144 ★ヴィクトリア・ローズウッド(後編)
■魔物
森に入って一週間以上が経っていた。クレアとエレノアの家を探してはいるが、その場所がわからない。また、何が起きてもいいように警戒しながら進んでいたため思っていたより苦戦している。一行は森を一望できそうな場所を探し、高い場所へとやって来ていた。ジェームズが偵察から戻り、岩の上に地図を広げて眺めているローズへ報告する。
「戻ったよローズ姉さん」
「お帰りジェームズ。それで? 何かめぼしいものはあったかい?」
「いや、これといって特になかったよ。でもそれが逆に怖いんだよね。ゆっくり進んでるとはいえさ、この森の大きさは相当なものだよ。わざわざこんな高い場所まで登ってきた甲斐はあったと思う。なにせ、見渡す限りずーっと森が続いてる。わかる? 海なんて見えやしない。見渡す限りずーっと森だよ」
「未だに海すら見えない……途方も無い大きさってことだね」
広げた地図の上では、今いる場所はすでに海の中となっている。ローズは少し嬉しそうに、ジェームズは困った顔をしている。
「ああ。それが収穫。本当にこんなところにクレア達は住んでたのかな? 少し不安になってきたよ」
「そうかい? あたしはむしろ、わくわくしてきたよ。一体何がどうしてこんなことになってるのか」
ローズは広げた地図に歩いてきた道を描きこんでいた。クレアとエレノアから聞いた特徴の岩や滝、山や川を探しながら、少しずつではあるが少女達の育った場所へと近づいてはいる。あたりを見回したジェームズがローズに話す。
「そういえばアーサーはどうした? 二、三日ほど見てないけど?」
「ああ、アーサーには奥の方まで調べに行ってもらってる。今日には戻ってくると思うけど」
朝食を済ませると、ローズ、ジェームズ、アボットの三人が移動を始める。三人がこの森に入って驚いたのは大型の動物がいること。一回り以上も大きいイノシシ。見たこともない大きなダンゴムシ。ジェームズは久しぶりにローズの女性らしい悲鳴を聞いて笑っていた。
森を探索するのに食料や水に困ることはなく、危険な動物や魔物すらいない。それらがかえって、ローズにより強い疑念を抱かせることとなった。豊かな自然が目の前にあるのに、誰もここへは来ない。地図にすら載せない。一体どういうことなのか? 誰の仕業なのか? ローズは僅か張りの不安を抱きつつも同時に、わくわくする自分を抑えられないでいた。
一方、何か見つからないかと森の中を駆け回っていたアーサー。今は小さな家の前でおばあさんを見つめている。おばあさんは大きなライオンのアーサーを見ても驚かず、むしろ来ることがわかっていたかのように、お茶をテーブルに用意している。そして、アーサーがゆっくりと歩いておばあさんの前で止まる。
おばあさんは目の前まで来たアーサーの瞳を見つめる。鬣に編み込まれた三編みを見ると「うんうん」というように小さく頷く。おばあさんは椅子を引き、アーサーに向けると反対側へ行き自分の椅子へと座った。直後、アーサーと同じくらい大きな獣が椅子ごと彼を吹き飛ばしていく。おばあさんは、お茶を飲みながらそんな二匹を眺めていた。
アーサーに何が起きてるかは知らず、ローズ達は移動を続ける。夜になると、焚き火を囲い食事や読書、会話を楽しんだ。夜になっても戻らないアーサーに対して、さすがのローズも心配を隠せないでいた。口には出さないが頻繁に森の中を探る様子が見て取れる。ジェームズが席を立ち、用を足しに森の奥へと足を運ぶ。ぶつぶつと独り言をぼやく。
「いい森だねぇ。静かで、豊かで。アーサーに何かあるとは思えないけど、いや、待てよ。大きい虫もいるんだ。もしもバカでかい熊とかいたらどうなる? まぁ、アーサーなら大丈夫か。それにしても今日は冷えるな。うぅ、寒い。とっとと済ませてもど……」
ジェームズがズボンをおろし、独り言を言いながら森の奥を見ると何かが動いた。よく見えないが黒い大きな塊が確かにこちらを見ている。ゆっくりと、そしてこっそりと。アーサーかと思ったがどうやら様子が違う。彼はその"何か"に気取られれないよう、まるで何事もないかのようにズボンを元に戻す。振り返り焚火へと戻ろうとした時だった。
