表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/99

53話・雪降る朝

弟 ボッシュ視点です



結局、僕は一晩中眠れなくて、ずっと宿のロビーに居ました。


ファンタジーには付き物の獣人…ケモ耳に尻尾な可愛らしいビジュアル。こんな世界に来て、期待しなかったと言えば嘘になります。


それが。あんな、熊と狼を合わせたような…。

人種?差別かもしれませんが、全力でOUT判定です。

オルガさんも、あんななんでしょうかね…これ以上夢を壊さないために、詳しく聞かないことにしました。




ボッシュさんは心配してくれましたが、マイヤーさんや他の騎士、役人らしき人達と相談するのに忙しそうです。自分も怪我人なのに大丈夫でしょうか。



テーブルの端で大人しくしていると、宿の人が医者だと紹介してくれた男の人が話し掛けてきました。

結構なお年で、シワシワ加減は7、80代でしょうか。実は痩せてるだけで、もっと若いのかもしれません。



「君があの獣人族に襲われたんだって?それで済んだのは、運がいい」



大きな水色の目がギョロリと動きました。ちょっと不気味です。失礼だけど。

残り少ない白髪が乱れていて、タイムスリップする車を造った科学者に似ています。



「患部は清潔に保つのだ。そうさな、近所の温泉に行くのもよかろうな。傷が早く癒える」


「温泉ですか…」



トモが聞いたら喜びそうです。僕も好きですけど、今の状況で温泉行きたいとか言えないですねぇ。 


皆殺気立ってる。



「おはようございます」



遠慮がちに、宿の人が話し掛けてきました。

この人も夜からの騒ぎで徹夜をしたんじゃないでしょうか?お気の毒です。



「朝食用意したから、お姉さんに持って行ってあげて下さい。アダー先生も、お帰りの前に食ってって下さいよ」



僕には優しく、お医者さんには気やすく話し掛けながら、食事の載ったトレーを持って来ました。


小さなパン、ホットミルクに野菜スープ、それからオムレツみたいなもの。

美味しそうです!



「ありがとうございます」

冷めない内に持って行きましょう。姉は昨日碌に食べてないから、お腹空いてるはず。






「失礼します…」



ノックして、アガサさんの返事を待って入ります。


姉は意外にももう起きていて、窓の外をぼんやり眺めていました。



「トモ、朝ご飯」


振り返った顔は血の気が無く、表情も暗いです。



「ん…」



トレーをベッドの上に置くと、もぞもぞ動いて食べに来ました。よかった。食欲はあるようです。

そんな様子を見て、アガサさんは力強く伸びをして、明るく笑いました。



「ちゃんと全部食べるんだよ!アタシは下行ってくるからね」



あんまり寝てないはずなのに、いつもと変わらず颯爽としています。

殺気立っていた男性陣とは違いますね。

姉はまだ目が覚めないらしく、半目でホットミルクをすすっています。甘くて、フルーツのような香りで正直僕はお茶のほうが良かったですけど。

そういえばお菓子をくれたし、小さい子供扱いされてるようです。



「あのね、近くに傷に効く温泉があるんだって。お医者さんに勧められたよ」


姉が、パチパチと強く瞬きをしました。

やはり温泉に反応していますね。



「トモがボッシュさんにオネダリしたら、多分すぐ連れて行ってもらえるよ。あの人も怪我人なわけだし」



姉はフォークでオムレツを突き刺しながら、心ここに在らずといった様子でニヤリと笑いました。



「温泉…混浴…?」



ちょっとなんの妄想してんの?!




○ ○ ○ ○





リョータとしばらく話した後、馬小屋から戻ったマイヤーに報告をいれる。


「マイヤー。彼女が言うには、今回は3人だけで実行したらしい。それより、ハウィットを逃がす計画があると言っていた」


「フ…ン何考えとんのやろなぁ?逃げたかて行くとこないやろ」



相変わらず不機嫌極まりない。こいつがここまで態度を変えたことなどなかったんだが。


あの姉弟に、それだけ心を砕いているということか。



「あの獣人はどうだ」


「手当てが早かったから、大したことないで。喋るの問題なかったわ。初めて見たけど頑丈やな。切れ目は残るやろぅけど」



恐らく、奴らの行く末には傷の有無など問題ないだろうが。

殺意を以て騎士が護衛する人物を襲い、捕われた。しかも罪人の家族であり、その指示で同じ人物を襲ったので再犯とされるだろう。

極刑か、よくて強制労働だろう。見せしめの為に、重い刑を科するのは、よくあることだ。


今回は全く心が痛まない。




「君達、私は失礼するよ。患者は毎日いるもんでね。何かあったら呼んでくれたまえ」


「ああ、世話になった。報酬は後で届けさせる」



一晩付き合ってくれた医者は、年齢を感じさせない動きで、さっさと帰っていった。


見送りに出てみると、雪が降り始めていた。


空を見上げて雪を見ていると、上下が逆転したような奇妙な錯覚に陥る。


頭を振っていると、2階の開いた窓からトモが顔を出しているのが見えた。

ぼんやりと白い顔で灰色の空を見つめ、沈んだ表情をしている。首の包帯が痛々しかった。



「あ」



じっと見ていると、視線に気付いたのか偶然か、下を向いたトモと目が合う。


不思議そうな顔をして、それから微笑んだ。

ひどく無防備な顔に、目が離せない。すぐにでも飛んで行って、抱き締めたい。


こんなにも他人を切望したのは初めてだ。



トモは手を振って中に引っ込み、静かに窓を閉めた。



俺が戻ると、姉弟が降りてきたところだった。



「おはようございます。ボッシュさん、顔色悪いですよ?朝食とりました?」



リョータが聞いてくるが、2人して青白い顔だ。鍛えている自分より、よほど堪えただろう。



「そうだよ。無理しちゃだめだよ」



トモがそう言って肩へ手を伸ばし、触れない辺りで止めた。

その手を取って冷たい指先に口付けると、トモの頬に少しだけ赤みがさした。


流石にここでは唇は奪えない。その代わり、手を繋いだままにした。



「あの、ボッシュさん。お医者さんが言ってたらしいんだけど。近くに傷にいい温泉があるんだって。

温泉行きたいなぁ〜って。ボッシュさんも怪我治ってないし」



上目遣いのトモの言葉に、リョータも期待に満ちた目で見つめてくる。


何か、自分の中で、この目には逆らえない、逆らいたくない、という声がする。



「すぐには無理だ。…そんな目で見るな!引継ぎをして、夕方には連れて行くから!それまでちゃんと食って、リョータは寝ろ」



俺の言葉に、トモはいつものようにへにゃりと目を細めた。

抱き締めて撫で回したい。


疲れているのか、そんな衝動に駆られた。




ちょっとだけ、日常が戻ってきました。



ボッシュさんは萌え死にそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