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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
古の魔女 〜紫の魔女編〜
123/144

123 赤の森⑨ そっちじゃない

■白狼 白狼>ニコル獣化>大大狼>普通の狼>子狼

■シエナ エルフ♀赤い髪 前髪パッツン エルフ騎士団だが自由行動が許されている。とはいえ大抵はこっそり抜け出す。防護、障壁、各種元素、自然魔法に優れている。シルヴェールがいると更に強くなる。


以下、なんとなくでも大丈夫系 ↓


■防護・防壁=物理・元素シールド系 原理は同じだが編み物のように精度・特徴は使い手次第。

■障壁=衣に近い元素系。バフみたいな感じ

■自然(生命)魔法=環境依存。自然や植物、人間本来の活力など。高度な技術と鍛錬、集中力がいる。人間の魔法使いではほとんど使えない。エルフの医療技術が高い理由でもある

『青の剣士テトラダ 第三巻 獣の森と美女』


それは、よくある物語

アニムがこの世界に誕生してから暫くの時間が経った頃。彼らが新しい種として定着した時代にはよく題材として扱われていた物語。時代を通して、書く人、詠み手により少しずつ変化しどれが原型だったかのはすでにわからない。それでも一貫していることは、この王女スカーレットが獣の森で子を産んで死ぬという内容。その子は半人、半獣でそれがアニムを表していると言われている。


青の剣士テトラダはすでに身ごもっていた彼女を森で介抱し見守った。子を連れ王のもとへ届けるが忌み子として扱われるその子を拐い、元いた森へと連れ戻す。そこで半人、半獣のその子は王として育つ。


悲しくも、強く生きる話だ。

テトラダはそうしてまた別の旅に出る。

青の剣士テトラダの物語にしては珍しく、ヒロインとは心の関係だけだった。それがまた女性に受けたのだろう。今でも根強い人気の作品の一つだった。


     ※


「うぉりゃぁ!」


 振り回し、振り落とし、白い狼の突進も攻撃もうまいことさばいているニコル。攻防は続くが白い狼には余裕があるように見えた。彼女は吹き飛ばされ木の幹にぶつかる。その都度ニコルは力強くなっていく気がする。その様子にウィリアムが口走ると隣にいるシエナが答える。


「うわぁ、面倒くさい奴だ。やられてるのに元気になっていくな」


「本当ね。根っからの戦い好きって感じ?」


 話している二人の距離になぜか嫉妬するイチカ。不満そうな顔を浮かべてウィリアムに寄り添いイチカが話に混ざる。


「あの、私イチカです。ウィリアムとは、その、エルフですよね?」


「え? そうよ。私はシエナ。よろしくねイチカ。彼と一緒に赤の魔女に会いに来ただけなんだけど、なんだかにぎやかな場所ねぇ」


「ええ。それが彼女の望み、私達との約束だから」


 話している間もニコルは白い狼と戦っている。あと一歩。痛恨の一撃となりそうなひと振りだったが惜しくも空を斬る。勢いで着地した木の幹を折る勢いで斧を回転させ投げつけるとすぐに追いかけるように走るニコル。白い狼は手で斧を叩き落とし、ニコルの進路を遮る。寸出のところで避けるニコルを上空に打ち上げる。落ちてくるその間に大きな牙で斧を噛み砕いてしまった。


「あぁっ! あたしの斧ぐぁっ」


 空中では何もできない。ただ落ちる中で自分の武器が破壊されるのを見たニコルは地面に着く前に吹き飛ばされ、木の上の方へと飛んでいく。バキバキと枝を降りながら奥深いところで止まったようだ。すぐに止んだはずの音が再度鳴り始める。粉砕音と何か重いものが乗っかるような軋む音。イチカにはそれが何なのかすぐにわかった。