「きゃああぁあっ!!」
焚火を囲っていたローズとアボットが振り返る。まるで女みたいな悲鳴を上げたジェームズに気づいたからだ。ローズがすぐに「アボット!」というと、手元にある剣を彼女に投げる。それをローズが受け取る。鞘から剣を抜くと音と同時にほのかに輝く。森からはジェームズが慌てて戻って来る。合流するとローズが二人を守るように剣を構えた。
「大丈夫かい?」
「出た! 出た! 出た!」
森の奥を指差すジェームズ。草の間から光る眼がこちらを見ている。まるで女の子のような笑い声。それが次第に「うぐぐ」と苦しそうな呻き声に変わる。ガサガサ、バキバキと引きずられるかのように奥の大きな塊に戻る。
「出た! 出た! 光る眼が四つ! 動くコブに尻尾が二本! 化け物だ!」
「……」
森の奥にいるのは月明かりでわずかに縁取られた黒い大きな塊。呻き声を上げながら本体に戻ったそれと合わせて目が四つ。うねうねと体から何かが動いている。そして、静かにこちらを見つめているかと思えば、口元でキラリと何かが光る。牙だとしたらとてつもない大きさだ。そして、大きく響く独特な声で話しかけてきた。
『どうしてこの森に来た』
ジェームズは「喋った!!」と言いながらアボットの後ろに隠れる。ローズが剣を片手に声の主に応える。
「ちょっと散歩がてらにね。ここで育ったっていう女の子を知らないかい? クレアとエレノアって言うんだ。二人の育った場所を見てみたいと思ってさ」
『ほぉ。正直だな』
「なんでわかる? 嘘かもしれないよ?」
『ははは』
笑うと反響する、男と少女の混じったような声がジェームズをさらに縮こまらせた。
『教えてもらったからな。確かめただけだ。アーサー。わかるだろう?』
アーサーの名前を聞いてローズの目つきが変わる。彼女に呼応するかのように光が強くなり、剣の柄元から次第に剣先へと波状に広がる。
「アーサーはどこだい。事と次第によっちゃ、今、ここでお前をブッた斬るよ」
『今日はよく眠るといい。明日は大切な人が死ぬだろう。ジェームズ、アボット、そして…。その時にお前のその頑固さが脆く砕けるのを楽しみにしている。これは彼女からの贈り物だ。明日は辛い日になるだろうな。覚悟してくがいい。そして、決意するがいい。はーーはっはっは!』
光る眼が四つ。体からはうねうねと何かが動き、走り去る途中でカンカンと音を鳴らす。「待て!」とローズが叫ぶもあっという間に消えてしまった。追うのを諦めて戻ってきたローズ。三人は共に焚火に戻ると座り、水を飲もうとした。ふと彼女が周囲を見渡し、わずかに移動した物、地面に残る粉、独特な香りに気づいた。
「ちょっと、あんた達! すぐにここから離れ――」
時すでに遅く、ジェームズはコップを握ったまま後ろに。アボットはジェームズの上に覆いかぶさるように倒れ、立ち上がろうとしたローズはそのまま倒れこむと、いつの間にか目の前にいる人物に抱きかかえられる。
■夢・ヴィクトリアとアーサーの想い出
「ヴィクトリア姉さん? 今日、アーサーが話したいことあるって。何か隠し事をしてたみたいで…それを是非、見てほしいって」
「やぁジェームズ。アーサーの隠し事? 何を馬鹿なこと言ってるんだい――。それで、ここ? まだアーサーは居ないみたいだけど?」
「おかしいな。あ、ちょっとあの女の子に聞いてみる――。ヴィクトリア姉さん、アーサーはあそこにいるって。『本当の俺を見てもらうんだ!』って待ってるらしいよ」
「へぇ。本当の俺ね。それをあのお店で見せたいって? あそこは男が楽しむ場所じゃないか。やっぱりねぇ……これから結婚しようって男が行く店じゃないと思うけど。あたしが何も気づいてないとでも思ってたのかね?」
「……さあ? まぁ、行ってみよう――。あ、ちょっと、え? 見ちゃいけない!」
「……アーサー? 何してるんだい? そんなにかわいい女の子達に触ってもらうのが気持ちいいのかい? へぇ、本当の自分。隠し事ねぇ。あんた、あたしっていう女性がいながらこんなことしてるとはね。ちょいとジェームズ! あたしの剣を持っておいで!」
