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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
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83 約束⑪ 電光石火

逃げ惑う人々。船の上で戦う魔女と三人の男。

魔女の目的は、自分を捕まえた男達を殺すこと。

その時、クレアは。


 爽やかな夜空に広がる星の海。

 頬に当たり夜の潮風。

 聞こえるのは船と海の囁き合う音。

 

 乗客のみならず、仕事を終えた船員にとっても夜の船は心と体を癒すのにいい場所を提供してくれる。しかし、今日の夜は違っていた。皆が揃って「化け物」と口にせざるを得ない容姿に変貌した魔女が、縦横関係なく船にへばりつくような形でアルフォンスと戦っている。


 魔物用と偽装されていた木箱。最後の棺桶の半分ほどの大きさの箱に入っていた魔女。腿から下は両方ない状態で、両腕は大きな杭で体の側面にそのまま打ち付けられている。その魔女が動けるのは黒いモヤのおかげだった。


 ドロドロしているようで、無数の蛇のようでもある。こぼれ落ちては新しいものが生まれ、伸びて、生えて、剥がれて、落ちて、集まって――。光の魔女の体を核として黒いモヤは彼女の手足となり動いていた。ただ、形を定められていないせいで水の魔法を放つ手以外は、古い足の次に新しい足が生え変わり移動するせいで蜘蛛や蛸のようだった。時間が経過すると共に体の中央部分にいる光の魔女が黒いモヤに埋もれて見えなくなった。


 遠く離れた場所に避難した人々は「もしもあれがこっちへきたら?」そんな不安の中、各々が想いを口にしていた。


「なんだあの化け物は。おぞましい」

「あれが魔女? 初めて見た。恐ろしい。早く殺してくれ」

「魔女を殺すなんて! 私は魔女になんかなりたくないわ」

「だめだ、あんな化け物。俺たちはここで死ぬんだ」


 人々は不安、恐怖、怒り、嫌悪、それに戦うエルフの姿を見て期待や希望という想いが声に出始める。それらは次第に議論から喧嘩へ変わっていく。混乱する群衆の中にいるバルタが、他の皆より高いところにいるクレアとエレノアに気づき声を張り上げた。群衆に紛れた彼女の声に気がついたエレノアはピョンピョンと彼女の近くの縁に掴まりお互いの無事を伝える。


「エレノア! それにクレアも。無事で良かった」


「うん。ごめん、昼には行くつもりだったんだけど色々あってさ」


「色々? もしかしてあれも関係してる? あそこで暴れてるのって何なの? 皆、魔女だ、化け物だって騒いでる。あれがこの船で運んでた魔物?」


「そう……だね。あれは魔女。とにかく危ないから気をつけて!」


「あ! ちょっと、エレノア!」


 バルタのすぐ後ろ、群衆の中からジーゴ達が現れたのに気づいたエレノアが彼らに頷き合図をする。来た道や壁、縁を同じように使い彼女はその場をあとにした。ジーゴ達もバルタを連れ、混乱し騒いでいる群衆たちから離れるために移動を始める。

 

 これから起こる惨劇を畏れ出来るだけ離れようとする者が多かったが、少しでも近づいて魔女とエルフの戦いを見ようとする者も多かった。そんな彼等より更に前にいるのがクレアとエレノアだった。二人はアルフォンスと魔女の戦いを見守て見守っている。


 遠くではアルフォンスと魔女が戦っていた。クレアからしたらそれは戦闘というよりは、アルフォンスが彼女をなだめているように見えた。魔女の繰り出す水線をいとも簡単に凍らせて対処している。ポッ、ポッと小さな氷の塊は後続する水線で一気に広がるが同時に凍り付く結果、空中に氷の花が咲いたようだった。パキパキと凍ってはすぐに散る中で、魔女の水線が時折つんざくような高音を出していた。


