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番外編・むかしむかしのはなし

突然ですが番外編




幼年学校の帰り、この辺りでは見かけない子を見た。

髪も目も真っ黒で、肌は抜けるように白い。自分より幾つか年下の少年だった。

塀にもたれる様にして立っていて、自分が前を通り過ぎる時は目だけで追っているのがわかった。


次の日も少年は立っていたが、やはり一言も喋らなかった。


そしてまた次の日。


学校が休みの日に、朝から来客があった。



「遠い異国から、移住してきたのですって。三つ年下の男の子がいるから、気を付けて見てあげてね。明日から学校へ通うそうよ」



母の言葉に、それはきっとあの少年だと思った。


通り過ぎる自分との間合いをはかるあの目を思い出して、久しぶりに心が踊るような気持ちを感じた。






編入学後、相変わらず必要以上に近寄らず、こちらの動きを見つめている少年。

学校までの道程は、自分の後からついてくる。


言葉の訛りは強いが、授業ではとても優秀だと評判になっていた。





距離はあるものの、いつも一緒にいるので必然的に打ち解けて、放課後には訓練をしたり、宿題を見てやるようになっていた。



「あ、誰か来る」



そう呟いたかと思うと、走り寄って来て自分の影に隠れるように背後に立つ。

何事かと思えば、学校でよく目立っている最上級生の二人組だった。



「やーぁ、ちびっこ。今日は兄貴分と一緒なんだね」



金髪の、優しげな上級生が自分越しに声を掛けると、不服そうに挨拶を返す声がする。

服の背中部分を掴まれているので、動くに動けない。


「君達はなぜここに…」



もう一人の、焦茶の髪でひょろ長い印象の上級生が、顎に手を当てて言った。


今は放課後、さっさと帰る者もいれば自分達のように運動場で自主訓練をする者もいる。


訓練をするつもりだった、と伝えようとしたら。



「ごめんねぇ。巻き込んじゃって」



金髪の方が、ちっとも悪怯れずに謝罪の言葉を口にした。

彼の指差す方を見れば、10人程の集団がこちらへ向かって来るところだった。体格からして明らかに上級生で、とても――怒っているように見える。


背後にいた少年も横に出て彼らを見て、自分と顔を見合わせた。



「今から逃げられる?」



独特の訛りで問い掛けられたので、首を振って否定する。

少年はため息をついて、両手に木剣を構えた。



「お、いぃねえ!」



金髪が楽しげに笑い、焦茶の方は淡々と、上着を脱いで近くの木に引っ掛けてながら言う。



「そちらで三、四人、やってくれませんかね」


「多いやろ!」


「僕達あんまり強くないんだよね〜。頭脳派なの」



もしかして、この二人はわざと自分達に声を掛けたんではないだろうか、という考えが頭をよぎる。



「半分引き受けますよ」



自分が声を掛けると、二人の策士はにんまりとする。



「俺かて、あんなんチョロイわ!」



不貞腐れたように少年が呟き、その変声期前の高い声が運動場に響いた。


こちらの二人を睨んでいた目が、自分や少年に向けられる。

火に油を注いだ様だ。

彼らの顔は真っ赤になっていた。



「下級生の助っ人とは、たいした人望だな!」

「今日は逃がさないぞ」



いったい何をしたらこんなに怒らせることができるんだろうか?


そう思わないでもないが、上級生と剣を交える機会を逃す手はない。


向こうが多数を頼みに囲もうとして動くと、ゆらりと金髪と焦茶が離れた。


二人はそれぞれ両端へ。


自分達は正面へ。





騒ぎを聞き付けた教師が駆け付ける頃には、乱闘は終息していた。



「いやぁ、本当に君って強いねぇ。うちの兄より強いんじゃないの」


「四人、ですね」


「アンタ等が元やのに、俺と同じ数てどないやねん」



勝負が付いた瞬間にその場から逃走し、教師の叱責は免れた。彼らも、下級生に負けた事は恥になるので言い付けないだろう。


砂や土にまみれた自分と少年の服を叩きながら、心のこもっていない称賛を聞き流し、汚れの言い訳に頭を悩ましていた。



「じゃあね、助かったよ」


「早く帰らないと、家の方に心配されますよ」



どの口が言うのかと思わないでもないが、基本的には争いを好まない質である。素直に別れて、帰路に着いた。 



「あぁ、アイツ等の名前聞いてないわぁ」



帰り道は、少年は自分の横を歩いている。



「カール、アイツ等知っとる?」



見上げて聞いてくるので、首を横に振る。姿はよく見かけるが、名前までは知らなかった。

彼らはすぐ卒業するだろうし、騎士学校に入れば成績次第で自分が入る前に卒業することも有り得る。



「変な奴らやし、仲良うしとぅないなぁ…苦手や」



二人の雰囲気を思い出す。楽しい玩具を見つけたような、そんな目をしていた。



「最上級生だから、そうそう接点はないだろう」



自分の言葉に、少年も安心したように頷いた。





しかし自分達は思いつかなかった。



騎士となった後は、年齢に関係なく様々な部隊へ配属されるということを。




マイヤーさんとラーソン隊長の出会い

ハリーとブライアンの初巻き添え編でした



マイヤーさんはこの時の二人を誰か覚えていません。二人はこの時からロックオン状態です、活きの良い玩具兼舎弟として。

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