「ヴィクトリア姉さん! もう、壊しちゃダメだよ! お店が! ああ――」
■死と別れ・決意
テーブルを割り、街一番の大男アーサーを投げ飛ばし、店を破壊した思い出。アーサーと会った最後の日。ローズは夢の中で、その日を鮮やかに思い返していた。元々、旅をする予定があったため、彼女はこれを口実に街を出発した。後日、山の落石でその身を挺して守ってくれたのは見たこともない大きな動物。彼女は『アーサー』と名付け共に旅をした。
ローズが目を覚まし起き上がる。火の消えた焚火。荷物、森の中…。彼女はすぐに夜の出来事を思い出し、ハッとした顔で周囲を確認する。二人の姿はない。鍋に残ったわずかな食べ物を確認し、頭の中を整理した。
「眠らされたのは一晩程度? 二人は…。どうして私だけ?」
彼女はすぐ近くで二人が運ばれた痕跡を見つけると、それを辿って息を切らした。剣を握り、周囲を警戒しつつもひたすらに走る。そして、森の中にすっぽり一軒家が収まる場所へと到着する。木造りの家、大木が一本ありテーブルと椅子が備え付けられている。ここだけがあたり一面が草原で、幻想的な空間となっている。
「アーサー!!」
歩いて近づくうちに、木陰に隠れて横たわるアーサーに気が付いたローズ。脇腹をえぐられ、喉から血が出ている。呼吸は弱く瀕死の状態だとすぐにわかった。アーサーに抱き着き心配するローズ。尻尾を動かし、その先を彼女に乗せて応えた。
「姉さん!」
「気をつけて」
ジェームズとアボットが周囲の森から現れる。すぐにローズの元へ集まり一軒家から出てきたおばあさんを指差す。
「あんたら、無事だったんだね! ここは? あのおばあさんは?」
「わからない。でも、剣が!」
「アーサーが」
ローズの手にする秘剣ドーン・ブレイカーが強く輝く。それを指差すおばあさん。ちょうど陽が沈み始める時だった。木々の隙間を通り、差し込む光。森の外では燃えるような光の景色が広がっているのに、この空間には柔らかい光が届くだけ。それに呼応して彼女の剣が輝いている。
「あれは……魔女だ」
ローズが剣を握る。一言もしゃべらないおばあさん。ローズの剣を指差し笑顔でいるのが逆に不気味だった。ローズは、今にも死にそうなアーサーを横に怒り心頭でおばあさんへと立ち向かおうとした。しかし、ジェームズがそれを止める。代わりにアボットがおばあさんへと走る。
「離せジェームズ! アンタらじゃ無理だ! この剣がある。アボット! だめ!」
「何言ってるんだ姉さん! それは、その剣は、光の魔女には効果はない!」
光の魔女は優しい。けれど、森の物を勝手にとったり、動物を殺したり、森を穢す人間へは容赦しない。森の魔女は森の為に。それは光だろうが、闇だろうがかわらない。
おばあさんへとたどり着く頃にはアボットは脚から崩れ、砂となり、キラキラと沈む夕陽に照らされて消えた。「アボット!」と叫ぶローズの声が響いた。そして、おばあさんがしゃがみ込み指を一本。地面をチョンと弾く。するとローズの足元が砂で出来た沼にかわる。「水と土の魔法がこの魔女の能力なのか」と、ローズは脱出するために下半身を動かす。とっさに弾き飛ばしたジェームズが震えながら短刀を両手に構えると「姉さんは、死なないで!」と言い、お婆さんへと走った。
「ジェームズ! ジェームズ!!」
それは初めて見た魔法だった。横から差し込む光と木々の影。その陰に入ったジェームズが動けなくなった。まるで光の線が物体であるかのように…。おばあさんがゆっくりと歩いて彼に近づく。その間もローズは叫びながらどうにかここを脱出しようと藻掻く。
「姉さん。ありがとう。いつも、悪口ばかり言ってすまなかった」
ジェームズが光の中で囚われたまま、影のように黒くなり、煙のように消えた。それを振り払いおばあさんが歩いてくる。
「ちくしょおおお!! くそ! 動け!」
おばあさんがヒタヒタとゆっくり歩く。地面に沈むローズのすぐ目の前を彼女の足が一歩、また一歩とアーサーへと近づくのが見える。彼女は涙を流しながら「アーサー!!」と叫ぶ。そして、おばあさんがアーサーの鬣にある三つ編みのリボンを取る。それをはらりとローズの目の前に落とし、ゆっくりと家の戻る。
