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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
古の魔女 〜紫の魔女編〜
137/144

137 プルプラ② 運び屋オードン

■古の魔女プルプラ 若い魔女と、老婆の魔女の二人が現れた。若い魔女は言葉遣いがアレクサンドラのよう。ただ、ウィリアム以外と話すときは冷淡になる。


■オーク種族:世界を移動している。部族ごとに狩場を転々としている。強い動物や魔物を倒すだけのために世界中を移動して狩りをする。彼らの体は魔女や魔法に対して耐性が強い。

 シルヴェールは剣を片手に、古き魔女を相手に奮闘する。老婆の姿をした紫の魔女プルプラは蛇のように下半身を変化させたり、または本物の蛇や、樹と土で作った蛇を引き連れ襲い掛かる。シエナの援護のもと彼はそれらを相手に一歩も引かないが、老婆の魔女は倒されてもすぐにまた現れた。


「あら、イイねぇ。相思相愛?」


 そう問いかける老婆の魔女の首はすでに空中を舞っている。ホロホロと崩れる顔が笑っているがすぐにシエナの土の魔法が貫くと粉々に消える。しかし、お互いにそれが無意味だとわかっている。これがウィリアムと紫の魔女プルプラが二人きりになるための足止めだということも理解はしている。けれど、次から次へと現れる老婆の魔女やその僕たちを相手にするので精一杯だった。


「ったく、しつこい!」

「シエナ」


 細長い杖を振り回し、華麗に舞いながら風や土の魔法を次から次へと放つシエナ。自身やシルヴェールに防護魔法を張りながらここまで動ける戦士はそうそういない。それも魔女を相手に気負いせずにいられるのは経験と仲間への信頼が厚いからだ。


 シルヴェールの剣技はエルフの郷でも群を抜いている。それは師であるリードレの域を目指し、過去に見たウィリアムの働きを超えようと日々、訓練を重ねてきた成果である。


 大中小といった多様な蛇、木人、繰り返し復活する老婆の魔女と交互に斬りつける高速移動剣技は歩を進めるごとに間隔が短くなる。流れるように加速して動く初手から、瞬きをしているのかと錯覚するほどの速度に達する。鍛え上げられた体、内在する魔力と耐性、剣を振るうごとに軽くなる秘剣。さらにはシエナの魔法があればこそ、ここまで連続して使うことが出来た。


 自身の力だけで使っていたリードレにはまだほど遠いが、その差に気づくほど彼は心を躍らせている。そして今もなお成長するため自身の限界を超えようと必死だった。


「無理しないで!」


 二人のエルフが戦う場所では魔法、剣技、魔女の破片が飛び散っている。その様子を入り口に避難しているオードンはただ一言。


「なんて美しいんだ」


 そう声を漏らした。これがエルフの魔法と剣技の戦い。とくにシルヴェールの動きは目で捉えるのは難しい。しかし、不思議と目に残像として残った。一方的にも見える戦いだったが、変わらない状況からいつの間にか二人の形勢が変わっていた。


 シルヴェールは次第に魔女からシエナを守る戦いへ。シエナもまた、彼を守る戦いへと切り替えている。


「きりがない。何か方法はないかな?」

「そうねぇ。あの樹を切り倒すっていうのは? 安直かしら?」


 二人の足止めを達成している紫の魔女もまた、二人にペースを合わせる。目の前にいるエルフの二人が無理をしてでもウィリアムの元へ行こうとしないのがわかり、今は「想い合う二人の間にどうやって割って入ろうか」を考えることの方が楽しかった。


 戦闘の合間に二人は会話を続ける。


「あの中にアレクサンドラがいるからな。でも、何か変わると思うよ。あれを破壊するとなると……」

「私の魔法じゃ無理よ」


「そうだ! 入り口に物資が色々とあったけど、魔法のランタンがあったよね? どうかな?」

「あぁ。そうね! 一人、手が空いてるし。頼んでみるわ」


「時間を稼ぐよ」

「ええ、お願い」


 シエナは防護魔法を強化し、戦闘の合間を縫って風の魔法を使いオードンの耳元に囁いた。


(オードン! あなた、そこにある魔法のランタンから燃料を抜き取って出来るだけ集めて)

