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27・今時の若いモンは

姉 ボッシュ視点です

砦に帰ってから、5日間寝込んだ。

その間、皆にそれはもう甘やかされて、逃げ出したいくらいだった、うん。

ジルさんは特別にご飯を作ってきてくれて、特にフレンチトーストとパンプディングの中間みたいなやつがすごく美味しかった!甘かったけど。なぜかジルさんは私達をもっと太らせようとしているらしい。

まぁ、胸だけ太ってくれるなら嬉しいけどね。



久しぶりに外を出歩くと、会う人がやっぱり喜んでくれてるのが伝わってきて、くすぐったい。

リハビリがてらてこてこ歩いていると、よく会う騎士3人組に会った。弟によると、私を救けに来てくれてたらしい。

ボッシュさんしか目に入ってなかった。


「先日はどうも、お世話になりました」



お礼を言ってお辞儀をすると、なんだか顔を見合わせている。



「固い!固いよトモ!」


「そうそう!もっとこう、ありがとう、お兄ちゃん!ガバッ、みたいにね〜」


「ボッシュさんに殺されるような気がするけど」



相変わらずテンション高いなこの人達。

よく見ると、あんまり歳変わらないんじゃないかな、て思えてくる。



「皆さん、お幾つなんですか」



よく会うし話すけど、根本的に名前も何も知らないんだよね。皆でかくて、180は越えてる。よく肉食べてるから?



「あ〜そっか、自己紹介まだだったね!俺はセオ、19歳」


「俺はクルト、21歳」


「俺はイアン、19歳」



セオは焦げ茶色の髪で灰色の目、ちょっとたれ目で悲しげな顔つき。性格は違うけど。だいたい、いつもセオから話し掛ける。リーダー格かな。

クルトは一番背が高くて、全体的に四角い。綺麗なプラチナブロンドを短く刈り込んでて、ちょっともったいないなぁ。目は明るい青色。言動が一番幼いというか、馬鹿っぽいけど年上だったんだね。すぐ可愛いと言うのが口癖の人だ。

イアンは癖のある赤毛で、目は青紫っぽい色。一番の美形だけど、すぐ大口開けて笑いだす――笑い上戸。止まらなくてたまにどつかれているのを見たことあるよ。


3人とも、なんというか世界のどこに行ってもいるような、悪ガキって感じ。



「お前ら、こんなとこで何をやってんの〜」


「トモ、もう出歩いて大丈夫なんだね!元気になってよかった」



4人でとりとめのない話をしていたら、パイクさんと知らない騎士が来た。


パイクさんはあの時、ボッシュさんのお父さんと宮廷へ行って、1人で手続きとか裏工作をしてくれていたらしい。なんか意外だけど交渉が得意らしい。

実は腹黒なんだろうか。



「お嬢ちゃん、良かったなぁ、怪我もたいしたことなくて。リョータが活躍したの誉めてやったか?」



なんだろ、この人。なぜか関西弁ぽく聞こえるよ?



「あ、この人はマイヤーさんだよ。怖いけど取って食ったりはしないからね」


その説明はどうかと思うけど、パイクさん。

マイヤーさんは30代かな、髪も目も黒で、肌は焼けてなくて白いけど所々古傷が見える。若い頃ヤンチャしました、みたいな妙な迫力があるよ!背はあんまり高くなくて、リョータと変わらないんじゃないかな。


なんとなく見ていると、目が合って、ニッと微笑まれた。笑うと若く見える。20代かも?



「そうそう、これ、ボッシュに届けるとこなんやけどお嬢ちゃん頼まれて?」



疑問系での命令ですね!

条件反射で手を伸ばすと、布のかかったバスケットを渡された。結構ずっしりくる。



「何ですか、これ」



興味深そうにセオが覗き込むと、マイヤーさんは開いた手を腰の剣の柄にひっかけて、もう一方の手で布をめくった。



「カールからご褒美の酒」

「あとマルキン先生からのお手紙だよ」



マイヤーさんとパイクさんが続けて言う。ん?



