73話・真打ち登場?
姉視点です
ボッシュさん達に散々言い聞かされたので、アーニャちゃんとやらの用事に弟と二人、付き合っている。
一応、悪い人と出会ってしまったらどうするか、というのは話し合ってたんだけど。
いや、実際その時になったらあれだね、頭真っ白になるね!
外なんか出ないで、引きこもってればよかったかも?
知らないおじさんに話しかけられて、ちょっとヤバイかもと思った時にはアーニャ母が捕まっていた。
それも、ボッシュさんがどうのこうのと突っ掛かって来たり、事件発生の晩に若い騎士の部屋にお泊まりしてたりの、あの女に。
意味がわかりませーん。
思いっきり反応が遅れてしまって、どうしようかと観察していたら、アーニャ母と目があった。
ちらり、と視線を落としてこっちを見る。
繰り返されて、何となく言いたい事が解った。
変な女に捕まっているのに冷静で、力強い表情。
まぁ、脱走癖のある娘には弱くて散々振り回されてると、後になって知ったけどね。
私は全神経を彼女に集中させた。
多分、こっちより危険なのは男の方だろうけど、弟が話しかけて注意を引き付けてくれるだろうし、弟の事はロボが守るだろう。
でなきゃ毛を全部剃ってやる。
アーニャ母は静かに深呼吸をしているので、出来るだけタイミングを合わせる。
何度目かでふっと体が揺れたかと思ったら、踵で女の足の甲を踏み抜いた。
「なっ……」
多分、『何をする』とか言いたかったんだろうけど、驚きと痛みで捕まえてた腕を放し、足を庇うみたいに身体を曲げた。
アーニャ母が前に逃げると同時に走り寄って、体勢を立て直す前に思いっきりお尻辺りを突き飛ばし、女は地面にべしゃっと潰れた。雪があるから顔面はあんまり痛くないだろう。
でも、蛙の轢死体みたいに何とも言えないポーズになった。
そこへアーニャ母娘が飛び乗った。
レフェリーがいないので、とりあえずギブアップはできないね。ざまぁ。
こっちは怪我もなく片がついたので、弟の方を見た。
キラリ、と何かが反射したと思ったら、ロボが弟を突き飛ばして、そして。
お義父さんがいつの間にか男と座りこんだ弟との間に立っていた。
いや、うん、私は見た。
上から降ってきた。
降臨!て感じで。
それまで余裕かましてた野郎も焦りが見える。
スライムと遊んでて、魔王が現れたらびっくりするよね普通。
ラーソンパパは、部屋で仕事してたらしく上着も着てないけど肩の辺りから湯気が出てた。手にはごっつい剣を握っていて、後ろから見ても怒ってんだろうな、正面に回りたくないな、と思わせる。
「貴様、何処の間諜か」
お腹に響く低音で威嚇。
そろっと、座ったままの弟の傍に寄ろうとしたら、後ろから太い腕がお腹に巻き付いてぎょっとしたけど、すぐによく知った声と匂いで誰だか解った。
「怪我はないか」
耳元で囁かれたので、思わず体の力が抜けて倒れかけたけど、ぎゅっと抱き締められて支えられた。
「リョータがっ」
緊張してたせいで声がかすれて裏返る。
私が無様によろけている間に、これまた聞き慣れた金属音がして、マイヤーさんがするすると近寄って弟を担いで戻ってくる。
男は、距離をとった私達を見て苛っとしたような、不機嫌そうな顔になった。
でもラーソンパパの隙がないのか、進退窮まったという感じ。
「ロボ、ロボ見てくださいよ、どこか怪我してるかもしれません。庇ってくれたんです」
固まってた弟が、わぁわぁ言いながら寄り添うロボを撫でまわし始める。
そんな様子に呆れ感満載の視線を向けていたマイヤーさんは、地面に突っ伏した女を見てニヤリとした。
「おぉ、ええカッコやな」
どの辺が気に入ったかは、聞かないことにしよう、うん。
「隊長自ら救出にいらっしゃるとは、余程大切なんでしょうな?」
元のように、皮肉っぽく落ち着いた声が響いた。
「あそこから現れた生き物を獲得したのは、あなた方だけではないのですよ?ただし、人の姿をしたものは初めて」
自分達の事を言われてるのに、その辺のモノについて語ってるように聞こえて、抱き締められていなかったらこの場を逃げ出していたと思う。
「我々と同じ、人なのか?こんな頑丈な砦の中に隠しておかず、調べるべきではないか?――まぁ、そちらの少女の身体については、夫君ならば隅々ご存じか」
おいぃ!!公開セクハラとか止めぃ!
お腹に回っていた腕に力がこもったよ。
私に怒らないでよね?
被害者ですよ、色々と。
「そろそろ、口を閉じろ。私の養い子を侮辱した罪と国家の貴重なる騎士を損なった罪を、その身で償え」
重々しく宣言したと思ったら。
あの巨体でこんなに速いのか、という勢いで接近。踏み込んで、剣を振るう。男は小剣らしきものでなんとか防ぐけど、折れるんじゃないの?って位凄い音がする。
しかも、1メートル以上あるんじゃないかという剣なのに、振るう間隔が短い。あれを受けてたら、すぐに腕が痺れそう。
呆然と見てたら、耳元でため息が聞こえた。
そっと見上げると、ボッシュさんが食い入るように、羨ましそう?うっとり?とにかく珍しい表情で、闘いを見ている。
お義父さんに嫉妬していいかな?
防戦一方の男は、ひきつった表情で壁際に追い詰められて、一際大きな金属音がしたかと思ったら、剣が折れ飛んだ。
くるくると飛んでいく先っちょを目で追って、二人に戻ると。
男は膝をついて、血に染まった肩を押さえていた。
剣ごとぶった切ったのか、もしかして。
あんまり見たくないから、すぐに目を逸らした。すると、子供に見せないように小さな顔を手で覆っている弟と、その母親に何か話しかけているマイヤーさんが目に入った。いつの間にかあの女を紐で縛り上げて、猿轡して座らせて。
大きな声じゃ言えないような性癖でもお持ちなんじゃないだろうか?
優しく頭を撫でられて、ちょっと肩の力が抜けた。
知らない間に、ガチガチに強張ってたね。
もう、いいのかな。
もう大丈夫?
「もう、いい加減戻り」
「そうだな、任せる。お前逹、歩けるか」
寒さや何かで、身体の感覚が麻痺してるかも。
お互い動きがぎこちないので気遣いながら引き揚げることにした。
ボッシュさんに守られながら私逹が建物内に向かうのと反対に、いつの間にか集まっていた騎士逹が隊長やマイヤーさんに駆け寄っていった。
遅いと思うんだけど、きっとあの闘いを観戦してたんだろうな。
まだ昼前なのに、疲れきった。
こんな日くらい、甘えてもいいよね?
なんかもう誰かにくっついてないと怖いというか。
大きな手をとって、ぎゅうっと握りしめた。
今日はお部屋に泊まってもいいよね?
背伸びして囁くと、強く握り返してくれた。
あと年内に一話で、ゴタゴタに一応の決着つきそうです。




