143 ★ヴィクトリア・ローズウッド(前編)
人物紹介
※この話は3章の途中~の話。差し込む部分がむずかしく今になりました。
※人物紹介を載せてますが、3人組盗賊団ということで想像しやすいと思いますが(笑)
■ヴィクトリア・ローズウッド 人間 ♀ 20代半ば~
通称ローズ。赤髪、口元ホクロ、お姉さん。商売・貿易・交易に強いローズウッド家の長女。街だけでなく、周囲からも評判の女性。男女から人気がある。ふわゆる三つ編みと垂れ流した前髪が特徴。地元の闘技大会では優勝を何度もしている。妹のウィネアは理由をつけては勝負を挑んでくる。
■ジェームズ 人間 男
アボットの兄。ローズウッド家に仕える一家の長男。ローズとは小さい頃から一緒。小さい子から半分抜けかけてる老人まで、女性全般に好かれる。とてもやさしい。おっちょこちょい。ウェーブ髪に髭、たれ目に上がった眉。運がいい弟の災いを受けることが多く、運が悪く見える。ナイフや短剣を両手で扱う。器用で強い。
■アボット 人間 ♂ でかい
優しい顔で大きい。子供に好かれる。ジェームズの弟。料理が得意。荷物運び担当で常に三人分抱えている。力持ち。
■アーサー ライオン
古代種のライオンで馬車くらいの大きさ。ローズが名付けた。恋人のアーサーも大きい。鬣には三つ編みがある。エレノアのあこがれ。
■その後、噂
レッド・ローズ盗賊団。率いるのは通称『ローズ』という名の若い女性。オレンジに近い赤髪は太陽の光の下、とくに朝陽や夕日の光で透き通るような輝かしい色を放つ。
昔、彼女が住む土地で開かれた闘技大会。三人一組、かつ多数の戦士が同時に戦う形式の中で地面に倒れた戦士達が最後に立っていた者を見上げる。そこには沈む夕陽のひかり電話体を縁取られ、まるで背景から切り取られてるかのように美しい髪をなびかせる一人の女性が立っていた。剣は輝き、髪は透き通るように光を含む。その美貌と強さから『地平線の女王』とも呼ばれていた。
そんな彼女、ローズが持つのはローズウッド家に代々受け継がれてきた秘剣『ドーン・ブレイカー』。細い剣からは想像できない程の切れ味と硬度を誇る。
※
ジェームズが黙ってローズを見つめている。彼女は朝陽の中、草の上で剣を振るう。一通りの動きを終わらせると、太陽の光を剣で受け止めるかのように体の前でゆっくりと鞘に納める。「ふぅ」と一息。言葉は交わさずにジェームズとあいさつを交わした。
後ろを歩くジェームズが話し始める。
「ローズ姉さん。それでどうする? このままこの大陸っていうか、島か。ここを横断するかい?」
振り返らずにローズは応える。
「そうだね…最近、気になってることがあるんだよ。クレア達のことでさ」
ローズ、ジェームズ、アボットの三人とアーサーの一頭。彼女達四人がクレアとエレノアを見送ってから日が経っていた。二人の少女が来た道を辿るように進んでいた一行。野宿、町、村と経由し島というにはあまりに大きい一つの大陸を横断していた。
「クレア達のこと? あぁ、この前に聞いた噂だね? 何でも二人の少女が森の魔女を倒したっていう。でもさ、噂だろ? 魔女がいたのかってことすら確信はないし。どうせ、尾ひれの付いた話じゃないのかな?」
「どうだかね…私の剣を知ってるだろ? 剣がさ、教えてくれるんだ。ちょうどそのあたりに"夜が明けた"のが分かった。あの子たちが無事だといいんだけどね」
後ろを歩くジェームズは、ローズが左手に持っている剣を見つめる。口をへの字に曲げながら「そうなんだろうなぁ」と半信半疑に納得する。そして、小走りに近づき彼女の横に並んだ。
「大方、魔女"みたいな婆さん”を懲らしめたとかいう話じゃないか? 森の魔女を相手に、女の子二人がどうにかできるなんて到底思えないよ」
「はは。あんた、クレアを気に入ってたじゃない? かわいいだけじゃない。すごく強いんだって。それにあたしの剣を目も逸らさずにあんな小剣で受けたのを覚えてない? この剣をだよ?」
「……まぁ、強いのは認めるけどさ。それで気になってることって、二人の心配をしてるのかい、ローズ姉さん?」
ローズが歩を止める。
「気になってるのは、二人が育った場所さ。今日はその話をしようと思う。あたしも気づいたのは昨日の晩なんだけどね。あぁ、お腹すいた! さぁ、朝ごはんは出来てるかしら?」