「カールさんて、どなたですか」



どなた、てのはおかしいかな。えーと。



「あっ、カールは隊長ね。ラーソン隊長」



一瞬3人組がシーンとなった。こいつら自分の上司の名前も知らなかったのね。てか、隊長を呼び捨ての人に初めて会った。マイヤーさん偉い人?童顔なの?



「先輩は今日は休暇だから部屋にいるよ。じゃあね」



あっさりパイクさんは行ってしまい、マイヤーさんも手を振ってさっさと引き返してしまった。あれ、私場所知りませんが?



「じゃあ行ってみよう!」



お名前ショックからすぐに立ち直ったクルトがそう言うと、あとの2人もノリノリで私の手を引いたり背中を押したりと歩き始めた。こいつら、仕事中じゃないの?




「ここがボッシュさんの部屋で〜す」



砦の中に戻って部屋に着くと、なぜか声をひそめる3人組。

イアンは軽くノックして返事がない扉の前で、ごそごそ懐から小さな針金のようなものを出して、にやりとした。



「先輩は、休みの日は寝てるか読書してるかで、滅多に部屋から出てこないんだよ」


扉の前でなぜか皆でしゃがんでひそひそ話している。なんなの、この状況?


気が付くとイアンが針金でドアノブの辺りをカチャカチャしているので思わず止めようとすると、逆に2人に口を押さえられた。



「先輩疲れてるから!褒美をトモが持って行ったら、この上ない癒しでしょ〜」 



セオが言うと、クルトも頷く。いや、それと無断侵入がどう繋がるか解らないんだけど?



「ささ、トモ、行っちゃって」



語尾にハートが付きそうな感じでイアンが促してきたよ。もう開いてる!単純な構造とはいえ早い。

もしかして常習?



軽く開いた部屋を見ると中は静まり返っている。もしかしたら留守かもしれないし。

ちょっとどんな部屋か気になるし。


背中に頑張って〜という小さな応援を聞きながら、忍び込んだ。

怒られたら道連れにしてやるから。




部屋は私達のと同じくらいの大きさで、そこを1人で使っているようだった。 ベッド、本棚、机、椅子、クローゼットが壁ぎわに配置されている。殺風景。男の部屋って感じ。


ボッシュさんはベッドの上に座って、壁にもたれて本を広げていた。


居るし!


心臓がバクバクする。


そっと近づいて、バスケットを差し出してみた。



「お、お届けものですよ」



声をかけても反応がない。本に夢中なの?

じりじり近づいて様子を伺う私。いや、なんで足音消してるのか。


ベッドの傍まで行くと、どうやらボッシュさん寝てるみたい?


そっとバスケットを机において椅子に座って観察。

ほんとに寝てる。

顔色悪いし、疲れてるんだね。私のせいか。


斜めになった顔に窓から弱い陽があたって、睫毛の影ができてる。こうして見ると、綺麗な顔の人なんだなぁ。目を閉じると表情変わるよね。


そっと顔を近付ける。


まだ起きない。



「起きないんですか〜?悪戯しちゃいますよ〜」



こそっと言ってみる。


起きないねぇ。



髭の生えた眠り姫って笑えるけど。起きてくれると嬉しいな。


できるだけ、そっと、私の騎士にキスをする。




○ ○ ○ ○




トモの捜索から砦に帰り着くまで不眠不休だった。


レヴァインの屋敷で彼女を取り戻した時には安心のあまり気が遠くなりかけ、やばかったな。

しかしトモは健康状態が悪く、砦に戻ってからもなかなか回復しなかったので心配でろくに眠れなかった。

リョータも戻ってから倒れたしな。2日程休ませたら回復して、トモには絶対言うなと頼まれたので秘密にしている。


不愉快な事件はパイクが上手くやったようで、貴族には珍しくきちんと裁かれるようだ。

雇われていた男達はほぼならず者といったところで、厳罰に処されるだろう。


俺と戦ったあの男の腕は惜しいと思うが、どうにもまともではない様子だったので自由にはならないだろうな。

あの不愉快な男は、廃嫡されて、よければ幽閉されるだろう。あれが野放しにされるのはどうにも許しがたい。




今日は久しぶりに丸1日休みなので、本でも見ながらゆっくりしよう。



いつのまにか眠っていて、人の気配に気付いて捕らえてみれば、トモだった。


これは、まだ眠っているのだろうか?

