後悔
70
夕食の後、リビングでお茶を飲んでいると、ソファーでひらりは寝てしまった。
「結局また寝てる……。」
「気が緩んだんじゃない?久しぶりにきらりちゃんのご飯食べて、あんなに泣いていたし。」
相田先生はひらりにタオルケットをかけていた。
「今思うと、高校生の時のきらりちゃんも、こんな風に気を張ってたのかもね。寂しくて、でもひらりちゃんを守らなきゃって。」
「そうかな?高校生活結構楽しんでたけど?」
「そう?絵ばっかり書いてて心配したよ~。」
「だって美術部だもん。」
そういえば、二人はひらりが美術部に入った事知ってるのか?
「美術部といえば、ひらり美術部と兼部してて、合宿の日に展覧会する事になったんです。それを演劇部も手伝う事になったって部長から聞きました?」
「あはは。知らなーい。彼女達は基本的に事後報告だから。」
こいつ……顧問なのに……。
「展覧会?何それ面白そう!ねぇ、それ、私行ってもいいの?」
「今の所、内部だけの話です」
「なーんだ。つまんない。あ、春壱君遅くなっちゃってごめんね。今日はもうこんな時間だから泊まって行きなよ。布団敷いてあげる。お家に連絡して。」
「え……」
泊まる……?勘弁してくれよ……。
「僕ももう運転するのダルいな~それに、ひらりちゃんの話ももっと聞きたいよね~ね、きらりちゃん!」
杉本は俺の家に連絡しようとするから、俺は自分で家に連絡して、またひらりの隣に座った。
そういえば……
「あの、1つだけ、訊いてもいいですか?」
「何?」
「結局、ひらりの自分のせいでって何だったんですか?」
お茶を入れ直していた相田先生の手が止まった。
「それは……わからない……。でも、ひらりは多分、自分の制服のせいで、あの人が死んだと思ってるんだよ。」
「制服で死ぬ?」
意味が全然わからない。人は制服ひとつで死んだりはしない。
「あの人は……多分……自殺だった。」
「きらりちゃん、それは違うよ。」
杉本は相田先生に寄り添った。
「お母さんは、ひらりちゃんの高校の入学式の次の日に失踪して、3日後、近くの川の下流で見つかった。結局、事故か自殺かはわからなかったんでしょ?だったら事故だよ。誰も悪くない。」
そうだったんだ……。
「だって……あの人、精神疾患があったんだよ?そう思うのが当然じゃない。」
「その事、ひらりは?」
「私から説明したわけじゃないけど、葬式で親戚があちこちで話してたから聞いたと思う。」
じゃあ、生きてる間は知らなかったって事か。精神疾患が何なのか俺は知らない。だけど、大変だったんだろうな……。
俺は、ふと、想像してしまった。母親が川に飛び込む姿…………川に…………?俺はなんて事したんだろう。
ひらりが川遊びを楽しめる訳がない。知らなかったとはいえ……ひどく後悔した。




