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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
古の魔女 〜紫の魔女編〜
139/144

139 プルプラ④ 三人の魔女

 彼らを見ると身震いした。


 エルフの男は魔法の力だろうか…目にも留まらぬ速さで木人を斬りつけている。もし、彼と戦ったのなら勝てるだろうか? あの動きを捉えることは不可能だろう。一度、手合わせしたかった。それが叶わないのが残念で仕方ない。


 人間の男。彼は突然に別の場所に現れる。目を疑う光景だ……。一瞬、瞬きしたのか、それとも意識が飛んだのか、そういう錯覚に陥るが彼は確かに一連の動きの中で消え、現れる。あれも魔法の力なのだろうか? 何より彼の持っている武器が気になる。杖から球体を取り出すので必死で魔女を攻撃するところは確認できないが、あれはオークの武器だ。自分の部族の物ではないが特別な者にしか与えられないであろう代物。しかもそれを使いこなしている。


 彼とも一度、手合わせしたかった。


「いいのか?」

「ああ」


 大樹の広間、周囲の森との境目。

 白い狼がオークに声をかけると、強く低い声で短く答えた。オークは猫背の所有物となったことが悔しくてしょうがなかった。今、この場にはオーク以外の種族で三人もの強者がいるのだ。高速移動する金髪のエルフ、赤い槍を持つ興味深い人間、そして自分を負かした大きな白狼。


 オークが小さな目を閉じる。息を吸うと体が更に大きくなるが、それは内側から膨れ上がる力のせいでもあった。白狼がオークの状態を確認すると、再度声をかける。


「いい戦いだった」

「ウガ、もっと戦いたかった」


「ああ。あれを倒せるか?」

「ウガ、そのために作られた」


「目的はあれか?」

「いや。でも、これならそれができる」


「連れて行ってやろうか?」

「いや、アイツラが魔女の気、ひいてる」


「そうか。じゃぁ俺は自分の役を果たすか」

「名前、お前の名前。アニムの名前」


「リードレ。俺はエルフだ。ウガ」

「……リードレ。輝く狼に変わるエルフ」


「ウガ」


 オークはそのまま、地面に重さを伝えながら大樹の方へ歩いていく。体からは湯気がたち、周囲の霧が離れていくようにも見える。そして――



 紫の大樹で二度目の爆発



 ウィリアムが裸のリードレに手渡そうとしたシャツは爆風で飛んでいった。吹き飛ばされそうなウィリアムをリードレが守る。少し離れたところではオードンがアレクサンドラを、シエナがシルヴェールを守るように爆風に備えていた。


 紫の魔女プルプラは両手で顔を撫で回すように叫び、顔を、胸を、腰を、腕をと崩して消えた。


 次に、大樹が倒れる。身動きの取れないシルヴェールと彼を守るシエナの頭上に、到底抑えることのできない大樹がのしかかろうとしている。シエナは目を閉じ、シルヴェールだけはどうにか守ろうと残り僅かな力で防壁魔法を使う。シルヴェールもまた、彼女を守ろうと自身の魔力をすべて彼女に注ごうと震える体で応える。


 大樹がぶつかり、シャボン玉が割れるかのように一瞬で防壁が砕け散るのを感じとったシエナ。彼女は覚悟し、シルヴェールの手を強く握りしめた。


「相変わらずだな」


 リードレの声が聞こえるのと同時。大樹が地面に食い込む音の中、シエナとシルヴェールは白狼に戻ったリードレによって大樹から少し離れた場所へと運ばれる。


「リードレ!」

「お前は本当にシルヴェールが大事なんだな」


 薄れていく意識の中、シルヴェールは二人の会話をどこか遠くで聞いていた。


 一方、結果的に上半身裸になったウィリアム。大樹が倒れ、空が晴れ、空気が軽くなったことで手応えを感じていた。地面の草を背に大の字で倒れると、ある疑問が湧いてきた。


「あれ? そういえばリードレのやつ、なんで俺の加護の中であんな動きができたんだ? この前、赤の森で会ったときは片方の目になにか仕込んでたけど、今日もそれか? いや、でもな」


 彼は答えを探し、髪の毛に草を絡めながら顔を動かし周囲を見渡す。すぐに彼の表情が変わる。それは離れた場所にいるシエナも一緒だった。


 周囲の森が次第に朽ちていく。ただ、それだけならいいのだが今回は森が解放されたからというより、ウィリアムの近くに何かが近づいている。集まっているという雰囲気だった。ウィリアムは上体を起こすと地面から現われるそれに備えた。


