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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
第四章 約束
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79 約束⑦ 灼熱の盾

 場に流れる空気は依然、張り詰めた物になっていた。エレノアはまだ気づいていなかったがクレアには今の状況がおかしいことが分かっていた。子供が遊んでいるうちに、こういう場所に来るなんてことはよくあること。村でもどこでもありうるだろうと知っている。もちろん、怒られるのも分かる。しかし、不敵に笑うハサラという男には、見せる表情とは裏腹に少女たちの退路を塞ぐ巧妙な動きが含まれている。更に先の通路では、シルツが剣と盾を構え通路を塞いでいるも見えた。


 二人とも明らかに逃がさない姿勢なのと、尋問のようなふざけた会話が始まっている。クレアはエレノアを制止するのが遅かったと悔やみながらも見えない状況を理解し、この場から離れる方法を考えた。


「ごめんなさい。私たち、ちょっと好奇心でっ! すぐに帰ります。魔物だと思ってたのに、魔女が入ってるなんて。怖いわ。エレノア? さ、行きましょ」


 クレアは一方的に話し終えるとエレノアの手を取った。ハサラを避けて通路を戻ろうとしたクレアだったがすぐに彼が立ちはだかる。


「ちょちょちょ、お前、待てよ。落ち着けって。なぁ、ちょっと聞きてえんだけどよ」


「何?」


「お前ら……。中身知ってたな?」


「知らないわ。さっき貴方の口から聞いて初めて知ったの」

「そうだよ。自分で言っといて、それはないだろ」


「それにしちゃぁ、お前ら、そんなに驚いてなかったな。普通、大人でも魔女の怖さ知ってる奴なら身の毛もよだつ冗談だぞ? だのにお前らは……特にお前だ黒髪。えっと」


「クレア。あなたはハサラ。あっちにいるのがシルツね」


「ああ。とにかく、クレア。お前の表情は驚きじゃなかったよなぁ? どっちかっていうと『この人、中身言っちゃった!』って顔だったよなぁ? ハハハ」


「その通りよ。だって、重要な荷物で中身が秘密なのに、それを簡単にばらしちゃう大人に呆れたの。そういう顔よ」


「あぁ? まぁ、それもそうだな。まぁ、俺が言いてぇのはな」


 ハサラがしゃがみ込んで腰から抜いた短刀をちらつかせてきた。クレアは彼から視線を外さず、じっと見つめ返す。さすがのエレノアもその瞬間からさりげなく周囲の状況を把握し、何か出来ないかと模索し始めた。短刀でクレアの頬をペシペシと叩くハサラ。


「お前、魔女が怖くねぇのか? それに今だってそうだ。ガキのそれじゃねぇ。何度も危険を経験してる感じだな」


「私は森で育ったの。一人で狩りもするし、ここまで旅をしてきた。魔女の噂だって沢山聞いてきたわ。この程度、大したことじゃない」


「ほぉ。二人一緒でか?」


「ええ」


「大したもんだな。だからって、魔女が目の前にいるのに怖がらねぇわけがない。まぁ、つっても……あの中にいるのは光の魔女だ。闇の魔女ほどつよかねぇしな。死にかけてるし」


「死にかけてる? どうして助けないの?」


「あん? お前、何を言ってるんだ? 魔女を助けるワケねぇだろ。光だろうが気に喰わなきゃ人を襲う。それが魔女だ。気分関係なしに襲ってくるクソ魔女が、気分次第で襲って来る、もっとクソみたいな魔女になるだけだろうが? だったら最初から人を襲うってわかってる闇の魔女の方がまだわかりやすいぜ」


「それは、彼女達を怒らせるからじゃないかしら?」


「お前、なんで魔女の肩を持つんだ? 光の魔女に会ったことあるのか?」


「会ったことないわ」


「ああ? もしかして、闇の魔女に会ったことあるのか?」


「ええ。何か月も前に会ったわ」


「ほお。よく生きてたなぁ。しかもお前は人間の女じゃねぇか? なんで生きてるんだ? 会うって距離にいたのに、なんで生きてこの場にいるんだよ?」


「魔女が死んだからよ」


 ハサラが彼女の一言で目が点になるほど驚いていた。すぐに大声で笑い始めると自分を抑えながらクレアの表情を観察した。


「ハハハ――。ありえねぇ。そんな討伐隊まだいるのか? 何人死んだ? 何十人か? まともな戦士が居なきゃ百人いたって厳しいぞ? まぁ、いいか。いや待てよ、お前、その場にいてよく魔女にならなかったな? 他にも人間の女が近くにいたのか?」


 クレアは馬鹿正直にすべてを答えるのはよくないと考え、嘘をつかないように注意し質問をよく聞いて答える。ハサラは「近くに人間の女がいたのか?」という質問をしただけ、近くと言えば森の入口のおばあさん、村もあるし、距離も限定されていないと拡大解釈し答える。


