表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/163

杉本の車の中

67



この時は、今日がこんなにも長い1日なるとは思ってもみなかった。


準備室で寝ていたひらりを、ちょうど学校に来ていた杉本先生に引き渡した所で、一緒に車に乗るように言われた。

「何で俺も?」

「だって、駅まで歩くのダルいっしょ?送るよ?」

まあ、今日は暑くて、バスを待つのがダルいなとは思っていた。

「じゃあ……駅までお願いします。」

「杉本タクシー発車しま~す!」


隣を見ると、ひらりは相変わらず爆睡している。

「……こいつ、起きたら確実ぶちギレると思います。だから、あの、ひらりの事よろしくお願いします。」

そう言うと、杉本先生の携帯が鳴る。

「あ、きらりちゃんだ。ちょっと止まるね~」

杉本先生は車を止めて電話に出る。

「うん。春壱君も一緒。うん、わかった。」

杉本先生は電話を切る。

「春壱君、今日家で夕飯食べて行かない?きらりちゃんが家まで連れて来いって。暇?暇だよね?あ、ちゃんとご両親には連絡してね~!」

「嫌ですよ。」

「え?」

この前の事があってから、もう姉妹喧嘩に関わるのをやめようと心に誓った。多分、ひらりがこうなったのは晴だけが原因じゃない。だから、これ以上、俺はこの事に触れてはいけない。


「え~!それじゃ僕きらりちゃんに怒られちゃうんだけど……怒られたら僕の硝子のハートが壊れて、もう部活に来られないかもしれないよ~」

「それは……卑怯…………おかしくないですか?」

思わず途中まで本音が出かかった。

「お願いだよ~春壱君~その方が、きらりちゃんもひらりちゃんも安心だと思うから。ね?お願いだよ~!今回だけ!」

「じゃあ……わかりました。今回だけですよ?じゃあお邪魔します!」


今日で解放される。今回さえ終われば……これじゃまるで拉致だろ?!


俺の強めの声に、ひらりが起きた。

「……ん……春壱うるさい。何?」

「やっと起きたか。」

「ここ、どこ?車の中?誰の?」

杉本はバックミラー越しにひらりの方を見た。

「ひらりちゃんおはよ~!」

ひらりは驚愕して、呆然と杉本先生の笑顔を眺めていた。

「…………。」

「びっくりした??」

ひらりは我にかえって、俺の首を絞めようとした。

「は~る~い~ち~!てめぇ~また売りやがったなぁ~!」

俺はひらりの腕を掴んで阻止した。

「絶対そう言うと思ってたよ。お前が全然起きないからだろ?!椎名先生にこれ以上迷惑かける訳にはいかなかったんだよ。」


その言葉を聞くと、ひらりの力が抜けた。

「あ……しいちゃん……。そっか、準備室で寝ちゃったんだ……」

ひらりは少し落ち込んで座り直す。

「寝不足か?何でこんなに爆睡してんだよ。」

「だって……しいちゃんに抱きついてたら……何だか、小さい時にお姉ちゃんに抱っこされた事思い出して、すごく安心したんだもん。」

ひらりは、相田先生の事が恋しいんだ……。だからきっと……


沈黙を破ったのは、意外にも杉本先生だった。

「ひらりちゃん…………。お姉ちゃんとっちゃってゴメンね~!」

「軽っ!チャラっ!それはダメです。杉本先生、それはひらりを着火させますよ!」

隣にいて、ひらりが殺気立つのがわかった。ひらりは怒るが、拳を握って我慢して、こう言った。

「…………悪いって自覚、あったんですね。」

「そりゃそうだよ~。押しきられて籍入れちゃったら、きらりちゃん実家に帰れなくなっちゃったからね~。」

「そんな……お姉ちゃんが1人で勝手に籍入れたみたいな言い方!!」

ひらりの怒りも虚しいくらい、杉本先生はチャラい。軽い。

「そんな事思ってないよ?ちゃんと二人で決めた事だからね~。」

「だったらちゃんと父に理解を求めてください。」

赤信号で車が止まる。

「僕もそうした方がいいと思ってるんだけどね~ひらりちゃんが、本当の自分を隠してまでお父さやをに気に入られなくていい!って言って行こうとしないからねぇ……。」

「だから……そうやってお姉ちゃんのせいにしないでよ!」

「少し落ち着けよ、ひらり。」

「…………。」


俺が止めると、ひらりは窓の方を向いて、外を見はじめた。その様子を見て、杉本が言った。

「そんなにお姉さんの事好きなら、心配かけちゃダメだよ?高校生なのに男の子の家にお泊まりなんて。いや、以外と手が早いな春壱。」

「いや、マジで違います。誤解しないでください。」

杉本先生、仮にもあんた先生だろ?なんて事言ってんだよ。

「だって……あの日はお父さんは出張だったし、お姉ちゃんは……お姉ちゃんといたら……嫌でも違うって感じる。私はお姉ちゃんみたいに頭良くないし、明るくないし、美人でもないし……。」

「あははは!いくらなんでも、ちょっとそれは誉めすぎじゃない?きらりちゃんに言っとくよ。まぁ、姉妹だからって、そんなにきらりちゃんに引け目感じる事ないんじゃないかな~?」

「引け目とかじゃない!私はお姉ちゃんじゃない。わかってる。わかってるよ……だから、私じゃ晴君を救えない……。」

ひらり……ひらりが相田先生だとしても、晴は救えない。晴が救えるのは多分、晴だけだ。


「ハルくん?春壱君?」

「違います。晴喜の方です。」

「晴喜?ああ、きらりちゃんから聞いた。教育実習の時告白された子だね?」

その言葉に、ひらりは固まった。

「お姉ちゃん、全部話したの?」

「うん、全部話してくれたよ。厳しく指導したって言ってた。きらりちゃんらしいよ。」

「そう……なんだ……。」

ひらりに話していない事を、杉本先生は当たり前かのように知っている。ひらりは悔しいだろう。それは、この杉本が確実に、相田先生にとって大事な存在だという証明だ。その事実を今、目の前に突きつけられた。


「え?もしかしてその子はうちの生徒?」

「そうです。俺とひらりと同じクラスです。」

「じゃあよく知ってるんだ。どんな子?」

どんな子……?

「まぁ、まあまあモテます。」

「あ~!ひらりちゃんはその子の事が好きなんだね?え?春壱君は?あれ?何か変な事聞いちゃった?」

さすがに俺も杉本にイラついた。

「別に。俺とひらりは別に付き合ってないですから。」

「え?そうなの?」

「ゲスな考えは止めてください。春壱は親友です。マブダチです!」

今ならわかる気がする。ひらりの気持ちが。


確かに、ひらりは相田先生に守られてきたのかもしれない。守られはしたが、必要とはされてない。そう思ってしまうのは……仕方のない事なんだろうか?


そう思うのは、まだ子供だからなんだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