 木の幹を走るように真下に向かって地上に戻るとそのまますごい速さで白い狼に襲いかかる。ここからは獣同士の戦いだ。


「まぁ、すごい。彼女も大きい」

「灰色狼と白狼の戦いだな」

「やっぱり、ニコルより大きい。大丈夫かな」


 シエナが魔法で援護しようと思うとイチカがその手を止めさせた。勝っても、負けても、彼女はそれを許さないからだ。


「いいの?」

「うん。ニコルは戦うことが好きなの。それにあの白い狼。ウィリアム以外にはあまり興味を持ってないみたい。ジョンを倒した時みたいな力を使ってないもの」


「そうなんだよなぁ。なんか、俺さ、あいつに睨まれてる気がするんだよ。知り合いでいたっけなぁ。犬はいっぱい知ってるけどさ」

「そういえばそうね。あなた、町に行くたびに犬のアニムと揉め事起こしてたわよね。懐かしいわ。今の彼女みたいに懐いてくる相手には大抵恋人がいたものね。ねぇ? イチカも彼が好きなんでしょ?」


 ウィリアムを挟んで反対側から確認するように、シエナに質問されたイチカが顔を赤くし彼から少し離れる。三人が呑気に話している間も周囲では二匹の大きな狼が戦っている。


「あはは。でもさ、あれ、狼だよな?」


 その時、縦横無尽に走り回り、追い回し、戦っていた狼の戦いに決着がついた。「ギャン!」という弱々しい声とともにニコルが吹き飛びウィリアム達がいる近くの木にぶつかり地面に落ちた。イチカとシエナが彼女の元へ走りよる。ウィリアムは一人、赤い槍を片手にスタスタと白狼の方へ進み出る。


「よぉし。俺の出番だな。どこのだれか知らないけど、せめて俺を睨む理由を教えてくれよ。そしたらあれだ、帰ってもいいぞ。許してやる。なんだったらクマのぬいぐるみを一体持って帰ってもいい。すごいリアルなやつだ。たまに喋るかもしれないけど気にするな」


 ニコルを介抱するイチカ。彼女の回復力を活性化する魔法をかけるシエナ。白狼が口を閉じ、息を止め、彼女たちの方を見る。するとウィリアムが叫んだ。


「シエナ! 守れ!!!」


 シエナがすかさず二人の前に立ち防護魔法を繰り出す。橙色の膜で出来た前面のみよく見ると六角形で形成されているようにも見える。それで白狼の体当たりをどうにか凌いだ。シエナはその速度と威力に驚き、イチカは息が止まる思いだった。


「大丈夫か!?」


「ええ! どうにか」


 それも束の間、走り回る白狼が再度、シエナに向かって突っ込む。今度はジョンを吹き飛ばしたときほどではないが、空中に残る白狼の青白い残像がどこをどう動いたのかを明らかにする。そして激しい衝撃音を繰り出す。


「きゃぁ!」


 油断はしていたが、防壁が弱いわけではない。エルフ騎士団の中でも屈指の使い手。防壁、障壁に関して言うならシエナに勝るものはいないだろう。とっさの魔法とはいえそれを破壊し彼女を吹き飛ばした。木に寄りかかるニコルへと倒れ込む。そこへ大きな顔と牙が近づくが、イチカは身動きがとれず成り行きを見守る。


「シエナ!!」


 走りよるウィリアムを背に白狼が低く、小さく、太く、強い声でシエナに語りかけてきた。薄れる意識の中、懐かしい声でそれは頭に響く。獣の声だが確かに知っている人の声。


「成長したな」


 ただその一言。シエナにとって白狼のその言葉は単に魔法技術の成長を指しているようには聞こえなかった。言葉の重み、声、雰囲気、いろいろな要素が彼女の頭の中を巡る中で彼女は気を失う。ウィリアムが到着するや彼の槍を避け、また遠くへ離れる白狼。


「シエナ!?」


「大丈夫。気絶してるだけ」

「っつぅ。おい、あいつめっちゃくちゃ強いぞ。まるで勝てる気がしねぇ。あんた勝てるのか?」


 シエナがぶつかってきた衝撃でニコルが目を覚まし話しかけてきた。ウィリアムは安堵の表情を浮かべつつどこか怒っている。しゃがみ込むとシエナの腰のあたりを探り魔法の鎖を取り出す。立ち上がり槍をクルクルと回し構え直すと上半身を少しだけ振り向き彼女たちに言う。


「任せとけ。いっちょ俺の戦い方を見せてやる」


「お手並み拝見だな……」

「気をつけてね」

 

