エピローグ
惑星ハイシャインから救出された折守市市民達がその後どうしたかと言えば、実はその多くが惑星ハイシャインへの帰還を希望していた。どれほど過酷な環境であっても、自分の生まれ育った地への想いは消えるようなものではなかったのだ。
何より、あの地には自分達の祖先が眠っている。墓を掘り起こし移転するという計画も提案されたが、それを望んだ者はごく少数だったという。墓の問題と言うよりは、やはり『祖先が眠る地』というそれ自体に意味があるのだろう。
また、惑星ハイシャインそのものに貴重な鉱物資源が眠っていることも判明した。砕氷らが掘削して出た残土を詳しく調べたことで判明したのだが、かつての折守市ではそれらは有効利用されることなくコンクリートなどに混ぜて使われていただけだった。
しかし、技術が発達した他の殖民惑星においては必須の鉱物なのだという。その為、放置されることもない。何らかの形では利用されることとなると思われる。
そしてさらには、かの惑星を襲った災禍そのものが多くの人々に知られることとなり、支援の輪が広がった。その中には、かつて無理な計画により災禍を招いたとも言える複合企業体国家<JAPAN-3(ネオジパング)>を吸収合併した<JAPAN-2>社の存在もあった。
もっとも、<吸収合併>とは言われていてもその実態として、JAPAN-2社はあくまで、力を失い死に体となった複合企業体国家<JAPAN-3(ネオジパング)>の受け皿になっただけで責任を負う立場になかったのだが、ルーツを同じくする、いわばかつての同胞の窮状を見て見ぬふりはできないという、最高責任者の鶴の一声で全面的な支援が約束されたのだった。
もちろんそれは単なる慈善ではなく、惑星ハイシャインに眠る貴重な資源の利用も見越した話でもある。そしてその際、JAPAN-2社と折守市側の代表者である朋夢との会談の際には、オブザーバーとして、新しい体を得て復帰したひめの姿もあったという。
これにより、JAPAN-2社が主体となって、惑星ハイシャインを元のイ三七七太陽系の公転軌道へと戻す計画が提唱され、実行に移されることとなった。当然、これには、そこで使われるであろう様々な技術の検証も兼ねた壮大な<実験>という一面もあった。
また、折守市市民達も人々の善意をただ甘受するのではなく、惑星ハイシャインの資源を売った代金を財源に、『折守市として今回の事業を依頼した』という形とされた。
その計画は、そこで行われる様々な技術の運用データを集める絶好の場ともなり、多数の企業や科学者・研究者らの協力の下、すぐさま実行に移された。と言ってもここまで壮大な事業ともなれば今日計画して明日開始という訳にもいかないので、開始まで五年の歳月を要したものの、それはむしろ異例とも言える早さだっただろう。
惑星ハイシャインへの帰還を望む折守市市民の数は六万人に及び、他の惑星への移住を希望した者は僅か一万人にとどまった。その、移住を希望した者も、好きな時に渡航できる定期航路の就航が決まったことによって、移住を決断したという経緯がある。
彼ら彼女らは皆、故郷を愛しているのだ。
惑星ハイシャインが元のイ三七七太陽系の公転軌道へ戻るまでは、約三千年かかると言われている。それまでは当然、氷に閉ざされた凍結惑星のままではあるが、最新式の人口太陽の設置により、今後五十年を目安に惑星の表面温度をマイナス三十度にまで上げ、人々は地表に住むことができるようになると見込まれている。
それまでは、資源を売却した代金によって買い取った避難船グランマズ・ダンデライオン号を仮の<新折守市>とし、衛星軌道上で暮らすのだそうだ。
新しい世界に触れ、新しい技術を手に入れ、高度な安全と安心を手に入れた人々は今までとは少しずつ変わっていくかもしれない。
しかしそれは、かつての災禍によって変わらずにはいられなかったことに比べれば、むしろ喜ばしいことなのではないだろうか。
旧折守市に伝わっていた<ねむりひめの物語>は氷の檻に閉じ込められた人々のことを暗喩しているのではという話があったが、けれどハイシャインの人々は物語の中のねむりひめとは違いただ助けられるのではなく、自らの力で歩んでいくことを選んだ。
それによって、<氷の檻>は檻ではなくなったのかもしれない。
こうしてハイシャインの人々は、物理的にだけではなく精神的にも檻から解き放たれたのである。
なお、新折守市市民らの傍らには、惑星セルベリスの軍から払い下げられた二百機あまりのメイトギアや多脚式移動電源らの姿もあったという。
そして、当然のことかもしれないが、そのロボット達はみな、ひめのデータを引き継いだ者達なのだった。
「はい、私達は、皆様の為に働くことが喜びなのです」
~完~