「お? ああ! 任せろ! 聞こえてるのか?」


 突然、シエナの声が耳元に聞こえたオードンは振り向いたりして彼女を探した。遠くに視界で捉えているのに耳元に囁き声が聞こえて彼は驚いていた。自分の声が聞こえているのか不安で手振り身振りで彼女に答える。


(ちょっと! バレないように! いい? 集めた燃料を大樹の側に置いてくれる? 吹き飛ばすわ。コイツラの気は私達が惹きつけるから)

「よし、これだな。任せろ!」



 一方、若い姿をした紫の魔女プルプラと対峙するウィリアム。


「アレックスをどうするつもりだ?」

「どうするも何も……久しぶりの感覚だから。これが人の形。これが私の形態。しばらくはここに居てもらうわ。二百年くらいといったところ?」


「はぁ? 人間ってのはな、健康に生きたって数十年だぞ。それこそ七十歳こえたらすんごいんだぞ。今日、この場で、アレックスを連れ戻すからな」

「それは残念ね。あなたに会えてうれしいのに。不思議……。これが」


「それはお前の感情じゃない! アレックスのだ!」


 ウィリアムが魔女プルプラに斬りかかる。彼女は素手で剣を受けながら楽しそうに彼と踊る。掴まれては解き、倒してはまた背後に現れる魔女プルプラと戦いながら二人は会話を続ける。


「あの日、彼女を見た。どうしてこうなったのかわからないけど……。それにもう一人小さい子が見えた気がする。ねぇ、小さい子知らない?」

「知らないね! それとお前、アレックスみたいな話し方はやめろ!」


「しょうがないでしょう。彼女を使っているのだから」

「彼女を使う?」


「ええ。見て……ここに広がる霧。これは私の残留思念。私であって、私ではない。当の昔に体の形など忘れてしまった。時折、呼び起こされることはあった。前回はそうねぇ、千年と少し前かしら?」

「はぁ!? じゃぁ、お前は千年以上眠ってたってことか?」


「そうね。まぁ、感覚的に言うと"漂っていた"っていうほうがしっくりくる。それに千年なんてほんの僅かな時間よ」

「……あの干からびた婆さん魔女は?」


「失礼ね。あれも私。本当はもう一人いるんだけど……彼女、アレクサンドラが隠してしまったの。だから見つからない。まぁいいわ。いずれ私の姉妹が見つけるでしょう。こんなこと初めてだもの。人と魔女の間の子が二人も存在する。それも私の姉妹から生まれた特別な子」

「お前の姉妹って何だ?」


「あら? 知らないの? 私は紫の魔女プルプラ。世界に存在する魔女は私の姉妹。といっても、もう一人いるんだけどね。悍ましい蒼の魔女がね」

「ラピスラズリってやつか?」


「あら、彼女の名前は伝わってるの? なんか嫉妬しちゃう」

「そりゃ、幾度となく王国を滅ぼしたり、物語に使われてたるするからな」


「あなた、魔女と戦うのに慣れてるのね」

「そりゃどうもっ!」


 また、ウィリアムが彼女にとどめを刺す。けれど、すぐに背後から魔女プルプラが覆いかぶさってくると彼女の事を投げ飛ばした。


「アハハ。楽しい。本当にすごい」

「影移動ってやつだろ? 知ってるぞ。そんなに早く出られるとは知らなかったけどな」


「影移動? あぁ、彼女の姉妹が使うやつね。陰気な彼女らしいわ」

「違うのか?」


「私はただ、ここから生まれてくるだけよ。それにしても――」

「――!?」


 紫の魔女プルプラが地面から数人現れると、ウィリアムは手足を掴まれ地面に倒された。そして覆いかぶさるように上に乗った魔女プルプラが彼のシャツをはぎ取ると胸に手を置き恍惚とした表情を浮かべる。