少しずつ崩れていくアーサー。まるで羽のように鬣から抜けた毛が空中を舞う。ローズはリボンを剣に結び付けると急いで傍の木に投げ、突き刺した。そしてリボンを使い、どうにか地面の上へと戻る。小さくなっていくアーサーに涙ながらに抱き着き、彼に言葉を投げかける。
「アーサー!! 嫌! 嫌! 馬鹿! 死なないで! ふざけないでよ。知ってたんだから…貴方が、隠してること。そんなこと気にもしてない。ふざけないでよ! 馬鹿にしないでよ! どうして、どうして…元に戻ってくれないよの!?」
ローズが小さくなっていく彼の胸で泣く。
「あんたがアニムだってこと、知ってた…。そんなの関係ない。あたしはあんたが、アーサーが好きなの。だからあたしから結婚の話をしたんじゃない! あんたが気にしてるみたいだったから。アーサーの馬鹿! あんた強い男でしょ? 死なないで、お願い、死なないで……」
ローズはいつの間にか抱き寄せる彼の体すらなくなっていることに気づいた。そして、意地を張っていた自分を責めた。ずっと一緒に旅をしていたのに、知らないふりをして、彼が再び人の姿を自分の前に表すのを待っていたこと。
そして、ジェームズとアボット、愛するアーサーを消した光の魔女に立ち向かうため涙を拭い、立ち上がり、一度だけ声を荒げ、息を整え振り返る。
■おばあさん・魔女の力
ローズが意を決して魔女の家の方へ振り返ると、そこには消えたはずの二人の姿があった。椅子に座り、テーブルに用意されたお茶を楽しんでいる。
「ローズ姉さん、一人で何してるの? 大丈夫? 置いていったのそんなに怒ってる?」
「美味しいよ。ローズ姉さんもはやくこっち来て一緒に食べようよ」
「あんたら…どうして」
茫然とする中、家の中からアニムが四人現れた。淡い栗色の毛の女の子、尻尾はなく鼻だけが特徴の男の子、大きな大人の男にその妻と思われる女性。皆、食器やお菓子やらを運んでいる。大きな男がおばあさんとすれ違いざまに「わかった」と頷き、それぞれがローズに話しかけてきた。
「やぁ、昨日はどうも。俺はダン。話は聞いてるよ」
「大変だったでしょう? 私はノラ。エレノアの母よ」
「あははは! 昨日の光る剣のお姉さんだ。あたしはエリー」
「どうも、トンボです。昨日はぐっすり眠れましたか? 配合は間違えてないと思うんですけど」
ローズは「昨日?」と思い返しながら、頭の整理が追い付かない。剣を握ったまま困惑する様子のローズにジェームズが話しかける。
「いつまで剣を握ってるんだよ、ローズ姉さん。いやぁ、俺もびっくりしたよ。昨日の声はこの二人だったんだよ。ほら、これ。鍋を使って声を響かせてたんだ。目が四つあるのも当然だよな。それに尻尾」
「うぐぐぐぐはぁっ! あはははは。パパに引っ張られて苦しかった」
「おう、せっかくの計画がおじゃんだからな。エリーに縄付けておいて良かったよ。エレノアよりおてんばだからな。俺の演技はよかっただろ?」
「さぁさぁ、貴方もこっちに来て一緒にどうぞ。そこの彼もいっしょに。お疲れ様」
ローズが矢継ぎ早に入る情報を一生懸命整理していたが、ノラが指差し「そこの彼」と言った途端に急いでアーサーが居た場所に振り返る。するとそこには申し訳なさそうな彼の姿があった。
「や、やぁ、ヴィクトリア。昨日、ここに来たらおばあさんとダンの提案でこんなことに…。えっと、俺のことを気遣ってくれてたんだな。俺から打ち明けようとしてたんだけど、頑固なお前にはこのくらいのほうがいいってことになってさ。その――」
アーサー。絶滅したはずのライオンがいるわけがない。あれはアニムの彼がずっと獣化した姿だったのだ。どうやったらそんな筋肉がつくのかというくらい立派で大きな彼の体は、ライオンになることでさらに大きさを増す。先日、大きな山賊カトスキーが小さく見えるのも横に並んだ彼の大きさが理由だ。
そんな彼を話し半ばに蹴り飛ばす。「うわぁ」というジェームズにエリーが「すごぉい」と言う。
「いいかいエリーちゃん。あれはね、女だけが使える魔法だよ。どんなに屈強な男も何故か愛する女性の怒りの一撃には吹き飛ぶっていう、不思議な魔法」
