番外編・こいよこい
「先生っ!お菓子つくってきたの、食べて!」
頭の痛くなる計算の授業がやっと終わって、今日のおやつの時間。
昼食にはまだまだ早いけどちょっと小腹が空く時間。
つまんで食べられる焼き菓子にしてみた!
先生が綺麗な顔で微笑んでくれたので、すかさず濡らしておいた手拭きを渡す。
「ありがとう、準備万端ですね」
昔から変わらない、優しい笑顔と穏やかな口調。初対面の時から、この辺りの人には珍しい細身で、うん、今でも女装なんかしたら騙されるんじゃないかな?
「先生、こいつの菓子なんか食ったら腹壊すよ」
あぁやだやだ。子供よね、からかい方が。
無視よ無視。
多分、同じくらいの年の同級生達なのに、どうしようもなくお子様に見えてしまうのは、やっぱり先生のせいかしら?
先生は子供の時から素敵だったもんね。
「あ、おいしい」
睨み合う私達を尻目に、上品にお菓子を味わう先生が呟いて、また笑った。
さっきの、綺麗だけど先生っぽい笑い方じゃなくて、何て言うか、すごく可愛いんだけど!
「へ、お前なに赤くなってるんだよ、みっともない」
幸せな気分が今にも台無しになりそう。
「女の子に、そんな風に意地悪言うんじゃないよ。ほら、食べて、本当に美味しいから」
先生はにっこり笑いながら奴の顎をつかんで、開いた口の中にお菓子を一つ放り込んだ。
ああ、全部先生に食べてほしかったのに!
しかも、何でアンタが先生に食べさせてもらってんのよ?噎せて吐き出したら許さないからね?
だいたい、それは小さかった頃から私だけの特権だったのにっ!
庇ってもらって嬉しいけどちょっと複雑。嫉妬ね。
「アーニャちゃんはどんどん料理が上手になってきましたね」
また一つ、お菓子をつまんで眺めながら、先生が言ってくれた。
料理は、食べてもらいたい人がいると上手になるものよ、といつも母さんが言っているから。
だから、これも先生のおかげなんじゃないかな?
父さんに『気に入った奴がいたら即求婚しろ!母さんをそうやってモノにしたんだぞ』と小さい時から言い聞かされていたので、先生に会った日に結婚を申し込んだんだけど、当然本気にされてなかったんだよね。
実は、自分でも意味がわからなかったんだけどね。
全く本気にされてないし。
でも、最近、先生と話すのが恥ずかしいの。なんでかしら?目が合うとドキドキしたり、苦しくなったりするし。
昔はいっつもくっついていたかったのに、今は手を繋ぐのも、無理。
「どうしたの?」
「うわあっ」
気がついたらいきなり目の前に先生の顔があったら、びっくりするよね!
馬鹿みたいに飛び上がって驚いたから、そんな私を見て、先生も目を丸くした。いつの間にか悪ガキはいなくなってるし。
「ふふ、そんなに、驚かなくてもいいでしょう?」
私の頭をぽん、と撫でて、他の生徒の前では見せない笑顔。
なんか胸がきゅーっと苦しくなってきた。
今度母さんに相談してみよう。
十何年後かの、未来?
○ ○ ○ ○
巡回で見つけた、可愛らしい花。あの人の目のような、鮮やかな青い色。何重かに重なった花弁がふわりと広がるような形で、一本だけなのに存在感に溢れている。
雪が降り積もる中、『森』は変わらず緑のままで、寒いでも花が手に入る。
まぁ、中までは入らないけど。
僕はここで生まれ育ったから違和感を感じていなかったけど、余所から来た人達はとても驚いて、『森』を怖がってしまう。
もったいないと思うんだけど、まぁしょうがないか。
「ジルさん、おはようございます」
巡回から戻って、食堂で働くジルさんに会いに行く。
珍しい花を見つける度に、こうして持っていくと、とても嬉しそうに受け取ってくれるし、枯れるまで部屋に飾ってくれる。
「この花は、初めてじゃないかしら?とっても可愛いし、面白い形よね」
青い花を白い指で摘まんで掲げるようにして見つめるジルさんは、柔らかく微笑んでいる。
小さくて可愛いジルさんを見ていると、何だかこう触れたくなってくる。
ふんわり、柔らかくて温かい。
「パイク、さん?」
真ん丸の、花と同じ、青い目が僕を見ていて。
どんどん近付いて、焦点がぼやけて、終いにふっさりしたまつげが青を隠して。
ようやく、柔らかい感触を唇に感じた。
愛しい人を腕に抱いて、ため息が出た。
なんて幸せな日だろう?
アーニャちゃんの甘酸っぱい初恋
と
パイクの……夢オチではないはず
素敵なクリスマスになりますように