「あぁ、これすごい。味わいたいわ。本当にすごい。こんなの初めて」

「くそ、放せ!」


 彼女は細く滑らかな木の集まりと苔で出来た舌を出し、ウィリアムの腹部から顔までゆっくりと舐めながら近づく。彼は驚き、笑いながら暴れる。


「うぐっ、うひゃ、あはは、くすぐったい。くそ! やめろぉ!」

「楽しんでるじゃない。もう、我慢できない。私の胎盤(なか)に入れてあげる」


「中?」

「違う、そっちじゃない……こっちよ、こっち」


 ウィリアムがプルプラの長く先が枝分かれした舌を見つめると、彼女は少し体を後ろに動かしながら視線を下に誘導した。肩からはらはらと剥がれていく彼女の体。きめ細やかな樹の皮は、まるで服を脱ぐかのようハラリと落ちる。単に魔女の演出だったがウィリアムには効果的だった。再度、舌を出して唇を舐めると両手で彼の顔を抑えつける。ほっぺたを押しつぶされたウィリアムは「やめろ」と言おうとしたがうまく言葉が出なかった。


「やへほ」


 一生懸命にランタンの燃料を運んでいるオードンにはウィリアムと魔女プルプラの戦いが、エルフ二人の戦いとは対照的なことに気づいていた。ちょうど二組の間を走る彼は、右を見れば壮絶な戦いの繰り広げられる風景。左を見れば……どちらかというと美しい女性に迫られている男の戦い。「この差はなんなんだ?」と思いながら最後の燃料を運び終えるとシエアに大きく手を振った。


「じゃぁ、離れてオードン!」


 シエナがその場で回転する。杖を持ち替えながら大きく振り回す。先端に集まる風が次第に雷を帯び始めると「シル!」と一言。彼はすぐに左手を杖に向ける。すると彼の体から幾ばくかの雷が杖の先端に吸収された。そして、シエナの持つ細長い杖が光る一本の槍へと変わる。


 老いた魔女はすぐに彼女を止めに走った。しかし、シルヴェールがそれを阻止するために援護する。シエナは周りで何が起ころうがシルヴェールを信じて一切振り向きもせずに光の槍を紫の大樹の根元に置かれた燃料へと投げようとした。


 刹那、目の前に数体の木人が立ちはだかる。このまま投げればそれらに阻止されるのは確実だった。だが、シエナはシルヴェールを信じて迷うことなく光の槍を解き放った。


 すでに高速移動剣技を使い始めたシルヴェール。移動速度はすでに光の槍より速い。槍を追いかけ、追い越し、木人を切り捨てながら最後は追いつく槍を躱しその行く末を見守る。そして……


 老婆の魔女の想いがそのまま若い魔女に伝わる。ウィリアムを掴んだまま立ち上がったプルプラが紫の大樹へ振り返った頃にはすでに光の槍が届く瞬間だった。ウィリアムがほっぺたを掴まれたまま「あばい」と言った。一瞬ではあったが、防護魔法で身を守るシエナ、何かから身を守ろうとするシルヴェール、光の槍、紫の大樹、それに魔女の慌てる様をその目で捉えると彼は覚悟を決めた。


 光の爆発。そして皆が吹き飛ぶ。


 つい先ほどまではどんよりとしていた空間。紫の光、紫の霧、紫の大樹。それらが一瞬にして消えてしまった。空からは光が差し込み「ここは同じ場所なのか?」と疑いたくなるほど。パラパラと落ちる音が聞こている。抉られた大樹の幹からはアレクサンドラが剥がれ落ちる樹と共にゆっくりと地面に落ちていく。


 爆発の影響でウィリアムは周囲に広がる密集した壁のような森へ吹き飛ばされていた。魔女から抜け出そうとした反動と爆風でかなりの距離を吹き飛んだのが、落ちたときの衝撃は独特なものだった。硬いような、柔らかいような。


 ウィリアムは立ち上がる時、それに気がついた。彼が落下した場所には傷ついて倒れたオークがいたのだ。牙のようなあとはその相手の大きさを物語っている。彼はすぐに紫の大樹へ戻ろうとした。その場から数歩だけ動き、足を止めると倒れたオークに振り向き言葉を投げかける。ウィリアムの口から出たのは知っている数少ないオークの言葉の一つ。


『ノゥ・ア・ガサ』


 意味はわからない。けれど、昔のこと。オークの集落で過ごした時に覚えた言葉の一つで目覚めと共に皆が叫ぶのだ。なぜかウィリアムも一緒に叫ぶと皆が笑っていたが、彼らオークがこの言葉と共に気合を入れていたのは知っている。ウィリアムが去ると、それを聞いていたオークがゆっくりと目を開いた。

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