお願いしやす」
「そうだね。じゃぁ」
アルフォンスはエレノアのフライパンを硬度強化、軽量化、灼熱の魔法で保護した。ついでに彼女の体にも同じ物を施す。彼女はそれが秘められた力だと信じ、
「くおおおおおお! 我が家のフライパンが今、蘇る! もえるぜえええ」
「おい、まだか?」
大楯を構え魔女と睨みあうルカがアルフォンスに言うと、待ってましたとばかりにエレノアが飛び出していった。「あ、おい!」
エレノアは不敵な笑みを浮かべ、魔女へと突進していった。人間よりも強化されやすいアニムは今、エルフの魔法によって戦士へと変わる。
次いでクレアも同じように飛び出していった。魔女が水線を繰り出すもアルフォンスが凍らせ邪魔をする。多くなった水は繰り出す数を増やしている。防ぎきれない分は各々が躱していた。
直線だけで受け続ければ怖い水線も、動いていれば威力は半減する。赤い槍で水線を弾き、避け、魔女へと切り込むクレア。フライパンでどつき、黒いモヤを嫌そうな顔でねじ切り、水線をジュっと炒めるエレノア。 絶妙な距離で大楯の壁となり二人の死角を作るルカ。突然にクレアが魔女の水線を受けアルフォンスの元へ吹き飛んできた。
空中で回転し、態勢を立て直して着地する。アルフォンスに駆け寄ると一言、
「ねぇ、ちょっとこれ長い!」
「ははは。そうか。このぐらいかな?」
槍を振りなおすクレア。笑顔で頷くと、すぐに魔女の元へ走っていく。彼は通常の槍の長さで渡していた。まだクレアには長く扱いづらい。調整したそれは短槍となり彼女の動きを最大限に生かしていた。
「ぐあ」
エレノアが太い水線を受け吹き飛んでいく。貫通力よりも戦線離脱させることが目的の一本。フライパンで受けるも、海の上を遠くへ吹き飛んでいく。
「エレノア! アル! お願い!」
「クレア! すぐもどる――」
黒い足を斬りバランスを崩し水線の方向を変える。アルフォンスが凍らせて被害が出ないようにし、魔女は次第に小さくなっていく。なのに、水の塊は減らない。沢山あった小さな水の塊が一つに集まっていった。さっき、エレノアにしたように誰かを吹き飛ばすのだろうか?
「オマエ、オマエ、オマエ、オマエ、ナンダ、オマエ」
黒いモヤで出来た顔は明らかにクレアを睨んでいた。そして、ルカがあることに気づいた。集まる水の塊とは別にもう一つ用意していることに。まもなく水線が発射されるとルカの大楯が吹き飛ばされた。しかしそこにルカは既にいない。
「ぐ……大丈夫か?」
「うん。ありがとう」
ルカは死角から放たれた水線をクレアの前に立ち、体で受け止めていた。胸に穴を開けながらも彼女を水線の標的から外し辛うじて守っていた。アルフォンスは水線、エレノアの救出、風の魔法と同時にたくさんのことをこなしていた。だが、
「ワカッテル。エルフ。氷、ここ少ナイカラね。イヒヒ、ヒ、四人目」
ルカが魔女に引き寄せられるとあっという間に胸に開いた穴から中身を吸い出されてしまった。恍惚とした表情。そんな感じの黒いモヤの顔。「やばい、やばい、やばい、やばい!」と言いながらエレノアがアルフォンスの用意した氷の道をひたすら走って戻ろうとしてた。
彼女を外に出す! 彼女を外に出す!? 外に出すってどういうこと? どうしよう。どうしたらいいのかな。
クレアはずっと考えながら戦っていた。赤い槍もいつまでもつかわからない。確かに魔女は削れているけど、ルカを食べたせいでまた少し変わった。彼女の叫び声が聞こえる。それはただひたすらにクレアに助けを求める声だった。
わかってる! でも、どうしたらいいの!? 斬っても斬っても、どんどん生えてくる。剥がれ落ちては、すぐにくっつく。どうしたら……
剥がれ落ちては……?
