#第二章 #お節介
「そこは、ほら。あたしたちが口を出すようなことじゃないから」
内宮はクリームコロネを頬張りながら、お互いの事情があるし、と言った後に小さく畳んであったウエットティッシュで、指を二、三回拭いた。
「じゃあ、何で呼んだんだよ。隠すようなことでは無いけど、事情を聞かれても嬉しくはないぞ」
「それは分かってるんだけど。老婆心というか、お節介というかさ、やっぱりなんかしてあげられないかなー、って思っちゃうじゃん」
「結衣が気になって仕方ないだけでしょ」
「だって、あんなに元気だった蒼依が、お人形みたいに憂鬱そうなんだよ?」
鷺山が首を傾げた後に、春樹の方に分かる?と目配せをした。春樹も軽く首を傾げながら、それに応じた。
「蒼依ってまつ毛とか長いもんな。肌も白いし、小さい頃は人形みたいって言われてたから」
「やっぱりそうだよね。あたしから見ても、蒼依って可愛いもんなー」
「結衣は蒼依のこと好きだもんね。藤崎くんの次くらいには」
鷺山がちょっと不満そうに呟いた。
「藤崎くんは良いの! それよりも蒼依と橘くんとの喧嘩だよ」
「ぶっちゃけた話さ、何をしちゃったわけ?」
何をしたかと聞かれると、春樹は困ってしまう。進路や日常のこと、細かな不満や些細な誤解。結果的に行き違った心が爆発したのが、あの一件だった。
「だから、酷いことを言った以外に思い当たる節がないんだって。今まではここまで拗れたこともなかったし」
「蒼依に聞いても答えてくれないし、当事者の橘くんもこれだし。まだまだ先は長そうだねぇ」
やれやれと言いながら、内宮がクリームコロネのラップを畳んだ。
「時間は確かに何かを解決するんだろうけど、上手くいくとは限らないからな」
「駄目だよ、橘くん。とりあえずは前だけは向いとかないと」
「そんなこと言ってられる状況でも、精神状態でもないけど」
お互いの想いや考え方が違ったから、意見をぶつけ合うことになったというのも違うし、感情的になりすぎて、相手を失望させたというのもしっくりとこない。
「こう見てるとさ、橘くんは普段通りって感じがする」
「そんな訳ないだろ。表に出ないだけだ」
幼なじみである以上、春樹も蒼依に対して、変な期待は持っていないし、むしろお互いのことをよく理解しているはずだった。
「何だろう。あたしには分かんないけど、そういうところも蒼依にはよく見えるんだろうね」
「俺からすれば、藤崎の良いところの方が分かんないけどな」
「それはいつも藤崎くんと一緒に居られるからだよ。あたしなんか、全然話しかけてもらえないし」
内宮が拗ねたように口を尖らせながら、足をぶらつかせていた。
「こうやって話してると思うけど、あたし達って、ここに居ない人の話ばっかりしてる。全然満たされてないじゃん」
「その割には楽しそうだけどな」
「あーあ、橘くんに変わってほしいくらいだよ。でも、あたし友達エンドは嫌かも」
一瞬だけ内宮が目を伏せながら、あたしって、藤崎くんにどう思われてるんだろ、と小さく呟いた。
「内宮は明るいんだから、藤崎に話しかけてみればいいのに。あいつ女子好きだから、喜んで応じてくれると思うぞ」
「前にインスタでDMしてたけど、藤崎くん、その時は彼女いたから。なんかちょっと迷惑っぽかったっていうか」
内宮がぶらつかせていた足を止めると、ちょっと居心地が悪そうな笑顔で答える。
「そこから自信無くしちゃったのよ。藤崎も彼女と別れたんだけど、結衣は尚更、それも後悔してるから」
「そこまで言わなくていいよ。ほら、あたしにも面倒くさいところがあるんだもん」
そう簡単にはいかないんだよ、と今度は内宮が苦笑いで答えた。
「好きな気持ちよりも、やっぱり嫌われたくないって思っちゃうから。絶対に無理だろうなって距離よりも、もしかしたらって思えるところで満足しちゃうんだ」
「だったら内宮も『恋むすび』を使ってみたら良かったんじゃ。藤崎はそういうの嫌いらしいけど」
「やっぱりそうだよね。あたしと藤崎くんじゃお互いに遠すぎて、そういうのには向いてなさそうだよ」
春樹はちょっと納得できなかったが、藤崎の性格からすれば、内宮がこう思うのも仕方がないのかもな、と思うことにした。




