保健室で感想を
8
自分でもわからない。晴みたいなお節介は絶対やらないと思っていた。だけど……気がついたら何故かこの眼鏡ブスに肩を貸していた。……歩くスピードは早くないか?……歩幅は大きすぎないか?変な所触ってないか?全然わからん。初めてだ……こんなに保健室が遠く感じるなんて。
「失礼します。」
こんな時に保健の先生いないとか…………最悪だ。適当に勝手に寝かせておけばいいか。
「ほら、ここ寝とけ。」
俺はベッドの布団をめくり、こいつを座らせて、高いヒールの靴を脱がせた。靴を脱いだその足は…………絆創膏だらけだった。
「お前…………バカなの?」
絆創膏だらけの足に、弱った体に、俺が言えた言葉は、それだけだった。
「え?バカだけど?」
開き直りかよ。
「熱があるなら休めばいいだろ?」
こうゆう、いかにも私頑張ってます感を出す奴は嫌いだ。
「だって公演が……。」
「公演見てる奴なんて、俺達二人と一年数人だけだった。1日くらい中止しても誰も何も言わないだろ。」
こいつは、さっきからずっと布団を握り締めていた。なんでそんなに悔しそうなんだよ。
「誰も何も……?そうだけど…………だけど、2ヶ月間準備して来たのに!!勝手な事言わないでよ!げほっ!ごほっごほっ……」
「おい、大丈夫か?」
急に咳き込むから、思わず背中に触れようとしてしまった。
「大丈夫。それより感想……感想聞きたい。」
はぁ?この状況で感想?まさか、保健室で舞台の感想を訊かれるとは思わなかった。
「感想…………?」
「見てくれたんだよね?何でもいいから。教えて欲しい。」
何だよ?その目は……。こっちも腹立つ。
「じゃ、つまらなかった。」
「え……。」
そうだ。ハッキリ言ってやる。
「もっと具体的に、どこがダメだった?」
「具体的?」
なんとなくの感想しかない。具体的ってどう答えればいいんだ?
「例えば、声が聞こえなかったとか、テンポが悪いとか」
ああ、そうゆう事か。
「テンポは確かに悪かった。聞いてて疲れる。滑舌悪くて台詞聞き取れない所ばっかだし。それに、お前動きニブイ。いくらお姫様の威厳っていっても、あれじゃお姫様がババアだ。」
ここまで言えば満足か?
「そっか。うん、ダメ出しありがとう。明日は気をつけてやります。」
こいつ…………ここまで言われてそれだけか?女子は普通泣いたりするだろ?
「こんな体調で、明日もやるつもりか?」
「やるよ。明日は今日よりもっと上手く出来るかもしれない。今日休めば明日には良くなる。」
呆れた……。こいつ、正真正銘のバカだ。
「お前、本当にバカだな。」
「バカだよ?バカだってちゃんと自覚あるからバカバカ言わないでよ。」
「あーそうかよ。」
付き合ってられない。バカがうつりそうだ。呆れて帰ろうと、保健室の扉を開けようとした瞬間…………
「…………ありがとう。」
にわか雨の最初の一雨が、頬に落ちたかのように、ポツリと聞こえた。