 髪は長く、今までとは比にならないほどきめ細やかな木目の体。大人の女性で美しい体。起き上がり、体から木の皮が剥がれ落ちる。そしてウィリアムが彼女に声をかけた。


「よぉ。プルプラ。それが本体か? お前ら魔女ってのは、本当にこういうのが好きなんだな。面倒くさい」


「そうか? だが、おかげで悲しみ、怒り、耐え、絶望し、喜び、安心できただろ? 魂はそうやって様々な形で研ぎ澄まされていく。今、まさに味わうのに最適な瞬間といえよう」


 成すすべもなくウィリアムの胸に、霧状になった彼女の腕が突き刺さる。シエナが救いに行こうと立ち上がると白狼に抑えられた。


「なんで邪魔をするの!? 離して!」


「放っておけ。彼女の邪魔になる」


「何を言ってるの!?」


 争う二人の様子にシルヴェールが目を覚ますと、白狼に襲われているように見えたシエナを救おうと「やめろ」と言ったがすぐに白狼の前足で地面に抑えられ気絶した。


 ウィリアムは両膝を地面につけ、プルプラの腕をつかもうと必死に空を切る。彼女は笑いながら言う。


「思った通り。なんて濃厚なの。あぁ、こんなの初めて」


 プルプラがもう片方の手もウィリアムの胸へと突き刺す。彼の目や口から彼女が溢れ出し、淡い光を放つと二人とも動かなくなってしまった。


 倒れた大樹の葉からモゾモゾと猫背のエルフが現れた。地面を這い、持っていた杖を動かなくなった魔女へ投げ突き刺そうとした。しかし、白狼が空中でそれを掴むと、その勢いのまま猫背に突き刺し近くの岩へと固定する。


「ぐぅふ。おま、お前、邪魔をするな。はハ、ハハハ、魔女が言ってたぞ。そうだ! 言っていた! 『ここに五人のエルフがいる』ってな。私、双子、シエナに、シルヴェール。つま、つまりだ、お前はエルフから外された。あは、アハハ。私は成功したんだな!」


「黙れ」


 白狼がさり際に蹴飛ばした杖が猫背の喉元に突き刺さると、彼は「ヒュー」と声にならない音だけ出して必死に堪えていた。




 一方、魔女プルプラとウィリアム。


 ウィリアムの中へ入り、奥深くへと行くプルプラ。両膝を地面につく彼は時折、体を動かす。目は紫に光りどこを見ているのかわからない状態だった――



 あぁ、なんて深いんだろう

 あぁ、なんて美しいんだろう

 こんなに、洗練された魂は初めて見た


 さぁ、お前の光と闇を見せておくれ

 さぁ、お前の心の炎を触らせておくれ

 さぁ、お前の人生を嗅がせておくれ

 さぁ、お前の叫びを聞かせておくれ

 さぁ、お前の魂を味わわせておくれ


 ……


 彼の名前はウィリアム……これは今の人生


 彼の名前はジョゼフ……これは? 前の人生?


 彼の名前は……ありえない


 彼の名前は……これは、どういうこと?


 彼の名前は……あぁ、なんてこと


 彼の名前は……この男は、この魂は


 彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……彼の名前は……


 魔女プルプラはウィリアムの魂の中で記憶を遡る。深く、長く、遠くへ行くほどにその魅力に捕まり戻れなくなる。暖かく、眩しい光。ふと自分を認識すると遡り過ぎて自分自身が彼よりも若くなっていることに気づいた。


「これは!? あぁ、だめ、まだ先がある。もっと、もっと、全てを知ってから私の胎盤(なか)に入れたい」


 魔女プルプラがウィリアムの魂に溶けこみ、本人ですら知らない魂に刻まれた歴史と記憶に潜っている間、オードンがアレクサンドラを抱えシエナ達のもとへ集まる。とても大きな白狼を見上げながら、ゆっくりとアレクサンドラを地面に寝かせる。そばではシエナが白狼のリードレに話しかける。


「ウィリアムが……。このままじゃ。何か、できないの?」


「何もするな。合図がある。赤の魔女が『彼に直接渡した』と言ってたからな。それに……」


「それに……何?」


「ああ。わかるだろ? どうして俺があいつの加護の中で高速で動けたか考えろ」


「……じゃぁ、なんで今、助けないのよ」


「……いずれわかるさ」


 目を丸くして、口を開いたままのシエナがリードレを見つめる。そして魔女プルプラは今もウィリアムの奥深くへと進んでいた。


 