 白狼は「待ってました」とばかりに軽快に動き回る。くるりと回り、槍を構えるウィリアムに向かい一歩、二歩、三歩と進む度にあっという間に速度が増していくと一瞬で間合いを詰め彼に襲いかかった。回数が増すごとに白狼の速度が増していく。まるでどこまでついてこれるか試しているようにも思えた。


 対してウィリアムもその突進には負けていない。必死に避けている姿はニコルを感心させた。ただ、少しずつ様子が変わり始める。避けるから走るへ、走るから逃げるへ。白狼に向かって叫びながらひたすらに逃げ回っているウィリアムの姿に落胆している。


「うぉっ! おまっ、このやろう! デカイくせにはえぇぞ! なんだそれ? 魔法じゃないのか!? 何で俺ばっかり狙ってくるんだこのやろう!」


 それでも白狼と直接戦ったニコルにはわかる。ふざけてるように、無様に逃げ回っているように見えるがよくよく考えるとこれだけの時間、あの攻撃を捌いていることのほうがすごい。ジョンに見せたときのような攻撃はまだないが、それでも例の稲妻のような青白い光の残像を残し移動する高速の突進をどうにか避けている。しかも、次第にコツを掴んでいるようにも見える。


「へっへーん! さぁ、どうした?」


 挑発をするウィリアムが次第に間合いを詰める。白狼の背を走り、乗り越え、下をくぐり、利用できるものは何でも利用している。離れてしまうと高速移動が待っている。ならばと間合いを詰め今は別の秘策とやらを試しているようだった。


 白狼が気づいた頃にはすでに遅い。魔法の鎖が大きな体を締め付けている。逃げ回っているようで実はずっと伸ばしながら機会を待っていたのだ。雁字搦めになった白狼を前に地面から槍を拾い肩に載せ近づくウィリアム。


「はっ! どうだ犬っころ。これでおとなしくなるだろ。思い知ったか」


「……」


 はっきり言って顔の大きさなど比較にならない。一噛みでウィリアムの頭から腰まですっぽりいくだろう。そのぐらい大きな白狼の顔にウィリアムは顔を近づけ片眉を上げ得意げな顔を見せつける。白狼はどうにか外れないかと藻掻いていた。ホセと赤の魔女がその様子を見ながら話している。


「おお。ウィリアムってやつ頑張ったな。すごいすごい。倒せなくても、取り押さえることは出来た。ねぇ、姉御? 髪返してください」

「あいつはあんなもんじゃないよ」


「あいつ? ところであいつって何なんですかね? ただのでかい狼ですか? スノーウルフですよね? なんでこんなところに来たのかな? ちょっ、いい加減に手を離してっ」

「実力を出していないのは二人とも。でも、今のウィリアムじゃ勝てないね。見て、あの顔」


「何見惚れてるんです? ウィリアムっていうやつが来たらやばいって言ってたじゃないですか。あぁ、俺の髪がちぎれた!」

「ああ。そのとおりだよ。今も、胸が苦しい。死にそうなほどにね」


「……そうは見えないけどな。で、あいつ、あっちの狼の方は何なんです? ぐぎぎぎ」

「あいつ? あいつはあんたと同じだよ」


「え? 俺と? ……俺と……同じ?」

「ああ。ホセ? あんたならわかるはずだよ」


 ホセは取り返そうと必死に掴んでいる自分の髪の毛を手放す。自分と同じ……今のホセにとってはその言葉は重かった。


 元々人間だったホセ。この森に来て不運の事故にあい下半身を愛馬である牝馬と合体した。結果、アニムではなく人間でもない。この世に存在しない新しい生き物と生まれ変わったホセ。その自分と同じ? ホセはここに来るまでのことを思い返し、どこそれとなく見ていた焦点が戻ってくると同時に口が開く。今のこの状況、すぐにウィリアムに伝えねばならない。彼は振り返り大声で彼に伝える。


「おい! 気をつけろ!」


 ホセの大声に顔の向きを変えるウィリアム。やたら手料理を突き出してきた禿げた男。彼がすごい剣幕で忠告してくる。すぐ横では白狼が魔法の鎖で縛られもがいている。


「そいつは! その狼は! 鎖で縛られると興奮するやつだ! 気をつけろ!」


 皆が「え?」と沈黙する。白狼でさえ開けていた口をパクっと閉じた。ウィリアムが恐る恐る振り返る。まずは目玉、次に顔、そして肩の順で体を白狼に向き直す。遠くではホセが「この欲しがりめ!」と嫉妬の混じった声で叫んでいる。


