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ぽかんと口を開いて固まる僕をおかしそうに見下ろしながら、表情を改め、彼女────春ノ宮真月さんは言葉を次いだ。
「今、私の家で看病しているのですが、なかなか目覚めなくて……、ですから、勝手に携帯をお借りして連絡している次第です。……はい、今日は大事を取ってお休みさせてあげていただきたいのです。……いえいえ。はい、では、よろしくお願いいたします」
耳から携帯を外し、通話を鮮やかに切る。
そして僕の頭をぽんぽんと撫でて笑った。
「こういうときは、ただの仮病より、イイトコの学校に通ってる人が連絡したほうが信憑性あると思ったの。いきなりごめんなさい。でも、驚いた顔もとても可愛かったわ」
男に「可愛い」は褒め言葉じゃない、とは思ったものの、なんだか反論する気になれなかった。
代わりに、控えめに尋ねる。
「あの、春ノ宮さん……っていうんですか?」
彼女は片目をぱちんと瞑った。
「そうよ。春ノ宮真月。名字よりも名前のほうが気に入ってるから、真月って呼んでちょうだい?」
真月、さん……。そう口のなかで呟いてみると、真月さんは嬉しそうに目を細めた。
笑うと、大きな赤茶の瞳がさらに大きく見えて、思わず見入ってしまいそうになる。
ふと、真月さんが僕から視線をそらした。僕もつられてそちらを見ると、公園の入り口付近に、緑がかった黒の高級そうな車が停められている。
真月さんは僕の手をきゅっと握り、華やかに笑った。
「それじゃあ、行きましょう!」
「い、行くって、どこにですか!?」
慌てた僕に構いもせず、真月さんは手を引っ張る。こちらを振り返り、
「決まってるじゃない、あの車に乗るの!」
なんて言って、また僕の腕を引く。
その力はけっして強いものではなく、むしろ、ちょっと力めば振り払えるくらいの力量だった。
なのに振り払えなかったのは、女の子と手をつないだことがなかったから、ちょっとしたことで壊れてしまいそうに思ったからだったのかもしれない。




