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保健室で感想を


自分でもわからない。晴みたいなお節介は絶対やらないと思っていた。だけど……気がついたら何故かこの眼鏡ブスに肩を貸していた。……歩くスピードは早くないか?……歩幅は大きすぎないか?変な所触ってないか?全然わからん。初めてだ……こんなに保健室が遠く感じるなんて。


「失礼します。」

こんな時に保健の先生いないとか…………最悪だ。適当に勝手に寝かせておけばいいか。

「ほら、ここ寝とけ。」

俺はベッドの布団をめくり、こいつを座らせて、高いヒールの靴を脱がせた。靴を脱いだその足は…………絆創膏だらけだった。


「お前…………バカなの?」

絆創膏だらけの足に、弱った体に、俺が言えた言葉は、それだけだった。

「え?バカだけど?」

開き直りかよ。


「熱があるなら休めばいいだろ?」

こうゆう、いかにも私頑張ってます感を出す奴は嫌いだ。

「だって公演が……。」

「公演見てる奴なんて、俺達二人と一年数人だけだった。1日くらい中止しても誰も何も言わないだろ。」

こいつは、さっきからずっと布団を握り締めていた。なんでそんなに悔しそうなんだよ。


「誰も何も……?そうだけど…………だけど、2ヶ月間準備して来たのに!!勝手な事言わないでよ!げほっ!ごほっごほっ……」

「おい、大丈夫か?」

急に咳き込むから、思わず背中に触れようとしてしまった。


「大丈夫。それより感想……感想聞きたい。」

はぁ?この状況で感想?まさか、保健室で舞台の感想を訊かれるとは思わなかった。

「感想…………?」

「見てくれたんだよね?何でもいいから。教えて欲しい。」

何だよ?その目は……。こっちも腹立つ。


「じゃ、つまらなかった。」

「え……。」

そうだ。ハッキリ言ってやる。

「もっと具体的に、どこがダメだった?」

「具体的?」

なんとなくの感想しかない。具体的ってどう答えればいいんだ?


「例えば、声が聞こえなかったとか、テンポが悪いとか」

ああ、そうゆう事か。

「テンポは確かに悪かった。聞いてて疲れる。滑舌悪くて台詞聞き取れない所ばっかだし。それに、お前動きニブイ。いくらお姫様の威厳っていっても、あれじゃお姫様がババアだ。」

ここまで言えば満足か?

「そっか。うん、ダメ出しありがとう。明日は気をつけてやります。」

こいつ…………ここまで言われてそれだけか?女子は普通泣いたりするだろ?


「こんな体調で、明日もやるつもりか?」

「やるよ。明日は今日よりもっと上手く出来るかもしれない。今日休めば明日には良くなる。」

呆れた……。こいつ、正真正銘のバカだ。

「お前、本当にバカだな。」

「バカだよ?バカだってちゃんと自覚あるからバカバカ言わないでよ。」

「あーそうかよ。」

付き合ってられない。バカがうつりそうだ。呆れて帰ろうと、保健室の扉を開けようとした瞬間…………


「…………ありがとう。」

にわか雨の最初の一雨が、頬に落ちたかのように、ポツリと聞こえた。


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