斎藤ゾンビ
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晴が去った後、本館へ戻ると、ちょうどひらりが美術室に向かう姿が見えた。少し追うと、ひらりはゾンビ姿の男子に出会っていた。
「ひぃっ!ゾンビ!?」
「なんだ。演劇部のチビか。」
ひらりは後ずさりして……何故か歌い出した。
「あ……あ……ある日♪学校の中♪ゾンビに♪出会っ~た♪」
森のくまさん?
「ぎぃ~やぁ~~~!!」
「そんなに驚くか?」
その声を聞いてやっと気がついた。俺はゾンビ姿の斎藤部長に近寄った。
「…………斎藤部長!?」
「お、須藤!」
「春壱~!ゾンビ!ゾンビだよ!喰われるぞ!!」
ひらりは俺を盾にして叫んだ。
「落ち着けひらり、これは斎藤部長だ。」
「……斎藤部長!?斎藤部長~!可愛そうに……こんな姿になって!」
まあ、ある意味可愛そうだ……。
「ああ、まぁ、井上に協力しろって言われ……」
「食われたんですね!ゾンビ食われてしまったんですね!?」
斎藤部長は一瞬呆気にとられて、ゾンビを続けた。
「え?……あ、ああ、そう。そうなんだ。ガブッ」
そして、ひらりの腕を噛むふりをした。
「斎藤部長……」
俺は泣きそうになった。あの厳しい斎藤部長がこんなにアホに……いや、サービス精神に溢れる人に……。つくづく演劇部って恐ろしいな……。
「ぎぃやぁ~~~!!噛まれたぁ~~!なんて事してくれたんですか斎藤部長!もう自我がないからって……あ……あ……春壱……逃げろ!!私もそのうちゾンビに……………ならなーい!!」
「気が済んだか?済んだな。」
これがやりたかったんだな。もう満足だろう。
「斎藤部長、もしかして井上部長肝試しやってます?」
俺は知っていた。先輩達が何やら準備していた事を。あの先輩達が、合宿をただ普通に過ごす訳がない。
「打ち上げ終わりに、肝試しやってるんだってよ。何人か剣道部とバレー部も駆り出されてる。」
あー肝試しか。
「じゃあ、もう美術室へ行っても無駄か。」
「いや?まだ、井上達は美術室にいるんじゃないか?美術室に用があるって言ってたぞ。」
その一言に違和感があった。斎藤部長は嘘が下手だ……。まぁ、とりあえず行ってみるか。
「ありがとうございます。じゃ、美術室に行ってみます。」
美術室へ行くと……案の定、美術室は真っ暗だった。中には何やら人影が見える。
「暗っ!これは……嫌な予感しかしない。」
「あははは。春壱~心配しすぎだよ~!もうみんな撤収しちゃったんじゃないの?」
そう言ってひらりは扉を開ける。その瞬間、人の首のような物が入り口にぶら下がった。
「うわっ!」
「ギャー!!」
次に、暗闇から沢山の白い手が出て来て、次々にひらりを掴む。
「ギャー!!やめて~連れてかないで~!ギャー!!」
暗闇にひらりは引き込まれて行った。
「あ、連れて行かれた。」
俺は美術室の外に取り残された。美術室に提灯の明かりが灯る。俺はそっと美術室の中に入った。
「ひらりぃ~」
「ひらりぃ~」
「ひらりぃ~片付けサボったなぁ~」
白い浴衣を着た先輩達がひらりの周りを回っている。血糊で流血メイクまでしている。
「サボったなぁ~」
「悪い子はいねぇがぁ~」
「それは違くない?」
誰かがなまはげにツッコミを入れた。
「お皿が一枚……お皿二枚……。」
「お皿が……お皿が……紙皿!!」
ひらりはどうでもいいところに気がついた。
「あ…………一枚足りない。じゃ、シェアしよっか!」
「お岩さんリア充~!何この紙皿超可愛い~!」
「ひぃらりぃ~!」
これにはさすがの先輩も怒りが込められていた。
「ごめんなさい!ごめんなさいぃ~!もうサボりません~サボりませんから~許して~」
ひらりが謝ると、急に電気がつく。
「まぶしっ」
「よし、じゃ、撤収!!」
「え?」
「あー楽しかった~!満足満足。」
そう言って先輩達はぞろぞろと撤収して行った。
「ひらりはもう着替えてるから部室に来なくてもいいけど、時間までには宿泊棟に来る事!」