「ええ、そうよ」


「ほお。運が良かったなぁ……」


 ニヤニヤしながら手で顎をさすっているハサラ。短刀を華麗に扱い鞘に納めると話題を変えてきた。


「この木箱に魔女が入ってることは俺たち五人しかしらねぇ。なんたって、中身は危険な魔物ってことになってるしな。まぁ、嘘は言ってねぇ。不思議なんだよな」


「……」


「なんで、お前らは箱の中身を知ってるんだ?」


「だから、おっちゃんが――」


「そうだ! そういえばこの前怪しい奴がいたらしいぞ。えっと、身長はこのぐらい。俺よりはちょっと低いな。そんで、フード被ってて、ちょうどあのあたりで中身を探ってたらしい」


 彼は二人に説明しながら常に顔を観察していた。


「そんでよぉ、俺たち五人は誰にも話さねぇ。んじゃー、お前らに話したのは誰だ? どうやって知った? あ? そうか、その怪しい奴から聞いたんじゃないか? なぁ、そうだろ?」


 半ば強引な態度のハサラ。次第に彼の思い込みと目の奥にある狂気がうっすらと見えてくるのが分かった。嬉しそうな表情をする彼は、まるで新しいおもちゃを手に入れた男の子のようだった。


「俺たちさ、そいつを探してるんだよ。手伝ってくれねぇかな?」


「そんな人知らないし、私たちは誰からも魔女の事なんて聞いてないわ」


「へぇ。それは俺が決めるさ。ほら、二人ともこっち来いよ」


 ハサラは檻の中の木箱へ近づき備え付けられている扉を開けると、少女二人に中へ入るように促した。動かない様子のクレアとエレノアに痺れを切らしたハサラが、


「いいから入れよ? さっさと入らねぇと足をぶった切るぞ」


 気づけば檻の出入り口はシルツに塞がれていた。クレアとエレノアは心配そうな表情を浮かべつつ、恐る恐る魔女のいる木箱へと入った。木箱の入口をハサラが塞いでいると、後ろから自身の盾を剣で叩きながら近づいてくるシルツがいた。


 ガァン! ガァン! ガァン!


 何度か強くたたくと次第にその盾が熱を帯びたように灼熱の盾へと変貌していった。持っている本人は熱くないのだろうか? そう思えるほどにユラユラとした空気と熱気。ハサラと入れ替わり灼熱の盾を身構えるシルツが、木箱の前に立ち入口を塞ぐ。盾の明るさで自分たちのいる場所の状況は把握できたが、届いてくる熱風が次第に危険なことに気づいた二人。


「クレア? どうしようか」


「ごめんなさい。どうにかしないと……」


「おい、お前ら。逃げようなんて思うなよ? 俺は知りたいことが聞ければいいんだ。ちょっくら外すけど、おとなしくしてろよ? ちなみにだ。逃げようなんて思ってシルツの盾に触れようもんなら火傷じゃ済まねぇぞ。魔女の水の魔法対策に用意したもんだからな。熱いだろ? ハハハ。覚悟しとけよ」


 ハサラがしゃべりながらどこかへ行ってしまった。木箱の出入り口には灼熱の盾と剣を構えたシルツ。隙間はなく、盾から発せられる熱気で箱の中の室温がぐんぐん上昇していた。同時に明るさで中を把握できたのは良かった。外側の箱と同じような物で小さくなったものが置かれていた。同じように四隅に黒い石が取り付けてあった。それに触れようとしたクレアにシルツが話しかけた。


「気をつけろよ。それは魔集鉱石だ。素手じゃどうにもならんだろうが、万が一破壊でもしたら魔女が出てくるぞ。まぁ三重にして保険賭けてるけどな。ここは海の上だ。全員殺したきゃ好きにしろ」


「あつい……」


 早くもエレノアが汗だくになり始めた。クレアも服を一枚縫いで白い肌着だけになる。シルツが少女の腕にある文様に気づくと話しかけてきた。


「お前、面白いもの入れてるな。伝統か?」


「いえ。それより、私たち何も知らない。その人が誰なのかも。お願い、ここから出してくれないかしら? それに入口の四人がいつまで経っても戻って来ない私たちに気づいたら、貴方達のしていることもバレるわよ」


「ははは。それは残念。ハサラがここへ来るときに聞いたそうだ。ここに誰か来るのを見たかどうか。お前たち、忍び込んだのが仇になったな」


「……」


 相手が一人になったところでハッタリをかましてみたが通じなかった。たしかにシルツの言う通り忍び込んだせいでここにいることは誰も知らない。せいぜい、調理場に来ないエレノアを皆が心配するのと、夜になってアルフォンスがそれに気づくのが望みだった。そこから二人を探し始めたとして……。


「あぢーー」

「こまったわね」


 クレアとエレノアの二人は、一番外側の木箱に備え付けられている開いた扉の前で、入口を塞ぐように灼熱の盾を構えているシルツの監視の中で汗を流し耐えていた。

 

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