そうか、剥がれようとしてるんだ!
クレアは一度魔女と距離をとった。核となる光の魔女を見ると彼女から黒いモヤが出ていると思っていた。でも実際は、彼女を取り込もうとしているのが黒いモヤ。彼女は必死にそれに抗っている。
「アル! 私、わかった! 彼女を助けられる!」
「そうか。早く頼むよ。さすがの私も少し疲れてきたね。ちょっと使いすぎたかもしれない」
「うん。ありがとう! 終わらせるわね。合図があったら行くわ」
「合図? あぁ、なるほどね」
槍を構え走る準備をするクレア。ゆっくりと息を吐き、魔女を見据える。「合図」と言われて「なんのことだろう?」と思ったアルフォンスの視界に彼女が現れる。船に戻ってから彼女は魔女の死角を移動して準備していたのだ。
「どぉっせぇい!!!」
「ぐふがっ」
エレノアが魔女の頭上から飛び降りてきて、フライパンで一撃、脳天に渾身の一撃をくらわすと同時にクレアが走り出した。この距離、どうするのか? アルフォンスが魔女の水線を凍らせる準備で両手を構える。
速く! もっと速く! 彼女を助けるんだ!
魔女を見て、魔法を見て、彼女に真っすぐ!
クレアは全力で走る中、魔女の体にいる彼女に意識を集中させている。持ち替えた赤い槍をエレノアのフライパンで叩き潰された顔へと投げる。
速く! 槍よりも速く! 引きはがそうとしてる彼女の元へ!
取り込まれる前に彼女の元へ!
クレアの手から離れた赤い槍が不思議な現象を起こす。投げた瞬間は確かに前にあったはずなのに、今は自分の後ろにある。まるで止まっているかのように。視界で捉えてはいるが、今は体の中にいる彼女だけに集中! クレアは全力で核となる光の魔女へと抱き着くように体当たりをした。
そして、黒いモヤが伸びる中で光の魔女を引っ張り出し後方へと転がる。何が起きたのかわからないエレノアと魔女とアルフォンス。そこへクレアの投げた赤い槍が飛んできた。
「グァアアア」
赤い槍が黒いモヤを貫通し壁に突き刺さると色を失い、黒く変色していった。着地したエレノアは穴の開いた黒いモヤ胴体、デロデロと伸びる黒いモヤの先にいるクレアと光の魔女を見てうろたえる。
「え!? あれ!? いつの間に!?」
クレアと引きはがされた魔女を追いかける黒いモヤ。エレノアは近くに落ちてるエルフの矢を拾って突き刺した。急いで駆け寄ると倒れるクレアを守るように立ちはだかる。
アルフォンスはただ、ただ呆気に取られていた。
アリのそれとも違う。あれはまるで……。いや、そんなはずはない。どういうことだ? 魔女の力?