「……いっけね、アボットに頼まれてたんだった」
ジェームズが思い出した用事を済ませようと走っていった。入れ違いにアーサーが森から出てきた。馬車程の大きさのライオン。すでにこの世には居ないと言われる動物だ。
「アーサー。おはよ。さぁ、行こう」
彼女はアーサのー首を撫でると、立派な鬣を掴み歩いてテントへと戻る。
■何もない大陸・地図にない森
朝食――。
「ジェームズ、アボット。これからの進路について話をするよ」
「あいよ」
「……」
地図を広げるローズ。ジェームズはパンをちぎり、アボットはスープを飲みながら応える。広げた地図は隣の大陸との出入り口の港町で買ったもの。古いとは聞いていたが、大した問題も無いと思っていた。精度そのものが高いから、不思議と信頼も高まる地図だったからだ。しかし、ローズが地図に描かれた大きな島の一部を指差し二人と一頭に話す。
「ここ。おかしいと思わないかい?」
「ここ?」
「何もないけど?」
「……ジェームズ? クレアとエレノアの育った場所を覚えてる?」
「ああ。ここを進んで来たって。それでその前はここに寄って、それでここで補給して、迂回して、寄り道して、ここから来て――!?」
「あれ? 兄さん、そこ海だよ?」
「んー!? おっかしいな。もう一回」
「また海だよ?」
口を曲げ、顎を突き出し眉を押し込み考え込むジェームズ。クレアとエレノアから聞いた旅路を遡ると不思議と海に辿り着いた。手に入れた地図には今まで何の問題もなかった。少女二人から聞いた町、村、集落はほとんどが存在している。けれど、ある時点からは地図と食い違うのだ。無言で地図をなぞるように指を動かすと突如、小さなナイフがカッっと音を立て地図に突き刺さる。
「あっぶねぇ!」
「…」
「わかったかい?」
「わっかんねぇよ! 何がいいたいんだよ?」
「おかわりする人いる?」
「鈍いねぇ。こんなことあるかい? 『何もない大陸』って呼ばれて外から来る人は少ない大きな島。入り口の港町では類を見ない程に正確な地図を販売しているのにある部分がごっそりなくなってる。 それに、この地図を見る限り、はっきり言ってこの島を"大陸"って呼ぶには大きさが物足りないだろう?」
弟のアボットが鍋ごとスープを食べ始める中、ジェームズが顎に手を当て悩む。
「でもさ、実際に何もないよね? のんびりしてるだけ。ただ、人々が暮らすだけ。大きな街もないし、事件も争いごともない。ウッドエルフが住んでる森もないようだし…その名にぴったりだと思うけど…。クレア達はまだ子供だし、自分たちの住んだ森を大きいっておおげさに言っただけなんじゃないかな? ほら、子供の頃って見るものが大きく感じるじゃない? 実際、体が小さいし、目の位置が低いわけだしさ」
ジェームズが両手の指を一本ずつ、自身の目に仕立てて身を屈め表現する。最後に「あ、でもローズ姉さんは日に日に大きくなってるか」と言う。その合間に彼の朝ごはんはアボットが平らげた。ジェームズが見下げるローズの視線を捕らえたまま、スプーンを掴み朝食を口に運ぶも中身は無くなっていた。
「クレア達が間違っていたのか、この地図が間違っているのか。『何もない大陸』なんて言っておきながら、隠すように地図にない森がある…。あの子たちが育った場所、見たくないかい?」
朝食のスープが無くなり、パンだけをかじるジェームズ。お腹いっぱいで空を見上げるアボット。くつろぐアーサー。二人と一頭はローズの提案に賛成する。
「よし。それじゃ目的地は決まったね。あたしたちが向かうのは地図にない場所。クレアとエレノアが育った場所。『何もない大陸』の"何もない場所"だよ」
「家族に挨拶か。緊張するな」
「楽しみだね」
(喉の音)
■クレアの故郷・最果ての村
レッド・ローズ盗賊団。旅は順調でもうすぐ地図上での島の端へとたどり着こうとしていた。最後に立ち寄った村は最果てにある為、宿などはない。ただ、商人が行き来することはあるので集会場を宿場代わりにしていた。
村人たちはとてもやさしく、食事の世話もしてくれる。ライオンを見ても驚くこともなく、子供たちはアボットとアーサーで遊んでいる。ローズとジェームズは家の外に設置された木製のテーブルと椅子を使い食事をしている。そんな中、ローズは村全体に張り巡らされている違和感に気づいた。