自分の部屋に入れた覚えはないし、鍵をかけていた。

顔に触れてみると、柔らかくて暖かかった。



「あのぉ、起きてます?」



不意に目の前のトモが口を開いた。

手を俺の目の前で振っている。



「俺の部屋で何やってる」



寝起きの頭で問い掛けてみると、困ったような顔をされた。



「それより、苦しいです」



言われてみると、俺はトモの上に跨り、腕を掴んで押さえ付けていた。寝台の上へ。これではまるで――。



「すまん!お前だとは」



慌てて飛び降りたが、まずいことに腕を掴んだままだった。



「うわっ」



不様に床に転がるのがわかり、せめてトモが体を痛めないように抱き込んだ。



彼女を抱えて、ようやく力を抜けた。

細い体は上手い具合に俺の上から落ちずに済んだようだった。下敷きにでもしていたら、死ぬかもしれないな。



「そろそろ放していただいてもいいですよ」



顔を赤くしたトモが言う。

細い体は意外に柔らかくて手放したくなかった。



「ん?寒いから丁度いい」



冗談めかして言うと、じたばた手足を動かし始めた。

髪の毛が首にあたってくすぐったい。そっと払うと、白い首筋と、痛々しい傷跡が目に入り、思わず唇を寄せていた。


トモはいつのまにか抵抗をやめて、くったりと猫のように伸びていた。



「トモ?」



抱えたまま上体を起こして顔を見ると、さっきよりも真っ赤になっている。



「く、首はダメ。首は」



繰り返す姿はとても弱々しく、どうにも解放する気になれない。

首が嫌ならば。



「こっちならいいか?」



そっと唇を親指で押さえると、じっとりと上目遣いで睨んでくる。



「さっきボッシュさんが寝てる時にしたもんね」



なぜだか勝ち誇って言われた。


自分でしたということは許すということだな?



細い体をもっと抱き寄せ、仰け反る顔を追うようにして口付けした。



前回はジジィに邪魔されたから、今度は出来るだけ、長く。


何度も唇を重ねて、最後に少しだけ、トモの甘い舌を味わった。






「これ、隊長からのご褒美のお酒ですって。こっち、ボッシュさんにお父さんから手紙だそうです」



ややぎこちなく差し出されたそれらを見る。

これを持って来たのか。


一応手紙に目を通すと、相変わらず馬鹿らしいことしか書いてなかった。


『子供は早いうちに、男女2人づつ』


細かく破って捨てる。



「そう言えば、よく部屋がわかったな。誰かに連れて来てもらったのか」



トモはなぜか視線をそらせて唸った。



「鍵もかけていた筈なんだが」



さらに首をまげて天井を見つめている。



「トモ?誰と来たんだ?」



指の背で首を撫でると、面白いくらいに飛び上がる。顔を両手で挟んで見つめると、あっけなく白状した。



「マイヤーさんが持ってって、て言って、セオとイアンとクルトに案内してもらって、それでイアンが鍵開けました!」



そうかあいつらか。いつもつるんでくだらない事に精を出している3人組。



「ボッシュさんは好かれてるね」



ちょっと違うと思うが。

まあ、トモを送り込んだのはよしとしよう。特別訓練でおせっかいの礼をすることにしよう。マイヤーは面倒だっただけだろうな。部屋の位置が真逆だ。



「部屋に送ろう」



声をかけると嬉しげに目を細める。


ジジィの言う通りなのは癪に障るが、この子は得難い宝のようだ。手の中で大切に守るとしよう。

ようやくイチャイチャできました。

頑張ったボッシュさんにご褒美です。



悪戯トリオは好きなキャラです。仲が良くてその辺の学生さんみたいな、トモ達にとっては馴染みやすいお兄さんです。

単体ではそれなりに有能なのですが、揃うと途端におバカになる、そんな感じです。

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