 もうどれだけ深いところまで来ただろうか

 この男の魂は数え切れないほどの人生を経験している

 たった一つの魂で

 生まれたままの魂のまま

 永遠に新しい肉体の記憶を刻まれている

 どうやって耐えてきたのだろうか

 この男の核に何かがある

 

 ゆえに濃厚


 あと少し、あと少しで核へとたどり着く


 あぁ、眩しい

 

 あぁ、気持ちいい……


 すでに少女の体になった魔女プルプラ。彼の魂の中で変わりゆく自分の姿に喜びさえ感じていた。そして、最後の空間。最後の世界。ウィリアムの核となる部分へ来たとき、突然に彼女が現れた。


「プルプラ。ここまでだよ。引き返しな」


 赤の魔女カンナが、少女になったプルプラを抱きかかえるとあっという間に外へ引き出した。


「いヤァ! あと少し! あれを食べたかった!! イヤァア!! アァアア! そうか、これが狙いか!! アハハハ、アヒャヒャヒャ!!」


 ウィリアムから一瞬だけ、輝く赤の魔女が現れた気がした。飛び散る光も彼女の扱う光のものだった。シエナが驚く中、白狼リードレはエルフの姿に戻り、魔女プルプラの元へ高速で移動するとその体を分断した。


「そうか。お前、彼女の……」

「あぁ」


 空中を舞う魔女プルプラの上半身。崩れ落ちるウィリアム。剣を振り切ったリードレ。その全てが止まる空間。そこに一人の女性。


 白い髪は美しく、頬に小さなキズが有る。ウィリアムを優しい眼差しで見つめゆっくりと歩く。そして魔女プルプラの上半身へと近づく。微笑みかけるとプルプラは目を動かす。次に顎、そして口という順にまるで脱皮するかのように動かし、彼女と話し始めた。


「私を利用したね」

「ええ。ごめんなさい。こうするしかなかった。それでどうだった?」


「どう? あれを私の物にできなかったのが悔しいね」

「うふふ。そうね。でもそれは聞き捨てならない」


「女としてかい?」

「そうよ。だって私の大切な人だもの」


「はは! この男は知らないんだろ?」

「ええ。でも、つながった」


「あぁ、そうか。それで?」

「そうねぇ。ここからは彼に必要な数だけ死んでもらうわ」


「あはは。一体、どれだけの数かわかって言ってるのかい? それに、一つの体に今まで歩んできた人生の魂の記憶を宿すとどうなるかわかるだろ?」

「ええ。でも、彼なら大丈夫。きっと耐えられる」


「どうだか……」

「彼、よく偽名を使うのよ。その全てが過去の自分の名前。『今、考えた!』とか言ってたけど、私は知ってる。どうして偽名を使うかわかる?」


「さぁね。自分が何者かわからなくなってるんだろ」

「その反対よ。自分に戻りたがってる。だから、どの名前もしっくりこないんだわ。私は彼を待ってる」


「戻りたがってる? はっ! そんなことしたら確実に頭がおかしくなるだろうね。わかるかい? 一歩、その足を踏み出しただけですべての人生のその”一歩”の記憶が混濁した状態になるんだよ? 五感で味わうすべてが、思考全てが、朝の記憶も、子供の記憶も。こいつはこのままのほうがいい」