「ジェームズ。気づいた?」
「ん?」
「家具。ここの村に家具職人なんていたかい?」
「どうだろう。大工ができそうなおじさんはいたけど」
「あんな腕じゃこんな椅子やテーブルは造れないよ」
「まぁ。これはすごいよね。俺達の街でも立派な値段で売れるだろうよ。二、三個揃えれば家宝になるんじゃないかな?」
「ああ。それがどこの家にもあるんだよ。むしろ、あの椅子。外に放置してある。まるで価値はないみたいにね」
「ほんとだ、あ、ちょっ、アボッ! っちゃぁ。壊しやがった」
子供をたくさん抱えたアボットが倒れると下敷きになった木製の椅子が壊れる。けれどそんなこと誰も気にしていなかった。
「すいません…弟が。あれ、高かったでしょう?」
ジェームズがお茶を運んできてくれた年配の女性に謝る。すると彼女は笑顔で応えた。
「気にしないでいいんですよ。全部、貰い物だからね。あそこの倉庫に替えはいくらでもあるから。さっき壊れたのは家具職人さんの子供が手伝ったって聞いてるわ」
それを聞いたローズが席を離れ、砕け散った椅子の破片を調べる。ジェームズはそれを眺めながら年配の女性と話を続ける。
「家具職人? ここに住んでるの、お姉さん」
「あら、やだわ。お姉さんなんて」
「ははは。俺からしたら"お姉さん"か"お嬢ちゃん"しかいないからね。それにお姉さんの肌はすごい綺麗だよ。食べ物と景色がいいと、女性はより綺麗になるんだって、ここに来てわかったよ」
満足そうな年配の女性がお皿に盛ってあった果物をジェームズの前に出して応える。彼は皮を剥き食べながら話を聞く。
「家具職人はこの先の森に住んでるのよ。会ったことは無いけれど…何でも、森には恐ろしい魔物が出るらしいの。光る眼が四つ、尻尾が二つ、しかも体にあるコブがあちこちに動くそうよ。音もなく近づいてくるんですって」
「うへぇ、魔物かぁ。怖いなぁ」
「でも、私達はそんな奥まで行かないから被害も出ていないけどね。アンタ達も森の奥深くに行ったら駄目だよ」
「ああ。気をつけるよ。ありがとう」
ローズがいくつかの木片を手に戻る頃には、ジェームズは会話を終え一人になっていた。テーブルにゴトゴトと木片を置くと並べ替え彼に見せる。
「エ…レ…ノア? あ、エレノアだ。これって、エレノアちゃんかな?」
「だろうね。明日、出発しようか。地図は確認できたかい?」
「ああ。やっぱりここから先がすっぽり無くなってるね。見た限り、一つ二つの森って感じじゃないよ」
「いいねぇ。地図にない場所を歩くなんて…で、何か情報は?」
「えっと、魔物が出るって。光る眼が四つ。尻尾が二つにコブが動くんだってさ。音もなく近づくらしいよ」
「そんな魔物は聞いたことがないね。まぁ、この剣があれば大丈夫。他には? 森だよ? 魔女がいるだろう?」
「それがさ、誰に聞いても魔女はいないって。っていうか、ここまで人が来たのは珍しいって。ここへは昔から同じ人が来るだけで他の大陸から客がくることが滅多にないってさ」
「へぇ、それはおかしいね」
「何が? こんな僻地までだれが来るってんだよ。ましてや何もない。本当に何もないんだよ? ただただ、のどかなだけ。立派な宿とか、町があるならまだしも…食事は畑からとれる野菜に、自然の中で獲ったもの。どこでも出来ることばかりじゃないか」
「あんたも素直だねぇ。そこじゃないんだよ、ジェームズ。ここまで商人が行き来してるのに、地図が更新されてないなんてね…。どうしてこの先に進まないんだろうね。怪しいね。何かある気がするよ」
「何かって…ここからずぅーっと奥の方にクレアが言ってた通り、二人の家があるだけじゃないのかい? まぁ、俺はそれでも全然かまわないんだけどさ」
席を立ったジェームズがそう言いながら集会所へと戻っていく。ローズも地図に広がる海と、目の前に広がる大自然を見比べてから彼らの元へと向かった。
翌日、ローズ、ジェームズ、アボット、アーサーの一行は最後の村を出てクレアとエレノアが育ったという森へと向かった。地図上では海になっているその場所へ。
小話が多いのでサクサク進めます!!
(*'ω'*)