 動きの止まっている白狼がゆっくりと立ち上がる。ウィリアムが後退りする。手に持った鎖を見つめ、再度白狼を見つめる。口を開けハァハァと息をする大きい白い狼。そして毛先が何かバチバチと光に包まれると衝撃とともに鎖が弾け飛びウィリアムが声を出す。離れたところでホセも同じように声を出していた。


「あぁっ!」

「あぁっ!」


 ブルブルと身震いする白狼。次は何をする? 一瞬の間がそう伝える。ウィリアムはとりあえず鎖を持ってシエナのもとに駆け寄ってきた。ニコルとイチカが彼に話しかけ出迎える。


「ちょっと、お前。真面目にやれよ。その槍は飾りか? 本気見せてみろよ」

「どうしたの血相変えて」


「しぃー! 起こしちゃまずいだろ」


 話しかける二人に急いで小声で話すように仕向けるウィリアム。コソコソとシエナの腰に鎖を戻すと二人に言う。


「いいか? 起きたらちゃんと伝えろ。『この鎖はすでに壊れていた。ウィリアムは全く関係ない』って。いいか? 絶対だぞ。それと、お前の斧でもまともに通らないのに俺の槍があいつに通じるわけないだろ? でもまぁ、まだとっておきはある。安心しろ」


「どうだか……」

「気をつけてね」


 ウィリアムが元いた場所へ戻る。


「おい! この高速狼め! いいか、お前みたいに素早く動くやつは初めてじゃない。もっと、もっと本気の速度を見せてみろ。いいか? 俺はこの世界で一番速いやつを知ってるし、そいつにも勝った。俺には勝てないぞ! お前の速度を超える技をもっているんだからな!」


 ウィリアムが息を吐き、静かに槍を構える。とてもリラックスした様子で空気が変わった。それには流石にニコルも「お」と一声出した。スタスタと歩く白狼がくるりと下がる。逃げるためではなく距離を取るため。顔をウィリアムに向けたまま左右に動くとその時が来た。ジョンに見せたときのように雷そのものだ。目に焼き付いた残像が一瞬混乱を招く。ニコルもイチカも一瞬の出来事を更に音で知ることになる。


 バキバキと何かが飛んでいく、突っ込んでいく音が遥か遠くで聞こえた。さっき見ていた場所にはすでに一人と一匹の姿はない。空洞となった二人の居場所に草や葉、風が引き寄せられているだけだ。


 何が起きたのかわからないがニコルは鳥肌を立て、イチカは不安な気持ちでいっぱいだった。イチカが立ち上がり追いかけようとした頃には、白狼がウィリアムを咥えて戻ってきた。ホセが赤の魔女の前に立ちはだかり、白狼の進路を遮ろうとしたが結局後退しながら赤の魔女の前まで戻ってきた形だ。


 ウィリアムを地面に落とすと白狼が話しかけてきた。


「俺の目的はこいつを殺すこと。何度でも舞い戻り、何度でも必要な限り。それが彼女の願いだからだ。だが、お前にしかできないことがあると聞いた。それが何なのか知らないが聞くように彼女から言われてもいる」


 赤の魔女は目の前に現れた白狼、目の前に横たわるウィリアムを見てカツラを投げ捨てると、身に纏っていた服も脱ぎ捨て答える。


「ああ。まどろっこしいやつだね。なら交換条件と行こうじゃないか。あんた、元の姿に戻れないんだろ?」


 ホセは投げ捨てられた自分の髪を急いで拾いに行った。下半身が馬なので地面のものを拾うのは大変だ。何より投げ捨てられた場所にモグラの掘った穴がある。そして、掘った本人も顔を出し目の前に落ちてきた髪に興味津々だ。ホセは願った。ひたすらに願った。


 しかし悲しいかなとてもいい匂いのするホセの髪は今や皆の憧れである赤の魔女の香りさえ携えている。その髪が地面に引きずられるとそのまま戻ってくることはなかった。打ちひしがれるホセの背中から赤の魔女が話しかける。


「ホセ、皆を呼んで宴の準備しな」

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