「そうかもしれない。でも、彼、さっきあなたに言ってたじゃない?」


「は?」

「『俺が証明してやる』って。だから、これは私のわがまま。私も彼に証明するの。彼を信じてるもの。それに結構寂しいのよ。この世界に一人で居続けるのって」


「だったらエルフのところに帰るんだね。あいつらが歳をとるのも、ここへ来たのもお前のせいだろう?」

「そう。でも、戻っても今の私では無理」


「そうか。さっきのはそういうことか。もう一人は?」

「遠くにいるわ」


「それで? 私を利用したあとはどうするの?」

「ごめんなさい。でも、これはあなたにとっていいことだと思う。新しい体、気にいるといいんだけど。プルプラ……あなたも外の世界で生きてほしい」


 白の魔女がプルプラの腕を掴むと肘のあたりからちぎれた。彼女はプルプラの胸に手を添え、光る小さな石のようなものを取り出す。そして引きちぎった腕に入れ直した。


「ありがとう、プルプラ」

「へん! 何が『ありがとう』だい! 後悔するなよ」


「ええ。さようなら。しばらく眠ってて」

「ったく……あぁ、あと少しだったの……」


「うふふ」


 魔女プルプラの動きが止まる。そして、白の魔女がウィリアムと同じ高さまでしゃがみ、顔を近づける。彼を見つめ、口を紡ぐと立ち上がり魔女の腕を投げると同時に消えた。


 動き始める時間。白の魔女と紫の魔女プルプラのやり取りは誰も知らない。シエナには赤の魔女の閃光とともに魔女プルプラが崩れていくようにしか見えないし、リードレはそんな魔女の状態をみて終わったことを悟る。オードンはただただ、見守っているだけだ。そして、どさりと魔女プルプラの腕が一本、岩に突き刺さった猫背の前に落ちる。


「ヒュゥー、ヒュゥー」


 呼吸をするだけ、成り行きを見守るだけで精一杯だった猫背。目の間に偶然飛んできた魔女の腕。上半身、下半身はすでに朽ちている。早くこれを取り込まねばと、腹のあたりを刺激する。


 白目を向きながら猫背の体が粘土のようにボコボコと変形するとそれを食い破るように大きなネズミが現れた。まだ、彼の体と決別はしていないがすぐに地面に落ちた腕を飲み込む。「あ!」とオードンが叫ぶが、ネズミはそのまま走りどこかへ消えた。


 ウィリアムを抱きかかえたリードレがシエナ達の元へと戻る。オードンには何がなんだかわからなかった。こんどは裸のエルフが歩いてやってきたのだ。確かに狼だったのに……。「あ、あ」と言いながら逃げたネズミのことを話すとシエナが心配する。猫背に自分たちが見られたことを声高にリードレに話す。


「まずい。私達、見られてしまった。それに魔女の一部を持っていったんでしょ? 殺さないと」


「まぁ、気にするな。それにあれはあいつの分体だ。本人に記憶は届かない。魔女は死んだ。お前らはもともとの目的を果たすがいい。俺はこいつを連れて行って……これから毎日、死ぬところを見なければいけないからな」


「っくそう。ふざけるなよぉ。なんで裸の男にお姫様抱っこされなきゃならないんだ!」


「おい、こら、暴れるな」


「離せ! あっ、いてぇ。おま、この野郎、いきなり落とすんじゃねぇ!!」


「お前が離せというからだ」


「……あ、くそ、こら、俺の顔の近くでしゃがむんじゃねぇ!」


 リードレは立ち上がり白狼へと戻った。そして、アレクサンドラを見て話す。


「この女を家まで送るんだろう? ミシエールの街だったな。そこまでは護衛してやる。それでお前の今回の旅は終わりだろ?」


「あ、あぁ。え? いや、違う。そうだ! なんか、他にも依頼があった気がする。思い出せないけど、すっごい大事なやつ」


「ほう。まぁいい。ミシエールの街の外で待っているからな。逃げても無駄だぞ。お前の匂いは覚えたからな」


「うわ、アニムがよく言う台詞だ、それ。あとやんちゃな子。『お前の家は覚えたからな』みたいな。やめてくれる? 裸の男に抱きかかえられて『俺の匂い覚えた』とか、そういうこと言われたら勘違いされる」


 ウィリアムを介抱しながらシエナは二人の会話を聞いて楽しんでいた。懐かしい光景。減らず口をたたくウィリアムを乱暴に扱うことでリードレに敬意を表せと訴える流れは今も変わらない。


「あぁ、あれ!? 中身が!」


 突然、オードンが慌てる。手に持った球体が空になっているのだ。そこには娘レアの魂が入っていたはずだった。白狼のリードレが話す。


「安心しろ。それぞれの肉体に戻っただけだ。お前らが歩いて変えるよりも早く、本来の場所に向かってるはずだ。まぁ、それまでは今までと一緒だがな」


 オードンがレアの短刀を握りしめると、それに気づいたリードレが、


「その短刀は何なんだ?」


「これ? これは娘が俺に作ってくれたものだ。いつの間にか俺の腰にあって……きっと、これが守ってくれたんだな」


「ああ、そうだろうな。まぁ、運がいいだけかもしれんがな」


 リードレはただ、自分が運んだそれを興味本位で聞いただけだった。通りすぎる前に彼女に言われ、そして彼に届けた。ただ、それだけ。小さく頷く白狼のリードレをじっと見つめるウィリアムが口を開いた。


