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私と魔女 −再会−  作者: 彩花-saika-
〜 幕間 〜
109/144

109 ★④ 死の誘い(1/3) 到着

■ウィリアム♂ クレアの父 赤い槍と呼ばれる男 ストレートなスケベだが愛する人は一人。一線は越えないタイプ。


■イタ♀ ウッドエルフ 美しく服装が刺激的(腰布、胸布のみ)魔法主体

■バーナム♂ ウッドエルフ 大きく大弓の使い手。狙撃手。寝技が得意。


■ククル 羽馬(鳥馬)2本足の騎乗できる鳥。大きいくちばし


■ウッドエルフ族

汚れなき魂は清浄の地へ。という言葉があり、死ぬことへの抵抗がない。魂はめぐりまた生まれる。そのときに自分の物語を読んで過去を知る。記憶があるわけではない。そこに魂で結ばれた相手も書いてある。基本的には同じ里で生まれる。

 ミシエールの街から馬で一週間ほど移動した場所にウッドエルフの里はある。いくつかの森が一つになった古い場所。魔女の森、ウッドエルフの森、人間の森とうまく共存ができていた。


 ただ、人間が住む森に関しては永い時間の中で幾度となく廃れてはまた住み始めるということを繰り返している。


 理由の一つは、そこに住む森の魔女の影響が大きい。時折、魔女が森を拡げることがあある。その場合、ウッドエルフが自分たちの森を守るために魔女を殺してきた。結果、近くの村では新しい魔女が生まれて悲惨な末路へとたどり着く。


 それはウッドエルフには関係のないこと。魔女は自身の森へと戻り。村はいずれまた栄える。数十年、数百年、必ず人は戻ってくるのだ。それを知ってか知らずか。それこそが魔女の目論見なのか。とても永い間繰り返されてきたこと。


 状況が変わったのは少し前。一人のウッドエルフが村の少女に命を賭して救われた。哀れんだ彼らは次第に村と交流を始める。それが悩みの種となると気づくのは百年以上経ってからだった。


 予想はしていた。その時が来たら彼らを見殺しにしようと。しかし、魂を汚すことを嫌うウッドエルフ達は実際にその時が訪れても、彼らを犠牲にすることなどできなかった――。


「――ってことかな?」


 街道を行く馬が三頭。乗っているのは、ウィリアム、イタ、バーナムの三人。


 ウィリアムがイタに話しかけると、彼女は笑いながらうなずいた。


「ええ。話し方がうまいのね。物語を聞いているみたいだったわ。あなたが言うように難しい問題になったわ。先代のことだし、私達には関係ないのだけど……あそこの村の人たちがいい人間だというのもあるんだろうけど。私達が人間にここまで肩入れするとは思わなかった」


「いいんじゃないか? ウッドエルフは魂を汚すような行為はしたくない。今や村人は大事な仲間。放っておくことが出来ないんだろ? 俺もクレアもいるんだし。あとは任せな!」


 ウィリアムが親指を立てウィンクをする。イタは微笑むと「ええ、期待してる」とだけ言った。


 三人が街を出発してから五日が経つ。少し急いできたのもあるが、ミシエールの街で買った馬は質がよく長距離を難なく走る。森から乗ってきた馬は彼らに与えた。森の馬にはまた別の良さがあり、ミシエールの彼らも喜んでいた。


 ウィリアムが馬の速度を落とし二人の後ろを走る。するとバーナムがイタに声をかける。使うのは古エルフ語。


「なぁ、あいつ。本当に大丈夫か? 何度か手合わせしたけど……」

「ええ。私も……確かに強いんでしょうけど。でも、リグルの怪我を見たでしょ? あれ、彼がやったのよ。それに言ってた。『赤い槍ってのは本当に強いんだな。まるで歯が立たなかった。勝てる気がしなかった』って」


「それ、あの小さい魔女に操られてた時だろ? ただ単にいつもどおりの動きができなかっただけじゃないか? まぁクレアの父親だし。彼には後ろに下がっててもらおう。弓くらいなら使えるだろ」

「そうね。クレアは彼のことを信頼してるみたいだったけど……」


 イタとバーナムが言っているのはここ数日、休憩がてらウィリアムと手合わせした時の話。体の大きいバーナムが扱うのはとても大きい弓。彼に扱えないそれは熊すら岩まで吹き飛ばす威力を放つ。接近戦では動物を押させるための寝技が得意だ。それは魔法主力のイタも同じ。


 イタとの寝技ではウィリアムはあっという間に技にかかる。赤い顔をして「うわぁ」とか「あぁ」とかだらしない声で見事にかかるのだ。外すのは得意なようでイタは何度も技をかけ直す。終わるとウィリアムはなぜか周りをチラチラと探す。誰もいないのに。挙動不審だった。