 魔女の水線を受ける度に貫通こそ免れたものの冷や汗が止まらない大楯を構えるルカ。涼しい顔で魔女の魔法を処理するエルフを傍観しながら、傍で休むアリに声をかける。


「どうだ? そろそろ行けそうか?」


「ああ。すまないな。魔女は俺たち三人でどうにかできそうだな」


「あのエルフの野郎……涼んだ顔してやがる。あいつが味方でよかったな」


「今のところはな――」


 アリが立ち上がり赤い小さな見を手から口に放り投げる。クレアに渡したのと同じ物だ。モグモグと口を動かしながら、現状分析をしていた。今あるのは、


 両手に剣を構え、雷がごとく動き斬りつける電光石火のアリ。森で使うのと違い着地点を一歩間違えれば海の上。魔女には有効だが、同時に水の魔法で遮られる可能性も秘めていた。


 大楯を構えるルカは防御に徹している。森で対峙した時よりも強力になった魔女の水線すら通さない。攻撃を防ぐ度に冷や汗が増えているのがあまりいい兆候ではない。


 そして、エルフのアルフォンス。攻防のかなめでその強さは顔や体型からは判断が難しい。ただ、魔女を殺す気がないのか上客や船のマストを守ること、魔女の気を惹くことに集中している。


 準備の整ったアリに気づいたアルフォンスが彼らの傍に近づいてきた。魔女の水線を凍らせながら、涼しい顔で話しかけてくるとアリが答える。


「彼女の狙いは君達のようだね。相当恨まれているよ」


「当然だ。捕まえて森から引きずり出してやったんだ。ただ、シルツとハサラの二人はもう死んでるようだ。残り三人。お前がレカンタを殺していなければな」


「レカンタ? ああ、エレノアと一緒にいた男だね。彼なら凍らせておいただけだよ」


「そうか。どの程度だ?」


「そうだなぁ。小一時間てところかな」


 アリがアルフォンスの氷の魔法拘束時間の目安を聞くと、右手で自身の鎖骨の下、胸骨のあたりを見せつける。そこには親指ほどの大きさの石が埋め込まれていた。アルフォンスは眉間にしわを寄せたあと視線を魔女に戻した。アリが続ける。


「これがあるからな。数十分かからないだろうか」


「君達、"それ"をどこで手に入れたのかな?」


「装備の事か?」


「装備はエルフの技術で作られているよね? まるで人間の作った物のように見せているけど違う。わざとそう見せているだけだ。でも、私が聞きたいのは物じゃない。中身の事だよ」


「……。契約で話せないが、お前のことは聞いている。エルフでも詠唱無しで魔法が使えるのは一部だけなんだろ?」


「なるほどね――。察しがついたよ。君が使う技は貰い物かな? まぁ、人間の君が使うんだから相当の負担だろうね」


「そうだな。だから、俺の体は死んだ状態になっている。ギリギリで生きていると言った方が正しいがな」


「そうか。もしかして、そのせいで無表情だったのかな?」


「それはどうだかな。性格だと思える気もするが」


「ははは。で、魔女を殺すのかい?」


「他に方法があるか? 殺せば一日持つだろう。そしたら、魔女になったヤツを拘束すればいい。そもそも森以外で殺すとどうなる? 森の近くの住人が対象なのか? それともこの船か? お前があの状態の魔女を港に着くまで凍らせておけるのなら別だがな」


「ここじゃ無理だね。元々、氷のない場所では私の魔法にも限度がある。本来の力は出ないよ」


 本来の力が出ずにこの魔法か……。アリは内心ではエルフの強さに溜息をついていた。


「おい、エルフ。 足場は作れるか?」


「ああ。気にせず好きな方向へ行ってくれて構わないよ」


「それは助かる。任せたぞ――」


 アリが両手に剣を持ったまま魔女へと走り立ち向かう。殺す標的がやっと陰から現れたのを確認した魔女は、すかさず彼へと標的を変え水線を放った。しかし、アルフォンスに凍らされて防がれると怒りを露わに、