混乱する考えを順を追い整理していた。
エレノアが黒いモヤで出来た頭を叩いた。それを合図に走り出したクレア。槍を投げ始めたかと思ったら、彼女は光の魔女を抱き向こう側へ転がっていく。それを追いかけるように赤い槍が飛んでいった。エレノアの頭上を通り抜け、壁に突き刺さる。直後に着地したエレノアが彼女を守りに走った。
たったこれだけの事。ついさっきまで、アリがやっていた剣技なら可能なこと。しかし、まるで信じられない光景。
驚いたまま様々な考えを張り巡らせるアルフォンスに遠くから声が聞こえた。それは距離ではなく、意識の外からのもの。背後から体に寄り添う男の声。同時に、胸に痛みが走る。その様子をクレアとエレノアは魔女の黒いモヤの爆発で確認することが出来なかった。
核を失った黒い体は、回転し、水を高速でまき散らしながら船を分断して消滅した。船体はすぐには割れなかった。だが、少しずつ引きはがされていく船には人々の叫び声が響き渡っている。黒いモヤが晴れると、立っているアルフォンスの胸に刃が突き出ていることに気づいた。
「死ね」
そう言いながら彼を背後から刺したのはレカンタだ。五人の中の唯一の生き残りで、なぜかアルフォンスに嫉妬していた男。「ぐっ」と痛みをこらえているアルフォンス。油断した。クレアの起こした出来事に思考全てを持っていかれた。後悔など遅く、引き抜かれた刃からペンダントがコトリと床に落ちた。
「ハァハァ、あはは、ざまあみろ。魔女は死んだけど、この船は終わりだ。全員死ぬ。お前、おま、お前はなんかむかつくんだブァ――」
「レカンタァアアアアアーーーー!!!!」
怒り狂ったエレノアが走り寄りレカンタの顔をフライパンで殴ると、骨の折れる音、飛んでいく歯がその威力を物語っていた。吹き飛んだレカンタが「痛い、痛い」と嘆きながらよれよれと立ち上がろうとすると再度エレノアが顔を殴り飛ばした。
「エレノア、落ち着いて」
「アル!! 死んじゃいやだ!」
はぁはぁ言いながらも意識を失っていないレカンタ。どこを見てるのかもわからない状態の彼はゆっくりと立ち上がると落ちていた矢を拾い今度はエレノアに向けて走り出した。
「ギハハハ、死ね!」
しかし、レカンタは数歩手前で足を凍らされ動けなくなった。同時に船体に残っていた黒いモヤが彼の体に這うと、目や口から体に入り、血管がボコボコと浮き上がりながら中で何かが破裂する音が何度も繰り返されていた。次第に皮だけになっていくレカンタ。「痛い、痛い、痛い、痛い……」ずっと叫んでいたがすぐにかれは何もしゃべらない皮だけとなった。彼の体からは黒い煙が上がっている。
一方、光の魔女と話していたクレア。抱きかかえた彼女に涙を流し話しかけている。
「遅くなってごめんね。痛かったでしょう」
「あり……がトう。でモ、ダめ。貴方は痛みを知ル必要……ない」
「ううん。大丈夫よ。ありがとう。もう大丈夫だから」
「アア。貴方が傍にイテよかった……」
「どうして?」
「やっと、死ねるカラ……」
「それは、どういう――」
「アリガトウ――」
抱きしめた光の魔女は闇夜の中、綺麗な光の粒となって消えて行く。サラサラと流れるように、森でスピカナが死んだときのように、無数の光の粒子がクレアの傍を漂い消えて行った。光が消えた後、彼女は現状に気づいた。船は傾き、エレノアが何かを叫んでいた。振り返ると、一人の男性が黒いモヤに襲われ死ぬところだった。
「エレノア……? アル、アル!!」
傾いた船体で走り寄るクレアは途中でペンダントが落ちていることに気づきそれを拾い彼の手に添えた。
「ありがとう。クレア。ちょっと油断してしまったよ。まぁ、面白いものが見れたからね」
「アル! 死なないで」
「それはちょっと難しいかな。それと、まずはこの船をどうにかしないとね。私だけじゃなくて、みんな死んでしまうよ」
アルフォンスはエレノアの膝枕で仰向けに寝ている。息を吸い、手を上げると胸からキラキラと光を出しながら今までにない量の氷を作り出し船を固定した。それがどういう事がクレアにはわかった。
