表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

*****2

駅を軽やかな足取りで抜ける彼女の背中を追いかけ、僕は早足で進んでいた。

彼女は凛とした風貌に加えて、歩きかたまでしゃきしゃきとしていて、見ていて心地よい。



五分くらい歩いただろうか。見えてきた公園の入り口で立ち止まり、彼女は長い髪を揺らして振り返った。



「ここで少し休憩しましょう。私、ちょっとだけ電話をしてくるから、ベンチに座って待っていて?」



優しげな声で、そう言う。



僕はまだ夢のなかみたいにぼんやりしながらも、まるで魔法をかけられたようにこくりとうなづいた。

「いい子」と微笑み、彼女は黒の革のスクールバッグから携帯を出し、公園のすみにあるブランコのほうへと駆けて行った。



一体、どこのご令嬢なのだろうか?

とても品があって、穏やかで、優雅で。令嬢、というより、お姫さまといった感じだ。



ベンチに浅く腰掛けながら、彼女の芯の通った背中を見つめ、そんなことを考える。



しかも、あの制服は、この辺りで一番のお金持ち校だったはずだ。通っている生徒は、みな、お嬢さまやお坊っちゃま。僕みたいな一般的な高校生とは庶民と貴族くらいの差がある。



そんな学校に通っているお嬢さまが、あからさまにただの高校生である僕に、「痴漢扱いしたおわびがしたい」なんて言うだろうか。

よほど律儀で真面目な人なのだろう。



ふと思い立って、ナイロンのスクールバッグから携帯を取り出す。今さらだが、高校に連絡を入れていないことを思い出したのだ。



時間を確認すると、すでに一時限目が終わっていた。



「仕方ない、今日は休もう……」



呟き、学校の電話番号を押していく。

どうせ急いで登校しても、なぜこんなに遅れたのかと問いただされて、なかなか解放してもらえないだろう。

もしかしたら、課題を増やされる可能性もある。



そんな危険を伴うくらいなら、いっそ仮病でもなんでもして休んでしまおう。



携帯を耳に当ててコール音を聞いていると、ぱっと目の前で綺麗な爪がひるがえった。

気がついたころには、手のなかに携帯がない。



顔を上げると、痴漢騒動の美少女が、僕の携帯を耳に当ててこちらをいたずらっぽく見つめている。



そして、恐らく教員が応答したであろう携帯に向かって、朗らかな声をつむいだ。



「おはようございます。私立帝条高校に在籍しております、春ノ宮真月と申します。冬月葵さんのことなのですが、電車のなかで、貧血を起こして倒れてしまったのです」



僕は、表情が石化するのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