再会―榊 柊編―
俺は先週までカナダのバンクーバー支店の部署で働いていたが、2年の満期を経て東京の支社に移動する運びになった。バンクーバー支店はとても活気・仕事・生活環境・やりがい…どこをとってもいいものだったので日本に帰国するのは少し寂しいものだった。
しかし、俺には日本に帰国するにあたって楽しみがあったのでそれを励みに久しぶりの日本生活をエンジョイしたいと思う。
日本に帰国して会社は俺に様々な仕事を選ばせてくれた。カナダでは環境が十分自分に合っていたんだろう。様々な企画部門のコンテストで入賞を獲得する機会が多く、会社はそのことを大いに認めてくれた。俺は渡された資料を手に取り選別する。今回の仕事は六本木や新宿の都内や観光地等に大型商業施設建設を計画している企業のイベントなどのアイディアやコンセプトに合う出店店舗をあげるといったものだ。
―ん?この会社って…
◇
受付で聞いた通りに8階のフロアに向かう最中、一緒に乗り合わせた3人組の男性人が話しているのが不意に聞こえた。その一人がテイクアウトでもしたんであろう、手に持っている某ハンバーガー店の独特な油の匂いがエレベーター内に広がる。この匂いは嫌な臭いではないが、お腹を満たしている者には必要以上の油の香りだ。
7階に到着するとズカズカと周りを気にせずに降りて行った。彼らが降りていったこの狭い密室空間に油の匂いだけが残る。俺は8階に着く前に時計を見る。15時10分前。約束は15時からなので良い時間だ。エレベーターの小高いチャイムが鳴り8階に着く。イベント事業部はエレベーターを降りて左の突き当りと、先ほど受付の人に聞いたところだ。50メートル程歩くとドアの横にイベント事業部と記載された銀色のテンプレートが目に留まる。
ここか。
扉は開いていたので中の様子が伺える。部屋の真ん中で頭をかかえ何か考え事をしている人がいた。
「何か御用ですか?」
ドアの席から1番近かったのであろうか、細見のえくぼが似合う女性が声をかけてきた。
「本日3時にお約束していた、榊 柊と申します。」
「お伺いしております。お部屋ご案内しますね。こちらです。」
彼女は左手を案内する方向に向けると歩き始めた。俺は横目で頭をかかえている人を横目に案内される部屋に歩き始めた。
「ただいま、担当の者をお呼びしますのでもう少しお待ちください。」
細身のえくぼ女子は俺をミーティングルームに通すとえくぼが強調される笑顔を私に向けて部屋を後にした。俺が通された部屋からはイベント事業部が見渡せることができる。私は今回の資料を鞄から出し目を通す。
―ガチャ
扉が開くと同時に俺が帰国して楽しみにしていたことの1つが現れた。