「だめ、そんなことしたら……」
「いいんだよ、クレア。それにね、これは結局私が死んだら無くなってしまうんだから。一時凌ぎさ」
アルフォンスの頭を支えるエレノアが質問する。
「どういうこと?」
「ここは運悪く島も何もない海域。港まではまだ相当日数かかる。だから、クレアがこの船をどうにかするんだ。出来るだろ?」
心配するクレアをエレノアがじーっと見つめる。そしてあることに気が付いた。
「そうだよ! クレア! 木を操れるじゃないか! アルが固定してくれてる間にくっつけちゃおうよ!」
「無理よ。見たでしょ? 私の力じゃせいぜい出っ張り程度よ」
アルフォンスがクレアの手を握り頼み込む。
「クレアなら大丈夫。自分を信じて。それに私も力を貸すよ。まぁ、力と言うか命だね。ハハハ」
「ねぇ、アル。笑えない! エルフだからって、笑える話じゃないわよ」
「そうかな? 用意はいいかい?」
「待って、どうしたらいいの?」
分断された船、傾いた船体を大きな氷がつなぎ止め固定している。騒ぐ人たち、死を覚悟した人たち、祈る人達。自然と彼らは魔女を倒したクレア達の元へ集まり様子を伺っていた。
「おい、あの子が魔女を倒したぞ」
「見てただろ? 魔女があの子の傍で消えた。魔女になったんじゃないか?」
「魔女が死んだ。誰だ!? 次は誰が魔女になるんだ!?」
「次どころじゃないわよ! もう、皆沈んで死ぬのよ」
そんな中、アルフォンスが説明する。
「クレア? 今から私の命を使って船に生命力を吹き込む。生きた木にクレアの力は強く働くからね。エレノアを見つけた時と一緒だよ。今度は出し惜しみなく使うといい。それこそ私は全部使い切るつもりだからね。ハハハ」
「いや、だから笑えないって」
エレノアがアルフォンスの髪を引っ張る。そうやってごまかしては彼女は耐えている。
「でも、それじゃアルが」
「君達、ウッドエルフに会ったんだろ? 要は同じ事さ。私は十数年間ここにいるけどね、本体は別のところにある。大丈夫。魂は肉体を離れ、私の元へと戻る。それだけさ」
「エルフはみんなそうなの?」
「いや、皆ではない。それも含めて、これから行くミシエールの街で学ぶといい。世界のことを」
「そうね。じゃぁ、まずは港に付けるようにどうにかしないと」
「いいかい? 自分の森をイメージするんだ。木を伸ばして、くっつける。船の構造は前回ので大体把握したね?」
「うん」
「そのイメージでいい。隙間を埋めて、元に戻す。細かいことは気にしなくいいから。魔法の力で浮いて、動いている部分もあるからね。クレアがやるのは船の形」
「わかったわ」
「それじゃ、やろうか。あまり時間もない。それと多分、こっちに回したことで氷が崩れるから先ずは船体を繋ぎとめることに集中するんだよ」
アルフォンスが目を瞑り、ゆっくりと呼吸を始めた。体から細かい光が出始める。皮膚が光っているのか、空気が光っているのかわからない。それが船へと染み渡るのはクレアにだけわかった。一度、船を把握したからだ。
「あとはクレア次第……だよ」
「わかった。私、やるわ!」
「かませ、クレア!」
アルフォンスの言った通り船体が離れるのを繋ぎとめていた氷が割れて海へと落ちていく。クレアは既にボロボロになった服を脱ぎ去り、肩と腕を露わにして気合を入れなおした。膝と手をついて目を瞑る。
ここは私の森
ここは私の森
私の森は
ワタシが直す
決意したクレアがゆっくりと目を開ける。
視線を一度だけ前に向け、意識では全体を把握する。
船体、人、動物、物……
氷が崩れ
ギギギ、グワングワンという大きな音と共に船が動き始める。
彼女は息を大きく吸うと床に視線を向け力を注いだ。
彼女が前を向いた時、集まり彼らの様子を見ていた人たちはギョッとした。黒髪の少女の目が、闇夜で淡くピンク色に光っていたのだ。
「魔女だ」
「あの女は魔女だ」
「魔女に変わったぞ!」
人々の声が飛び交う。
怒りと恐怖と畏れと殺意