「なぁ、俺、ちょっと、気持ち悪い。お前に抱かれたせいかもしれない。なんだこれ」


 吐くような素振りを見せると、シエナが続けてウィリアムを介抱する。リードレが彼の肩に手を置き、


「俺は後始末をしてくる。お前らはそいつの集落へ行くんだろ? そのあとはお前のそばから離れないからな。さっさと街へ戻れよ」


 と言い、その場を去った。ウィリアムが調子を整えるとちょうどアレクサンドラが目を覚ました。ただ、黙って見つめている。そばにいるオードン。シエナ、シルヴェール。そして、ウィリアム。


「あなた達、誰?」


 ウィリアムがシエナの腰布で顔を拭く。「あ、こら!」という彼女を無視して笑顔でアレクサンドラに答えた。


「俺はウィリアム。何も覚えてない……だろ? 君を迎えに来たんだ。君やその大事な人に頼まれてね」


「大事な人?」


「ああ。ローレンス。君の母親だよ。それにアルマ。君の娘さ。とても小さくて可愛いんだぞ」


「私は……その、私は誰? わからない。名前はあるの?」


「ああ。君の名前はアレクサンドラ。皆、君をアレックスと呼んでるよ」


「私はシエナ。よろしくね。それでそこに倒れてるのがシルヴェール」

「お、おれはオードン。始めまして」


「そう……。私はアレックスっていうのね。それでシエナに、シルヴェール、オードン、えっと……ウィリアム」


「よし。それじゃぁ帰ろうか、みんな」


 オードンはシルヴェールを背負い、ウィリアムは自分の足で、シエナは少しでもオードンが楽に運べるようにと手伝う。そしてウィリアムが振り返ると、その場から動かないアレクサンドラに気づいた。


「アレックス! 君も一緒に帰るんだよ!」


「?」


 彼女はそれが自分だと気づくのに数秒かかった。走り寄ったシエナが彼女の手を取り引っ張る。そして、彼らは数週間かけてオードンのいた集落へと向かおうとしたがアレクサンドラのことで一つ、問題があった。


 魔女プルプラが使っていた容姿の原型がアレクサンドラだった為、集落や他のアスカラ族とこの森で出会うのはあまりよくないと考える。そこで、アスカラ族が葬儀で使う大河を下ってはどうかと提案する。


 もちろん、シエナの魔法あっての考えだ。大滝ではどんな船だろうが落下した衝撃に耐えられないだろうし、突出した岩もある。一番乗りきだったのはウィリアムだ。


「おし! それで行こうぜ! ははは! リードレめ。ずっとオードンの集落でまってるがいい。あ、そうだ、オードン? これ、これ上げるよ。おれの使い古した下着。これをさ、持って帰ったら一番小さくてすばしっこい動物にくっつけてくれよ。ふはははは! あいつがこれを追いかける様が目に浮かぶぜ!」


「あ、あぁ。わかった」


「ちょっと! 汚い! オードンもなんで言うこと聞くのよ」


 こうして、ウィリアム、シエナ、シルヴェール、アレクサンドラの四人は魔法を駆使して強化した小舟で、滝を越え、眼下に広がる河へと飛んでいった。


 数日後に森を出た四人。街道にでると、シルヴェールとシエナはそのまま別れエルフの里へと戻った。そして、ウィリアムとアレクサンドラはミシエールの街へと向かう旅を始める。直後にアレクサンドラが道端で拾った白い塊を彼に見せた。


「これ、すごい大きい。羊の毛ではないわよね。何かしら?」


「おお、これはね白い狼のぉほぉぃ!」


 キョロキョロとあたりを見回すウィリアム。こうしてウッドエルフの里に入った途端、乗っていたククルに強制的に運ばれるその日まで、彼は白狼リードレの影に怯えることとなった。狼の遠吠えが聞こえるたびに彼は、リードレを思い出す。

パパ編最終話でした。ありがとうございました。

考えていたよりもめちゃくちゃ長くなってしまいました。どうにかこうにか短くまとめましたが……


ちなみに5章後日談、ウッドエルフ編でパパとククルがどこかへ行くときに聞こえた狼の遠吠えはリードレのものです。


道中、セクシーな格好の女ウッドエルフに顔を赤らめながらも周囲を確認していたのは彼女に勘違いされて怒らせていないかという不安と、リードレに告げ口されないかという懸念です。


いつものように小話で後日談をコメディに書いたら完全終了で6章へ行きます。クレア、エレノアの大人編スタートですね。いつもどおりかけるのが嬉しい……


あと、以前に投稿した「白の魔女のわがまま」を少し加筆して投稿しようと思います。


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