「邪魔をスルナ!」


 次の瞬間アリが雷光となり魔女を通過した。斬り込む彼をその目で見ていた人たちには、船の上に彼の残像が残っていたままだった。すぐに消えていくがなんとも不思議な光景だ。当の本人は別のところにいるのに、まるで火のついた棒を振り回して遊んでいるときのように残像が残っている。それは空中にあるのか? 自分の目に焼き付いているのか? 考える暇もなく消えてしまうが、儚く美しい光景だった……魔女の叫び声さえなければ。


 電光石火の剣技で魔女を切りつけたアリは空中へと飛び出していた。その先にはアルフォンスが用意した氷床がある。空中で回転し態勢を変えたアリは、氷床に着地すると同時に重力で滑り落ちる前に魔女へと更に切り込む。そういう算段だった。しかし……


「あ、すまない。君の”それ”が予想以上に強いんだね」


 アリが回転し空中に形成された氷床に着地し、両足で蹴ると粉々になりそのまま勢い止まらずに通過していってしまった。ただ、空中でドロップキックをして氷の板を割っただけの状態になると彼はアルフォンスを静かに見つめていた。


 気を取り直して用意した次の氷床はより強固なものとなる。最初に魔女を斬りつけてからほんの一瞬の出来事だったが魔女はそれを逃さない。アリの目に向かって水線が直進してくると、アルフォンスが直前でそれを凍らせた。すぐに花のように広がり、視界を奪われたアリは別の方向へと飛んでいった。


 しばらくの間は魔女とアルフォンスの攻防が続いた。合間にアリが魔女に仕掛ける。徐々に二人の息が合い始めたのがわかった。魔女の繰り出す水線が凍り、花になる場所が次第に魔女に近いところで発生している。


 二人を一番近いところで見守るルカは、即席のコンビに思わず嫉妬していた。ただ一人の戦士として、『剣と盾』というアリの相棒として、自分はアリの潜在能力を引き出しているつもりだったが……。このエルフはこの一瞬ですでに今までにない程の剣技をアリに繰り出させている。しかも、それは今も進化を続けている。


 何より当の本人が一番驚いていた。人間の体では繰り出すのも難しい剣技。作り替えられたこの体ですら、配分を考えながら使っている。高速で動くが止まることを考え制御しなければならない。しかも、今までは一撃必殺でのみ使用すことが多く、連続で繰り出すことなどほとんどなかった。


 このエルフは‥‥‥、きっと風の魔法で援護もしているのだろう。絶妙な位置、角度、タイミング、精度、硬度、造形力で援護してくる。負担も限りなく小さく、体がいつもより軽い。これがエルフ。これが古代エルフの魔法の力!


 アリは死に近い体、無感情、無表情だと思っていた自分に今までにない高揚感が溢れてくると意識は自ずと魔女を倒すことだけに集中していた。走り、飛び、電光石火で斬りつけ、着地、反動で移動する。気づくと、一枚の氷の板だった氷床が通路へと変わっていた。着地するのではなく、そのままの勢いで走り抜ける。うねり、再度魔女の方向へと進路を向ける氷の道は増え続け、魔女の周囲に大量に出来ていた。


 パリパリと音を立て、氷の道を雷光で照らし、残像を残し、一瞬で魔女を通過し、次の通路へ飛び移る。そして次の通路を同じように走り抜ける……。勢いを全く殺さず連続して繰り出すアリの剣技はエルフであるアルフォンスの氷の魔法の援護の元、その真価を発揮していた。


 魔女を囲う氷の通路。いびつな形だが雷光、轟きと共に魔女が削り取られていく。誰からも今アリがどこにいるか分からない程に、どれが本物のアリなのかわからない程になった空間を見て歓喜し避難していた人たちが声援を送る。 


 魔女は既にあちこちに向かって水線を発射していた。アリを捕らえることが出来ず、黒いモヤが削り取られていく。ボタボタとその身を落としながら彼女は次第に体を小さくして卑屈な笑い声をあげている。