「へぇーー! じゃぁ、あたしもそのうち使える?」
「ああ、もちろんさ。まぁ、そういう男には会わない方がいいんだけどね。それにあのお姉さんは参考にしちゃだめだぞ。街には出入り禁止になったお店があるくらいなんだから」
「へぇーー! あれが大人の女性?」
そんな会話をする中、ローズがおばあさんを見る。全て幻、すべて魔法。彼女が魔女なのは変わりない。薄暗い中、指を一本、「内緒」といわんばかりに口元に当てたおばあさん。光る彼女の眼が少しずつ消えていくのを見守るとローズはアーサーの元へ歩いていく。そして、
「全部、おばあさんのしわざってこと?」
「ああ。その、お膳立てってやつだな。俺達の関係を戻すために」
「あ?」
「いや、俺も打ち明けるタイミングが無くなってさ。旅の邪魔もしたくなかったし。あれはあれで楽しいから、俺も暫くこのままでいいかなと思って。そしたらどんどんタイミングを逃して」
「ああ?」
「すごいだろ、おばあさん。あ、ジェームズとアボットはおばあさんが魔女だってこと知らないから。で、昨日彼女に打ち明けたんだ」
「それ聞いた。他には?」
「お、お待たせ」
優しい口調だがライオンのように太い声。彼から一言も謝罪の言葉が出ないとわかるとローズが渾身の一撃をお見舞いする。
「謝るのが先だろおがぁっ!!」
大男がまた倒される。ローズは腕を振り回しながらテーブルに向かうため彼に背を向ける。するとアーサーが小さい声で「ごめん」と言った。ローズは彼の言葉を受け取ると歩と止め振り返らずに答える。
「あたしも……ごめん。あんたの隠してること、知ってるのを隠してた」
こうして、一行はエレノア一家とおばあさんの家の外で食事と会話を楽しむ。夜なのに蝋燭がいらない程に明るいその場所、輝く虫達が舞い、木々が光っている。それが魔女の力だと知らないのはジェームズとアボットの兄弟だけだった。
■後日
お婆さんの家で一晩、数日をエレノアの家族の家で過ごした一行。アーサーはエリーから尊敬のまなざしを浴びてはライオンの姿に変わり、見せつける。嫉妬したダンは大きな三毛猫になり対抗するが、娘の眼差しはアーサー一筋だった。すでにもう一人もそうなってるとは知らずダンは「大丈夫。エレノアとトンボは俺の味方だ」とぼやいた。
森を出るのはあっという間だった。ライオンのアーサーに跨るのはローズとエリー、三毛猫のダンに跨るのはジェームズとアボット。ダンは見栄を張りまるで「荷物なんて軽いぞ」と言わんばかりに動いていたが、帰る頃にはヘトヘトになった。
改めて、ローズ、ジェームズ、アボット、そしてアニムのアーサーの四人が旅を再開する。
「それで、ローズ姉さん。これからどうする?」
ジェームズの問いにローズが答える。
「そうだね。いったん、家に帰ろうか。やることあるしね」
アーサーを見つめる兄妹が「あぁ」と言う。
「それだけじゃないよ。色々と話を聞かせ貰ったんだ。あんた達にも帰り道で話すよ。とっておきなのはエレノアの話だね」
「エレノアちゃんの? どんな話かな」
「あの子、産まれる前に一回死んでるんだよ」
「ええ? どういうこと」
「ははは。あたしだって驚いたよ。まぁ、少しずつ話していくよ。家までは遠い。のんびり行こう」
後日、隣の大陸へ戻る為に寄った港町。この町で「少女二人が地図を更新した」という噂を聞き購入した新しい地図。そこには二人の育った森が新しく追加されていた。しかし、本当の大きさがそこに記されていないのを確認すると、ローズはお婆さんが指を一本、口元に当てていたのを思い出した。
■おばあさん 緑の魔女 しゃべらない。過去に見せた魔法はエルフの郷で見せた結界のみ。今回のとアルマの魔法で気づいていただければと思いますが、幻惑魔法(精神魔法)が主体です。ちなみに、紫の魔女の力を相殺するためにアルマは緑の瞳に輝いていました。補色の関係ですね。そこに気づいた方はすごいですね。いっぱい、散りばめていますよ(*'ω'*) 小説としてどうなのかなと思いつつも(笑)
短くするのに頑張りました。読んでいただきありがとうございます。
これで、次章(大人編)にいくためのある程度の伏線回収などは終わったかと思います・・・