そう言い残すと部長も去って行った。残されたのは、ひらりだけじゃかなった。
「えーと、僕のこれは?放置?僕も部室行った方がいいかな?」
美術室の隅に、背のでかい幽霊が1人残っていた。
「慎ちゃん!?それ……その格好……あははははは!!」
片岡は白い着物に、頭に流血ペイントされ、頭にはひらりの紙のパンツが貼られている。
「ぎゃははははは!!」
その姿に爆笑してしまった。
「それ、幽霊の、あの三角の頭のやつって事だよね?」
「部長さんが代わりにこれつけとけって。」
「……代わりが…………パンツ!」
「どんな変態幽霊だよ!」
俺とひらりは爆笑した。
「そんなに笑える?」
「慎ちゃん体張りすぎ。」
「そうかな?言われるままに着せられただけだけど。部室に返しに行くよ。着替えも先輩達に持って行かれたし。」
片岡はそのまま演劇部の部室まで行こうとしていた。せめて頭はとってくれ。
「待て。その格好で部室まで行くには失う物が多すぎる……ここで待ってろ。部室に着替え取って来る。」
「春壱頼んだ~!」
ひらりの笑い声を背に、俺は部室に向かった。
大笑いしていた私に、慎ちゃんは言った。
「良かった。笑ってる。」
「ありがとう!慎ちゃんのおかげだよ。」
お礼を言うと、慎ちゃんは心配そうに訊いた。
「大丈夫だった?」
「え?」
「なんか……白石と行った時、青い顔してたから……」
やっぱり……気になったよね。
「あれは…………大丈夫。」
そう、言うしかなかった。
「相田さんと白石やっぱり付き合ってるんだ。」
「晴君が勝手にそう言ってるだけだよ。」
「そう……。」
それでも、慎ちゃんは納得いかない様子だった。頭のパンツを取って机に置いて、慎ちゃんは椅子に座った。
「私は……お姉ちゃんの代わりなんだ。多分、そう思う。愛情も憎しみも、本人には伝わらなかったから……。」
「やっぱり……相田先生と何かあったんだ。」
そう言って慎ちゃんは少し下を向いた。
「慎ちゃんもお姉ちゃん知ってるの?あ、春壱と同じ中学か。」
慎ちゃんは下を向いたまま、こっちを向かなかった。
「実は僕、あの日、偶然……廊下で白石の告白を聞いた。相田先生は僕に気づいてたかどうかはわからない。けど……相田先生と白石の事、ずっと気にしてたんだ。もし、僕があの場にいなければ…………」
私は慎ちゃんに駆け寄った。
「やめてよ。慎ちゃん!お姉ちゃんと晴君は縁がなかったんだよ。私は晴君と同じ学校で縁があったから……」
「縁があったから付き合うの?」
そうじゃない……。そうじゃないけど…………
「お姉ちゃんには心配かけたくないし……。晴君、本当はそんなに悪い子じゃないから。」
慎ちゃんはやっと顔をあげた。顔を上げてこっちを見た。
「相田さんは……それで後悔しない?」
「…………する。かもしれないね。いいのいいの!私は代わりだし。代わりは代わり。この紙パンツと同じで、パンツでもなければ、頭の三角でもない。紙は紙として役割を果たしたら捨てられる。それを待てばいいんだよ。」
私は机の上の紙パンツを持ち上げて見せる。
「紙?相田さん、自分の事紙だと思ってる?それは違う。ぺらっぺらの名前から、須藤のおかげで人並みになったんだよね?人並みは人と同じだ。人が人の犠牲になるのはおかしい。」
「慎ちゃん……説得してくれてるの?」
やっぱり慎ちゃんは優しい。
「違う。納得いかないだけ。それだと、本当に好きな人に気づいた時に、取り返しがつかない。相田さんは早く気づくべきだ。」
優しいけど……厳しいよ……。
「…………気づいたよ!!」
廊下に小さく春壱の姿が見えた。
「気づいたら……怖かった……自分が自分でいられなくなりそうで……………怖かった。」
春壱は、どんどんこっちに近づいて来る。
「恋なんか知らなければ良かった。ムカついたり不安になったり、もう嫌だ……。」
そこへ春壱が入って来た。
「待たせたな片岡。着替え。」
「ありがとう。」