 こうして彼ら三人は森の入り口で待っていた里の若者と合流する。用意されていたのは森ククル。生まれも育ちもこの森で育った立派なククル。行き場所を言えば勝手に行くように仕込まれている。


 とても大きな森。山地、切り立った崖、通り抜ける洞窟に川。もともとは小さな森がいくつかあったが永い時間の経過により一つの森へとなっている場所。様々な動物の鳴き声とともに遠くからは珍しい遠吠えも聞こえた。


 出迎えた若者達とイタ、バーナムが話している。


「おかえり、二人とも。リグルは? それにあの男は?」


「ああ。彼はウィリアム。赤い槍(レッド・ランス)だそうだ。信じられんがな。リグルがあいつにボコボコにされたから今はミシエールで治療中だ。そのかわり例の黒髪の少女から魔女の殺し方を聞いたらすぐ戻ってくる手はずだ」


「え? あれが有名な赤い槍!? リグルさんが勝てなかったって……。そうは見えないけどなぁ」


 皆がウィリアムに注目する。彼は今、乗ってきた馬に頭を食べられようとしている。視線に気づくと笑顔で応えたがその肩には馬の涎がたれている。


「まぁ、気にするな。噂や評判ていうのは誇張されるもんだ。特に人間はな。それより状況は?」


 バーナムと若者が話を続ける。


「思ってたより侵食が早いです。予想していた通り村と俺達の間が魔女の森になりました。前線まで移動するのは容易なんですけど、向こうに行けないっていうのが続いていて。そろそろ村人や向こう側にいる仲間の食料が尽きる頃だと」


「そうか。魔女は村の人間が餓死する前に行きたがるだろうな」


「ええ。今はまだ俺たちとの戦いを楽しんでるみたいですけど……ね。そろそろ限界かなと」


「死んだのは?」


「高齢がほとんどで魔女との戦いを嬉しそうにしてました。それと腕を試したがる若いのも。結構死にましたけど、総数からしたら大したことないですね」


「どうにかして向こう側に食料を運びたいな。そうすればリグルが帰ってくるまで時間を稼いでいられるわけだ」


 その時、イタが大声を出す。


「あ、ちょっと! ウィリアム!」


 森を移動するために用意されていたククル達がウィリアムにやたらと懐いていた。滅多なことでは里の者以外には体すら触らせないのに。その様子をイタはチラチラと横目で見ていた。


 一瞬、目を離した隙にククルがウィリアムに「乗れ」と言わんばかりに地面に腹をつけていた。そこまでは微笑ましく、不思議な光景だったが……なんと次の瞬間、そのククルが走り出したのだ。


「おぉ、うぉわっ」


 ウィリアムを乗せ一気に駆け出すククルはあっという間に森の奥へと消えていった。急いで追いかけるイタとバーナム。前方からはバキバキと枝が折れる音や「痛い!」「まだ、まだ! 心の準備が出来てないから! 待って」などといったウィリアムの声が聞こえる。


 彼らが乗ってきた馬と一緒に取り残された若者たちが心配そうな顔をしている。


「大丈夫かな?」

「まぁ、赤い槍っていうんなら……それにイタもやっと帰ってきたし。バーナムの弓もあるし」


 若者たちは馬と自分たちのククルを連れ、ひとまず里へ報告しに戻った。


 一方、ウィリアムを追いかけるイタとバーナムが自分たちのククルに苛立っていた。徐々に彼との距離が広がっていたのだ。それは追いかけるというよりも、離れているように見えた。


「ちょっと! あっちへ行って。こっちじゃない。ウィリアム! あなたもその子、違う方向に行ってるわよ!」


「おい! お前、ククルの扱い方は知ってるんだろ? そっちじゃない! クソ。コイツラも言うこと聞かないな。なんだ!?」


 少しずつウィリアムの影が小さくなると最後には彼の悲鳴と共にククルは崖を降りていってしまった。


「うわぁあぁ……」


 ウィリアムを乗せたククルは急斜面を滑るように降りると、残りの崖を勢いよく飛び移りあっという間に下に広がる森へと消えていく。イタとバーナムが止まらないククルの手綱を引っ張りながら苛立つ。


「クソ。何だってんだ。あいつ」


「あっちへ行ってられないわ。彼なら戻ってこれるでしょ。あのククルも場所はわかってる。とりあえず私達はこのまま仲間のところに合流しましょう」


「あのククルはあとで調教をし直さないとな。いくぞ」


 二人は颯爽と森を駆け抜け、ウッドエルフが魔女と戦っている場所へと向かった。

パート1/3

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