「ヒッヒ――。イヒヒ、ヒィ、ヒッヒ、イヒヒヒヒ」


 アリが魔女の状態を確認すると、血を流している本体を見つけた。黒いモヤの隙間から彼女の体見え始めていた。


「終わりだな。いい加減死ね」


 アリが魔女の本体を斬るために雷のように魔女へと突進する。同時に今までにない感覚に陥った。


「がば、ぎざば」


「アハハハハハ。捕まエタ」


 突如として現れた大きな水の塊。それは魔女はおろか、アルフォンスの作り出した氷の道も含め周囲を丸く包み込んでいた。中には動きの止まったアリが水の中をゆっくりと移動し、魔女に近づいていた。


「アリ!」


 ルカが叫ぶが時すでに遅し。黒いモヤが彼を掴み方から上は見えない状態。ただ、ただ、水の中でバタバタと脚を動かす彼の手から剣が手放されるのはすぐの出来事だった。


「あと、二人コロス」


 皮だけになり、中身の無くなったアリが魔女の水の中で漂っていた。乗客たちの歓声はすぐに悲鳴と変わる。響く魔女の笑い声。


「サァ、そいつとモウ一人。血を盗ム卑しいチビを出セ」


「困ったね。死ぬ気なのは構わないが、ここで死なれるのは困る。二人を差し出したらどこかへ行ってくれるのかな?」


「ドウだかナ。ワタシは、私は、死ぬ。タイ。邪魔をスルナ」


「いまいち話が通じないね。彼らを食べたせいじゃないか?」


「ハハ、アハハ、ハハハ。こいつ等は美味シイ。不味い。変な味がスル。体がオカシイ」


「それは当然だ。彼らはまがい物だからね」


 魔女とアルフォンスが話をする中、ルカは大楯に埋め込まれた灼熱の炎を発動させた。そして、アルフォンスを無視して魔女へと怒り心頭で突進する。


「うおおおおお!」


 アリを殺された恨み。魔女への怒り。彼は何も考えず魔女へと突進すると、簡単に盾を取り上げられてしまった。首を掴まれ持ち上げられると、腰にある短刀を抜き魔女の黒い手に何度も突きさした。


「くそ! くそ! くそ! くそ!」


「ヒヒヒ、四人目」


 静観するアルフォンスとルカを食べようとする魔女。両手両足を掴み広げ、どうやって苦痛を与えながら食べようか考えていた魔女。彼女の頭を模した黒いモヤの中央を一本の矢が貫通し、アルフォンスの横で氷に掴まり止まった。


「ギャアアアア」


「!?」


 振り返る魔女は思わずルカを手放した。ドサっと落ちたルカが咳をしながら態勢を立て直し、盾を拾ってアルフォンスの元へ戻った。一本の矢を見つめる彼は何かを思い出したようにルカに言った。


「そうだ。まだどうにか出来るかもしれない。彼女がいる。それに――」


 遠く、マストの高いところに弓を構えるクレアがいた。使っているのはウッドエルフから貰った特殊な矢。携えているのは父から貰った小剣。近くでフライパンを構えるアニムのエレノア。


「クレア! 手伝ってくれるかな!?」


 飛び降りたクレアの足元にすかさず氷床を作り出し、空中を走るのを手伝うアルフォンス。まるで床を用意してくれるのが分っていたかのように、当然のように走って向かってくるクレア。躊躇なく魔女の水線を避け空中へと舞う。アルフォンスの氷床に着地しながら、空中を回転しながら矢を射る黒髪の少女。一本、また一本と魔女を貫通する度に叫び声が聞こえる。


「私、彼女を助けたい!」


 ルカとアルフォンスには意外な一言だったが、明らかに魔女の様子がおかしい。それに気づいた二人は再度、魔女へと立ち向かう。二人の少女を仲間に加えて。

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